高齢者再雇用の給与設定|損しない3つのポイント

高齢者再雇用の給与設定|損しない3つのポイント 労務管理
Photo by RDNE Stock project on Pexels

「定年後の給与、とりあえず7割にしているけど、これで本当に大丈夫?」そんな不安を抱えたまま高齢者再雇用の給与を決めてしまっている企業は、実は少なくありません。根拠のない給与設定は、従業員との交渉トラブルや法的リスクを招くだけでなく、本人が「損をする」結果になることもあります。この記事では、高齢者再雇用の給与設定で押さえるべき3つのポイントを、制度の仕組みとあわせてわかりやすく解説します。

高齢者再雇用の給与設定、なぜ「なんとなく」が危険なのか

根拠のない給与設定が引き起こすリスク

多くの中小企業では、定年後の再雇用給与を「前給与の6~7割」に設定しています。しかし、その根拠を問われたとき、明確に答えられる担当者はほとんどいません。根拠のない給与設定は、従業員から「なぜこの金額なのか」と問われた際に説明できず、交渉の長期化や不信感につながります。

さらに深刻なのは、法的リスクです。同一労働同一賃金のルールのもとでは、職務内容が変わらないのに給与だけを大幅に引き下げると、「不合理な待遇差」として違法と判断される可能性があります。感覚で決めた給与設定が、後になって訴訟リスクに発展するケースも現実に起きています。

「損をさせない」設計の視点が抜けている

もう一つの問題は、従業員側の手取りへの影響を考慮していないことです。再雇用後の給与水準によっては、在職老齢年金(働きながら受け取れる老齢厚生年金)の一部または全部が支給停止になることがあります。担当者がこの仕組みを知らないまま給与を設定すると、従業員が「高い給与をもらっているのに、年金が止まって結果的に手取りが減った」という状況になりかねません。

給与設定は単なる数字の問題ではなく、制度全体を踏まえた設計が必要です。以下では、押さえるべき3つのポイントを順に解説します。

在職老齢年金の仕組みを知り、手取りの最大化を狙う

在職老齢年金とは何か

在職老齢年金とは、60歳以降も働きながら老齢厚生年金を受け取る仕組みです。ただし、給与(月収)と年金の合計が一定額を超えると、超えた分の半額が年金から支給停止されます。2024年度の支給停止基準額は月額48万円です。

具体的には、「総報酬月額相当額」(月給+直近1年間の賞与の合計÷12)と老齢厚生年金月額の合計が48万円を超えると、超過分の半額が年金から差し引かれます。たとえば、月給30万円・賞与なし・年金月額20万円の場合、合計50万円となり、超過分2万円の半額=1万円が支給停止となります。

給与設定の「スイートスポット」を逆算する

重要なのは、給与と年金の合計手取りが最大になるポイント(スイートスポット)を逆算して給与を設定する視点です。たとえば、年金月額が15万円の方であれば、給与を33万円以内に抑えることで合計48万円の上限を超えず、年金も全額受け取れます。一方、給与を35万円に設定すると、超過2万円の半額=1万円が支給停止となり、給与は2万円増えても手取り増加は1万円にとどまります。

このように、従業員が「もらえるはずだった年金」を失わないよう、年金月額を確認した上で給与を設計することが「損をさせない」給与設定の第一歩です。本人から年金見込み額を確認してもらい、それを踏まえてシミュレーションすることをお勧めします。

高年齢雇用継続給付を活用して実質負担を減らす

高年齢雇用継続基本給付金とは

高年齢雇用継続基本給付金とは、60歳時点の賃金と比べて賃金が75%未満に低下した場合に、ハローワークから支給される給付金です。現行制度では、低下後の賃金の最大15%相当額が給付されます。つまり、月給が60歳時点の70%に下がった場合、さらにその賃金の15%が給付金として補填されるイメージです。

たとえば、60歳時点の月給が40万円で、再雇用後に26万円(65%)になった場合、26万円の15%=最大3万9,000円が支給されます。会社の負担は変えずに、従業員の実質的な手取りを増やせる制度として活用できます。

