試用期間中に別会社在籍は偽装出向?リスクと対処法

試用期間中に別会社在籍は偽装出向?リスクと対処法 労務管理
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「採用後すぐに自社で雇うのが不安だから、まずグループ会社に籍を置かせてようすを見たい」——そうした”お試し採用”の相談を、人事の現場ではしばしば耳にします。ミスマッチ採用を防ぎたいという動機はまっとうです。しかし、その運用が偽装出向・偽装派遣と判定された場合、会社は予期しない直接雇用義務を負うリスクがあります。本記事では、試用期間中に別会社在籍を使う手法の合法性、違法と判断される基準、そして万一のリスクへの対処法を、専門知識のない経営者・兼務人事担当者にもわかるよう解説します。

試用期間中の別会社在籍は何が問題なのか

この手法が問題になる本質は、「契約上の雇用主」と「実際に指揮命令する会社」がズレている点にあります。日本の労働法は、指揮命令を行う会社が労働者を直接雇用することを原則としており、それを迂回する仕組みには厳しい規制があります。

よく見られる運用パターン

中小企業でよく見られるのは、次のような流れです。採用候補者をいったんグループ会社や提携先(以下「別会社」)と雇用契約させ、その人材を自社の業務に従事させる。問題がなければ数か月後に自社へ「転籍」させる、というパターンです。担当者としては「正式採用前のお試し期間」のつもりですが、法的には別会社が「派遣元」、自社が「派遣先」に相当する関係が生じている可能性があります。

コスト削減目的が”証拠”になりやすい

社会保険料・雇用保険料を試用期間中は別会社に負担させたいという動機も多く見られます。この動機自体は理解できますが、「出向元(別会社)が労務管理を実態上何もしていない」「賃金を自社が実質的に決定・負担している」といった事実と組み合わさると、行政調査や訴訟で偽装の論拠として使われやすくなります。

偽装出向と判断される具体的な基準

形式が「出向」や「業務委託」であっても、実態を見て違法か否かが判断されます。以下のチェックポイントのうち複数が当てはまる場合、行政(労働局)から違法と認定されるリスクが高まります。

適法な出向が成立するための要件

そもそも合法的な「出向」には以下の要素がすべて必要です。

  • 出向元との労働契約が維持されていること
  • 労働者本人の同意(労働契約法第14条に基づく合理的な出向命令または個別同意)があること
  • 就業規則や個別合意に根拠があること
  • 出向先が業務上の指揮命令を行うことが明確になっていること

これら四つが揃って初めて「出向」として認められます。

偽装と判断されやすい実態のポイント

チェック項目 リスクが高い実態
指揮命令 業務指示・勤怠管理・評価を自社(出向先)が行っている
採用・解雇権 事実上、自社が採否・解雇を決定している
賃金負担 賃金を自社が直接負担・決定している
別会社の関与 別会社(出向元)が労務管理を何もしていない
反復継続性 複数人・複数回にわたり同じ手法を繰り返している

「反復継続性」は重要なポイントです。職業安定法は、「業として」労働者を他社へ供給することを原則禁止しています(職業安定法第44条)。一回限りの人材融通と、慣行として繰り返す運用とでは、法的な評価がまったく異なります。

無許可派遣というもう一つの落とし穴

別会社在籍の実態が「派遣」に該当する場合、その別会社が労働者派遣事業の許可を持っているかが問われます。許可のない事業者から派遣を受け入れることは、労働者派遣法上の「無許可派遣の受け入れ」として違法となります。グループ会社であっても、派遣業許可がなければ同様です。

労働契約申込みみなし制度——気づかないうちに雇用義務が発生する仕組み

違法派遣・偽装出向状態が続いた場合、会社の意思とは関係なく、自動的に直接雇用の申込みをしたとみなされる制度があります。これが労働者派遣法第40条の6に定める「労働契約申込みみなし制度」です。

制度が適用される四つの違法類型

この制度が発動するのは、次のいずれかの違法行為があった場合です。

  • 港湾運送・建設・警備など派遣禁止業務への派遣
  • 無許可事業者からの派遣受け入れ
  • 派遣可能期間(同一部署への3年超派遣)の違反
  • 偽装請負・偽装出向などの脱法的な労働者供給

