退職者の在籍確認に困ったら知っておきたい個人情報の答え方

退職者の在籍確認に困ったら知っておきたい個人情報の答え方 労務管理
Photo by Kampus Production on Pexels

「お電話ありがとうございます、○○社の△△と申します。御社に以前在籍されていた□□様についてお伺いしたいのですが——」。こんな電話が突然かかってきたとき、専任人事のいない会社では、総務兼務の担当者や経営者本人が反射的に対応することになります。「ええ、おりましたよ」「自己都合で退職されました」と答えたあと、「これ、伝えてよかったのだろうか」と不安になった経験はないでしょうか。

退職者の在籍確認への対応は、個人情報保護法との関係、名誉毀損リスク、退職者本人との関係など、複数の法的・実務的な問題が絡み合います。この記事では、何を答えてよくて何を答えてはいけないのか、本人同意はどう確認するのか、社内の対応フローをどう整えるかを、実務に使えるレベルで解説します。

退職者の情報は「個人情報」——法律の基本を確認する

退職者の在籍情報は個人情報保護法が定める「個人情報」に該当し、第三者へ提供する際には原則として本人の同意が必要です。この前提を押さえておくだけで、対応の軸がぐっと定まります。

退職者の情報に個人情報保護法が適用される理由

個人情報保護法は、生存する個人に関する情報で、特定の個人を識別できるものを「個人情報」と定義しています(第2条)。退職者であっても生存している個人であることに変わりはなく、氏名・在籍期間・退職日・退職理由・給与・懲戒処分歴・休職歴などはすべて個人情報に該当します。「もう辞めた人の情報だから関係ない」という理解は誤りです。

第三者提供には原則として本人の同意が必要

個人情報保護法第27条は、個人情報を第三者に提供する際に原則として本人の事前同意を求めています。取引先・金融機関・保証会社・転職先企業など、照会元がどれほど信頼できそうな組織であっても、この原則は変わりません。「銀行からの問い合わせだから答えてよい」「本人が申込書に前職を記載した」という事情だけでは、前職会社への問い合わせへの同意を意味しません。

なお、法律上、本人の同意なく第三者提供できる例外(生命・身体・財産の保護が必要な場合、国の機関への協力など)も定められていますが、通常の在籍確認はこれらに該当しません。

名誉毀損・プライバシー侵害のリスクも重なる

退職理由(「問題行動があって辞めさせた」など)を第三者に伝えた場合、事実であっても、正当な理由なく開示することは民法上の不法行為(名誉毀損・プライバシー侵害)として損害賠償請求を受けるリスクがあります。個人情報保護法上の問題とは別に、こうした民事リスクも存在することを意識しておく必要があります。

何を答えてよくて、何を答えてはいけないか

在籍確認への回答範囲の基本的な目安は、「在籍していた事実と期間(退職日含む)は本人同意があれば回答可、退職理由・勤務態度・評価・処分歴は原則として回答しない」です。

回答の判断基準を整理する

以下の表を、現場での判断の目安として活用してください。

照会された情報 回答の目安 理由・注意点
在籍していた事実 本人同意があれば可 同意なしでの回答は原則避ける
在籍期間・退職日 本人同意があれば可 同上
退職理由 原則として回答しない 名誉毀損・プライバシー侵害リスクあり
勤務態度・評価 原則として回答しない 同上
懲戒処分歴 回答しない プライバシー侵害リスクが特に高い
給与・賞与額 回答しない センシティブな個人情報
病気による休職の有無 回答しない 要配慮個人情報に該当する可能性

「断る」という選択肢を知っておく

在籍確認の問い合わせに対して、回答を断ることは合法です。「弊社では在籍確認のお問い合わせに対して、ご本人の同意を確認できない場合はお答えしておりません」という対応は、法的にも実務的にも正当です。すべての質問に何か答えなければならないという義務はありません。

特に「退職理由を教えてほしい」「勤務態度はどうでしたか」「問題はありましたか」といった踏み込んだ質問に対しては、「その情報についてはお答えする立場にございません」と明確に断ることが、会社と退職者双方を守ることになります。

