賞与の業績条件、就業規則にどう明文化すればいい?

賞与の業績条件、就業規則にどう明文化すればいい? 人事制度
Photo by Pavel Danilyuk on Pexels

「毎年ボーナスを出してきたけど、今期は業績が厳しい。でも就業規則には特に条件が書いていない……」。そんな状況で支給ゼロを判断しようとしたとき、従業員から「例年通り払ってほしい」と言われたら、会社はどう対応すればいいのでしょうか。賞与の業績条件が規程に明文化されていないと、善意で払い続けてきた慣行が「支給義務」として認定されるリスクがあります。この記事では、法的な背景から具体的な文例・変更手続きの手順まで、中小企業の経営者・人事担当者がすぐに実務に使えるかたちで解説します。

賞与に業績条件を設けることは法的に問題ないのか

結論から言えば、就業規則や賃金規程に業績条件を明確に定めておけば、その条件を満たさない場合に賞与を支給しないことは適法です。ただし、規程の記載が曖昧なままだと「慣行による支給義務」が生じるリスクがあります。

賞与は「賃金」だが支給義務の有無は規程次第

賞与は労働基準法第11条に定める「賃金」に該当します。しかし、毎月の給与と異なり、支給するかどうか・いくら支給するかは法律で一律に決まっているわけではありません。就業規則・賃金規程、または個別の労働契約によって決まる性質のものです。

労働基準法第89条第4号(相対的必要記載事項)は、賞与を支給する場合にはその条件・計算方法・支払時期を就業規則に記載しなければならないと定めています。「支給することがある」と書いてあるなら、支給条件も必ずセットで記載する必要があります。

「慣行による支給義務」というリスクを知る

規程の記載が「賞与は業績等を勘案して支給する」程度の曖昧なものにとどまっているケースは珍しくありません。しかし、長年にわたって毎年一定額を支給してきた実績がある場合、「賞与慣行(労働慣行)」として事実上の支給義務が生じていると判断されるリスクがあります。

裁判例でも、慣行的な賞与の支給をめぐって会社が支払義務を認められたケースが存在します。「規程に書いていないから払わなくてよい」ではなく、「規程にどう書くか」が重要なのはこのためです。

業績条件の設計パターンと文例

業績条件の設計には大きく三つのパターンがあります。自社の経営状況や従業員との関係性を踏まえて、どのパターンが実態に合うかを選ぶことが重要です。

三つの設計パターンを比較する

パターン 概要 留意点
完全不支給条件型 一定の財務指標を下回る場合は支給しない 条件の客観性・測定可能性が必要
減額連動型 業績に応じた係数(0〜1.0)を乗じる 係数の決定権・算定ルールを明示する
支給決定留保型 支給の有無・金額を毎期会社が別途決定する 柔軟性は高いが慣行積み重ねのリスクあり

「客観的な指標」で書くことが紛争防止の鍵

「業績が悪化した場合は支給しない」という抽象的な表現は、後日「その条件に当たるかどうか」で争いになる可能性があります。「会社の業績が悪い」という判断は人によって異なるため、規程としての機能を果たしません

財務指標を用いた客観的な記載が基本です。たとえば「当期の営業利益がゼロを下回る場合」「売上高が前年比80%を下回る場合」「当期純損失が生じた場合」のように、数字や財務諸表上の事実に基づいた条件を設定しましょう。

実務で使える文例

以下に、賃金規程に記載できる文例を示します。自社の実態に合わせて数値・指標を調整してご利用ください。

  • 完全不支給条件型の文例:「賞与は、原則として毎年7月および12月に支給する。ただし、支給対象期間における会社の当期純損益が損失となった場合、または会社の経営状況が著しく悪化したと取締役会が認めた場合は、支給しないことがある。」
  • 減額連動型の文例:「賞与額は、従業員ごとの基準額に、会社の業績指標(営業利益率)に応じた業績係数(0以上1.0以下)を乗じて算定する。業績係数は、毎年○月末日までに会社が決定し、従業員に周知する。」
  • 支給決定留保型の文例:「賞与の支給の有無および支給額は、支給対象期間における会社の業績・財務状況・将来見通し等を総合的に勘案し、会社が毎年○月末日までに決定する。業績その他の事情によっては支給しない場合がある。」

