「休職がもう半年以上続いている。このまま雇用し続けるのは難しいけれど、解雇したら訴えられるのでは……」。専任の人事担当者がいない中小企業の経営者や兼務担当者から、こうした声をよく耳にします。メンタルヘルス不調による休職者の雇用終了は、正しい手順を踏めば合法的に進められます。本記事では、不当解雇のリスクを回避しながら雇用を終了するための具体的な3つの手順を解説します。
「解雇」と「雇用終了」は別物と理解する
解雇権濫用法理という大前提
労働契約法第16条は「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定めています。つまり、メンタル不調を理由に一方的に解雇通知を出すだけでは、裁判所に無効と判断されるリスクが非常に高い。「問題のある社員だから解雇する」という感覚的な判断では通用しないのが日本の労働法の現実です。
合法的に雇用を終了できる手段は3つある
ただし「解雇できない=永遠に雇用し続けなければならない」ではありません。適切な手順を踏めば、合法的に雇用関係を終了させる方法は存在します。休職者の雇用終了には、まず休職期間満了による自動退職・自動解雇、次に退職勧奨による合意退職、そして復職不可の正式な判定を根拠とした雇用終了の3つがあります。以降の章で、それぞれの手順と注意点を具体的に説明します。
就業規則を確認・整備する
休職期間満了条項の有無が一番の分岐点
休職期間満了による雇用終了は、日本の実務で最も法的リスクが低い手段です。しかしこの手段が機能するためには、就業規則に「休職期間が満了しても復職できない場合は退職(または解雇)とする」という明確な条項が存在することが絶対条件です。この条項が曖昧だったり、そもそも存在しなかったりする場合、満了時に退職扱いとしても無効を主張される可能性があります。まずは現行の就業規則を確認してください。
再休職・通算規定も必ず盛り込む
実務上、特に問題になりやすいのが「復職後に短期間で再び休職するケース」です。就業規則に通算規定がないと、再休職のたびに休職期間がリセットされ、際限なく休職が繰り返される事態になります。具体的には「復職後6か月以内に同一または類似の傷病で再休職した場合は、前回の休職期間と通算する」といった文言を明記しておくことが重要です。「同一または類似の傷病」の定義もあわせて規定しておくと、後のトラブルを防げます。
休職期間の長さは勤続年数と傷病の性質で設定する
休職期間そのものの長さも、合理的な設定でなければ法的有効性が揺らぎます。一般的には勤続1年未満なら1〜2か月、勤続3年以上なら3〜6か月程度を目安に設定する企業が多いです。中小企業では一律「3か月」としているケースも見られますが、あまりに短すぎると「回復の機会を十分に与えなかった」と判断されるリスクがあるため、就業規則の見直しと同時に専門家に確認することをお勧めします。
復職可否を正式に判定する
主治医の「復職可」診断書がすべてではない
よくある誤解として「主治医が復職可能と書いた診断書を出してきたら、会社は受け入れなければならない」というものがあります。しかし主治医は日常生活が送れるかどうかを中心に判断しており、その職場の具体的な業務内容や職場環境を十分に把握しているわけではありません。裁判例でも、会社側が業務遂行能力に関する独自の判断根拠を持っていた場合、「復職不可」の判断が認められたケースがあります。
産業医意見書と復職判定基準を整える
会社が「復職不可」と判断するには、医学的な根拠が必要です。産業医が在籍している場合は、産業医に職場復帰支援の可否に関する意見書を作成してもらいましょう。産業医がいない、または形式的にしか機能していない場合は、外部の産業医サービスやメンタルヘルス専門機関を活用する方法があります。また「復職判定基準」(例:週5日・所定労働時間の勤務が可能か、特定の業務を遂行できるか等)を書面で明確にしておくことで、判断の客観性と記録が確保されます。
試し出勤(リハビリ出勤)の記録を残す
