休職中の年次有給休暇付与、3つのポイントで迷わず対応

休職・復職対応

「休職中の従業員にも有給休暇を付与しなければならないの?」「出勤率の計算はどうすればいい?」「復職後すぐに有給を使いたいと言われた…」。専任人事がいない中小企業では、こうした疑問に答えてくれる人がそばにいません。この記事では、休職中の年次有給休暇について迷いやすい3つのポイントを、法的根拠と実務の両面からわかりやすく整理します。

休職中でも年次有給休暇は付与しなければならないのか

雇用契約が続く限り、継続勤務の要件は満たされる

年次有給休暇(以下、年休)の付与は、労働基準法第39条によって定められています。付与の要件は「継続勤務」と「全労働日の8割以上の出勤」の2つです。休職中であっても、会社との雇用契約は終了していません。つまり「継続勤務」の要件は休職期間中も満たされ続けるため、この点だけを見れば年休の付与は必要です。

「働いていないのに有給を付与するの?」と感じる方も多いのですが、年休はあくまで雇用契約に基づく権利であり、実際に出勤しているかどうかとは切り離されています。付与を怠ると労基法違反となるリスクがあるため、「付与しない」という選択は基本的にできません。

問題は「出勤率8割」の計算にある

継続勤務の要件はクリアできても、もう一つの要件「全労働日の8割以上の出勤」の計算で多くの担当者が悩みます。特に、メンタルヘルス不調を含む私傷病を原因とする休職の場合、休職期間を「欠勤」として扱うと出勤率が大幅に下がり、8割を下回る可能性があります。

次のセクションで、この計算方法を詳しく説明します。

出勤率の計算で休職期間をどう扱うか

休職の種類によって法律上の扱いが異なる

年次有給休暇の出勤率計算において、休職期間の扱いは休職の原因によって変わります。整理すると次のとおりです。

まず、業務上の傷病による休業は、労働基準法第39条第10項の規定により、出勤したものとみなされます。つまり出勤日数に算入されるため、年休の付与に影響しません。

次に、育児・介護休業も、育児・介護休業法の規定によって出勤扱いとされています。

一方、私傷病(メンタルヘルス不調を含む)による休職については、法律上の明示的な規定がありません。

私傷病休職は「除外」が実務上の標準的な処理

私傷病による休職期間については、行政通達(昭和33年10月11日 基発第722号ほか)や関連する判例をもとに、「全労働日」からも「出勤日数」からも両方とも除外するという処理が実務上の一般的な解釈です。

具体的な例で見てみましょう。年間の所定労働日数が240日で、そのうち90日間を私傷病で休職した場合、計算に使う「全労働日」は240日ではなく150日になります。この150日のうち8割以上(120日以上)出勤していれば、年休の付与義務が生じます。

もし休職期間を除外せず「欠勤」として処理してしまうと、出勤率が8割を割り込み、付与義務が消えるケースがあります。一見「企業に有利」に見えますが、法的解釈の正確性という観点からは適切ではないため、除外処理を就業規則に明記しておくことが重要です

就業規則への明記がリスク管理の第一歩

「就業規則に何も書いていない」という中小企業は少なくありません。しかし、休職中の年次有給休暇期間の出勤率計算上の扱いが規定されていないと、従業員から「なぜ付与されないのか」と問い合わせがあったときに説明ができず、トラブルに発展することがあります。就業規則または休職規程に「私傷病休職期間は全労働日および出勤日数の両方から除外する」と明記しておくだけで、余計な紛争を防ぐことができます。

年5日の時季指定義務と休職中の従業員の関係

2019年の法改正で生まれた「時季指定義務」とは

2019年4月施行の改正労働基準法により、年間10日以上の年休が付与される従業員に対して、使用者(会社)は年5日の年休を取得させる義務を負うことになりました(労基法第39条第7項)。取得させない場合は、会社側に罰則が科される可能性があります。

この制度は「従業員が自分で申請しなくても、会社が日程を決めて取得させなければならない」という点が特徴です。多くの中小企業では、この義務への対応がまだ不十分なケースも見られます。

休職中の従業員への時季指定は事実上できない

では、休職中の従業員に対しても、年5日の時季指定をしなければならないのでしょうか。答えは「事実上できない」です。休職中の従業員は労務を提供できる状態にないため、特定の日を「年休取得日」として指定することが現実的ではありません。

実務上は「休職期間中は時季指定の対象から外す」として運用し、就業規則にその旨を記載しておくことが望まれます。ただし、年度末に「5日取得できていない」という状態になった場合の対処方針も合わせて定めておくと安心です。

管理台帳で付与・取得状況を可視化する

休職者が複数いる場合、年休の付与日・残日数・取得状況を個別に管理することが不可欠です。Excelなどで「年休管理台帳」を作成し、付与基準日・付与日数・取得日数・残日数を一覧で把握できる体制を整えましょう。休職者については「休職開始日」「復職予定日」の欄も設けておくと、復職後の対応がスムーズになります。

復職後に「貯まった有給を使いたい」と言われたときの対応

休職中に付与された年休は復職後も有効

休職中に付与された年休は消滅しません。復職後も残っている年休は取得可能であり、翌年度への繰越もあります(付与日から2年間が有効期間)。そのため、長期休職から復職した従業員が「有給が20日以上残っている」という状況は珍しくありません。

復職後すぐに「休職中に貯まった有給を全部消化したい」という申請があるケースもあります。気持ちとしては理解できますが、業務習熟が不十分な時期に長期の連続休暇を取られると、職場への再適応という復職本来の目的に支障が出ることもあります。

