従業員宛に裁判所書類が届いたら会社はどう動くべきか

従業員宛に裁判所書類が届いたら会社はどう動くべきか コンプライアンス
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ある日、会社宛に裁判所から封筒が届いた。宛名には従業員の名前がある。開けていいのか、本人に渡すだけでいいのか、それとも何か手続きが必要なのか——戸惑いながらも締め切りが迫っているかもしれない、そんな状況に置かれた経営者や人事担当者のために、この記事では「裁判所書類が届いたときに会社がすべきこと」を、書類の種類ごとに実務的に整理します。

まず確認すべきは「書類の種類」

裁判所から届く書類の種類によって、会社の対応義務はまったく異なります。「とにかく本人に渡す」で済む書類もあれば、会社自身が当事者として法的な応答義務を負う書類もあります。最初の一歩は、書類の種類を正しく見極めることです。

書類の種類と会社の義務の早見表

裁判所書類には大きく分けて以下の種類があります。それぞれ会社に求められる対応が異なるため、まず封筒のタイトルと本文冒頭を確認してください。

書類の種類 会社の義務 期限
債権差押命令(給与・退職金) 第三債務者として陳述書を裁判所へ提出し、差押可能額を正しく処理する 送達から2週間以内
養育費・婚姻費用の差押え 同上(ただし差押可能範囲が通常より広い) 送達から2週間以内
支払督促(本人個人宛) 会社には手続き義務なし。本人への転送・手渡しで足りる なし
破産・民事再生開始決定通知 直接の法的義務はないが、給与債権の扱いに変化が生じる場合がある 状況による

「給与差押命令」だった場合は会社が当事者になる

最も注意が必要なのが「債権差押命令」です。この書類が届いた時点で、会社は「第三債務者」という法的な立場になります。第三債務者とは、従業員(債務者)に対してお金を支払う義務を持つ存在、つまり給与を払う雇用主のことです。

この場合、「本人に渡して終わり」にすることはできません。会社自身が裁判所に応答し、給与の支払い方を変更する義務が発生します。支払督促など本人個人の問題にすぎない書類と混同しないよう、書類の種類を最初に正確に確認することが重要です。

開封してよいかどうか

「従業員の名前が宛名にあるが、届け先は会社の住所」という書類は、開封しても問題ありません。差押命令の場合、会社宛に届くこと自体が法律上想定されており、内容を確認することは会社の義務の出発点です。個人のプライバシーへの配慮は必要ですが、書類の性質を確認せずに放置することのほうがリスクになります。

給与差押えが届いたときの具体的な対応手順

給与差押命令が届いたら、会社はまず陳述書を2週間以内に裁判所へ提出し、その後の給与支払いを差押命令に従った方法に切り替える必要があります。手順を順に確認していきましょう。

陳述書(第三債務者の陳述)の提出

民事執行法第147条に基づき、第三債務者(会社)は「差し押さえられた債権が存在するかどうか」「支払う意思があるかどうか」などを記載した陳述書を、送達から2週間以内に裁判所へ提出しなければなりません。

陳述書には通常、以下の内容を記載します。

  • 差し押さえられた債権(給与)の存否
  • 給与の支払時期・支払方法
  • 差押可能額に相当する給与を支払う意思の有無
  • 他に差押えや仮差押えがあるかどうか

正当な理由なく陳述書を提出しなかった場合、会社は損害賠償責任を負う可能性があります(民事執行法第147条第2項)。記載内容に虚偽があった場合も同様のリスクがあるため、不明点は弁護士や社労士に確認しながら作成することを強くおすすめします。

差押可能額の計算方法

差押えができる金額には法律上の上限があります。民事執行法第152条によると、給与の手取り額(総支給額から所得税・住民税・社会保険料を控除した後の金額)の4分の3は差し押さえることができません

