メンタル不調社員の人事評価、制度化すべき?

メンタル不調社員の人事評価、制度化すべき? 人事制度
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「この社員、今期ほとんど出社できなかったけど、どう評価すればいいんだろう……」。復職したばかりの社員の評価期間が近づくたびに、こんな迷いを抱えている人事担当者は少なくありません。配慮しなければならないとは頭でわかっていても、「どこまで基準を変えていいのか」「他の社員から不公平だと言われたら?」という不安が先に立ち、結局ケースバイケースの感覚対応に終わってしまう。そのモヤモヤを解消するために、この記事ではメンタル不調社員の人事評価をどう制度化すべきか、法的根拠も含めて実務的に解説します。

「特別扱い」ではなく「合理的配慮」という考え方

メンタル不調社員への評価調整は、情けをかけることではありません。法律が事業主に求める「合理的配慮」として正当化できる行為です。この視点を持つと、配慮することへの後ろめたさと、他の社員への説明責任の両方が整理されます。

合理的配慮とは何か

障害者雇用促進法(第36条の2〜第36条の4)は、精神障害のある労働者に対して事業主が「合理的配慮を提供する義務」を定めています。うつ病・適応障害などの精神疾患は、障害者手帳の有無にかかわらず、実態として合理的配慮の考え方が適用されます。つまり、目標の難易度を下げたり、評価期間中の勤務時間を考慮したりすることは、「えこひいき」ではなく、法的に根拠のある対応なのです。

「配慮=評価を上げること」ではない

よくある誤解として、「配慮するなら評価を甘くしなければならない」というものがあります。しかし合理的配慮の本質は、評価の土台条件を公平にそろえることです。週5日フル勤務を前提にした目標を、週3日勤務の復職者にそのまま課せば、条件が不平等です。条件をそろえた上で、その条件の中での貢献を正当に評価する——これが合理的配慮に基づく評価の考え方です。

他の社員への説明責任をどう果たすか

チームメンバーから「なぜあの人だけ特別扱いなのか」と聞かれた場合、診断名や病状を明かす必要はまったくありません。「健康上の理由から就業上の配慮を行っており、評価もその状況に合わせて適切に対応しています」という説明で十分です。重要なのは、この説明が「場当たり的な対応」ではなく「会社として定めたルールに基づくもの」であること。そのために制度化が必要になります。

制度化しないと起きるリスク

個別対応を続けていると、担当者が変わるたびに判断がぶれ、最終的には「恣意的な評価だった」として労働トラブルに発展するリスクがあります。制度化は社員のためだけでなく、会社を守るためでもあります。

就業規則・評価規程との整合性

評価基準を個別に変更する場合、就業規則や人事評価規程に「配慮規定の根拠」がないと、後から労働審判や訴訟で「恣意的な評価だった」と争われるリスクが生じます。「会社は個別の事情に応じて評価方法を調整できる」旨を規程に一文盛り込むだけでも、大きな防衛策になります。逆に言えば、明文化さえしておけば、担当者は自信を持って配慮を実施できます。

降格・減給への安易な紐付けは危険

評価が低くなること自体は、適切なプロセスを踏めば問題になりません。問題になるのは、その評価を根拠に降格・降給などの不利益処分を行うケースです。メンタル不調を理由とした人事上の不利益処分は、不当労働行為・不法行為として争われるリスクが高く、「評価結果」と「不利益処分」は切り分けて考える必要があります。評価制度を整備する際は、この点を明示的にルール化しておきましょう。

情報管理の落とし穴

メンタル不調の診断名・病状は、個人情報保護法上の「要配慮個人情報」に当たります。評価者である直属上司に共有できる情報は、「業務遂行上必要な就業制限の内容(例:残業不可、週3日勤務)」に限定するのが原則です。診断名そのものを上司に伝える必要性は通常ありません。誰がどの情報をどこまで持てるのかを、情報管理ルールとして明文化しておくことが重要です。

復職後の評価をどう設計するか

復職直後の一定期間を「評価対象外期間(慣らし期間)」として明文化することが、実務上最も有効な設計の起点になります。この仕組みを持つことで、本人も評価者も「この期間は何をゴールにすればよいか」が明確になります。