照会元が「本人が同意しています」と言った場合の扱い

電話口で照会元が「本人から同意を得ています」と述べたとしても、それだけで回答するのは早計です。電話だけでは、照会元が本当に本人から同意を得ているかを確認する手段がありません。後述する対応フローのとおり、退職者本人に直接連絡を取り、同意を確認してから回答するのが最も安全な手順です。

担当者の判断に迷いが生じやすい電話対応こそ、事前に社内ルールを決めておくことが重要です。

本人同意の確認——退職時と照会時、それぞれの対応

本人同意の確認には、退職時に事前に取り決めておく方法と、照会が来てから本人に直接確認する方法の2つがあります。どちらも実務上有効ですが、事前の取り決めがある方が対応はスムーズです。

退職時に同意書・確認書を取得しておく

退職手続きの際に、在籍確認への回答について本人の意向を確認しておく方法があります。たとえば退職時の書類の中に「在籍確認への回答に関する確認書」を含め、以下のいずれかを選択してもらう形が考えられます。

  • 在籍期間・退職日の確認に応じることを同意する
  • 一切の情報開示に同意しない(照会があった事実のみ通知を希望する)
  • 個別に本人へ連絡のうえ判断する

「今まで退職時に何も取り決めていなかった」という場合でも、今後の退職者から始めることができます。過去の退職者については、照会が来た時点で本人に直接確認する方法で対応します。

照会が来てから本人に確認する手順

退職時に取り決めがない場合や、退職者の意向が不明な場合は、次の手順で対応します。まず照会元に「本人の同意を確認したうえで折り返しご連絡します」と伝えます。次に、退職者本人に連絡を取り、どの情報をどの組織に開示してよいかを確認します。そのうえで、本人が同意した範囲内の情報のみを照会元に伝えます。

本人への連絡手段は、退職時に届け出た連絡先(メール・電話)を使います。なお、連絡がつかない・同意が得られない場合は、照会元に「ご本人の確認が取れないため、現時点では情報提供が難しい状況です」と伝えることで対応します。

社内の対応フローを整える

電話を受けた担当者が毎回異なる対応をしていると、情報の一貫性が失われ、トラブル発生時に経緯を追えなくなります。対応フローと記録のルールを社内で統一することが重要です。

電話を受けた瞬間の一次対応ルール

在籍確認の電話を受けた担当者が、その場で情報を開示しないことが最初のポイントです。電話口では次の対応に徹します。

  • 照会元の会社名・担当者名・連絡先・照会対象者の氏名を聞き取る
  • 「確認のうえ、担当者からご連絡します」と伝えて電話を切る
  • その場では在籍の有無も含め、一切の情報を答えない

「在籍していたか」という事実でさえ、その場で即答することは避けるべきです。一次対応の役割は「聞き取り」と「折り返し連絡の約束」に限定します。

記録を残す仕組みをつくる

照会があった事実と対応内容を記録として残しておくことは、後日トラブルが生じた際の重要な根拠となります。記録すべき項目は、照会日時・照会元(会社名・担当者名・連絡先)・照会対象者の氏名・照会された情報の内容・本人への連絡の有無と確認結果・最終的に回答した内容(または回答しなかった旨)です。記録はExcelや共有ドキュメントなど、担当者が変わっても参照できる形で保存します。

社内の担当者と判断権限を明確にする

専任人事がいない中小企業では、電話を受ける担当者が毎回異なるケースが多く見られます。対応フローを定めるとともに、最終的な回答判断を誰が行うかを明確にしておくことが重要です。たとえば「一次対応(聞き取り)は総務担当が行い、回答の可否は経営者または管理職が判断する」という役割分担を決めておくと、現場での混乱を防げます。

よくある「落とし穴」と対処法

実務でよく起きる誤解や見落としを知っておくことで、トラブルを未然に防ぐことができます。特に多いのは「答えてよい相手」についての思い込みです。

「信頼できる組織からの問い合わせなら答えてよい」という誤解

金融機関・保証会社・大手企業からの問い合わせであっても、個人情報保護法上の原則は変わりません。照会元の組織の信頼性と、退職者本人の同意の有無は、別の問題です。「銀行さんからのお問い合わせだから」「取引先だから」という理由で同意なしに情報を開示することは、法的リスクを伴います。