試用期間中の別会社在籍が偽装出向と認定されれば、四番目の類型に該当しえます。

みなし申込みが発生すると何が起きるか

みなし制度が発動すると、違法状態が生じた時点で、自社が労働者に対して直接雇用を申し込んだものとみなされます。労働者がそれを承諾した時点で雇用契約が成立します。怖いのは「承諾の方法に特段の要件がない」点で、違法状態の下で継続して就労した事実が「黙示の承諾」と解釈されるリスクがあります。

「試用期間が終わったら転籍させるつもりだった」という説明は、この制度の下では通用しません。また、雇用条件は違法派遣時点の条件が基準となるため、当初の想定と異なる労働条件で雇用が成立してしまう可能性もあります。

時効と過去への遡及リスク

このみなし申込みに関連した請求は、民法上の時効などの観点から過去に遡って問われうる場合があります。「何年も前からやっていたが、ずっと問題なかった」という認識は危険です。元従業員から退職後に申立てがあるケースも想定されます。

グループ会社・転籍を使う手法の合法性の境界線

グループ会社間での人材活用がすべて違法というわけではありません。合法と違法を分けるのは、契約の形式ではなく実態です。自社の状況がどちらに近いかを正直に確認することが出発点になります。

合法的に活用できるケース

グループ会社間での出向は、本来のグループ経営戦略の一環として行われる場合には適法です。たとえば、親会社から子会社へのキャリア開発目的の出向、複数グループ会社にまたがる経験を積ませるための計画的な異動などがこれにあたります。この場合、出向元が引き続き雇用主として実質的な関与(人事評価への関与・給与負担・労務管理への参画)を維持していることが必要です。

転籍採用という合法的な代替手段

「お試し採用」を実現したい場合の合法的な代替案として、転籍があります。転籍とは、労働者が別会社と雇用契約を結び直す手続きで、本人の同意が必要です。「まずA社(別会社)で採用し、一定期間後に本人同意の上でB社(自社)に転籍させる」という設計であれば、A社在籍中はA社の指揮命令下で働かせることが前提となります。

この間、自社がA社在籍の従業員に直接指示を出す関係が生じれば、やはり偽装出向の問題が生じます。転籍を使う場合でも、在籍期間中の指揮命令関係を厳密に整理しておく必要があります。

会社規模・状況別の対応の考え方

グループ会社を持たない単独の中小企業であれば、そもそもこの問題が生じる場面は限られます。一方、複数法人を束ねる経営者の場合や、M&Aを経て親子会社関係が生まれたケースでは、過去の慣行を今すぐ点検することが必要です。社会保険労務士や弁護士が関与していない状態で、外部コンサルや紹介会社から「問題ない」と言われてそのまま実施しているケースは特に注意が必要です。

違法状態が発覚した場合のリスクと対処法

違法と判定された場合のリスクは、直接雇用義務の発生にとどまりません。行政処分・罰則・社会的信用の毀損という三つのリスクが重なります。発覚した場合は、速やかに実態を整理し、専門家とともに対処方針を決めることが重要です。

行政処分・罰則の概要

無許可の労働者供給事業に該当した場合、職業安定法違反として罰則(1年以下の懲役または100万円以下の罰金)が適用されえます。また、労働局からの是正指導・勧告を受け、改善されなければ企業名が公表されるケースもあります。社名の公表は採用ブランドへの直接的なダメージとなり、特に採用難の中小企業にとって深刻な影響を及ぼします。

発覚後の実務的な対処フロー

現在進行中の別会社在籍の運用が疑わしいと気づいた場合は、まず現状の契約内容・指揮命令関係・賃金負担の実態を書面で整理します。次に、社会保険労務士または労働問題に精通した弁護士に実態を開示して、違法リスクの程度を評価してもらいます。違法と判断された場合は、対象者との間で雇用関係を正常化する(直接雇用契約への切り替えや、適法な出向契約への組み直し)手続きを進めます。

