「突然、外国人社員が出社しなくなってしまった」「何度話しかけても元気がなく、でも何が辛いのかわからない」——そんな経験をお持ちの経営者・人事担当者は少なくありません。外国人社員のメンタルヘルス支援は、言葉の壁だけでなく、文化的背景や在留資格の不安など、日本人社員とは異なる複雑な要素が絡み合います。本記事では、外国人社員のメンタルヘルス支援で欠かせない文化的配慮のポイントを、具体的な対応策とともに解説します。
外国人社員のメンタル不調が見えにくい理由
言葉で伝えられないストレスのサイン
日本語が流暢でない外国人社員は、体調不良や精神的なストレスを言語化することが難しい状況に置かれています。「頭が痛い」「眠れない」といった身体症状として表れていても、それが精神的なストレスからきていると自分でも気づかないケースも多く、周囲もなかなか気づけません。
サインとしてよく見られるのは、急にコミュニケーションが減る、ミスが増える、遅刻や欠勤が続くといった行動上の変化です。これらを「やる気の問題」と捉えてしまうと、本人が必要な支援を受けられないまま不調が深刻化してしまいます。上司やマネジャーが変化に敏感になるラインケア(直属上司による部下へのケア)の強化が、外国人社員への支援では特に重要です。
文化的背景がもたらす「相談しにくさ」
中国・東南アジア・南アジアをはじめ、多くの文化圏では「精神的な不調を他人に話すこと=弱さや恥」という価値観が根強く残っています。「カウンセリングに行く=精神的に病んでいる人がすること」というイメージを持っている社員も少なくありません。
こうした背景があると、会社が相談窓口を設けても利用されないという事態が起きます。「窓口を案内したが誰も使っていない」という状況は、制度の問題ではなく、その制度の届け方に文化的配慮が不足していることが原因であることが多いのです。メンタルヘルス支援を「特別なこと」として位置づけず、日常的な健康管理の一環として自然に浸透させる工夫が求められます。
在留資格・経済的プレッシャーという見えない重圧
外国人社員が抱えるストレスの根本には、就労ビザの更新不安、家族の在留資格、母国への仕送りプレッシャーなど、日本人社員にはない生活上の重荷があります。たとえばビザの更新が近い時期に仕事上のトラブルが重なると、「このままではビザが更新できないかもしれない」という恐怖が加わり、通常の何倍ものストレスとして感じられます。
人事担当者がこうした構造を理解していないと、表面的な業務上の問題だけに対処しようとして的外れな指導になってしまいます。まず「この社員にはどんな生活上の背景があるか」を想像する視点を持つことが、適切な支援の出発点です。
相談窓口が「形だけ」にならないための整備
既存の窓口が外国人社員に届かない現実
多くの企業では、EAP(Employee Assistance Program:従業員支援プログラム)や産業医面談といった相談窓口を設けています。しかし、これらは日本語対応を前提としていることがほとんどです。外国人社員が「相談したくても言葉の壁があって使えない」状態では、窓口があっても機能しません。
また、ストレスチェック制度(労働安全衛生法第66条の10に基づき、50名以上の事業場では年1回の実施が義務)についても、質問の意味や結果の説明が日本語だけで行われていれば、外国人社員が正確に理解できているかどうか疑問です。「受けてもらっているが、結果の意味を理解しているか自信がない」という担当者の声は珍しくありません。
多言語対応の相談フローを設計する
有効な対策として、まず「誰に・何語で・どう相談するか」を社員が迷わないフローを整備することが挙げられます。たとえば英語・中国語・ベトナム語など、社員の母語に対応した相談窓口を外部の多言語対応サービスと連携して設ける方法があります。完全に自社で賄おうとすると現実的に難しいため、外部リソースをうまく組み合わせることが中小企業では特に有効です。
加えて、相談窓口の案内も多言語で行うことが重要です。「困ったときはこの番号に電話してください」という案内を社員証の裏や社内イントラに母語で掲示するだけでも、心理的なハードルを大きく下げられます。厚生労働省も「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対応するための指針」の中で、相談体制の整備と理解可能な方法での説明を求めています。
安全配慮義務と多言語対応は切り離せない
労働契約法第5条が定める安全配慮義務(使用者が労働者の生命・身体・精神の安全に配慮する義務)は、雇用形態や国籍に関係なく全労働者に適用されます。「言語の壁があるから対応が難しい」という理由で支援を怠ることは、この義務違反につながるリスクがあります。
外国人社員だからといって支援の水準を下げることは許されません。むしろ、言語や文化の差異がある分だけ、より積極的な配慮が求められると理解しておくことが大切です。
文化的背景に合わせた声かけと関係構築
「大丈夫ですか」が通じない場面がある
日本語で「大丈夫ですか?」と聞かれると、日本人も外国人も反射的に「大丈夫です」と答えてしまいがちです。特に、上下関係を重視する文化圏の社員は、上司や会社に対して「弱みを見せない」「問題を起こしたくない」という意識が強く働きます。形式的な声かけでは本音を引き出せないのはそのためです。
代わりに有効なのは、業務の話をしながら自然に様子を観察する機会を意識的につくることです。「最近どうですか?」という直接的な問いかけではなく、「先週の仕事、大変だったね」「何か困ってることがあれば気軽に話してほしい」といった声かけのほうが、心理的安全性を高めます。
メンタルヘルスの概念を「再定義」して伝える
「カウンセリング」「メンタルヘルス」という言葉にネガティブなイメージを持つ社員に対しては、その言葉を使わずに支援を届ける工夫も有効です。たとえば「体のコンディション管理」「職場での悩みを話す場」「健康チェック」といった表現に置き換えることで、利用へのハードルが下がるケースがあります。
