休職満了退職した社員に定年再雇用は必要か

休職満了退職した社員に定年再雇用は必要か 労務管理
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「休職期間が満了して退職扱いにしたけれど、この従業員は来月で60歳になる。定年再雇用をしなくていいのか?」——定年直前に病気休職が重なると、こうした疑問が突然降りかかってきます。専任人事のいない環境では、休職満了退職と定年再雇用の関係を整理する機会もなく、「とりあえず退職処理を進めたが、あとで問題になるのでは」と不安を抱えたままになりがちです。この記事では、法的な義務範囲を明確に整理しつつ、実務で判断に迷いやすいポイントを具体的に解説します。

結論:休職満了退職者への定年再雇用義務は原則として発生しない

高年齢者雇用安定法上の継続雇用義務は「定年に達した者」を対象としており、定年到達前に休職満了で雇用契約が終了した場合、同法の義務は適用されません。ただし、就業規則の不備や事実経緯によっては、この結論が覆るリスクがあります。

高年齢者雇用安定法が求める継続雇用義務の範囲

高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年齢者雇用安定法)第9条は、定年を65歳未満に設定している事業主に対して、次のいずれかの措置を講じることを義務づけています。

  • 定年年齢の引き上げ
  • 継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度など)の導入
  • 定年制の廃止

この義務が発生するのは、あくまで「定年に達した者」です。定年前に別の退職事由——たとえば休職期間満了による自動退職——が成立していれば、その時点で雇用契約はすでに終了しており、定年は到来しません。継続雇用義務を負う前提条件を満たしていないため、法的には再雇用義務は生じないというのが基本的な整理です。

70歳就業確保措置(努力義務)との関係

2021年4月施行の改正高年齢者雇用安定法では、第10条の2において70歳までの就業機会確保が努力義務として加わりました。しかしこれは義務ではなく努力目標です。また、この努力義務も対象は「定年に達した者・継続雇用契約が終了した者」であり、定年前に休職満了退職した者は射程に入りません。


退職事由の先後関係が判断の分かれ目になる

休職満了と定年のどちらが先に成立するかによって、適用される法律と手続きが大きく変わります。この先後関係の見極めが、実務上もっとも重要な判断ポイントです。

定年到達前に休職期間が満了するケース

たとえば、定年が誕生日の属する月の末日(60歳到達月末日)で、休職期間満了日がその2ヶ月前に来る場合です。この場合、休職満了退職が先に成立するため、定年は到来せず、継続雇用義務との関係は生じません。就業規則に休職期間・満了時の退職規定が明確に整備されていれば、適正な自動退職として処理できます。

休職中に定年日を迎えるケース

休職に入って間もない時期に定年日が到来するケースでは、定年退職が先に成立します。就業規則に「休職中に定年に達した場合は定年退職とする」旨の規定があれば定年退職として処理され、継続雇用制度の適用対象になり得ます。問題は、こうした規定を設けていない中小企業が少なくないことです。規定がない場合、どちらの退職事由を適用するかが曖昧になり、後日のトラブルの温床になります。

満了日と定年日が近接・重なるケース

休職期間満了日と定年日が数日以内に近接している、または同日になる場合は特に注意が必要です。どちらの事由が「先」かを就業規則の条文と実際の日付で確認し、書面に記録しておく必要があります。この日付管理を怠ると、従業員側から「定年退職として扱われるべきだったのに、再雇用を拒否された」と主張される余地を与えてしまいます。

状況 先に成立する退職事由 継続雇用義務
定年前に休職期間満了 休職満了退職 発生しない
休職中に定年日が到来 定年退職 発生する(就業規則に規定があれば)
満了日と定年日が近接・重なる 就業規則・日付管理次第 規定・記録の有無で分かれる

休職満了退職そのものが有効であるための条件

「継続雇用義務がない」という結論は、休職満了退職が有効に成立していることを前提にしています。退職の有効性が揺らぐと、継続雇用義務の有無以前に「解雇と同視される」リスクが発生します。

