「社員からメンタル不調の申し出があったが、会社として何の書類も用意していなかった」——中小企業の人事担当者から、こうした声を聞くことは少なくありません。就業規則に休職規定はあっても、実際の申請フォーマットや診断書の扱い方、受理記録のひな形まで整備されているケースはまれです。休職申請書をはじめとする書類体制は、社員が休みを申し出てからあわてて考えるのでは遅く、書類の不備が後の労使トラブルに直結することもあります。この記事では、休職申請書テンプレートの作り方から診断書の受け取り方、受理記録まで、実務に必要な書類整備の全体像を整理してお伝えします。
書類整備より先に確認すること
休職申請書のフォーマットを作る前に、就業規則の休職規定が整備されているかを確認することが大前提です。書類はあくまで規定の「実行手段」であり、規定のない書類は根拠のない書類になります。
就業規則の休職規定が書類の土台になる
労働基準法第89条により、常時10名以上の労働者を雇用する事業場は就業規則の作成・届出義務があります。休職制度は法律で義務付けられたものではなく、会社が就業規則で定める任意制度です。そのため、休職の申請手順・期間・条件・給与の扱いなどはすべて就業規則の記載内容に基づきます。休職申請書に記入してもらう「休職期間」や「復職予定日」の欄も、就業規則で定めた上限期間や条件と矛盾しないように設計する必要があります。
まず自社の就業規則を開いて「休職」の章を確認してください。「休職期間は最長〇か月」「復職可能の診断書を提出すること」など、具体的な手続き要件が明記されているかをチェックします。記載が曖昧だったり、規定自体がない場合は、書類整備と並行して就業規則の見直しを検討してください。
従業員数・産業医の有無で対応レベルが変わる
従業員数によって、求められる体制は異なります。常時50名以上の事業場では産業医の選任が義務付けられており(労働安全衛生法第13条)、休職・復職の判断に産業医の意見を組み込むことが標準的な対応となります。一方、50名未満の事業場では産業医の選任義務はありませんが、地域産業保健センターの利用など外部リソースを活用することが可能です。自社の状況に応じて「誰が休職の可否を判断するか」を書類フォーマットに反映させておくことが重要です。
必要書類の全体像と取得タイミング
休職対応で必要な書類は、申請・開始・休職中・復職の各フェーズに分かれています。どのタイミングで何を取得するかを事前に決めておくことが、書類漏れ防止の基本です。
フェーズ別の必要書類一覧
| 書類名 | 用途 | 取得タイミング |
|---|---|---|
| 休職申請書(本人署名) | 休職の申出・期間・理由の記録 | 休職開始前 |
| 主治医の診断書 | 休職の医学的根拠 | 休職申請時 |
| 休職辞令・通知書(会社発行) | 休職期間・条件の明示 | 休職開始時 |
| 休職中の連絡ルール確認書 | 連絡方法・頻度の合意記録 | 休職開始時 |
| 書類受理記録(受理簿・受理確認書) | 何をいつ受け取ったかの証跡 | 都度 |
| 復職申請書・主治医の復職可能診断書 | 復職判定の根拠 | 復職申請時 |
傷病手当金との連動を忘れずに
書類整備は社内対応だけでなく、社会保険手続きとも連動します。健康保険法第99条に基づく傷病手当金の申請書には「事業主記載欄」があり、会社が出勤状況(欠勤日)を証明する必要があります。そのため、休職開始日・出勤状況・給与支払いの有無などは休職申請書取得の段階から記録しておかなければなりません。後になって「いつから休んでいたか」を確認できない状況では、傷病手当金の申請自体が遅延するリスクがあります。傷病手当金の申請を社員がスムーズに行えるよう、会社側の記録管理も並行して進めてください。
📄 【無料】休職・復職 実務書式パック(全5点)
休職の根拠規定・開始日・期間・期間中の取扱いを明示する休職指示書と、復職の条件・提出書類・手続の流れを休職の入口で本人に渡す説明書を含む、休職・復職の実務書式5点です。
休職申請書テンプレートに盛り込むべき項目
休職申請書は「本人が休職を申し出た事実」と「合意した条件」を書面で残すための書類です。後の労使トラブルを防ぐために、最低限の記載項目を網羅したフォーマットを用意しておく必要があります。
必須の記載項目
休職申請書に盛り込むべき項目は次のとおりです。
- 申請日
- 申請者氏名・所属部署・捺印欄
- 休職の理由(病気療養・メンタル不調等)
- 休職開始予定日
- 休職終了(復職)予定日または休職期間
- 主治医の診断書の添付有無
- 休職中の連絡先(本人・緊急連絡先)
- 傷病手当金申請の意向確認欄
- 本人署名・押印欄
「休職の理由」については、詳細な病名まで記載させる必要はありません。診断書に記載されている内容を参照する形にし、申請書自体には「主治医の診断による療養のため」程度の記載で十分です。プライバシー保護の観点から、申請書に要配慮個人情報である病名・症状を詳しく記入させることは最小限に抑えてください(個人情報保護法第2条第3項)。
口頭・メール対応だけでは不十分な理由
「電話で休職の申し出があって、メールでやり取りして対応した」という会社は少なくありません。しかし口頭やメールのみで休職対応を完結させた場合、後になって「休職の合意内容が違う」「復職を拒否された」といった紛争が生じたとき、会社側の証拠が極めて薄い状態になります。書面による申請書の取得は、社員を疑うためではなく、会社と社員の双方を守るためのものです。「書類を出してもらうのが申し訳ない」という気持ちは理解できますが、就業規則に「書面による申請を要する」と定めておくことで、担当者が個人的に判断しなくて済む体制が整います。
