給与差押えが届いて困ったら読む会社側の実務対応

給与差押えが届いて困ったら読む会社側の実務対応 コンプライアンス
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「裁判所から書類が届いたのですが、何をすればいいんでしょうか……」。ある日突然、見慣れない公的書類が会社に届く。差出人は裁判所。「債権差押命令」「第三債務者」といった法律用語が並ぶ書類を前に、手が止まってしまった経験はないでしょうか。専任の人事担当者がいない中小企業では、給与差押え対応のノウハウが社内に蓄積されておらず、「とりあえず放置」になりがちです。しかし放置は会社に重大なリスクをもたらします。この記事では、給与差押えが届いたときに会社がすべき対応を、実務フローにそって順を追って解説します。

会社は「第三債務者」として法的義務を負う

給与差押えの命令が届いた瞬間から、会社には法的な義務が発生します。これを理解しないまま放置・先送りすると、会社自身が損害賠償責任を問われるリスクがあります。

第三債務者とはどういう立場か

給与差押えにおいて、登場人物は三者います。借金をした従業員(債務者)、お金を貸した側など差押えを申し立てた債権者、そして従業員に給与を支払う会社(使用者)です。この会社のことを法律用語で第三債務者と呼びます。

裁判所から「債権差押命令」が送達された時点で、会社は第三債務者として以下の義務を負います。

  • 弁済禁止義務:差押えの範囲内で、従業員へ給与全額を支払うことが禁止される。差押額相当分は債権者に納付しなければならない
  • 陳述催告への回答義務:申立債権者から陳述催告書が届いた場合、2週間以内に回答する(民事執行法第147条)

根拠となる法令は民事執行法(第143条〜第152条)です。「届いたけどよくわからないから後回し」は、法律上許されない対応です。

無視・放置した場合のリスク

差押命令に気づかずに従業員へ給与全額を支払ってしまった場合、申立債権者は会社(第三債務者)に対して直接取立請求(民事執行法第155条)を行うことができます。つまり、会社が二重払いを求められる可能性があります。「書類が担当者の手元に届くのが遅れた」「ゴールデンウィークの間に放置されていた」という事態が実際に起こりえます。受領した書類は、担当者へ速やかにエスカレーションできる社内ルートを整備しておくことが重要です。

民事差押えと税金・社会保険料差押えの違い

書類が届いたとき、まず差出人を確認してください。裁判所から届く場合は民事執行法に基づく差押えです。一方、税務署・市区町村・年金事務所などから直接届く場合は、国税徴収法・地方税法・健康保険法等に基づく行政上の差押えです。手続きの窓口・対応方法・差押禁止額の計算方法が一部異なるため、書類の発送元を最初に確認することが対応の第一歩となります。本記事では主に民事執行法に基づく給与差押え対応について解説します。

届いたらすぐ動く実務フロー

給与差押命令を受け取ったら、大きく分けて「確認→回答→計算→通知→納付」の流れで対応します。専任人事がいなくても迷わず動けるよう、各ステップを整理します。

書類の内容確認と社内への共有

届いた書類を開封したら、以下の項目を確認します。

確認項目 確認のポイント
送達日 陳述催告の回答期限(2週間)の起算点になる
差押債権の範囲 毎月の給与のみか、賞与・退職金も含まれるか
申立債権者の情報 納付先となる債権者名・連絡先
差押えの金額 差押えを申し立てた債権の総額
陳述催告書の有無 同封されていれば回答期限を確認

確認後は経営者・総務担当者など対応責任者に速やかに共有し、対応窓口を一本化してください。

陳述催告書への回答

差押命令と同時、またはその後に「陳述催告書」が届くことがあります。これは申立債権者が「この会社は本当に該当する従業員に給与を払っているか、他に差押えはないか」を確認するための書類です。

回答すべき内容は主に次の2点です。

  • 差押えを受ける従業員が在籍しているか、給与を支払っているか
  • 他の差押命令が届いているか(競合する差押えの有無)

回答期限は書類受領から2週間以内が原則です(民事執行法第147条)。回答用紙に記載して返送するだけですが、担当者不在・郵便物の取り回しの遅れなどで期限を超過しないよう注意が必要です。不明点は申立債権者の代理人弁護士や裁判所の書記官室に問い合わせることができます。

