「休職中の社員に賞与を出すべきか?」——この問いに、明確なルールなく向き合っている経営者・人事担当者は少なくありません。前例に従って支給してきたが法的根拠がわからない、カットしたいが従業員ともめるのが怖い、そもそも規程に何も書かれていない……。感情と義務感の狭間で判断に迷うのは当然です。この記事では、休職中の賞与支給を「3つの判断軸」で整理し、迷わず対応できる考え方と実務のポイントをお伝えします。
そもそも休職中に賞与を払う義務はあるのか
賞与は「払うと決めた場合のみ」支払義務が生じる
まず大前提として、賞与(ボーナス)は法律で支給が義務づけられているものではありません。労働基準法第11条では賞与も「賃金」に含まれると定義されていますが、支払義務が生じるのはあくまで就業規則・賞与規程・労働契約のいずれかに支給する旨が定められている場合に限られます。
たとえば、賞与規程に「会社の業績および個人の査定により支給する」と書かれていれば、支給額の決定に会社の裁量が生まれます。一方、「毎年6月と12月に〇か月分を支給する」と明記されていれば、不支給にするには相応の合理的根拠が必要になります。
「なんとなく払ってきた」は慣行として認められる場合がある
規程に明記がなくても、過去に継続して支給してきた実績がある場合、「労使慣行」として黙示の合意が成立していると見なされるリスクがあります。たとえば「休職中の社員にも毎回賞与を支給してきた」という事実が複数年にわたって続いていれば、突然の不支給は労使トラブルのきっかけになりかねません。
「義務かどうかわからないまま払い続けてきた」という状況こそ、今すぐ規程の整備に着手すべきサインです。
判断軸の一つ目:就業規則・賞与規程に根拠はあるか
不支給・減額を有効にするには規程への明記が不可欠
休職中の賞与を不支給または減額するためには、就業規則や賞与規程にその根拠が明確に記載されている必要があります。規程に何も書かれていない状態で不支給にしようとすると、従業員から「規程に根拠がない」として無効を主張されるリスクがあります。
有効な記載の具体例としては、以下のような表現が考えられます。
- 「賞与の算定期間中に30日以上の休職があった場合は、賞与を支給しない」
- 「休職期間は算定期間に含めず、出勤日数の割合に応じて按分支給する」
- 「算定期間中の出勤率が80%未満の場合は、賞与を減額または不支給とする」
規程の「書きすぎ」より「曖昧さ」のほうが危険
「従業員に不利になりすぎるのでは」と心配して規程の記載を曖昧にしてしまう担当者も多いのですが、それは逆効果です。曖昧な規程は判断の根拠にならず、結果として担当者が毎回個別判断を迫られる状況を生み出します。
「休職期間中の扱いを明示する」こと自体は従業員にとっても透明性が高く、むしろ信頼関係の構築につながります。規程の整備は「不利益を与えるため」ではなく、「ルールを明確にするため」という視点で取り組むことが重要です。
判断軸の二つ目:算定期間中の休職日数をどう扱うか
代表的な3つの計算方式を理解する
算定期間(例:4月1日〜9月30日)の途中から休職が始まった場合、賞与をどう計算するかは規程の定め方によって異なります。主な方式は次の3つです。
■ 全額不支給型
算定期間中に一定日数以上(例:30日以上)の休職があった場合に一律不支給とする方式です。シンプルで運用しやすい反面、1日超えただけで全額カットとなる設計は合理性が問われる場合もあります。
■ 日割り・月割り減額型
算定期間全体のうち出勤した日数または月数の割合で支給額を按分する方式です。たとえば6か月の算定期間のうち3か月休職していた場合、支給額を50%にするといった計算になります。公平感が高く、社員からも受け入れられやすい方式です。
■ 出勤率基準型
算定期間中の出勤率が一定割合(例:80%)を下回った場合に不支給または減額とする方式です。日々の出勤管理と連動しやすく、実務的に使いやすい設計です。
年次有給休暇の扱いには注意が必要
出勤日数を計算する際、年次有給休暇を取得した日は「出勤したものとみなす」必要があります(労働基準法第39条)。有給休暇の日数を欠勤として扱って賞与を減額すると、法律違反となる可能性があるため注意が必要です。
一方、休職期間の日数は出勤日数に含めないのが一般的な取り扱いです。ただし、規程にその旨が明記されていない場合は「含めるべき」と主張される余地が生じるため、ここでも規程への明記が重要になります。
判断軸の三つ目:休職の背景と不利益変更のリスク
メンタル不調の背景に業務起因性がある場合は特別な配慮が必要