また、同じ文化圏の先輩社員やロールモデルが「私もこういう相談をしたことがある」と話すことで、制度の利用が自然なこととして広まりやすくなります。制度設計だけでなく、社内の文化醸成とセットで取り組むことが重要です。
ハラスメントと孤立がメンタル不調を引き起こす構造
外国人社員のメンタル不調の背景には、職場内での孤立や差別的な扱いが隠れていることがあります。労働施策総合推進法(パワハラ防止法)では、外国人であることを理由にした嫌がらせや差別的言動はハラスメントに該当しうると定められています。文化的な摩擦から生じる排除や無視が、じわじわとメンタル不調を引き起こしているケースは決して少なくありません。
ハラスメント防止の取り組みと外国人社員のメンタルヘルス支援は、切り離して考えるのではなく、一体のものとして設計することが、実効的な職場環境づくりにつながります。
休職・復職制度を外国人社員に正しく届ける
日本語の就業規則をそのまま渡すリスク
メンタル不調が深刻化した際に、休職制度や傷病手当金の案内が必要になります。しかし、日本語で書かれた就業規則や手続き書類をそのまま渡しても、内容が正確に伝わらないケースが多く見られます。「手続きの説明をしたが、伝わったのかわからないまま止まってしまった」という担当者の声はその典型です。
最悪の場合、手続きが進まないまま無断欠勤が続き、突然の退職や音信不通という対応困難な状況に発展します。こうした事態を防ぐには、休職に入る前の段階で、平易な日本語または本人の母語で手続きの流れを丁寧に説明する機会を設けることが不可欠です。
復職支援でも文化的配慮が必要
休職から復職に向けたプロセスでも、文化的な配慮は引き続き重要です。たとえば、復職支援プログラムの内容(段階的な勤務時間の延長、定期的な面談など)を説明する際も、「なぜそのステップが必要なのか」を文化的な文脈に合わせて伝えないと、「もう体は元気なのに、なぜ制限されるのか」と本人が不満を感じてしまうことがあります。
また、復職後に職場に溶け込めるかどうかの不安も、外国人社員には特有の重みがあります。「職場に戻ったときに白い目で見られないか」という懸念は、文化圏によってはより強く感じられます。復職支援は本人へのケアと同時に、受け入れる職場側へのフォローも並行して行うことが大切です。
制度の入口から出口まで伴走する体制を
外国人社員が休職・復職制度を安心して活用できるようにするには、制度を案内するだけでなく、手続きの各段階で寄り添う担当者を明確にしておくことが重要です。「何かあればこの人に連絡する」という窓口を一本化することで、社員側も会社側も混乱せずに対応できます。
中小企業では専任の人事担当者がいないことも多く、一人の担当者が労務・制度案内・本人との面談をすべて担うのは現実的に難しい面もあります。外部の専門家や支援機関をうまく活用しながら、伴走できる体制を整えることが現実的な解決策となります。
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今日から始められる文化的配慮の実践ポイント
まず「知ること」から始める
文化的配慮の第一歩は、在籍している外国人社員がどの文化圏の出身で、どんな価値観や生活背景を持っているかを把握することです。すべてを深く理解する必要はありませんが、「この社員はメンタルヘルスに対してどんな認識を持っている可能性があるか」という視点を持つだけで、声かけや支援の仕方が変わります。
たとえば、東南アジア出身の社員が多い職場であれば、家族への仕送りや遠距離での家族の病気がストレスの大きな原因になりやすいことを知っておくだけで、「最近ご家族は元気ですか?」という一言の重みが変わります。
小さな仕組みの積み重ねが支援の土台になる
大規模な制度改革でなくても、できることから着手することが大切です。たとえば、相談窓口の案内を多言語で掲示する、ストレスチェックの結果を説明する際に平易な言葉を使う、休職の手続き書類にふりがなをつける——こうした小さな取り組みが積み重なって、外国人社員が「この会社は自分のことを気にかけてくれている」と感じる職場環境が生まれます。
支援の効果は、制度の完成度よりも「日常的に気にかけてもらえている感覚」が社員に届くかどうかにかかっています。まず今できることから動き出すことが、最も重要な一歩です。
外部リソースを積極的に活用する
すべてを自社で対応しようとせず、外部の専門家・支援機関・多言語対応サービスを組み合わせることが、中小企業における現実的な外国人メンタルヘルス支援の形です。産業医・カウンセラー・社労士・行政の外国人労働者相談コーナーなど、活用できるリソースは思いのほか多くあります。
大切なのは、こうした外部リソースと社内の対応フローをつなぐコーディネートの視点を持つことです。「どこに相談すればいいかわからない」という状況を解消することが、支援の第一関門を突破する鍵となります。
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まとめ
外国人社員のメンタルヘルス支援には、言語の壁を越えるための多言語対応と同時に、文化的背景・在留資格の不安・職場内の孤立といった複合的な要素への理解が欠かせません。安全配慮義務は国籍を問わずすべての社員に適用されるため、「言葉が通じないから難しい」という理由で対応を後回しにすることはリスクにつながります。まず在籍している外国人社員の背景を把握し、相談窓口の多言語化や声かけ方法の見直しなど、できることから着実に取り組んでいくことが重要です。
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よくある質問
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