「採用してすぐに妊娠が発覚した。試用期間中だし、解雇できないだろうか」——こうした相談が、中小企業の経営者や兼務人事担当者から寄せられることがあります。採用活動に時間とコストをかけた直後の出来事だけに、焦りや戸惑いを感じるのは当然です。しかし、この場面での判断を誤ると、会社は重大な法的リスクを負うことになります。試用期間中の妊娠発覚時に何ができて、何をしてはいけないのか。法的根拠をもとに、現実的な対応策まで整理します。
試用期間中の妊娠を理由とする解雇は「無効」になる
結論から述べます。試用期間中であっても、妊娠を理由とした解雇・本採用拒否は法律上「無効」です。試用期間という条件は、この原則を回避する根拠にはなりません。
男女雇用機会均等法が明確に禁止している
男女雇用機会均等法第9条第3項は、妊娠中および産後1年以内の解雇を原則として無効と定めています。さらに、この条文には「推定規定」が設けられており、妊娠・出産を理由とするものではないと事業主側が証明できない限り、解雇は無効と推定されます。つまり、「妊娠が理由ではない」と主張する立証責任は会社側にあるのです。
試用期間中の解雇にも「合理的理由」が必要
試用期間中の従業員は「解約権留保付き労働契約」の状態にあり、会社には一定の解雇権が留保されています(最高裁昭和48年12月12日判決「三菱樹脂事件」)。しかし、この留保された解雇権を行使するためには、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要です(労働契約法第16条の類推適用)。妊娠は、この「客観的合理的理由」にはあたりません。
「本採用の通知をしなければ自動終了」は誤解
「試用期間満了時に何も言わなければ、雇用は自動的に終了する」と考える経営者がいます。しかし判例の蓄積から、試用期間満了時の本採用拒否は解雇と同視されています。妊娠が発覚している状況での本採用拒否は、「妊娠を理由とした雇用継続の拒絶」と判断されるリスクが極めて高いのです。
「妊娠を隠して入社した」は解雇の根拠にならない
「告知せずに採用されたのは詐欺的な行為ではないか」と感じる経営者は少なくありません。しかし法律的には、従業員に妊娠を告知する義務はなく、このことを解雇の根拠にすることは認められていません。
妊娠の告知義務は法律上存在しない
厚生労働省の指針「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する指針」では、妊娠・出産に関する事項を採用の判断要素にすることを問題視しています。そもそも採用面接で「妊娠しているか」を尋ねること自体、男女雇用機会均等法第5条(性別を理由とする差別の禁止)に抵触するおそれがあります。
「隠していた=解雇できる」という論理は通用しない
仮に採用時に「妊娠していない」と述べていたとしても、それだけで解雇の正当な根拠にはなりません。採用時の告知義務がそもそもない以上、告知しなかったことを「詐欺的行為」として法的に構成することは極めて困難です。こうした主張で解雇を強行した場合、労働審判や裁判において会社側が不利な立場に置かれる可能性が高くなります。
採用時に聞いてよい質問・聞いてはいけない質問
採用面接で確認できる事項には限界があります。業務遂行能力や職務経験、勤務条件への同意については確認できますが、妊娠・出産の予定、家族計画などはプライバシーに関わる事項であり、採用判断の根拠に使うことは法的にリスクがあります。今後の採用活動において、質問内容を見直すことも重要な予防策です。
解雇以外の対応として何ができるか
違法性を理解した上で、では実際にどう対応するかが現実的な問題です。妊娠した従業員に対して会社が取れる合法的な選択肢を整理します。
まず本人と丁寧に状況確認を行う
はじめに、本人から現在の体調や出産予定日、今後の就労意向を確認することが出発点です。本人が仕事を続けたいと考えているのか、産休・育休を希望しているのかによって、会社側の準備すべき内容が変わります。この面談は、記録を残しておくことが後々のトラブル防止につながります。
業務内容・配置の調整で対応する
妊娠中の体調配慮として、負荷の高い業務から外す、在宅勤務を許可するなど、業務上の合理的配慮を行うことが求められます。母性健康管理措置として、医師の指導に基づく措置(時差通勤・休業など)を講じる義務も事業主にはあります(男女雇用機会均等法第13条)。