時季変更権を適切に活用する

こうした場合に企業が使える手段が「時季変更権」です(労基法第39条第5項)。従業員が年休を申請した日が「事業の正常な運営を妨げる場合」に限り、会社は取得時季を変更するよう求めることができます。

たとえば、復職直後で業務引継ぎが完了していない時期や、繁忙期と重なるタイミングに長期取得の申請があった場合、「〇月△日以降にしてほしい」と別の日程を提案することが認められます。ただし、時季変更権はあくまで「時季を変更する権利」であり、「取得させない権利」ではありません。一方的に拒否することはできず、代替の取得日を具体的に提示することが必要です。

復職支援プランと年休管理を連動させる

復職後の年休取得については、復職支援プラン(試し出勤や段階的な業務復帰のスケジュール)の中であらかじめ方針を示しておくと、従業員も会社も動きやすくなります。たとえば「復職後3か月間は週4日勤務とし、体調が安定してから年休取得を調整する」といった取り決めを、復職面談の場で本人・上司・人事が共有することが有効です。

就業規則に盛り込むべき規定のチェックリスト

最低限整備しておきたい4つの規定

休職中の年次有給休暇の管理に関して、就業規則または休職規程に明記しておくべき事項を整理します。

まず確認したいのが、私傷病休職期間の出勤率計算上の取り扱いです。「全労働日および出勤日数の両方から除外する」旨を明示します。次に、休職中の年休取得申請の可否です。「休職中は年休の申請・取得を認めない」と定める企業が多く、これを明確にしておくことでトラブルを防げます。

また、年5日の時季指定義務における休職期間の取り扱いとして「休職期間中は時季指定の対象外とする」ことを規定します。最後に、年休の付与基準日と管理方法についても記載しておくと、担当者が変わっても運用が属人化しません。

規定がないと「後から決めた」と疑われるリスクがある

「問題が起きてから就業規則を整備した」という流れは、従業員から「会社に都合よく後から変えた」と受け取られる可能性があります。休職者が出る前に、あるいは休職者が出た直後でも早期に規定を整備することが、長期的な信頼関係の構築につながります。

就業規則の変更には、従業員への周知と労働基準監督署への届出が必要です。10名未満の企業も含め、就業規則の作成・変更は労基法上の義務であることを改めて確認しておきましょう。

まとめ

休職中の年次有給休暇について、実務上のポイントを3点に整理します。付与義務については、雇用契約が継続している限り原則として年休の付与は必要です。出勤率の計算では、私傷病による休職期間は全労働日・出勤日数の両方から除外するのが実務上の標準的な処理です。そして復職後の年休取得申請には、時季変更権を適切に活用しながら復職支援プランと連動して対応することが重要です。

いずれの対応も「就業規則に何も書いていない」状態では判断に迷いが生じます。休職が起きるたびに「今回はどうするか」と考えるのではなく、あらかじめ規程を整備しておくことが、会社・従業員の双方にとって安心につながります。

ウェルセンス株式会社では、休職の発生から復職後のフォローまでを一連のプロセスとして支援しています。「就業規則をどう整えればいい?」「復職面談のやり方を教えてほしい」「休職中の年次有給休暇の扱いで判断に迷っている」など、今抱えている疑問をそのままお持ちください。貴社の状況に応じて、実務的なアドバイスをさせていただきます。まずはお気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 休職期間が1年以上に及んだ場合でも、年休を付与しなければなりませんか?

A. 雇用契約が継続している限り、継続勤務の要件は満たされます。また私傷病による休職期間は出勤率の計算から除外するため、休職期間の長さに関わらず出勤率の要件も満たされるケースが大半です。原則として年休の付与は必要と考えてください。ただし、就業規則の規定内容によって扱いが変わる場合もあるため、不明点は専門家に相談することをお勧めします。

Q. 休職中に従業員から「年休で休職期間を消化したい」と言われました。応じる必要はありますか?

A. 就業規則に「休職中は年休の申請・取得を認めない」と規定している場合は、その旨を説明して断ることができます。規定がない場合は対応が難しくなるため、早めに就業規則を整備することが重要です。なお、年休は私傷病による欠勤とは別の権利であり、会社が一方的に「休職扱いを年休に振り替える」ことは原則として認められません。

Q. 年5日の時季指定義務を果たせなかった場合、どんなペナルティがありますか?

A. 労働基準法第120条により、義務に違反した場合は30万円以下の罰金が科される可能性があります。ただし、休職中の従業員については時季指定が事実上できないため、就業規則に「休職期間は時季指定の対象外とする」と明記しておくことで、対応の根拠を持つことができます。

Q. 復職後すぐに20日以上の年休取得を申請されました。時季変更権で全部断ることはできますか?

A. 時季変更権は「取得させない権利」ではなく「取得時季を変更できる権利」です。「事業の正常な運営を妨げる」という正当な理由がある場合に、別の日程への変更を提案することができます。一方的に全日程を拒否することは認められないため、代替の取得日を具体的に示すことが必要です。復職支援プランの中であらかじめ年休取得の方針を決めておくと、こうしたトラブルを防ぎやすくなります。

Q. 従業員が5名の小規模企業でも、就業規則の整備は必要ですか?

A. 就業規則の作成・届出義務は、常時10名以上の従業員を雇用する事業場に課されています(労基法第89条)。ただし、10名未満でも就業規則に相当する社内ルールを整備しておくことは、トラブル防止と信頼関係の維持に有効です。特に休職・復職が発生すると、ルールがないまま個別対応を続けることで、対応のブレや従業員の不満につながりやすいため、小規模であっても基本的な規程の整備をお勧めします。

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【監修】ウェルセンス株式会社
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