2025年以降の制度縮小に今すぐ対応する

ただし、この制度には大きな注意点があります。2025年4月以降、給付率が最大15%から最大10%に縮小され、2030年度には廃止される予定です。現時点でまだ活用していない企業は、制度が有利なうちに積極的に申請することが重要です。

申請はハローワークへの書類提出が必要で、初回申請時には支給対象者確認書・雇用保険被保険者証・賃金台帳などの書類が求められます。手続きの煩雑さからつい後回しにしてしまう担当者も多いのですが、一度整備してしまえば以降の申請は比較的スムーズです。廃止までの間に確実に活用しておきましょう。

同一労働同一賃金との整合性を確保する

定年後の給与引き下げは「どこまで」許されるのか

「定年後も仕事内容は変わらないのに給与だけ下げていいのか?」という疑問は、多くの担当者が感じているはずです。これに対する法的な答えを示したのが、2018年の最高裁判決です。長澤運輸事件とハマキョウレックス事件の2つの判決では、定年後再雇用者の待遇差について「不合理かどうか」の判断基準が示されました。

判断のポイントは「職務内容」「職務内容・配置の変更範囲」「その他の事情」の3要素です。定年後再雇用は「その他の事情」として一定程度の給与格差が認められますが、職務内容がほぼ同じなのに給与だけ大幅に下げることは「不合理な待遇差」として違法と判断されるリスクがあります。

給与設定に「根拠」を持たせるための実務対応

重要なのは、給与引き下げの根拠を就業規則や労働条件通知書に明記しておくことです。たとえば「再雇用後は担当業務の範囲を限定し、残業・転勤・役職責任を除く」という条件を明確にすることで、給与差の合理的な理由を説明できます。

一方、職務内容が定年前とまったく同じにもかかわらず給与だけを引き下げている場合は、リスクが高い状態といえます。まずは再雇用者の職務内容を整理し、役割・責任・勤務条件の変化を明文化することから始めましょう。「なんとなく7割」ではなく「職務変化に応じた合理的な設定」であることを示すことが、トラブル防止の基本です。

社会保険の手続きを適切に行い、保険料負担を適正化する

「同日得喪」の特例で標準報酬月額をリセットする

定年退職・再雇用のタイミングでは、社会保険の手続きについても重要な対応があります。それが「同日得喪(どうじとくそう)」の特例です。これは、定年退職と再雇用を同じ日に行ったとみなす手続きで、社会保険(健康保険・厚生年金)を一度喪失し、新たな給与に基づいて再加入することができます。

これをしないと、再雇用後の給与が下がっても、定年前の高い標準報酬月額に基づく社会保険料が翌年の9月まで継続してしまいます。たとえば、定年前の月給が50万円で再雇用後に25万円になった場合、同日得喪をしなければ50万円ベースの保険料を払い続けることになります。

手続きのタイミングと注意点

同日得喪の手続きは、退職日と再雇用日が同じ日(通常は定年退職日の翌日が再雇用日)であることが条件です。手続きは年金事務所または健康保険組合へ、資格喪失届と資格取得届を同時に提出します。添付書類として就業規則や再雇用契約書が必要になる場合もあります。

この手続きを忘れている中小企業は多く、「なぜ給与が下がったのに保険料が変わらないのか」と従業員から問い合わせが来て初めて気づくケースも見られます。再雇用時のチェックリストに必ず加えておきましょう。

再雇用者のモチベーションを維持するための給与設計の考え方

給与は「納得感」が最も重要

給与設定において、金額の多寡と同じくらい重要なのが「本人が納得しているかどうか」です。たとえ合理的な給与設定であっても、説明がなければ不満につながります。再雇用時には必ず本人面談を行い、給与の根拠・制度の仕組み(在職老齢年金・給付金)・今後のキャリアについて丁寧に説明することが大切です。

