解雇撤回を求められたら会社はどう対応すればいい?

解雇撤回を求められたら会社はどう対応すればいい? コンプライアンス
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「解雇撤回を要求する」という内容証明が届いた。あるいは、労働組合(ユニオン)の担当者から「不当解雇だ、復職させろ」と連絡が来た——そのような場面に突然置かれた経営者・人事担当者の方は少なくありません。専任の法務担当者もいない中で、限られた時間内に「どう返答すべきか」を判断しなければならない解雇撤回への対応は、非常に大きなプレッシャーです。この記事では、解雇撤回を求められた会社がとるべき対応と、選択肢ごとのリスクを整理します。

解雇撤回に「必ず応じなければならない」わけではない

結論からお伝えすると、従業員から「解雇を撤回しろ」と求められたとしても、会社が即座に従わなければならない法的強制力は、訴訟・労働審判の判断が下る前の段階では原則として存在しません。ただし、解雇が法的に無効と判断されれば、事実上の復職義務とバックペイ(解雇期間中の賃金)の支払い義務が生じます。

解雇が「無効」になる2つの要件

労働契約法第16条は、「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の両方を欠く解雇を無効と定めています。この2要件を両方満たさない限り、解雇は法的に有効とは言えません。たとえば、遅刻が数回あっただけで即日解雇した場合、懲戒理由としては軽微すぎるとして「相当性なし」と判断される可能性があります。

解雇が無効と判断されたときに起きること

裁判所や労働審判委員会が「この解雇は無効」と認定した場合、雇用契約は解雇された日から継続していたとみなされます。その結果、会社は解雇日以降の賃金をすべて支払う義務(バックペイ)を負います。手続きが長引くほどバックペイの額は膨らみ、遅延損害金(民事法定利率・年3%)が上乗せされる場合もあります。「放置していれば相手があきらめる」という発想は非常に危険です。

撤回を断り続けた場合のリスクの大きさ

解雇撤回要求を無視・拒否し続けた場合、相手方は労働審判や通常訴訟に移行します。審判や訴訟で会社側が敗れれば、バックペイ+遅延損害金の支払いに加え、弁護士費用も発生します。一方、早期に交渉・和解を選べばトータルのコストを抑えられる可能性があります。「断る」という判断自体が悪いわけではありませんが、自社の解雇の正当性をきちんと評価した上で判断することが重要です。

まず確認すべき「自社の解雇は有効か」というチェックポイント

解雇撤回要求への対応方針を決める前に、自社が行った解雇の手続きと理由に問題がないかを確認することが最優先です。手続き上の不備があった場合、実体的な理由がどれだけ正当であっても、解雇が無効と判断されるリスクがあります。

手続き面のチェック

まず確認すべきは、解雇予告の有無です。労働基準法第20条により、会社は解雇の少なくとも30日前に予告するか、解雇予告手当(30日分以上の平均賃金)を支払わなければなりません。これを欠いた解雇は手続き違反となります。また、解雇理由書を交付しているか、就業規則に解雇事由として明記されている理由で解雇しているかも確認が必要です。

実体面(解雇理由)のチェック

懲戒解雇であれば、就業規則の懲戒規定に該当する行為があったか、その行為の証拠はあるか、過去に指導・警告のプロセスを踏んでいたかを確認します。整理解雇(人員削減目的の解雇)であれば、「整理解雇の4要素」——人員削減の必要性・解雇回避努力・人選の合理性・手続きの妥当性——をすべて検討する必要があります。これらのどれかが欠けていると、整理解雇は無効と判断されやすくなります。

解雇制限に該当していないかの確認

業務上の傷病による休業期間中およびその後30日間の解雇は、労働基準法第19条により原則として禁止されています。メンタルヘルス不調や身体疾患で休職中の従業員を解雇した場合、この制限に抵触していないか確認が必要です。産業医や主治医の意見書・復職判定の経緯も証拠として重要になります。

