「今年も忘年会の季節が来た。休職中のあの社員、声をかけるべきか、かけない方がいいのか……」。判断を先延ばしにしているうちに、幹事から出欠確認のリストを求められた——そういう状況に直面している方も多いのではないでしょうか。招待すれば負担をかけるかもしれない。招待しなければ疎外感を与えるかもしれない。どちらにもリスクがあるこのジレンマを、専任人事のいない職場で一人で判断するのは容易ではありません。この記事では、法的・実務的な観点から「招待してよいかの判断基準3つ」と、招待する場合の配慮ある伝え方を、すぐに使えるかたちで解説します。
休職中社員への接触と法的な考え方
休職中の社員への社内イベント招待は、法律で明確に禁止されているわけではありません。ただし、会社には「安全配慮義務」があり、招待の仕方によっては義務違反になりうる点を最初に押さえておく必要があります。
安全配慮義務とは何か
労働契約法第5条は、使用者に対して「労働者の生命・身体等の安全を確保しつつ労働させる義務」を課しています。休職中であっても雇用関係は継続しているため、この義務は消えません。つまり、精神的な負荷をかける行為や、回復を妨げる接触は、安全配慮義務違反のリスクにつながる可能性があります。「業務外のイベントだから会社の責任は関係ない」という判断は、法的には成立しません。
療養専念義務という考え方
法律の条文に明記された言葉ではありませんが、休職中の社員は就業規則や雇用契約上の慣行として「療養に専念し、早期回復を図る」ことが求められています。会社側が参加を促すことは、この療養専念の妨げになりかねません。実務上の原則は「参加を求めない」こと。本人が参加の意思を示した場合でも、主治医の確認を経ることが望ましいとされています。
ハラスメントと個人情報の問題
「参加しなかった場合に評価に影響する」といった示唆や、復帰プレッシャーを与えるような言い方はパワーハラスメントに該当しうる行為です。また、忘年会に招待する際に休職者の状況を他の社員に説明する場合、本人の同意なく休職理由や病状を伝えることは個人情報・プライバシーの保護の観点から問題になります。招待する・しないの判断と同時に、「誰に・どこまで情報を共有するか」という視点も必要です。
招待してよいかを判断する3つの基準
招待の可否を判断するための基準は「本人の意向」「主治医・産業医の見解」「休職のフェーズ」の3点です。この3つがすべて「問題なし」の方向を向いているときに、はじめて招待を検討できます。
本人の意向:自発的な希望があるか
最も重要な基準は、本人が「参加したい」「社内の情報を受け取りたい」と自発的に表明しているかどうかです。会社側から積極的に打診することは、それ自体がプレッシャーになる場合があります。日常の連絡(月1回程度の状況確認)の中で本人から「みんなの様子が気になる」「忘年会どうなるの?」といった発言があった場合は、意向確認の糸口にすることができます。逆に、本人からそうした言及が一切なければ、招待の打診は控えるのが無難です。
主治医・産業医の見解:社会的交流が回復に適切か
社内イベントへの参加が回復段階として適切かどうかは、医学的な判断が必要です。産業医が選任されている場合は産業医に確認します。産業医がいない(常時50人未満の事業場は選任義務がありません)場合は、本人を通じて主治医の意見を確認することが望ましいです。「主治医の許可が出ている」という確認なしに招待するのは、善意であっても回復を妨げるリスクがあります。
休職のフェーズ:今、どの段階にあるか
休職直後の急性期と、復職を間近に控えた回復・準備期では、適切な対応がまったく異なります。下の表を参考に、現在のフェーズを確認してください。
| 休職フェーズ | 目安 | 忘年会招待の考え方 |
|---|---|---|
| 急性期 | 休職開始〜おおむね1〜2ヶ月 | 基本的に招待しない。連絡自体を最小化する |
| 回復期 | 主治医が社会復帰準備を認めた段階 | 本人から希望があれば情報提供は検討可 |
| 復職準備期 | 復職日程の調整が始まっている段階 | 主治医・産業医と相談のうえ、軽い参加形式を検討 |
メンタル不調による休職の場合、職場の人間関係・仕事の話題が刺激になり得るため、骨折や術後回復など身体的な理由による休職よりも慎重な判断が必要です。一律の対応で「身体疾患だから問題ない」と判断するのは避けてください。
判断に迷ったときは医療側の意見を確認する。忘年会の招待判断で失敗しないため、産業医がいない場合の相談先を事前に確保しておくことが重要です。
招待しない場合のリスクと「放置しない」ことの大切さ
招待しないこと自体は多くのケースで適切な判断ですが、「判断できないから何もしない」という放置は別の問題を生みます。伝え方を工夫することで、疎外感を和らげることができます。
「外された」という感覚が復職後のトラブルになる