この段階で対象従業員への説明・同意取得も必要になります。放置すれば、従業員側からみなし申込みの承諾が主張され、会社側に不利な条件での雇用が成立するリスクがあるため、早期対応が不可欠です。

今後の採用設計を見直す視点

ミスマッチ採用を防ぐ目的であれば、別会社在籍という迂回手法を使わなくても、試用期間制度を適切に設計・運用することで対応できます。試用期間中であっても、合理的な理由なく本採用を拒否することは解雇と同様に制限されますが、それは適法な試用期間の運用のなかで対処すべき問題です。採用段階での適性評価の精度を上げる、試用期間中の評価基準を明文化するといった正攻法の方が、長期的には会社を守ります。

まとめ

試用期間中に別会社在籍を利用する手法は、実態として偽装出向・偽装派遣と判定されるリスクがあります。判断の基準は「書類の形式」ではなく「指揮命令・賃金負担・採用権が実際にどちらの会社にあるか」という実態です。違法と判定された場合、労働者派遣法第40条の6の「労働契約申込みみなし制度」により、会社の意思とは無関係に直接雇用義務が発生しえます。行政処分・罰則・社名公表のリスクも伴うため、現在この手法を採用している企業は早急に実態を点検することが必要です。

「自社の運用が問題ないか確認したい」「すでに別会社在籍の従業員がいて、どう整理すればよいかわからない」——そうした状況をお持ちの場合は、ウェルセンス株式会社にご相談ください。人事の専門家が一緒に実態を整理し、リスクの低減と再発防止に向けた対応を支援します。

よくある質問

Q. グループ会社間の出向は全部違法になるのですか?

A. すべてが違法なわけではありません。出向元との労働契約維持・労働者本人の同意・就業規則等の根拠・指揮命令関係の明確化という要件を満たし、出向元が実質的に雇用主として関与し続けている場合は適法です。問題になるのは、出向という形式を取りながら実態上の雇用主機能を自社が全面的に担っているケースです。

Q. 労働契約申込みみなし制度は、従業員が知らないと発動しませんか?

A. 違法状態があれば制度自体は発動しますが、最終的に雇用契約が成立するには労働者の承諾が必要です。ただし、違法状態のまま継続して就労することが「黙示の承諾」と解釈されるリスクがあります。従業員が制度を知らなかったとしても、弁護士等のアドバイスを受けた後に遡って承諾を主張することも考えられるため、早期の対応が重要です。

Q. 派遣業の許可を取れば試用期間中の別会社在籍は合法になりますか?

A. 許可を持つことで「無許可派遣」の問題はクリアされますが、それだけで全リスクが解消されるわけではありません。派遣可能期間の制限(同一部署3年など)、派遣禁止業務への該当有無、適正な派遣契約書の締結、マージン率の開示義務など、労働者派遣法が定める多くのルールを遵守する必要があります。また、そもそも「採用後に本採用を判断する」という目的での派遣活用が適法かという論点も残ります。専門家への確認をお勧めします。

Q. 外部コンサルから「問題ない」と言われてこの手法を使ってきました。責任はどうなりますか?

A. 残念ながら、「第三者に問題ないと言われた」という事実は、行政処分や民事上の責任から会社を守る根拠にはなりません。コンサル側への損害賠償請求を検討できる場合もありますが、まず自社のリスクを早急に整理することが優先です。発覚後の対応が遅れるほど、みなし申込みが蓄積する期間が長くなり、会社側に不利な状況になります。

Q. ミスマッチ採用を防ぎたいなら、試用期間をどう設計すればよいですか?

A. まず自社で直接雇用した上で、就業規則に試用期間(通常3か月から最長6か月程度)を明記し、本採用判断の評価基準を事前に書面化しておくことが基本です。試用期間中は解約留保権付きの労働契約とみなされますが、本採用拒否には客観的・合理的な理由が必要です。採用段階での適性評価(構造化面接・トライアル課題など)を充実させることが、合法かつ実効性の高いミスマッチ防止策になります。

【監修】ウェルセンス株式会社
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