「復職の判断は産業医ともなんとか調整できた。でも、そのあとの手続きって何が必要なんだろう——」復職対応の真っただ中にいる担当者から、こうした声をよく聞きます。本人の職場復帰に向けた調整や受け入れ準備で手一杯になるのは当然のこと。しかし、社会保険・雇用保険の手続きを後回しにしたまま気づかずにいると、法的な届出漏れや給与計算のミスにつながるリスクがあります。この記事では、復職時に発生する行政手続きを5つに整理し、優先順位と判断基準をわかりやすく解説します。
社内書類と行政届出の違いを最初に押さえる
復職に関わる書類には、社内で管理するものと、ハローワークや年金事務所に提出するものの2種類があります。この2つを混同していると、「やった気になっているだけで行政への届出が漏れていた」という事態が起きやすくなります。
社内管理書類
主治医の診断書、産業医の意見書、職場復帰支援プランなどは、会社が保管・管理する社内書類です。これらは復職の判断根拠として重要ですが、ハローワークや年金事務所への提出は必要ありません。就業規則に基づいて整備するもので、行政への届出とは別の話です。
行政への届出が必要な書類
一方、年金事務所・健康保険組合・ハローワークに提出が必要な書類としては、標準報酬月額変更届、傷病手当金の事業主証明欄の記入、雇用保険被保険者記録の変更手続きなどがあります。これらには提出期限があり、法令上の義務が伴います。「社内で書類を整えた=手続き完了」ではないことを最初に確認しておきましょう。
雇用保険の被保険者記録:復職時に変更手続きは必要か
結論から言えば、通常の休職・復職では雇用保険の被保険者記録の変更手続きは不要です。休職中も雇用関係は継続しているため、被保険者資格はそのまま維持されます。
通常の休職復職では被保険者記録の変更は不要
メンタルヘルス不調や傷病による休職の場合、会社との雇用契約は継続しています。雇用保険の被保険者資格は「雇用関係の継続」を前提としているため、休職期間中も資格は失われません。復職時に新たな資格取得届を出す必要はなく、ハローワークへの届出も原則として不要です。
例外:退職・再雇用の場合は手続きが必要
以下のケースでは、別途対応が必要になります。休職後にいったん退職し、その後に再雇用された場合は、雇用保険の被保険者資格を喪失・再取得するため、「雇用保険被保険者資格取得届」の提出が必要です。また、出向や転籍を伴って元の職場に戻るケースも、状況によって確認が必要です。最初のポイントは「休職中のまま戻ってくるのか、一度離職しているのか」を確認することです。
社会保険(健康保険・厚生年金)の手続き確認ポイント
社会保険については、復職後の給与水準によって手続きの要否が変わります。特に「休職中は給与が低かったが、復職後にフルタイムに戻る」ケースでは、標準報酬月額の随時改定(月変)を見落としやすいため注意が必要です。
標準報酬月額の随時改定(月変)とは何か
標準報酬月額とは、健康保険料・厚生年金保険料の計算基準となる報酬の区分(等級)のことです。固定的賃金に変動があり、変動月から3か月間の報酬平均が従前の等級と2等級以上異なる場合、「健康保険・厚生年金保険 被保険者報酬月額変更届」を年金事務所(または健康保険組合)に提出する義務があります(健康保険法第43条、厚生年金保険法第23条)。
復職の場面では、休職中に給与が無給または大幅に低い状態が続き、フルタイム復職後に通常の給与に戻るタイミングで、この2等級以上の差が生じるケースがあります。復職から3か月が経過したころに確認する習慣をつけておきましょう。
傷病手当金の終了時に会社がすること
傷病手当金は被保険者(従業員本人)が申請する給付ですが、申請書の「事業主の証明欄」に会社が記入・押印する実務が発生します。復職日以降は傷病手当金の対象外となるため、最後の申請分の証明を漏れなく対応することが必要です。「復職したから自動的に終了する」のは給付の話であって、書類の証明依頼が来た場合は速やかに対応してください。
育児休業からの復職は別ルール
育児休業から復職する場合は、メンタルヘルス休職とは異なる手続きが発生します。「育児休業等終了時報酬月額変更届」や「養育期間標準報酬月額特例申出書」の提出要否を確認してください。本記事ではメンタルヘルス・傷病休職からの復職を主な対象としていますが、育休との混同が多いため、ここで区別を明示しています。
段階的復職(リハビリ出勤)のときの注意点
フルタイムではなく短時間勤務から始める段階的復職(リハビリ復職)では、報酬額の変化だけでなく、社会保険・雇用保険の加入要件そのものを確認する必要があります。