就業規則に明確な根拠があるか

休職満了退職(自動退職)は、就業規則に「休職期間満了時に復職できない場合は退職とする」旨の規定があることが大前提です。この規定が曖昧だったり、そもそも存在しない場合、裁判所や労働審判委員会から「実質的な解雇である」と判断される可能性があります。解雇と同視されれば、解雇権濫用法理(労働契約法第16条)の適用対象となり、無効とされるリスクが生じます。

復職可否の判断と通知手続きは適切か

就業規則の規定があっても、手続きが不適切であれば有効性が争われることがあります。具体的には次の点を確認してください。まず、休職期間満了が近づいたタイミングで従業員に通知しているか。次に、主治医の診断書や意見書の提出を求め、復職可否を客観的に判断しているか。さらに、傷病手当金や障害年金を受給中の従業員への連絡は、適切な方法・タイミングで行われているか——これらが記録として残っていることが、後日のトラブル防止につながります。

「継続雇用を約束していた」と言われないための注意点

法律上の義務がなくても、会社側の言動が「継続雇用を約束した」と受け取られる状況を作ってしまうと、信義則(民法第1条第2項)や黙示の合意を根拠に再雇用を求める主張が出ることがあります。たとえば、休職中に上司が「復帰したら再雇用できるよ」と伝えていた場合などです。口頭での約束的な発言には注意が必要です。


就業規則の整備が最大のリスクヘッジになる

中小企業で最も多い問題は、就業規則の休職・復職規定と定年・継続雇用規定が整合していないことです。この不整合が、後になって深刻なトラブルを引き起こします。

確認すべき就業規則の条文

以下の観点で自社の就業規則を確認してください。休職期間の上限と起算点が明確か。満了時に退職とする旨の条文があるか。休職中に定年日を迎えた場合の扱いが定められているか。定年後の継続雇用制度の対象者要件が明記されているか——これらが一貫したロジックで整理されていなければ、判断の迷いが生じます。

規定の不整合が招く具体的なリスク

たとえば、継続雇用規定に「定年到達時に在籍していた者」とだけ書いてあり、「休職中に定年を迎えた場合」について何も触れていないケースがあります。この場合、休職中に定年日が来た従業員から「自分は在籍中に定年を迎えたのだから継続雇用の申込みができる」と主張される余地が生まれます。規定の穴が、想定外の義務を生み出すことがあるのです。

従業員規模・産業医選任の有無による対応の違い

常時50人以上の従業員がいる事業場では産業医の選任が義務づけられており、産業医による復職可否の意見を就業規則の復職判断プロセスに組み込むことが現実的です。一方、50人未満の事業場では産業医がいないケースも多く、主治医の診断書を中心に判断せざるを得ません。その場合でも、「会社として復職可否を判断するプロセス」を就業規則や運用手順に明示しておくことが重要です。規模が小さいほど、規定の明確化が個別トラブルへの抑止力になります。

休職満了と定年の関係、就業規則の整備状況に不安がある場合は、人事の専門家に一度確認しておくと安心です。


「義務がない=何もしなくていい」ではない実務の落とし穴

高年齢者雇用安定法上の義務が発生しないとしても、それはあくまで「法定の継続雇用義務がない」ということに過ぎません。実務上の配慮を怠ると、別のルートでリスクが顕在化します。

療養中の従業員への連絡・通知の注意点

傷病手当金を受給中の従業員は、療養に専念しており、心身ともに脆弱な状態にあることが多いです。退職通知を突然書面で送りつけるだけでは、心理的な追い詰めとして受け取られる場合があります。退職が迫っている場合は、事前に連絡を取り、書面での通知と合わせて口頭でも内容を説明する機会を設けることが望ましいです。この丁寧な対応が、「一方的に解雇された」という感情的な訴えを防ぐ緩衝材になります。