産前産後休業・育児休業の制度整備を進める
産前休業は出産予定日の6週間前(多胎は14週間前)から、産後休業は出産後8週間取得できます(労働基準法第65条)。育児休業については育児・介護休業法に基づき、1歳まで(要件を満たせば最長2歳まで)取得可能です。就業規則に産休・育休の規定がない場合でも法律上の権利は発生しますが、規定を整備しておくことが会社・従業員双方にとって望ましいと言えます。
「業務上の問題」として処理しようとする場合の注意点
「妊娠そのものが理由ではなく、欠勤や業務不履行が問題だ」として対応しようとするケースもあります。この判断は非常に慎重に行う必要があります。
「妊娠起因」と判断されると均等法違反になりうる
体調不良による欠勤・遅刻が続いている場合でも、それが妊娠に起因するものと実質的につながっている場合は、均等法違反として判断されるおそれがあります。「妊娠がなければ解雇しなかった」という文脈が一つでも残る状況では、裁判・労働審判で会社側が不利になります。
「業務上の問題」として処理できる条件
妊娠とは切り離せる客観的な業務上の問題(例:妊娠以前からの著しい能力不足、業務命令への繰り返しの違反など)がある場合には、それを理由とする対応が選択肢に入ることはあります。ただし、その記録・証拠の蓄積がなければ、後から妊娠が発覚した時系列との関係で「後づけの理由」と見なされるリスクがあります。
会社規模・体制別の対応分岐
| 状況 | 対応のポイント |
|---|---|
| 就業規則がない・未整備 | 産休・育休の法定対応を確認し、速やかに規定を整備する。社労士への相談を優先 |
| 社労士契約がある | 発覚後すぐに相談。対応手順・記録の残し方をガイドしてもらう |
| 専任人事がいない(兼務対応) | 一人で判断せず、外部専門家への相談窓口を持つことが最優先 |
| 体調不良による欠勤が多発している | 母性健康管理措置の適用を検討し、医師の指導内容を確認した上で業務調整 |
妊娠発覚時の対応が判断できない、または記録の残し方が不安な場合は、一人で決断せず専門家に相談することが、後々のトラブル防止につながります。
🔗 妊娠発覚時の判断や記録の残し方に不安があれば、一人で決めず専門家に相談することが後々のトラブルを防ぎます。 →
違法対応をした場合の会社側リスク
妊娠を理由とした解雇や本採用拒否を行った場合、会社は複数の法的・実務的リスクを同時に負うことになります。
行政指導・公表のリスク
従業員は都道府県労働局(雇用環境・均等部)に申告や調停申請を行うことができます。行政から指導・勧告を受け、それに従わない場合は企業名が公表される可能性があります(男女雇用機会均等法第30条)。中小企業にとって採用・信頼面でのダメージは小さくありません。
損害賠償・慰謝料のリスク
解雇が無効と判断された場合、解雇期間中の賃金支払い(バックペイ)に加え、精神的損害に対する慰謝料請求が認められるケースもあります。労働審判・訴訟に至ると、解決までに数カ月から1年以上かかることもあり、経営者・担当者の時間的コストも膨大になります。
社内への影響
違法な対応が社内に伝わることで、他の従業員の信頼や組織風土にも悪影響を及ぼします。特に小規模な組織では情報が広まりやすく、採用活動にも支障が出ることがあります。
まとめ
試用期間中の妊娠発覚は、確かに経営上の想定外の出来事です。しかし、試用期間だから解雇できる・妊娠を隠していたから解雇できるという判断は、どちらも法的に成立しません。男女雇用機会均等法は試用期間を問わず適用され、本採用拒否も解雇と同視されます。
対応として現実的なのは、本人との状況確認、業務調整、産休・育休制度の整備という流れです。「違法とは知らずに動いてしまった」という事態を防ぐためにも、発覚直後に一人で判断せず、専門家への相談を早期に行うことが最も重要です。
兼務人事だからこそ判断に迷いやすい人事・労務の課題は、ウェルセンス株式会社にお気軽にご相談ください。個別ケースに合わせた対応をサポートします。
よくある質問
🔗 兼務人事だからこそ判断に迷いやすい人事課題は、ウェルセンス株式会社にお気軽にご相談ください。 →
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。
不調者対応を、人事だけで抱えない。
メンタル不調者面談や休職・復職対応を、1件からスポットでご相談いただけます。


