パフォーマンス低下に気づいていない社員へ事実ベースで伝えるには?

組織運営

「最近、Aさんの仕事がなんか雑になった気がする。でも、本人はいつも通りのつもりみたいで……」——そんな場面に直面したとき、どう動けばよいか迷った経験はないでしょうか。指摘して関係が壊れるのが怖い、ハラスメントと受け取られたらどうしよう、そもそも気のせいかもしれない。こうした迷いが重なって、気づけば何ヶ月も放置してしまう。中小企業の経営者や兼務人事担当者が直面しやすいこの問題には、「事実ベースで伝える」という具体的な技術で対応できます。本記事では、その準備から面談の進め方、ハラスメントにならない指摘の原則まで、実務に即して解説します。

「気のせい」を「事実」に変える記録の取り方

パフォーマンス低下を事実ベースで伝えるには、まず「観察したことを記録する」習慣が不可欠です。数字がなくても、行動の変化を日付と具体的な状況で記録するだけで、十分に事実ベースのフィードバックが成立します。

数字だけが「事実」ではない

「事実ベース=売上数字やミス件数」と思い込んでいる方は少なくありません。しかし実際には、行動の変化も立派な事実記録になります。たとえば「毎週の定例会議で必ず発言していたAさんが、直近3回(5月8日・15日・22日)は一度も発言しなかった」「メール返信がこれまで当日中だったのに、5月以降は翌日以降になることが週2〜3回ある」といった記録は、数字を一切使わなくても客観的な事実として機能します。こうした行動観察の記録は、本人が「そんなことはない」と反論しにくく、かつ「評価」ではなく「観察」として伝えられるため、受け取る側の防衛反応を和らげやすいという利点があります。

記録に残す3つの要素

記録を残す際は、次の3点をセットで書き留めることを習慣にしてください。

  • 日付・時刻:「いつ」起きたかを明確にする
  • 具体的な状況:「何が起きたか」を第三者が読んでもわかる粒度で書く
  • それまでとの差異:「以前はどうだったか」を添えると変化として記録になる

たとえばメモアプリや簡単なスプレッドシートで構いません。「気になった日に1行書く」だけで、2〜4週間後には面談で使える根拠が手元に揃います。専任人事がいない中小企業では、この習慣の有無が後の対応の質を大きく左右します。

記録が「証拠」になる場面を知っておく

記録には、面談を円滑にするという即効性だけでなく、中長期的な法的意味もあります。万が一パフォーマンス低下を理由に配置転換や処遇変更を検討する場合、労働契約法第16条の解雇権濫用法理の趣旨から、「指導・改善機会を与えた記録」が使用者側の正当性を支える証拠になります。「言った・言わない」の水掛け論を防ぐためにも、記録は面談と必ずセットで残してください。

本人が気づいていない場合でも、指摘していい

「傷つけてしまうのでは」という懸念から指摘をためらう方は多いですが、業務上の適正な指導は法的にも保護されており、むしろ放置する方がリスクです。厚生労働省の「パワーハラスメント防止指針(令和2年厚生労働省告示第5号)」は、業務上の必要性があり、態様が相当で、継続的・執拗でない指導はパワーハラスメントに該当しないと明記しています。

放置が生むリスクを正確に理解する

低下の背景にメンタル不調や体調問題が隠れている場合、それに気づきながら何もしないことは、労働契約法第5条が定める使用者の安全配慮義務に違反するリスクがあります。「指摘して傷つけるかもしれない」という心配は理解できますが、「気づいているのに何もしない」方が法的・人道的に問題が大きいケースがあることを覚えておいてください。本人がメンタル不調や体調不良を抱えている可能性があると感じたときは、責任を問う前に「最近しんどいことはない?」と体調を確認するひと言が、その後の対話を大きく変えます。

「指摘」ではなく「確認」として入る

本人に自覚がない場合、最初から「低下している」と断定する言い方は反発を招きやすくなります。有効なアプローチは、観察した事実を「確認」として提示することです。「最近、会議での発言が減っていると感じているんですが、何か変化がありましたか?」という聞き方なら、相手に考える余地を与えながら事実を共有できます。「評価」ではなく「観察を共有する」という姿勢が、対話の入口を開きます。

ハラスメントにならない面談の設計

事実ベースの面談をハラスメントと受け取られずに進めるには、「何を言うか」だけでなく「どんな場を設計するか」が重要です。突然呼び出して指摘するのではなく、事前に目的を伝えて安心感のある場を作ることが基本です。

