復職時の通勤能力確認方法と会社の確認手順

復職時の通勤能力確認方法と会社の確認手順 休職・復職対応
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「主治医から復職可の診断書は出ている。でも、本当に毎朝通勤できるのだろうか」――復職対応をしていると、必ずといっていいほどこの疑問にぶつかります。本人は「大丈夫です」と言う。でも、診断書には通勤について何も書かれていない。そのまま復職させて、2週間後に再び体調を崩されたら……。そんな不安を抱えながらも、確認の「型」がないために曖昧なまま判断してしまう会社は少なくありません。この記事では、復職時の通勤能力をどう確認し、どう記録すれば会社として適切な対応ができるのかを、実務の手順とともに整理します。

「復職可」の診断書は通勤能力を保証しない

主治医の診断書に「復職可能」と記載されていても、それは毎日・ラッシュ時・往復の通勤に耐えられることを意味しない。この前提を理解しておくことが、通勤能力確認の出発点です。

診断書が示すこととは

主治医が発行する診断書は、医療的な観点から「自宅療養を終了できる状態にある」ことを示すものです。主治医は患者の通院時の状態や問診をもとに判断しますが、通勤ルートの混雑具合、乗り換え回数、片道の所要時間といった個別の通勤環境を把握しているわけではありません。「職場に戻れる状態」と「毎日の通勤に耐えられる状態」は、意味が異なります。

本人の申告だけでは判断できない理由

休職者本人が「通勤できます」と申し出るのは、復職への意欲の表れであることが多く、その言葉は信頼すべきものです。ただ、意欲と実際の身体・精神状態は必ずしも一致しません。「何とかなると思っていた」「最初の1週間は持ったが、その後崩れた」というケースは実務上珍しくありません。会社が通勤能力を独自に確認するプロセスを持つことは、本人を守ることにもつながります。

法的な背景:安全配慮義務との関係

労働契約法第5条は、使用者が労働者の生命・健康を守る安全配慮義務を負うことを定めています。通勤能力を十分確認しないまま復職させ、体調が悪化した場合、この義務違反として損害賠償請求の対象になり得ます。また、厚生労働省が公表している「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」でも、通勤を含む日常生活が安定してできているかどうかが、職場復帰の可否判断における基本要件の一つとして明示されています。確認プロセスを整備することは、会社を守ることでもあります。

通勤能力を確認するための具体的な方法

通勤能力の確認には、本人の申告だけに頼らず、記録・実績・第三者評価を組み合わせることが実務上のポイントです。

生活記録表による日常リズムの把握

復職希望の意思表示を受けたら、まず本人に「生活記録表」の提出を依頼します。起床・就寝時間、外出の有無、体調・気分の変化を毎日記録してもらうシートで、2〜4週間分を提出してもらうのが目安です。この記録で確認したいのは「毎日安定して早起きできているか」「日中に活動できているか」「波(調子の良い日・悪い日)がどの程度あるか」です。生活リズムが整っていなければ、毎朝定時に通勤を続けることは難しいと判断できます。

試し通勤の実施と記録

「試し通勤」とは、実際の通勤ルート・時間帯・往復で職場(または図書館など公共施設)まで出かける練習です。単なる「外出ができた」ではなく、ラッシュ時の電車に乗れたか、往復後に疲弊していないか、翌日も継続できるかを確認します。会社側は、試し通勤の記録シートを本人に渡し、実施日・乗車ルート・所要時間・体調の変化を記入してもらいます。連続して5〜10日程度の記録があると、安定性の判断材料になります。

交通機関利用実績の活用

SuicaやPASMOなどのICカードには乗降履歴が記録されています。本人の同意を得たうえで、任意提出として乗降履歴(交通系ICカードのWeb明細など)を確認することで、「実際に電車に乗っていた日・時間帯・区間」を客観的に把握できます。強制ではなく「任意での提出依頼」という形をとること、取得した情報を復職判断以外に使用しないことを事前に伝えることが重要です。