差押可能額の計算と給与明細への反映

差押額を確定したら、次の給与支払日に向けて天引き額を計算します(詳しい計算方法は次のセクションで解説します)。計算後は給与明細に「給与差押え」として明記し、差押額を除いた残額を従業員に支払います。差押額は申立債権者に直接納付するか、複数の差押えが競合する場合には供託所に供託します。

差押可能額の正しい計算方法

給与の全額を差し押さえることは法律で禁止されています。計算を誤ると、会社が責任を問われるリスクがあります。民事執行法第152条の規定をもとに、正確に計算してください。

手取り額を基準に計算する

差押禁止額の計算の基準となるのは、額面(総支給額)ではなく手取り額です。具体的には、所得税・住民税・健康保険料・厚生年金保険料・雇用保険料を控除した後の金額を指します。

計算の原則は次のとおりです。

  • 手取り額が月33万円以下の場合:手取り額の4分の1が差押可能額。残りの4分の3は差押禁止。
  • 手取り額が月33万円を超える場合:手取り額から33万円を引いた超過分の全額が差押可能額。

【計算例1】手取り額が月28万円の従業員の場合:28万円 × 1/4 = 7万円が差押可能額。従業員には残り21万円を支払います。

【計算例2】手取り額が月40万円の従業員の場合:40万円 − 33万円 = 7万円が差押可能額。

賞与・退職金の扱い

差押命令に賞与が含まれている場合も、同様に手取り額の4分の1が差押可能額となります。退職金については計算方法が異なり、退職金の4分の3が差押禁止となります(差押可能なのは退職金の4分の1)。

養育費・婚姻費用が絡む場合の例外

差押えの理由が養育費や婚姻費用など扶養義務に関する債権の場合、差押可能額は手取り額の2分の1まで拡大されます(民事執行法第152条第2項)。差押命令の記載内容を確認し、一般の債権差押えと混同しないようにしてください。

複数の給与差押命令が届いた場合の対応

消費者金融・クレジットカード・税金滞納など、複数の差押命令が届くケースがあります。この場合、按分(あんぶん)または供託という処理が必要になります。

差押えが競合したときの基本的な考え方

複数の債権者から差押えが来ても、従業員から天引きできる金額の上限(手取りの4分の1など)は変わりません。差押可能額を複数の債権者で分け合う形になります。最初に届いた差押えが優先されますが、後続の差押えも無効ではなく「配当」を受ける権利が生じます。

供託という選択肢

複数の差押命令が競合し、どの債権者に・いくら納付すればよいか判断が難しい場合、会社は差押可能額を法務局(供託所)に供託することができます(民事執行法第156条)。供託することで、会社は各債権者への支払い義務を免れます。配分は裁判所が行います。判断に迷ったときは、早めに弁護士や司法書士に相談することをお勧めします。

税金・社会保険料の差押えが競合する場合

民事差押えと税金・社会保険料の行政差押えが重なるケースでは、一般的に租税債権が優先されます。ただし手続きの根拠法令が異なるため、それぞれの担当窓口(裁判所・税務署・年金事務所等)と個別に連絡を取りながら対応することが必要です。

従業員本人への通知とメンタルケアの視点

給与差押えは従業員のプライバシーに深く関わる事柄です。一方で、会社には対応上の必要から本人への通知が求められます。「伝えていいのか」「どう話せばいいか」を整理しておきましょう。

本人への通知は必要か

法律上、会社が従業員本人に差押えの事実を通知する義務は明示されていません。しかし実務上は、給与明細に差押額が記載されることで本人は必然的に把握することになります。また、差押可能額の計算や継続的な対応のために、会社と本人がある程度連携できる状態にしておくことが円滑な対応につながります。

通知する場合は、個室や非公開の場で、上司ではなく人事・総務の担当者から、事実を淡々と・プライバシーへの配慮を示しながら伝えることが基本です。「裁判所から書類が届いており、給与の一部について対応が必要になりました」という事実のみを伝え、借金の理由や詳細に踏み込まないようにしてください。

借金問題を抱える従業員のメンタルヘルス

給与差押えに至るような状況にある従業員は、多くの場合すでに精神的に追い詰められています。業務パフォーマンスの低下・欠勤・体調不良として表れることがあり、放置すると休職・離職に発展するリスクもあります。