招待しなかったことが問題になるのではなく、「自分のことを誰も気にかけていなかった」という認識が問題になります。復職後に「あのとき自分だけ知らなかった」「声もかけてもらえなかった」という体験が、職場への不信感として残るケースがあります。招待しない場合でも、「あなたの体調を最優先に考えてこのような判断をした」という趣旨をひと言伝えるだけで、その後の関係性が大きく変わります。
他の社員への説明はどうするか
少人数の組織では、「なぜ休んでいるのに来られるの?」「なぜ招待しないの?」といった声が生まれやすい環境があります。基本的な方針は、本人の許可なく休職理由や状況を他の社員に説明しないことです。「本人の状況に合わせて個別に対応している」という一言で十分であり、それ以上の説明は本人のプライバシーを侵害するリスクがあります。
招待する場合の配慮ある伝え方と文例
招待を検討できる状況(本人の意向あり・回復期以降・医療側の承認あり)が揃った場合、声のかけ方と内容の設計が重要です。「情報提供」と「出席を求める」では、相手への負担がまったく異なります。
連絡の原則:「伝える」だけにとどめる
招待の連絡は「情報提供」として行います。「ぜひ来てほしい」「来られたら嬉しい」といった表現は、本人が断りづらくなるため避けます。また、出欠の返事を求める場合も「返事は不要」「来られそうであれば教えてください」というトーンにとどめることが重要です。欠席による不利益が一切ないことを明示することも、プレッシャーを与えない配慮のひとつです。
連絡手段と文例
連絡は書面またはメール・メッセージが基本です。電話は相手の状況を問わず突然かかってくるため、精神的な負担が大きくなる場合があります。事前に「連絡はメールにします」と取り決めておくと双方にとって安心です。
以下は、招待の連絡文例です。職場の状況に合わせて調整してください。
件名:忘年会のご案内(〇〇さんへ)
〇〇さん、こんにちは。いつもご連絡いただきありがとうございます。先日お話しされていた通り、今年も忘年会を予定しております。〇〇さんのご体調を最優先に考えておりますので、ご参加のお返事は不要です。もし「近況を聞きたい」「少し顔を出してみようかな」と思われたときは、お気軽にお知らせください。どうぞご無理のないようにお過ごしください。
この文例のポイントは「返事不要」を明示していること、「本人の意思があれば」という条件づけがされていること、そして療養への配慮が文末にあることです。
参加形式の工夫:「途中参加・早退OK」という選択肢
参加が回復の一歩になりうると医療側が判断している場合、会の最初から最後まで参加することを前提にしないことが大切です。「途中から参加・早めに帰ってもOK」「別室での短時間の面会でも歓迎」といった柔軟な形式を伝えることで、本人が自分のペースで判断できます。座席の配置(出入りしやすい場所)など物理的な配慮も、事前に担当者が把握しておくと良いでしょう。
判断に迷ったら専門家に相談を。「本当にこの対応で大丈夫か」と不安な場合は、外部の専門家に相談することで判断の根拠が明確になります。
🔗 判断に迷ったときは医療側の意見を確認する。産業医がいない場合の相談先を事前に確保しておくことが失敗を防ぎます。 →
専任人事がいない職場でのルール化が再発防止になる
今回の忘年会問題を個別対応で乗り越えたとしても、来年の新年会・歓送迎会・社員旅行でまた同じ判断を迫られます。休職者への接触ルールを社内で一度整備しておくことが、担当者の負担軽減と会社のリスク管理につながります。
接触ルールの基本要素
就業規則や別途定める休職規程に、最低限以下の内容を含めておくと対応が安定します。定期連絡の頻度(急性期は月1回程度)、連絡手段(メール原則など)、社内イベントへの招待の可否判断フロー(本人・医療側の確認を経ることを明記)、情報管理の方針(休職理由を第三者に伝えない旨)が挙げられます。
就業規則や産業医がない場合の対応
常時10人未満の事業場は就業規則の作成義務がなく、常時50人未満の事業場は産業医の選任義務がありません。こうした規模の会社では、書面でなくても「社内の申し合わせ」として担当者と経営者の間でルールを共有するだけでも大きく違います。「休職者への連絡は人事担当(または経営者)が窓口になる」「連絡前に必ず本人の意向を確認する」といった最低限の取り決めが、現場の混乱を防ぎます。
🔗 判断に迷ったら専門家に相談を。外部の専門家のサポートで、対応の根拠が明確になり担当者の負担が減ります。 →
まとめ
休職中の社員を忘年会に招待するかどうかは、「本人の意向」「主治医・産業医の見解」「休職のフェーズ」という3つの基準で判断します。急性期の社員への打診は原則避け、回復期以降であっても「情報提供」にとどめ、出席を求めない伝え方が基本です。招待しない場合も「放置」ではなく、体調を気遣う一言を添えることで、復職後の疎外感を大きく軽減できます。また、こうした判断を毎回一人で抱えなくて済むよう、社内に接触ルールを整備しておくことが中長期的な対策として有効です。
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よくある質問
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