特に「給与は下がるが、年金と給付金を合わせると手取りはこれだけ確保できます」という形で具体的な数字を示すと、本人の安心感が大きく変わります。数字を見せることで「会社がしっかり考えてくれている」という信頼感が生まれ、モチベーション維持にもつながります。

役割の明確化が生産性を左右する

給与設計と並行して取り組むべきなのが、再雇用後の役割・職務範囲の明確化です。「何をどこまでやるべきか」が曖昧なまま再雇用が始まると、本人も周囲も戸惑い、徐々にモチベーションが低下していきます。

再雇用時に役割定義書や業務分担を整理し、「この仕事を担当してもらう」という期待を伝えることが、生産性の維持に直結します。給与設定は、こうした人事マネジメント全体の文脈で考えることが「損しない再雇用」の本質です。

まとめ

高齢者再雇用の給与設定で「損しない」ためには、まず在職老齢年金の仕組みを理解し、従業員の手取りが最大になるよう給与水準を逆算することが出発点です。次に、廃止が迫る高年齢雇用継続給付を今のうちに活用し、同日得喪の手続きで社会保険料負担も適正化する。そして、同一労働同一賃金のルールに沿った合理的な根拠を就業規則に明記し、本人への丁寧な説明でモチベーションを維持する。この3つの視点をセットで考えることが、トラブルを防ぎながら再雇用を成功させる鍵です。

「制度は理解できたが、自社の場合どう設計すればいいかわからない」「手続きを誰かにサポートしてほしい」という場合は、ウェルセンス株式会社にお気軽にご相談ください。給与シミュレーションから社内制度の整備まで、専任人事のいない中小企業の実情に合わせてサポートします。

よくある質問

Q. 再雇用後の給与は前給与の何割が適切ですか?

A. 「何割」という一律の基準はありません。職務内容の変化・責任範囲・勤務条件(残業の有無・転勤の有無など)をもとに合理的な根拠を設けることが重要です。また、在職老齢年金の支給停止ラインや高年齢雇用継続給付の対象条件(60歳時賃金の75%未満)も踏まえて設計することで、従業員の手取りを最大化できます。

Q. 在職老齢年金の支給停止基準はいくらですか?

A. 2024年度の基準は月額48万円です。月給と賞与(直近1年分÷12)の合計と老齢厚生年金月額の総計がこの金額を超えると、超過分の半額が年金から支給停止されます。基準額は毎年度見直されるため、最新情報を日本年金機構のウェブサイトなどで確認することをお勧めします。

Q. 高年齢雇用継続給付はいつまで使えますか?

A. 現行制度は2025年3月末まで最大15%の給付率が適用されます。2025年4月以降は最大10%に縮小され、2030年度に廃止予定です。まだ活用していない場合は、制度が有利なうちに申請することを強くお勧めします。申請先はハローワークで、初回申請には賃金台帳や雇用保険被保険者証などが必要です。

Q. 定年後も仕事内容が変わらない場合、給与を下げることは違法ですか?

A. 必ずしも違法ではありませんが、「不合理な待遇差」と判断されるリスクがあります。2018年の長澤運輸事件・ハマキョウレックス事件の最高裁判決では、定年後再雇用であることは一定の賃金格差を認める「その他の事情」になり得ると示されています。ただし、職務内容や責任範囲が定年前と変わらない場合は、格差の合理的な説明が難しくなります。就業規則での役割の明確化と労働条件通知書の整備が重要です。

Q. 同日得喪の手続きはどこで、いつ行えばよいですか?

A. 同日得喪の手続きは、管轄の年金事務所(または加入している健康保険組合)に対して行います。資格喪失届と資格取得届を同時に提出することで手続きが完了します。タイミングは定年退職日と再雇用開始日が同じ日(通常、退職日の翌日が再雇用初日)であることが条件です。添付書類として就業規則や再雇用契約書の写しが求められる場合があります。再雇用が決まった段階で早めに準備を進めることをお勧めします。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

不調者対応を、人事だけで抱えない。

メンタル不調者面談や休職・復職対応を、1件からスポットでご相談いただけます。

詳しく見る →

タイトルとURLをコピーしました