具体的には、手取り額が20万円の場合、差押可能額は最大5万円(20万円の4分の1)です。従業員には残りの15万円を通常どおり支払います。

ただし、養育費や婚姻費用の差押えの場合は例外で、手取り額の2分の1まで差押えが可能です(民事執行法第152条第2項)。書類に養育費関連の記載がある場合は、計算基準が変わることに注意してください。

差押可能額の支払い方法

差押可能額に相当する金額は、差押命令の内容に応じて「債権者への直接支払い」または「法務局への供託」で処理します。どちらを選ぶかは命令書の指示や状況によって異なりますが、確実でない場合は供託(法務局に金銭を預ける手続き)を選ぶことが安全です。

絶対に避けるべきなのは、差押命令が届いた後も差押可能額を含む全額を従業員本人に支払い続けることです。この場合、債権者から「差押可能額を別途支払え」と二重払い請求を受けるリスクがあります。

本人への告知——タイミングと伝え方の注意点

差押命令が届いたことは、従業員本人に伝える必要があります。ただし、伝え方を誤ると労務トラブルに発展するリスクもあるため、慎重に対応することが大切です。

告知は義務ではないが、実務上は必要

法律上、「差押命令が届いたことを本人に知らせなければならない」という明文の義務はありません。しかし、給与の支払額が変わることを本人が把握していなければ、生活設計に支障が生じます。また、本人が異議申し立てを行う権利を持つため、告知は実務上不可欠です。

伝え方のポイント

差押えは本人にとっても精神的な負担です。伝える際は、事実を淡々と正確に伝えることを基本にしてください。次の点を意識すると、不要なトラブルを防げます。

  • 「裁判所から差押命令が届いたため、法律上の義務として給与の支払方法を変更します」と事実ベースで伝える
  • 「なぜそんなことになったのか」など、借金の経緯を追及しない
  • 他の従業員に内容を漏らさない(プライバシー保護)
  • 「このままでは雇用に影響する」などの発言はしない(退職強要と受け取られるリスクがある)

メンタルヘルスへの配慮が求められる場合

差押えを受けた従業員は、経済的な不安から精神的に不安定になるケースがあります。告知後に様子の変化(遅刻・欠勤の増加、集中力の低下など)が見られた場合は、産業医や外部の相談窓口を案内するなど、早めのケアを検討してください。20〜50名規模の企業では産業医が配置されていないケースも多いですが、外部の支援サービスを活用することで対応できます。

困った場合は、社労士や弁護士だけでなく、従業員のメンタルヘルスケアも含めた対応を検討してください。

複数の差押命令が届いた場合・対応を間違えた場合のリスク

複数の差押命令が同時に届いた場合も、差押禁止額のルールは変わりません。法定の上限を超えて差押えに応じることはできず、競合する場合は正確な按分処理が必要です。

複数の差押命令が競合したとき

複数の債権者から同時に差押命令が届くケース(競合差押え)では、差押可能額の上限(手取りの4分の1)は変わりません。差押可能額の枠内で各債権者への按分処理を行いますが、この計算は複雑になるため、弁護士や専門家への相談を強くおすすめします。

また、すでに給与控除が法定上限に達している状態で新たな差押命令が届いた場合は、追加で差し引くことはできません。その場合も陳述書には「現在の差押可能額はゼロ(または一定額)である」と正確に記載する必要があります。

対応を放置・誤った場合のリスク

会社が差押命令を無視・放置した場合、または対応を誤った場合には次のリスクが発生します。

  • 陳述書を提出しなかった場合:債権者から損害賠償請求を受ける可能性(民事執行法第147条第2項)
  • 差押可能額を本人に支払い続けた場合:債権者から二重払いを求められるリスク
  • 差押可能額を超えて差し引いた場合:本人から不当控除として請求されるリスク

「本人の問題だから」と会社が関与を控えたくなる気持ちは理解できますが、給与差押命令においては会社自身が法的な当事者です。適切な対応をとることが、会社を守ることにもつながります。

専任人事がいない企業が特に注意すべき実務の落とし穴

20〜50名規模の企業では、給与計算・人事対応・法務対応を一人の担当者が兼ねているケースが多く、差押え対応のような特殊業務は経験がないまま期限が迫るという状況が生じやすいです。実務上の注意点を確認しておきましょう。