評価対象外期間(慣らし期間)の設定

復職後の最初の1〜3か月程度を「評価対象外期間」として規程に定める方法が広く用いられています。この期間は評価点に算入せず、前評価期間の点数を据え置く、または評価そのものを除外するといった処理方法を事前に規定します。本人への説明も「この期間は評価ではなく、職場復帰を安定させることが目的です」と伝えることができ、プレッシャーを軽減しながら段階的な復帰を支援できます。

産業医・主治医の意見書と目標調整の連動

主治医や産業医が発行する意見書(就業上の配慮事項)には、「残業禁止」「週3日勤務」「軽作業に限定」といった就業制限が記載されています。この内容を受けて、人事・上司・本人の三者で「調整後の目標」を書面で合意するプロセスを規程化することが実務上の核心です。目標の難易度・業務量・勤務時間が通常の何割程度かを記録として残しておくと、後の評価説明や、評価期間中に就業制限が変わった場合の対応がスムーズになります。

リハビリ勤務期間の評価の扱い

復職準備として行われる「リハビリ勤務(試し出勤)」期間をどう扱うかは、会社によって判断が分かれます。一般的には、正式な復職前のリハビリ勤務は欠勤扱いとし、評価対象としないケースが多いです。ただし、正式復職後の慣らし期間については先述の「評価対象外期間」として処理するのが整合的です。どちらも規程に明記しておくことで、「なぜこの期間は評価されないのか」という本人の疑問に対して合理的な説明が可能になります。

評価基準の緩和幅をどう決めるか

メンタル不調社員の人事評価における評価調整の「幅」は、担当者の感覚任せにせず、できる限り定量的・定性的な基準として規程に落とし込むことが重要です。完全な定量化は難しくても、判断の根拠と記録の義務を規程で定めるだけで、対応の説明可能性は大きく高まります。

産業医がいる場合の設計

産業医と連携できる環境(従業員50人以上の事業場など)では、産業医の意見書を評価調整の起点とする仕組みが最も合理的です。「産業医の意見書に基づき、就業制限の内容に応じた評価目標を個別に設定する。設定内容は書面で記録し、人事が保管する」という一文を規程に盛り込むことで、担当者が毎回ゼロから判断する負担を大幅に減らせます。

産業医がいない場合(従業員50人未満)の設計

産業医の選任義務がない規模の会社では、主治医の診断書・意見書を代替の根拠として活用します。「主治医からの就業制限の内容を人事が確認し、上司・本人との三者合意のもと調整目標を設定する」旨を規程に定めます。外部の産業保健師や産業カウンセラーを活用しているケースでは、その専門家の意見を書面で残す形にするとさらに根拠が強固になります。

緩和の目安を示す参考基準

以下は、メンタル不調社員の人事評価における評価調整の考え方を整理したものです。自社規程を作成する際の参考にしてください。

就業制限の内容 評価調整の考え方 記録として残すもの
週3〜4日勤務 目標の業務量を勤務日数に比例して調整 調整後目標の三者合意書
残業・出張禁止 時間外対応を要する目標項目を除外 除外した目標項目と理由
軽作業のみ 担当業務範囲を再定義し、その範囲内で評価 業務範囲の変更を示す書面
復職後1〜3か月の慣らし期間 評価対象外とし、前期評価を据え置き 慣らし期間の開始・終了日

制度として文書化するときのポイント

メンタル不調社員の人事評価を制度化する際、既存の評価制度に配慮規定を追加する形が、最も現実的で運用しやすいアプローチです。新たに別の規程を一から作る必要はありません。

既存の評価規程への追加が現実的

多くの中小企業では、就業規則の附則や別規程として人事評価規程が存在しています。そこに「健康上の理由により就業上の配慮が必要な従業員については、産業医または主治医の意見書に基づき、評価期間・目標・評価基準を個別に調整することができる」という条文を加えることが出発点になります。新しいルールブックを作るより、既存の規程への追加のほうが従業員への周知・説明も容易です。