専任人事がいない中小企業では、「人事対応と並行してメンタルケアも行う」という発想が後回しになりがちです。しかし、早期に状況を把握して適切なサポート(社内相談窓口の案内、EAP(従業員支援プログラム)の活用など)につなげることが、従業員の早期回復と業務継続の両面から有効です。産業医が選任されていない企業でも、外部のメンタルヘルス支援を活用することは可能です。

職場内でのプライバシー管理

給与差押えの事実は、対応に関わる担当者以外には共有しないことが原則です。経営者・総務担当者など最小限の関係者のみで情報を管理し、当該従業員の同僚・上司・他の役員等には開示しない運用を徹底してください。個人情報・プライバシーへの不適切な取り扱いは、従業員との信頼関係を損ない、トラブルに発展するリスクがあります。

まとめ

給与差押命令が届いたとき、会社は第三債務者として法的義務を負います。書類の受領日から2週間以内の陳述催告への回答、民事執行法第152条にもとづく差押可能額の正確な計算、差押額の債権者への納付——これらを迅速かつ正確に進めることが、会社を損害賠償リスクから守る最低限の対応です。さらに、借金問題を抱える従業員へのプライバシー配慮やメンタルヘルスのサポートも、職場の安定的な運営のために欠かせない視点です。

「書類が届いたが何から手をつければいいかわからない」「計算方法が合っているか不安」「従業員の様子が気になっている」——そういったお悩みをお持ちの場合、ウェルセンス株式会社では給与差押え対応の実務ガイダンスからメンタルヘルスケアまで、中小企業の経営者・兼務人事担当者の方をワンストップでサポートしています。一人で抱え込まず、まずはお気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 差押命令を受け取ったのですが、しばらく対応できない場合はどうすればよいですか?

A. 放置は会社に損害賠償リスクをもたらすため、対応できないという状況自体を早急に解消する必要があります。陳述催告書が同封されている場合、受領から2週間以内に回答しなければなりません。担当者が不在の場合でも、書類の受領ルートを整備して責任者へ速やかにエスカレーションできる体制をつくることが最優先です。対応に迷う場合は、弁護士や社会保険労務士、または支援会社に早めに相談することをお勧めします。

Q. 手取り額の計算で、何を差し引いた後の金額が基準になりますか?

A. 所得税・住民税・健康保険料・厚生年金保険料・雇用保険料を総支給額から控除した後の金額が「手取り額」となり、差押可能額の計算の基準になります。なお、会社が負担する社会保険料(事業主負担分)は控除しません。給与明細上の実際の受取額と一致させる形で計算してください。

Q. 差押えを受けた従業員を解雇することはできますか?

A. 給与差押えを受けたという事実のみを理由として解雇することは、原則として認められません。借金や差押えは私的な問題であり、それだけで解雇の正当な理由(労働契約法第16条における「客観的に合理的な理由」)には該当しません。ただし、借金に関連した業務上の横領・不正などの行為が別途確認される場合はこの限りではありません。安易な解雇は不当解雇リスクを生むため、対応に迷う場合は専門家への相談を推奨します。

Q. 従業員が自己破産した場合、差押えの対応はどうなりますか?

A. 従業員が自己破産(破産手続開始決定)を受けると、破産法の規定により、それまで行われていた民事差押えの効力は原則として停止・失効します。会社は差押えに基づく天引きを中止し、給与全額を従業員に支払う対応に切り替える必要があります。ただし、破産手続開始決定の通知が届いた時点で正式に確認することが重要です。税金・社会保険料の行政差押えは別の扱いとなる場合があるため、それぞれの窓口にも確認してください。

Q. 給与差押えが続いている従業員のメンタル面が心配です。会社にできることはありますか?

A. 借金問題を抱える従業員は精神的なストレスを抱えていることが多く、業務パフォーマンスの低下・体調不良・欠勤といった形で表れることがあります。会社としては、まずプライバシーに配慮した個別面談の機会を設け、「困っていることがあれば相談できる」という姿勢を示すことが第一歩です。産業医が選任されていない企業でも、外部のEAP(従業員支援プログラム)や専門支援会社を活用することでメンタルヘルス面のサポートが可能です。早期のケアが、休職・離職の予防につながります。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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