こうした確認方法に迷った際は、経験を積んだ専門家に相談することで、対応の精度が大きく変わります。

主治医・産業医をどう活用するか

通勤能力の確認は、医療側と会社側が連携して行うことで精度が上がります。それぞれの役割を整理しておくことが大切です。

主治医意見書に「通勤可否」を明記してもらう

診断書の書式を会社指定のものにすることで、確認したい項目を統一できます。「通勤を含む就労が可能か」「ラッシュ時の乗車に問題はないか」「通勤時間の目安はどの程度か」などを記入欄として設けた意見書フォームを用意し、主治医に記載を依頼します。こうすることで、「復職可能」という一言の診断書ではなく、通勤に関する医師の見解を具体的に得ることができます。

産業医がいる場合の活用方法

従業員数50名以上の事業場では産業医の選任が義務付けられています(労働安全衛生法第13条)。産業医がいる場合は、復職面談において産業医が生活記録表・試し通勤の記録・主治医意見書を確認し、会社への意見書を提出してもらうフローが理想的です。産業医の意見書は、会社が復職可否を判断する際の客観的な根拠となります。

産業医がいない場合の対応

従業員数50名未満の企業は産業医の選任義務がなく、専門家不在のまま対応しているケースが多くあります。この場合は、外部の産業保健の専門家(産業保健総合支援センターや産業医紹介サービスなど)に相談する方法があります。また、EAPサービス(従業員支援プログラム)や人事労務の外部支援機関を活用することで、医療と職場の橋渡し役を確保することもできます。

会社として整備すべき確認の手順

通勤能力の確認は、担当者が毎回一から考えるのではなく、手順として整備しておくことで、対応のばらつきとトラブルリスクを減らすことができます。

確認フローの全体像

以下は、復職希望の申し出から復職判定までの標準的な確認フローです。自社の状況に合わせてカスタマイズしてください。

段階 実施内容 確認のポイント
復職希望の申し出 本人から復職意向の確認 希望復職日・体調の自己評価を確認
主治医意見書の取得 会社指定フォームで提出を依頼 通勤可否・就労可能時間が明記されているか
生活記録表の提出 2〜4週間分の日常記録を提出 起床時間・外出頻度・体調の安定性
試し通勤の実施 実際の通勤ルートで往復練習 ラッシュ時・連続日数・翌日の体調
交通機関利用実績の確認 ICカード履歴を任意提出 乗車日・時間帯・区間の実績
担当者(+専門家)との面談 記録をもとに本人と面談 本人の認識と記録内容に齟齬がないか
復職判定と支援プランの作成 確認結果を記録・決裁 通勤方法・時間・配慮事項を明記

記録として残すべき書類

確認のプロセスは、口頭でのやり取りだけでなく書面で残しておくことが重要です。具体的には、主治医意見書の原本、生活記録表(本人記入・提出日入り)、試し通勤記録シート、面談記録(日時・出席者・確認内容・判断結果)を保管します。これらは、万が一後からトラブルが生じた際に「会社として適切な確認を行った」ことを示す証拠となります。保管期間は労働関係書類に準じて3〜5年を目安にしてください。

就業規則への明記と本人への事前説明

復職時の通勤能力確認を「制度として行う」ことを就業規則や復職支援規程に記載しておくと、会社が独自に求めているのではなく社内ルールとして対応していることを示せます。また、休職が始まる段階で本人に「復職時にはこうした確認をします」と説明しておくことで、復職希望が出た際に本人が「突然求められた」と感じることを防げます。

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見落としがちな実務の落とし穴

手順を整備していても、特定のポイントで判断が曖昧になりやすい場面があります。あらかじめ知っておくことで、対応の精度が上がります。

「自宅近くへの外出ができた」を通勤能力と混同しない

試し通勤を依頼したとき、「近所のコンビニに行けました」「散歩できています」という報告を受けることがあります。これは日常生活の回復を示す指標ではありますが、通勤能力の確認としては不十分です。確認すべきは「実際の通勤時間帯」「実際の通勤ルート」「往復ともに」という3点です。この3つを満たしていない外出実績は、通勤可能の根拠にはなりません。