明文化すべき項目の優先順位

すべてを一度に整備しようとすると動けなくなります。まず最初に「評価対象外期間の設定」を明文化することから着手し、次に「目標調整のプロセスと記録義務」、そして「情報管理の範囲」という順番で整備を進めるのが現実的です。一度に完成させなくても、毎年の評価サイクルに合わせて少しずつ精緻化していく姿勢で十分です。

就業規則との整合性チェックを忘れない

評価規程に配慮規定を加えた場合、就業規則本体や休職・復職規程との整合性も確認が必要です。特に「休職期間の評価の扱い」「復職後の試用期間の有無」などは、既存の就業規則と矛盾しないよう整理します。社会保険労務士への確認を経た上で変更・届出の要否を判断することを推奨します。

まとめ

メンタル不調社員の人事評価は、感覚的なケースバイケース対応から、法的根拠のある制度的な運用へと移行することが、社員にとっても会社にとっても最善です。合理的配慮の考え方を軸に、復職後の「評価対象外期間」を設けること、産業医・主治医の意見書と目標調整を連動させること、その全プロセスを書面で記録することの三つが実務の柱になります。制度化は一度に完成させなくてよく、まず「評価対象外期間の明文化」から着手するだけでも、担当者の心理的負担と法的リスクの両方を大きく下げることができます。

ウェルセンス株式会社では、メンタルヘルス対応の制度化や休職・復職支援を専門としています。「自社の評価規程に何を追加すればいいか」「産業医がいない環境でどこまで対応できるか」といった具体的な疑問について、実務に基づいたアドバイスが可能です。まずはお気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. メンタル不調社員の評価を調整すると、他の社員から不公平だと言われませんか?

A. 「健康上の理由による就業上の配慮を行っており、評価もその状況に合わせています」と説明することで、多くのケースは対応できます。重要なのは「個人的な温情」ではなく「会社として定めたルールに基づく対応」であることを示せるかどうかです。規程への明文化が、この説明を可能にします。なお、当事者の病名や詳細を周囲に伝える必要はまったくありません。

Q. 産業医がいない小規模な会社でも、評価制度の整備はできますか?

A. できます。産業医の選任義務がない従業員50人未満の会社では、主治医の診断書・意見書を根拠として活用するのが現実的です。「主治医からの就業制限の内容を人事が確認し、上司・本人との三者合意のもと調整目標を設定する」という規程を定めることで、産業医がいなくても制度化の骨格は作れます。外部の産業保健師や支援機関の活用も有効です。

Q. 評価調整した結果、評価が低くなった場合、それを理由に降格や減給はできますか?

A. 慎重に切り分ける必要があります。就業制限の範囲で適切に目標を設定した上での評価結果は、一定の合理性があります。しかし、その評価を直ちに降格・降給に紐付けることは、メンタル不調を理由とした不利益処分として不当労働行為や不法行為に問われるリスクがあります。評価と人事処分は別の問題として取り扱い、処分を行う場合には必ず社会保険労務士や弁護士に事前相談することを強くお勧めします。

Q. 復職直後の「慣らし期間」は具体的に何か月に設定すればいいですか?

A. 一般的には1〜3か月が目安ですが、法律で定められた期間はありません。主治医や産業医の意見、当事者の状態、業務の性質によって柔軟に設定します。規程上は「復職後、産業医または主治医の意見に基づき最長3か月を慣らし期間とする」のように上限を設けつつ、個別判断の余地を残すのが実務的です。期間の延長が必要な場合は、三者合意の上で書面を更新する運用にすると管理しやすくなります。

Q. メンタル不調社員の詳細な情報(診断名など)を直属の上司に伝えてもよいですか?

A. 原則として診断名の共有は不要です。メンタル不調の診断名は個人情報保護法上の「要配慮個人情報」に当たり、共有できる情報は業務遂行上必要な範囲(例:「残業不可」「週3日勤務」「重い物の運搬は不可」など就業制限の内容)に限定するのが適切です。上司には「健康上の理由で一定の就業制限があります」という形で伝え、詳細の病状・診断名は人事担当者が管理するのが、情報管理リスクを下げる正しい対応です。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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