事前通知で「安心の場」を作る

面談を設定するときは、「業務の状況について一緒に確認したい」「最近の仕事の進め方を話し合う時間を作りたい」と事前に目的を伝えてください。突然の呼び出しは、本人に「何か問題を起こしたのか」という警戒心を生み、対話の質を下げます。特に中小企業では普段から1on1の習慣がないことが多く、突然の面談は不安感を増幅させます。もし定期的な面談の仕組みがなければ、「月に1回、業務の状況を話す時間を設ける」というルーティンを作ることで、今後こうした指摘が自然にできる環境が整います。

面談中に守る3つの原則

面談の場では、次の原則を守ることでハラスメントリスクを下げながら率直な対話ができます。

原則 具体的な行動 避けるべき行動
事実のみを話す 「○月○日の会議で発言がなかった」 「やる気がないように見える」
本人の話を聞く 「何か背景にあることはありますか?」 一方的に改善要求を伝え続ける
次のステップを一緒に決める 「次回まで○○を試してみましょう」 結論なく終わる・脅すような言い方をする

一回の面談で終わらせない

本人に自覚がない場合、一度の面談で認識が変わることはほとんどありません。「話したのに変わらない」と感じても、すぐに処遇変更や強い対応に移ることは避けてください。2〜4週間サイクルで短い面談を繰り返し、そのたびに「前回話した件はどうですか?」と事実を積み重ねていくプロセスが、本人の自覚を促すと同時に、万が一後の対応が必要になったときの記録にもなります。

事実を記録する、面談を設計する、継続的に対話する——これらが揃って初めて、本当の意味での改善につながります。判断に迷う場面や、メンタル面が気になるケースでは、早期の相談がトラブル防止のカギになります。

上司が動けないときに人事・経営者がすべきこと

現場の直属上司がフィードバックに不慣れな場合、人事や経営者は「直接介入」よりも「上司を支援する」アプローチが効果的です。上司を飛び越えた介入は現場のマネジメント体制を壊す可能性があるため、まず上司が動けるよう環境を整えることを優先してください。

上司に「言葉」を渡す

現場リーダーが「どう言えばいいかわからない」と感じている場合、抽象的な「ちゃんと指導して」という指示は機能しません。代わりに「こういう事実があったから、こんなふうに伝えてみてほしい」と具体的なセリフや状況を渡すことが効果的です。上司自身がフィードバックの経験を積む機会にもなります。特に従業員20〜30名規模の企業では、人事が現場マネージャーのコーチ役を担うことが、組織全体の対話力を高める近道になります。

産業医・外部専門家の活用を検討するタイミング

就業規則や産業医の選任がある企業では、パフォーマンス低下の背景にメンタル不調が疑われる場合、産業医との面談につなぐ手順を事前に決めておくことが重要です。産業医の選任義務は常時50名以上の事業場に課されていますが(労働安全衛生法第13条)、50名未満でも地域産業保健センターの無料相談を活用できます。外部の専門家に介入してもらうことで、上司・人事・本人の三者関係が行き詰まった場合でも対話の糸口を見つけやすくなります。

自社の状況に合わせた対応判断の目安

パフォーマンス低下への対応は、企業規模や制度の整備状況によって適切なアプローチが変わります。「どこから手をつければよいかわからない」という方は、自社の状況を以下の観点で確認してみてください。

制度・規模別の対応チェック

就業規則がある場合は、パフォーマンスに関する指導・処遇変更の根拠規定を確認してください。規定がないまま処遇変更に踏み切ると、後のトラブルの原因になります。また、定期的な1on1の仕組みがない場合は、指摘のための緊急面談を設ける前に、まず「月1回の業務確認の場」を全社員共通のルールとして導入することを検討してください。これにより、特定の社員だけが呼び出されるという不自然さがなくなり、対話の場が組織文化として定着しやすくなります。

「いきなり指摘」を避けるための準備チェックリスト

  • 観察した事実を日付・状況・従来との差異で記録しているか
  • 面談の目的を事前に本人に伝えているか
  • 面談の場は個室など他者に聞かれない環境か
  • 「評価・判断」ではなく「観察の共有」という姿勢で臨んでいるか
  • 次のフォローアップの日程を面談中に決めているか