2004年に厚生労働省が示した「職場復帰支援の手引き」でも推奨されているリハビリ出勤(試し出勤)は、復職可否判断の重要な材料になります。たとえば「2週間、午前中のみ出勤してもらい、業務遂行状況を記録する」といった形で実施します。その記録(出勤状況・業務の質・コミュニケーションの様子など)が「復職不可」判断の客観的根拠になります。なお、1995年の最高裁判決(片山組事件)では、会社は配慮可能な軽易業務があるかどうかも検討する義務があるとされているため、「他に配置できる業務はなかったか」という視点も記録に残しておくことが重要です。
退職勧奨を適法に進める
退職勧奨は合法だが「やり方」が問われる
退職勧奨とは、会社側から退職を促す働きかけをし、本人の同意のもとで退職してもらう手続きです。これ自体は合法な行為です。問題になるのは「強要」や「執拗な繰り返し」に当たる場合です。たとえば「辞めなければ給与を下げる」と告げる、1日に何度も呼び出す、長時間にわたって部屋に閉じ込めるといった行為は不法行為(ハラスメント)と判断されます。退職勧奨は「意思確認をする場」であり「圧力をかける場」ではない、という認識が前提になります。
面談は1〜2回・記録必須・断られたら撤退する
適法な退職勧奨の進め方として、面談は1〜2回に限定する、面談の内容は記録として残す、本人が拒否の意思を示したらその場で撤退する、という3点が実務上のポイントです。「先日もお伝えしましたが……」と何度も繰り返すことは執拗な勧奨とみなされるリスクがあります。また面談は1対1ではなく、人事担当者と上司など2名体制で行うと記録の信頼性が高まります。
退職合意書で書面を交わす
本人が退職に同意した場合は、必ず退職合意書を書面で取り交わしてください。口頭での合意だけでは「強要された」「そんな話はしていない」という後からの主張を防げません。退職合意書には退職日、退職理由(合意退職)、退職金や未払い賃金の精算内容、「今後一切の請求をしない」という清算条項などを盛り込むのが一般的です。書面化することで、双方にとってのリスクを最小化できます。
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障害者雇用・合理的配慮の観点を忘れない
精神障害・発達障害には配慮義務がある
メンタルヘルス不調の背景に精神障害や発達障害がある場合、2016年施行の障害者雇用促進法により、会社には「合理的配慮の提供義務」が課されています。合理的配慮とは、業務内容の一部変更、座席環境の調整、指示方法の工夫など、過度な負担にならない範囲での配慮のことです。この配慮を何も行わないまま雇用終了に踏み切ると、「配慮義務違反」を問われるリスクがあります。
配慮の記録が雇用終了の正当性を支える
重要なのは「配慮を検討・実施した経緯」を記録として残しておくことです。たとえば「業務量を半分に減らした期間が3か月あった」「在宅勤務を試みたが業務遂行が困難だった」「産業医との面談を4回実施した」といった事実の記録が、万が一訴訟になった場合に会社の正当性を示す証拠になります。記録がなければ「何もしていない」とみなされる可能性があるため、些細なことでも記録する習慣をつけてください。
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まとめ
休職者の雇用終了は、「解雇」一択ではありません。就業規則に休職期間満了・通算規定を整備すること、産業医意見書や復職判定基準をもとに客観的な復職可否判断を行うこと、そして退職勧奨を適法な手順で進めて書面化すること——この3つの手順を踏むことで、不当解雇のリスクを回避しながら合法的に雇用関係を終了させることができます。また、精神障害・発達障害が関係する場合は合理的配慮の記録が不可欠です。
「うちの就業規則でこの手順は機能するのか」「産業医がいないがどうすれば良いか」など、個別の状況に応じた判断に不安を感じる方は、一度専門家に相談することをお勧めします。ウェルセンス株式会社では、専任人事のいない中小企業の経営者・人事担当者が直面するこうした課題に、実務に即した形で伴走しています。具体的なご相談やお悩みがあれば、お気軽にお問い合わせください。
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