「2週間」の期限は思いのほか短い

陳述書の提出期限は送達から2週間です。書類が届いたタイミングによっては、週をまたいで連休が入ったり、担当者が不在だったりと、実質的な対応可能期間はさらに短くなります。書類が届いた当日に「これは何の書類か」を判断し、すぐに専門家へ相談するルートを持っておくことが重要です。

顧問弁護士・顧問社労士がいない場合の対処法

差押え対応は、社労士よりも弁護士の領域が中心になります。しかし、陳述書の記載確認や給与計算の調整については社労士も対応できます。顧問契約がない場合は、法テラス(日本司法支援センター)や各都道府県の弁護士会の相談窓口を活用することも選択肢のひとつです。

社内規程・給与計算システムへの反映

差押え対応が発生した場合、給与計算システムで差押控除の設定が必要になります。システムによっては専用の控除項目を追加設定しなければならないことがあり、初回は手間がかかります。また、差押えが終了したタイミング(弁済完了・取下げ)での設定解除も忘れずに行ってください。

専任人事がいない場合でも、書類が届いた時点で対応の相談先を確保することで、期限内の対応は十分可能です。

まとめ

従業員宛に裁判所から書類が届いたとき、会社がとるべき対応は書類の種類によって大きく異なります。給与差押命令であれば、会社は第三債務者として2週間以内に陳述書を提出し、給与の支払方法を法律に従って変更する義務があります。放置・誤対応は損害賠償や二重払いリスクにつながるため、書類が届いた当日に内容を確認し、必要であれば専門家に相談することが大切です。

突発的な人事労務課題に一人で対応するのは、思いのほか負担が大きいものです。ウェルセンス株式会社では、専任人事が不在な企業の経営者・担当者が直面する「この場合どうしたらいい?」という段階からのご相談をお受けしています。書類が届いた当日でも構いませんので、お気軽にお問い合わせください。

よくある質問

Q. 給与差押命令が届いたのですが、まず何をすればいいですか?

A. まず書類の送達日(裁判所の書類に記載されている受取日)を確認し、2週間以内に陳述書を提出しなければならないことを把握してください。次に差押可能額(手取り額の4分の1が上限)を計算し、次回の給与支払いに反映できるよう準備します。不明な点は弁護士や社労士に早急に相談することをおすすめします。

Q. 陳述書を提出しないとどうなりますか?

A. 民事執行法第147条第2項により、正当な理由なく陳述書を提出しなかった場合、会社は債権者から損害賠償請求を受ける可能性があります。2週間という期限は非常に短いため、書類が届いた時点で速やかに内容を確認し、対応を開始することが重要です。

Q. 差押えが来ていることを他の従業員に知られないようにできますか?

A. はい、プライバシー保護の観点から、関係者以外に情報を漏らさないよう徹底してください。給与計算担当者など最低限の関係者のみで情報を共有し、他の従業員には一切伝えないことが原則です。情報漏洩は個人情報保護の問題になるだけでなく、本人との信頼関係を損なうリスクもあります。

Q. 養育費の差押えと通常の差押えで、何か対応が変わりますか?

A. 計算上の差押可能額が異なります。通常の差押えは手取り額の4分の1が上限ですが、養育費・婚姻費用に関する差押えは手取り額の2分の1まで差押えが可能です(民事執行法第152条第2項)。書類に「養育費」「婚姻費用」の記載がある場合は、計算方法が変わることを必ず確認してください。

Q. 差押えを受けた従業員を解雇することはできますか?

A. 給与差押えを受けたことだけを理由に解雇することは、不当解雇にあたる可能性が高く、認められません。差押えは従業員の私的な事情であり、業務上の問題ではないためです。ただし、差押えをきっかけに業務上の問題行為や信用失墜行為が明らかになった場合は別途検討の余地がありますが、その場合も専門家への相談が不可欠です。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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