解雇撤回への対応方法:選択肢とそれぞれの特徴

解雇撤回要求への対応方法は一つではなく、状況に応じて複数の選択肢があります。重要なのは、自社の解雇の正当性の強さと、相手方の要求内容を踏まえた上で、最も合理的な選択肢を選ぶことです。

手段 主体 期間の目安 特徴
当事者間交渉 会社・本人(または各弁護士) 数週間〜数ヶ月 最も柔軟。合意内容を自由に設計できる
あっせん(行政型) 都道府県労働局・労働委員会 数ヶ月 任意参加。強制力なし。費用が低い
労働審判 裁判所 概ね3ヶ月前後 迅速・非公開。調停的解決が多い
通常訴訟 裁判所 1年〜数年 長期・公開。バックペイが長期間積み上がる

当事者間交渉・示談のメリット

最も早期に、かつコストを抑えて解決できるのが、弁護士を介した当事者間の交渉です。復職ではなく金銭解決(解決金の支払いと引き換えに退職に合意する)を選べる可能性があり、守秘義務条項を入れることで社内外への情報流出を防ぐこともできます。ただし、会社側の弁護士なしで交渉するのは非常にリスクが高く、不用意な発言が後の手続きで不利に使われることがあります。

労働審判を見据えた準備

相手方が労働審判を申し立てた場合、会社は申立書を受け取った後、原則として40日以内に答弁書を提出しなければなりません。審判は3回以内の期日で終結することが多く、スピードが速い分、準備不足のまま臨むと和解条件が相手方有利になりがちです。審判段階でも約7〜8割のケースが調停(和解)で解決しているといわれており、現実的な解決金の水準を把握しておくことが重要です。

金銭解決(和解・示談金)の考え方

解雇撤回要求において、復職ではなく金銭解決(一定の解決金を支払って双方が合意する形での退職)は現実的かつ多く用いられる解決方法です。解決金の水準に法定の基準はありませんが、実務上の相場感を理解しておくことが交渉を有利に進める鍵になります。

解決金の水準に影響する要素

実務上、解決金は「月額賃金×○ヶ月分」という形で交渉されることが多いです。水準を左右する主な要素は次のとおりです。まず、解雇理由の正当性——会社側の証拠が充実していれば低めに、薄ければ高めになります。次に、勤続年数が長いほど一般的に金額が上がります。また、審判・訴訟に移行するとバックペイが積み上がり続けるため、早期解決のほうが総額を抑えやすいという構造もあります。さらに、相手方の経済的事情や復職意思の強さも交渉の行方に影響します。

よくある誤解:「解雇予告手当を払えば有効」は間違い

解雇予告手当(労働基準法第20条)は、手続き上の義務を果たすためのものです。「手当を払ったのだから解雇は正当だ」という理解は誤りで、解雇予告手当を支払っていても、解雇理由の合理性・相当性が欠けていれば解雇は無効になります。手続きと実体は別物として考える必要があります。

合意書(示談書)作成時の注意点

金銭解決が合意に至った場合、必ず書面(合意書・示談書)を作成してください。口頭での合意は後から「言った・言わない」のトラブルになります。合意書には、解決金の金額・支払い期限・守秘義務・互いに今後一切の請求をしない旨(清算条項)を明記することが重要です。弁護士に作成を依頼することを強くお勧めします。

会社が対応を誤りやすい落とし穴

解雇撤回要求を受けた会社が、対応のまずさによってかえって状況を悪化させてしまうケースは少なくありません。よくある失敗パターンを把握しておくことで、不必要なリスクを避けられます。

感情的な対応・記録に残る不用意な発言

「不当解雇なんてありえない」「訴えるなら受けて立つ」といった感情的な返答をメールやSNSで行うと、後の手続きで証拠として使われることがあります。相手から連絡が来た場合は、「内容を確認の上、改めて回答します」と伝えるにとどめ、実質的な回答は弁護士と相談してから行いましょう。