これらが一つも準備できていない状態で「とりあえず呼んで話す」という対応は、本人の防衛反応を高め、問題をこじらせるリスクがあります。準備に2〜3週間かかっても、その間に記録を積み上げた方が、対話の質は格段に上がります。

「どの手順から始めればいいか判断がつかない」「このケースは問題が深刻かもしれない」と感じたら、一人で判断せず、早めに専門家に相談することをお勧めします。小さな段階での相談が、後の対応を大きく簡潔にしてくれます。

まとめ

パフォーマンス低下に気づいていない社員への対応は、「感情的な指摘」でも「見て見ぬふり」でもなく、「事実の記録→安心できる場の設計→事実の共有→継続的なフォローアップ」という一連のプロセスで成立します。数字がなくても行動変化の記録は事実になる、一回の対話では変わらない、放置には法的リスクもある——この3点を押さえるだけで、対応の質は大きく変わります。

とはいえ、「記録の取り方が合っているか不安」「面談の設計を誰かに確認したい」「背景にメンタル不調があるかもしれない」といった場合、一人で判断するには限界があります。ウェルセンス株式会社では、専任人事のいない中小企業の経営者・兼務人事担当者を対象に、こうした実務上の対応設計のご相談をお受けしています。「まだ深刻な問題ではないかもしれないけれど」という段階での相談が、後の対応をずっとシンプルにします。

人事対応のご相談はこちら

よくある質問

Q. 記録を取り始めてどのくらいで面談を設けるのが適切ですか?

A. 目安として2〜4週間、具体的な事実が3〜5件程度蓄積できたタイミングが適切です。記録が少なすぎると「印象」の域を出ず、本人に反論されやすくなります。一方、長期間放置すると本人の自覚を促す機会を失い、問題が深刻化するリスクもあります。「今週もまた同じパターンが起きた」と感じたら、面談の日程を組み始めるサインと考えてください。

Q. 本人が「問題ない」と言い張った場合はどうすればいいですか?

A. 本人の主観的な認識と、観察できた事実は切り離して扱ってください。「あなたが問題ないと感じているのはわかりました。ただ、私が観察したのはこういう事実です」と、相手の言い分を受け止めながら事実をあらためて示すことが重要です。一回の面談で決着をつけようとせず、「では2週間後に再度確認しましょう」とフォローアップを設定して終わらせてください。継続的な対話の積み重ねが、本人の自覚を促す最も確実な方法です。

Q. 面談後に本人の態度が急に悪化した場合はどう対応しますか?

A. 面談直後に態度が変化することは珍しくありません。多くの場合、指摘を受けたことへの驚きや戸惑いが表面化している状態です。この時期は追い打ちをかけるような追加指摘を避け、数日間は通常通りの業務コミュニケーションを続けてください。1〜2週間後に「先日話した件、何か気になることはある?」と軽く確認する場を設けることで、感情が落ち着いてから本題に戻りやすくなります。急激な態度悪化が続く場合は、メンタル不調の可能性も視野に入れ、専門家への相談を検討してください。

Q. 就業規則がない場合、パフォーマンス低下への指導はどこまでできますか?

A. 就業規則がなくても、業務上の改善指導を行うこと自体は問題ありません。ただし、パフォーマンス低下を理由とした降給・配置転換・雇用終了といった処遇変更は、就業規則の根拠規定がない状態では法的なリスクが高くなります。まずは指導・対話の記録を残しながら、並行して就業規則の整備を検討してください。常時10名以上の事業場では就業規則の作成・届出義務があります(労働基準法第89条)。

Q. メンタル不調が疑われる場合、パフォーマンスの指摘はいったん止めるべきですか?

A. メンタル不調が疑われる場合は、業務改善の指摘よりも「体調や状況の確認」を優先してください。「最近しんどいことはありませんか」「何か困っていることがあれば聞かせてください」という声かけを先行させ、本人が安心して話せる雰囲気を作ることが重要です。産業医が選任されている場合は産業医面談につなぐことを検討し、選任義務がない規模の企業では地域産業保健センター(無料)の活用も選択肢になります。不調が回復に向かってから、業務上の対話を再開するステップを踏むことで、問題をこじらせるリスクを大幅に下げられます。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

不調者対応を、人事だけで抱えない。

メンタル不調者面談や休職・復職対応を、1件からスポットでご相談いただけます。

詳しく見る →

人事だけで抱えない。産業医にスポットで相談
タイトルとURLをコピーしました