賞与の不支給・減額を決める前に、もう一つ確認すべき点があります。それは「なぜ休職しているか」という背景です。特にメンタル不調による休職の場合、その原因がハラスメントや過重労働など業務に起因する可能性があります。
そのようなケースで機械的に賞与を不支給にすると、「会社の責任で体を壊したのに、さらに不利益を受けた」として損害賠償請求や労働紛争に発展するリスクがあります。休職理由と業務起因性の有無を確認した上で、慎重に判断することが求められます。
従来の運用を変更する場合は「不利益変更」のプロセスを踏む
これまで休職中でも全額支給してきた会社が、規程を変更して不支給・減額にしようとする場合、それは「労働条件の不利益変更」にあたる可能性があります(労働契約法第10条)。
不利益変更を有効にするには、変更の合理的な理由があること、従業員への十分な説明と周知のプロセスを踏むことが必要です。「規程を変えたので来期から適用する」と一方的に通知するだけでは、変更が無効と判断されるリスクがあります。変更前に社員説明会を開く、書面で同意を取る、などの丁寧な対応が重要です。
傷病手当金との関係を整理しておく
賞与を支給しても傷病手当金への直接の影響は原則ない
休職中の社員が健康保険から傷病手当金を受け取っている場合、「賞与を支給したら傷病手当金が減るのでは?」と心配する担当者がいます。しかし、傷病手当金は日単位の標準報酬日額をもとに計算されるものであり、賞与(標準賞与額)との直接的な調整は原則として発生しません。
ただし、賞与を支給した場合は、その賞与を対象とした健康保険料・厚生年金保険料の控除が必要になります。賞与を支給する側としてのコスト計算を忘れないようにしてください。
「見舞金」名目での支給には注意が必要
賞与の代わりに「見舞金」や「特別一時金」として金銭を支給する場合、その名目が賃金性を持つかどうかが問われます。実態として賃金とみなされれば、社会保険料の対象になるだけでなく、傷病手当金の計算にも影響が及ぶ可能性があります。
名目だけを変えて賞与を支給しようとするケースでは、後から「賃金だった」と認定されてトラブルになることがあるため、支給の名目と実態が一致しているかどうかを慎重に確認する必要があります。
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規程整備の実務:今すぐ確認すべき3つのチェックポイント
賞与規程に「休職期間中の扱い」が明記されているか
まず現在の就業規則・賞与規程を開き、「休職」という言葉が賞与の条項に登場しているかを確認してください。登場していなければ、それだけで判断の根拠が欠けている状態です。「算定期間に休職期間を含めるか否か」「不支給・減額の条件は何か」を具体的な日数・割合で明記する必要があります。
賞与支給の条件が「会社の裁量」として設計されているか
次に、賞与支給の条件が「支給する」と断定的に書かれているか、それとも「査定・業績に応じて決定する」と裁量の余地が残されているかを確認します。断定的な表現になっている場合、不支給・減額を行うには別途合理的な根拠が必要になります。規程の表現が実態と合っていない場合は、適切な変更プロセスを踏んで修正を検討してください。
変更履歴と周知の記録が残っているか
最後に、規程の変更履歴と従業員への周知記録を確認します。「規程を変えた」という事実だけでなく、「いつ、どのように従業員に説明し、周知したか」の記録が残っていなければ、変更の有効性を後から証明するのが難しくなります。規程改定の際は必ず書面での通知と、受領確認のサインまたは記録を残すようにしてください。
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まとめ
休職中の賞与支給を判断する際の軸は、大きく「規程に根拠があるか」「算定期間中の休職日数をどう扱うか」「休職の背景と不利益変更のリスクをどう評価するか」の3点です。感情や前例に頼った判断は、後から大きなトラブルの種になります。
まず就業規則・賞与規程に休職期間中の扱いが明記されているかを確認し、記載がなければ早急に整備することが最初の一歩です。「規程を見直したいけれど、何をどう書けばいいかわからない」「今進行中の休職ケースで判断に迷っている」——そんなときは、専門家に相談することで、感情に左右されない・法的にも筋の通った対応ができるようになります。
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よくある質問
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