「すでに答えてしまった」場合の対処

電話を受けた際に反射的に在籍情報を伝えてしまったケースは少なくありません。この場合、まず何を誰に伝えたかを記録として残します。退職者に対しては、照会があった事実と回答内容を速やかに伝えることが誠実な対応です。伝えた内容が退職理由・評価・処分歴などセンシティブな情報であった場合は、状況に応じて法律の専門家への相談も視野に入れることを検討してください。

就業規則・退職時書類の整備状況によって対応が変わる

在籍確認への対応方針を就業規則や退職時の書類に明記している企業と、何も定めていない企業とでは、実務上の対応の難易度が異なります。就業規則に「在籍確認への回答は本人の同意を確認したうえで行う」といった方針を盛り込んでおくと、社内の統一対応の根拠になります。また従業員数が50名未満の企業でも個人情報保護法は適用されるため、規模を問わず対応の整備が必要です。

対応フローや同意書の作成は、人事の経験がない担当者にとって判断が難しいもの。専門家への相談で正確に準備することが後々の安心につながります。

まとめ

退職者の在籍確認への対応は、「何を答えてよいか」「本人の同意をどう確認するか」「社内の対応をどう統一するか」という3つの軸で整理することができます。在籍期間・退職日は本人の同意があれば回答可能ですが、退職理由・勤務態度・処分歴などは原則として開示すべきではありません。電話口ではその場で回答せず、照会元の情報を聞き取り、退職者本人に確認してから回答するフローを社内で定めておくことが、会社と退職者双方を守る最善の方法です。

よくある質問

Q. 転職先企業から在籍確認の電話が来ました。在籍期間だけなら答えてもよいですか?

A. 在籍期間・退職日は、退職者本人の同意が確認できていれば回答可能です。ただし、電話口で即答するのではなく、まず照会元の会社名・担当者名・連絡先を確認し、退職者本人に連絡を取って同意を確認してから回答する手順を踏むことをお勧めします。本人の同意が確認できない場合は、「ご本人の確認が取れないため情報提供が難しい状況です」と伝えることで対応できます。

Q. 照会元が「本人から同意を得ています」と言っています。それでも本人確認は必要ですか?

A. はい、電話口で照会元が「同意を得ている」と述べても、それだけでは十分ではありません。電話だけでは、照会元が本当に本人から同意を得ているかを確認する手段がないためです。退職者本人に直接連絡を取り、どの情報をどの組織に開示してよいかを確認してから回答するのが、実務上もっとも安全な対応です。

Q. 退職理由を正直に伝えた場合、法的なリスクはありますか?

A. あります。退職理由(「問題があって辞めさせた」「勤務態度に問題があった」など)を第三者に伝えた場合、その内容が事実であっても、正当な理由なく第三者に開示することが民法上の不法行為(名誉毀損・プライバシー侵害)として損害賠償請求を受けるリスクがあります。退職理由は原則として第三者に開示しない対応が安全です。

Q. 退職時に何も取り決めをしていませんでした。今後どう対応すればよいですか?

A. 今後の退職者については、退職手続きの書類に在籍確認への回答に関する確認書を加え、本人の意向を退職時に確認する仕組みを整えることをお勧めします。過去の退職者については、照会が来た時点で退職者本人に直接連絡を取り、同意を確認してから回答するという手順で対応できます。社内の対応フローと記録のルールを合わせて整備しておくと、担当者が変わっても一貫した対応が可能になります。

Q. 従業員数が少ない小規模な会社でも個人情報保護法は適用されますか?

A. はい、適用されます。2017年の個人情報保護法改正により、それ以前は適用除外とされていた「5,000件以下の個人情報を取り扱う小規模事業者」への適用除外規定が撤廃されました。現在は従業員数や規模にかかわらず、すべての事業者に個人情報保護法が適用されます。退職者の情報管理についても、規模の大小を問わず対応を整えることが必要です。

退職者情報の取り扱いについて「会社として正式な対応フローを作りたい」「過去の対応が適切だったか確認したい」といったご相談があれば、ウェルセンス株式会社へお気軽にご相談ください。専任人事のいない中小企業の人事労務課題を、実務に即したかたちでサポートしています。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

不調者対応を、人事だけで抱えない。

メンタル不調者面談や休職・復職対応を、1件からスポットでご相談いただけます。

詳しく見る →

タイトルとURLをコピーしました