退職後の給付・手続きの案内も忘れない

傷病手当金は退職後も一定期間受給を継続できる場合があります(健康保険の被保険者期間が1年以上ある場合など)。また、障害年金との関係で手続きが必要になることもあります。会社が詳細なアドバイスをする必要はありませんが、社会保険労務士や行政窓口への相談を案内するひと言を添えることで、退職後のトラブルを減らすことができます。

法的義務がなくても、手続きや対応の進め方で後々のリスクが大きく変わります。判断に迷う場面は専門家に相談することで、余計なトラブルを防げます。


まとめ

休職満了退職した社員への定年再雇用(継続雇用)義務は、高年齢者雇用安定法上、原則として発生しません。継続雇用義務の対象は「定年に達した者」であり、定年到達前に休職満了で雇用契約が終了している場合は、その前提を満たさないためです。ただし、休職期間満了日と定年日の先後関係、就業規則の整備状況、退職通知の手続きが適切かどうかによって、このシンプルな結論が揺らぐことがあります。

特に中小企業では、就業規則の休職規定と継続雇用規定が整合していないケースが多く、それ自体がトラブルのリスクになっています。「今の就業規則で問題ないか」「休職中に定年が来たらどう処理すべきか」——こうした判断に迷う場面こそ、専門家に一度確認しておく価値があります。

ウェルセンス株式会社では、休職・復職対応や就業規則の整備に関するご相談を承っています。個別の状況に応じた実務的なアドバイスが必要な場合は、お気軽にお問い合わせください。

よくある質問

Q. 休職満了退職した社員が「定年再雇用を拒否された」と主張してきた場合、どう対応すればよいですか?

A. まず、退職事由の先後関係(休職満了が先か、定年到達が先か)と就業規則の規定内容を確認してください。定年到達前に休職満了退職が成立していれば、高年齢者雇用安定法上の継続雇用義務は発生しないことを説明できます。ただし、就業規則の規定が曖昧な場合や、会社側が継続雇用を示唆するような発言をしていた場合は、労働審判に発展する可能性もあるため、社会保険労務士や弁護士に早めに相談することをお勧めします。

Q. 休職中に従業員が60歳の定年を迎えてしまいました。どちらの退職扱いにすればよいですか?

A. 就業規則に「休職中に定年に達した場合は定年退職とする」旨の規定があれば、定年退職として処理し、継続雇用制度の案内を行う必要があります。規定がない場合は解釈が分かれる余地があり、トラブルのリスクが高まります。就業規則を確認し、規定が不備であれば速やかに整備することが最優先です。

Q. 休職期間満了の退職通知は、傷病手当金を受給中の従業員にどのように送ればよいですか?

A. 書面による通知が原則ですが、療養中の従業員に突然書面を送りつけるだけでは、心理的な負担や「一方的な解雇」という受け取り方につながることがあります。満了日の1〜2ヶ月前には書面と併せて電話や面談(本人の体調が許す範囲で)で内容を説明し、退職後の傷病手当金の継続受給手続きについても案内しておくと、後日のトラブル防止になります。

Q. 就業規則に休職期間の定めはありますが、「満了時に退職とする」という文言がありません。問題ありますか?

A. 問題があります。「満了時に退職とする」旨の明示がない場合、休職満了退職の法的根拠が不明確となり、裁判所や労働審判委員会から実質的な解雇と判断されるリスクがあります。解雇と同視されれば、労働契約法第16条の解雇権濫用法理が適用され、退職が無効とされる可能性があります。早急に就業規則を見直し、退職事由として明文化することをお勧めします。

Q. 70歳までの就業機会確保(努力義務)は、休職満了退職者にも関係しますか?

A. 関係しません。高年齢者雇用安定法第10条の2に基づく70歳までの就業機会確保措置(努力義務)の対象は、定年に達した者または継続雇用契約が終了した者です。定年到達前に休職満了退職した場合は、この努力義務の射程にも入りません。ただし、この努力義務はあくまで法的な話であり、個々の事情に応じた人道的・組織的な配慮は別途検討することが望ましい場合もあります。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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