書類体制の整備に不安があれば、単なるテンプレート提供ではなく、就業規則との整合性を含めた相談も含めて検討してください。
診断書の受け取り方と会社側の判断基準
社員から診断書を受け取った後、会社がどう判断して何をすべきかが不明確なまま対応してしまうケースが多くあります。診断書は休職を自動的に承認するものではなく、就業規則に基づいて会社が判断する際の医学的根拠です。
診断書を受け取った後の会社の手順
主治医の診断書を受け取ったら、まず記載内容を確認します。「休職を要する」「自宅療養が必要」など、就労困難の状態を示す内容が含まれているかをチェックし、就業規則の休職要件と照らし合わせます。次に、休職の可否と期間について会社として判断を行います。診断書の提出があっても、就業規則の定めに照らして休職を認めない場合や、別の就業上の配慮(業務軽減・在宅勤務等)を検討することもあります。ただし、明らかなメンタル不調のサインがあるにもかかわらず、「診断書がない」を理由に一切対応しないことは問題です。労働契約法第5条に定める安全配慮義務は、診断書の有無にかかわらず会社に課されており、放置はリスクになります。
診断書の保管と個人情報管理
診断書には病名・症状などの要配慮個人情報が含まれます。保管は施錠できるキャビネットまたは閲覧権限を設定したシステム上で行い、閲覧できる人を人事担当者・経営者など必要最小限に絞ってください。「上司に診断書の病名を見せてもいいか」と迷う担当者もいますが、原則として直属の上司であっても病名の詳細を共有する必要はなく、「療養が必要な状態にある」という事実のみを伝えることが適切です。
受理記録の整備で「言った・言わない」を防ぐ
休職対応でのトラブルの多くは、「何を、いつ、誰が、どのような形で受け取ったか」の記録がないことに起因します。受理記録(受理簿・受理確認書)を整備することが、組織的な対応の基盤になります。
受理記録に残すべき情報
受理記録とは、書類のやり取りの証跡です。最低限、以下の情報を記録してください。
- 受理した書類の名称(休職申請書・診断書など)
- 受理日時
- 受理した担当者名
- 提出方法(持参・郵送・メール添付など)
- 書類の控え・コピーの保管場所
紙で管理する場合は「書類受理簿」を1冊用意して時系列で記録し、エクセルやGoogleスプレッドシートで管理する場合も同様の項目を列管理します。担当者が変わっても引き継ぎができる状態にしておくことが重要です。
本人への交付書類も記録する
会社から社員に渡す書類(休職辞令・連絡ルール確認書・傷病手当金申請書など)についても、「いつ渡したか」を記録しておきます。可能であれば、社員に受領のサインをもらった控えを保管する形が理想です。郵送で送付した場合は、送付状のコピーと郵便追跡番号を記録しておきましょう。「書類を渡した」「渡していない」の食い違いは、復職拒否や解雇等の局面で問題になりやすいため、会社側の丁寧な記録管理が必要です。
書類整備が遅れると後続プロセスが滞る
休職初期に書類を正しく整備しておかないと、傷病手当金の申請・復職判定・休職期間満了通知など、その後のすべての手続きに影響が出ます。「とりあえず休ませた」で終わらせないことが、会社と社員双方にとって重要です。
復職面談・復職判定への影響
復職の可否を判断する際には、休職開始時に取得した書類(申請書・診断書・連絡ルール確認書)が判断材料になります。休職期間・休職理由・主治医の診断内容が書面で残っていなければ、「どのような状態で休んでいたのか」「就業規則上の休職期間はいつまでか」を整理することができません。復職面談では産業医または主治医の意見を踏まえた復職可能診断書の取得が必要であり、それは休職申請書類の体制と連続しています。
休職期間満了・雇用継続の判断
就業規則で定めた休職期間が満了しても復職できない場合、自然退職または解雇の手続きに進むことになります(就業規則の規定による)。この段階で「そもそも休職開始日はいつか」「期間満了の通知を送ったか」が記録として残っていないと、会社は重大なリスクを抱えることになります。書類整備は休職の「始まり」だけでなく、「終わり」まで見越した設計が必要です。
まとめ
休職申請書テンプレートの整備は、就業規則の休職規定を確認することから始まります。その上で、休職申請書・診断書・休職辞令・連絡ルール確認書・受理記録という書類の体系を、休職の各フェーズに合わせて準備することが基本です。診断書は会社が判断するための医学的根拠であり、受け取ったら就業規則に基づいて対応します。受理記録を残すことで、担当者が変わっても引き継ぎができ、後の「言った・言わない」トラブルを防ぐことができます。書類は後からまとめて整備しようとすると必ず手順が変わり、トラブルの種になります。社員が休職を申し出る前に体制を整えておくことが、会社と社員の両方を守ることにつながります。
休職対応は人事だけで判断せず、就業規則の見直しや診断書の取り扱いまで含めて体系的に進めることが大切です。ウェルセンス株式会社では、実務的なご相談をお受けしています。
よくある質問
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。
不調者対応を、人事だけで抱えない。
メンタル不調者面談や休職・復職対応を、1件からスポットでご相談いただけます。