主治医・本人・会社の三者で前提が異なるケース

主治医が「通勤可能」と判断する際、週3日・時差出勤・片道30分以内などの条件を前提にしていることがあります。一方で会社側は「毎日・定時・往復1時間」を想定している。本人はその間でどちらの条件なのかを確認しないまま「大丈夫です」と答えている――このようなすれ違いが起きやすいのが復職の現場です。主治医意見書に具体的な条件を記載してもらう、面談でお互いの前提を確認するといった工夫で防げます。

復職後の短期間での再休職を防ぐための配慮

通勤能力の確認を経て復職したとしても、最初から通常勤務に戻すのではなく、段階的に負荷を上げていく配慮が再休職の予防につながります。厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」でも「試し出勤」や「段階的な業務復帰」が推奨されています。復職支援プランに通勤の開始時間・方法(時差出勤の有無など)を明記し、定期的に本人の状態を確認するフォロー面談を組み込むとよいでしょう。

「本人だけで判断させない」という視点が、トラブルを防ぎ本人の復職を成功させます。

まとめ

復職時の通勤能力確認は、「本人が大丈夫と言っているから」という判断で済ませられるものではありません。主治医の診断書はあくまで療養終了の目安であり、実際の通勤に耐えられるかどうかは、生活記録表・試し通勤・交通機関利用実績・主治医意見書・専門家面談を組み合わせて確認することが実務上の基本です。そのプロセスを書面で記録し、就業規則や復職支援規程に明記しておくことで、会社として安全配慮義務を果たした対応ができます。

「こうした手順を整備したいが、何から始めればよいかわからない」「復職者の対応で今まさに迷っている」という場合は、ウェルセンス株式会社にご相談ください。専任人事がいない企業でも実践できる、現場に合わせた復職支援の仕組みづくりをサポートしています。お気軽にお問い合わせください。

よくある質問

Q. 主治医の診断書に「復職可」と書かれていれば、通勤能力は確認しなくてよいですか?

A. いいえ、確認は必要です。主治医の診断書は「自宅療養を終了できる状態」を示すものであり、毎日・ラッシュ時・往復の通勤に継続して耐えられることを保証するものではありません。会社側で生活記録表や試し通勤の記録を確認するプロセスを持つことが、安全配慮義務の観点からも重要です。

Q. 試し通勤の記録を本人に求めることは、プレッシャーになりませんか?

A. 事前に「試し通勤は復職を認めるかどうかの審査ではなく、安心して復職できるように準備するためのプロセスです」と丁寧に説明することが大切です。記録を提出させる目的と使途を明確にし、「本人の状態を一緒に確認したい」というスタンスで依頼すると、本人の不安を軽減しやすくなります。

Q. 産業医がいない場合、通勤能力の最終確認は誰が行えばよいですか?

A. 産業医が選任されていない場合(従業員50名未満など)は、会社の担当者が主治医意見書・生活記録表・試し通勤記録をもとに面談を行い、確認結果を記録する形が基本です。客観性を高めたい場合は、外部の産業保健専門家やEAPサービス、産業保健総合支援センターへの相談も有効です。

Q. ICカードの乗降履歴を本人に提出させることはプライバシー上問題ないですか?

A. 本人の同意なく会社が交通機関の履歴を取得することはできません。あくまで「任意での提出依頼」として、目的・用途・提供範囲を事前に説明したうえで同意を得ることが前提です。提出を強制するものではなく、復職の可否判断以外に使用しない旨を明確に伝えることで、本人も安心して対応しやすくなります。

Q. 通勤能力の確認をしたうえで復職させたのに、再び体調を崩した場合、会社の責任になりますか?

A. 適切な確認プロセスを踏み、書面で記録を残していた場合、会社が安全配慮義務を尽くしたことを示せます。一方、確認が不十分だった場合や記録がない場合は、義務違反を問われるリスクが高まります。復職後も定期的なフォロー面談を行い、早期に変化を把握する体制を整えておくことが、再休職の防止と会社の責任管理の両面で重要です。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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