短時間勤務が加入要件を下回る場合
社会保険(健康保険・厚生年金)の加入要件は、所定労働時間が通常の労働者の4分の3以上であることが基本です(健康保険法第3条第1項)。また、週20時間以上・月額賃金88,000円以上などの要件が適用される場合もあります(従業員数や適用拡大の段階によって異なります)。段階的復職で所定労働時間を大幅に短縮した場合、理論上は被保険者資格の喪失・再取得が必要になるケースがあります。
実務上は「一時的な措置」として扱われることも多いですが、短時間・低賃金の状態が継続する場合は、加入要件を確認し、必要に応じて管轄の年金事務所や健康保険組合に相談することを推奨します。
段階的復職中の給与と社会保険料の関係
加入資格を維持したまま短時間勤務を続ける場合、報酬が低下するため、随時改定(月変)の要件に該当する可能性があります。また、無給休職中に会社が社会保険料を立て替えている場合は、復職後の給与から分割控除する取り決めをしていることがあります。復職後の給与明細の設計と控除の終了タイミングを、経理・給与計算担当者と事前に確認しておくことが重要です。
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復職時の手続きチェックリストと優先順位
復職対応では複数の手続きが重なるため、「何を・いつまでに・誰が」やるかを整理しておくことが抜け漏れ防止の鍵です。下表に優先順位の目安をまとめます。
| 優先度 | 確認・手続き内容 | 担当・提出先 | タイミング |
|---|---|---|---|
| 高 | 雇用保険の被保険者記録変更の要否確認(退職・再雇用かどうか) | 人事担当/ハローワーク | 復職決定時 |
| 高 | 傷病手当金の最終申請分・事業主証明欄の対応 | 人事担当 | 最終受給期間終了後速やかに |
| 中 | 標準報酬月額の随時改定(月変)要否の確認 | 人事・経理/年金事務所 | 復職後3か月の報酬確定時 |
| 中 | 段階的復職の場合:社会保険加入要件の確認 | 人事担当/年金事務所・健保 | 復職開始時 |
| 低 | 賃金台帳の正確な記録・更新(労働保険料の年度更新に備える) | 経理・給与担当 | 随時(年度更新:6〜7月) |
専任人事がいない場合の現実的な進め方
20〜50名規模の企業では、人事・経理・総務を1〜2名で兼務しているケースが多いです。そのような状況では、まず「退職・再雇用かどうか」を確認して雇用保険の手続き要否を判断し、次に傷病手当金の証明対応を済ませてから、復職後3か月で月変の要否を確認するという流れが現実的です。一度に全部を完璧に把握しようとするよりも、タイミングごとに確認事項を分けて対処することが抜け漏れを防ぐコツです。
就業規則・社内ルールとの整合性も確認する
社会保険・雇用保険の手続きとは別に、以下の点が就業規則に明記されているかも確認が必要です。
- 休職期間中の社会保険料立替の回収ルール
- 復職条件の明記
- 段階的復職中の賃金規定
就業規則に規定がない場合、復職者との間でトラブルが起きやすくなります。手続きと並行して社内ルールの整備状況を点検しておくと、次回以降の対応がスムーズになります。
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まとめ
復職時の社会保険・雇用保険手続きは、3つの核心ポイントを押さえることが大切です。
- 通常の休職復職なら、雇用保険の被保険者記録変更は不要(退職・再雇用の場合のみ必要)
- 社会保険は復職後の給与変動に応じて、標準報酬月額の随時改定の要否を確認する(復職後3か月が目安)
- 段階的復職は、加入要件そのものの確認が必要(労働時間が4分の3未満になる場合)
また、社内書類と行政届出を混同しないことが、手続き漏れを防ぐ最初のステップです。
とはいえ、個々の事例によって判断が分かれる場面も多く、「自分のケースはどれに当たるのか」が判断しにくいこともあります。ウェルセンス株式会社では、メンタルヘルス休職からの復職支援と並行して、人事労務手続きの整理や就業規則の整備についてもご相談をお受けしています。「一度、状況を整理したい」「うちの場合はどうなるのか確認したい」という段階からお気軽にご連絡ください。
よくある質問
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