専門家への相談を後回しにする

「まだ話し合いの段階だから弁護士に頼むのは大げさ」と感じて相談を遅らせるうちに、交渉の主導権を失うケースがあります。内容証明や労働組合からの通知書が届いた時点で、少なくとも一度は弁護士に相談することをお勧めします。初回相談だけでも方針の方向性が定まり、不必要な失言や対応ミスを防げます。

就業規則・証拠書類の整備不足に気づかないまま交渉する

就業規則に懲戒解雇の事由が具体的に定められていない、指導記録や警告書が残っていない、というケースでは、解雇理由を主張しても証拠として弱くなります。交渉・審判に備えて、今ある記録を弁護士とともに確認・整理することが先決です。なお、証拠の「後付け作成」は絶対に行ってはなりません。

まとめ

解雇撤回を求められた会社は、まず自社の解雇が手続き・理由の両面で有効かどうかを冷静に確認することが出発点です。撤回に即座に応じる義務はありませんが、解雇が無効と判断された場合はバックペイや遅延損害金が積み上がるリスクがあります。対応の選択肢としては、当事者間交渉による早期の金銭解決から、労働審判・通常訴訟まで幅広くあり、自社の解雇の正当性の強さに応じて判断することが重要です。感情的な対応や専門家への相談の先送りが状況を悪化させる最大の要因です。内容証明や労働組合からの通知書が届いた段階で、速やかに弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。

ウェルセンス株式会社では、メンタルヘルス不調や休職・復職に関連する解雇トラブルを含む、中小企業の人事労務課題についてのご相談をお受けしています。「うちのケースはどう考えればいいのか」という初期段階のご質問から、交渉や審判に向けた実務的なサポートまで対応可能です。お一人で悩まず、まずはお気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 労働組合(ユニオン)から団体交渉を申し入れられました。拒否できますか?

A. 正当な理由なく団体交渉を拒否することは、労働組合法第7条が禁止する「不当労働行為」に該当します。拒否した場合、労働委員会に申し立てられ、救済命令が出される可能性があります。団体交渉には応じつつ、弁護士と方針を決めた上で交渉に臨むことが基本的な対応です。

Q. 解雇した従業員が復職を求めています。戻ってきてもらうのは避けたいのですが、どうすればいいですか?

A. 復職を避けたい場合は、金銭解決(解決金の支払いと引き換えに退職に合意してもらう)を相手方に提案するのが現実的です。ただし、相手方が強く復職を希望している場合や、解雇の正当性が弱いケースでは交渉が難航することもあります。弁護士を通じて相手方の真の要求(復職なのか金銭なのか)を見極めながら交渉を進めることが重要です。

Q. 解雇予告手当は支払いましたが、それでも「不当解雇」と言われています。どういうことですか?

A. 解雇予告手当の支払いは、労働基準法上の手続き義務を果たしたに過ぎず、解雇そのものを有効にするものではありません。解雇が有効かどうかは、労働契約法第16条が定める「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」があるかどうかによって判断されます。手続きと実体は別物ですので、手当を支払っていても解雇理由が不十分であれば無効と判断される可能性があります。

Q. 解決金の相場はどのくらいですか?

A. 法定の基準はなく、ケースによって大きく異なります。実務上は「月額賃金×数ヶ月分」を目安に交渉されることが多く、解雇理由の正当性の強弱・勤続年数・バックペイの累積額・相手方の復職意思などが金額に影響します。会社側の証拠が充実しているほど低めに交渉しやすく、解雇の正当性に疑問がある場合は相場より高くなる傾向があります。具体的な水準は弁護士に個別に相談することをお勧めします。

Q. メンタルヘルス不調で休職中の従業員を解雇したのですが、問題がありますか?

A. 業務上の疾病・負傷による休業期間中およびその後30日間の解雇は、労働基準法第19条により原則として禁止されています。業務外のメンタルヘルス不調の場合でも、就業規則上の休職期間が満了し、かつ復職可能性がないと判断できる合理的根拠がなければ、解雇は無効と判断されるリスクがあります。産業医や主治医の意見・復職判定のプロセスが適切だったかの確認が必要です。

【監修】ウェルセンス株式会社
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