なお、決定権者と決定時期の明記も忘れずに。「誰が・いつ・どのプロセスで決定するか」が規程に書かれていると、従業員への説明時にも根拠を示しやすくなります。

「これまでの慣行と現在の経営状況のギャップに悩む」という相談は、中小企業から特に多く寄せられます。専門家のサポートを得ながら判断することで、手続きのミスを防げます。

既存規程を変更するときの手続きの流れ

現在の就業規則や賃金規程に業績条件を追加・変更する場合は、労働基準法が定める手続きを正しく踏む必要があります。手順を省略すると、変更自体が無効とみなされるリスクがあります。

過半数代表者の選出と意見聴取

労働基準法第90条により、就業規則を変更する際は、事業場の過半数の労働者で組織する労働組合(ない場合は過半数代表者)の意見を聴取し、意見書を添付しなければなりません。「意見聴取」であり、同意は必須ではありませんが、プロセスを省くことはできません。

中小企業では労働組合がないことがほとんどのため、過半数代表者を選出します。注意点として、使用者(経営者・管理職)が特定の人物を指名してはいけません。挙手・投票・メール投票などの方法で、従業員が自主的に選んだことを記録として残すことが重要です。

変更届の提出と従業員への周知

意見書を取り付けたら、変更後の就業規則・賃金規程と意見書を添えて、所轄の労働基準監督署に変更届を提出します。届出自体は受理されれば効力が生じますが、周知を行わなければ従業員に対して効力が及びません(労働基準法第106条)。

周知の方法としては、社内掲示板への掲示、全従業員への書面交付、イントラネットへの掲載などが認められています。変更内容と施行日を明確にした上で、従業員全員が確認できる状態にしておきましょう。

変更が不利益変更に当たる場合の追加対応

業績条件を新たに設けることや、既存の条件を従業員に不利な方向に変更することは、「不利益変更」に該当する可能性があります。この場合、労働契約法第10条により変更の合理性が問われます。

合理性の判断要素には、変更の必要性・内容の相当性・代償措置の有無・労使交渉の経緯・変更後の周知状況などが含まれます。業績悪化が明らかで経営上の必要性が高く、変更内容が必要最小限であれば合理性が認められやすくなります。一方、業績が好調な時期に「将来の備え」として一方的に不利益な条件を追加する場合は、合理性の説明が難しくなります。従業員から個別の同意書を取得できれば、より安全です。

従業員への説明で不信感を生まないために

法的な手続きを踏んでも、説明の仕方を誤ると「会社が払わない言い訳を作っている」という不信感を招きます。変更の目的と根拠を誠実に伝えることが、長期的な信頼関係の維持につながります。

「抜け道づくり」と思われないための伝え方

従業員が最も心配するのは「これまでもらえていたものがもらえなくなる」という不安です。「業績が悪いときは払わない」という条件を設けること自体が悪いわけではありませんが、その背景にある意図を正直に説明することが大切です。

たとえば、「会社が経営危機に陥った場合でも事業と雇用を守るために、規程を整備したい」「業績が良ければ今まで通り、あるいはそれ以上を還元したい」という方向性をセットで伝えると、防衛的な印象が和らぎます。条件の透明性(どの財務指標で判断するか)を示すことも、信頼感につながります。

説明の場とタイミングを設ける

変更届の提出や書面の配布だけで終わらせず、従業員向けの説明の場を設けることをお勧めします。全体説明会が難しい場合は、部門ごとのミーティングや個別面談でも構いません。質問に答えられる機会を設けることで、一方的な通知という印象を避けられます。

また、過半数代表者への意見聴取の場を形式的なものにせず、実質的な対話の機会として活用することも、後のトラブル防止に有効です。代表者から「変更の必要性は理解できる」という意見書が得られれば、変更の合理性を示す材料にもなります。

自社の状況別・対応の優先度を確認する

就業規則の整備状況や従業員数によって、今すぐ対応すべき優先度が変わります。自社のケースに当てはめて確認してみてください。

就業規則の記載状況で判断する

現在の就業規則・賃金規程に賞与の記載がまったくない場合は、まず「支給することがある」という基本条件を設け、同時に業績条件・支給時期・決定方法を新規に規定することを検討してください。新設であれば、不利益変更の問題は生じにくく(その代わり、慣行があれば別途検討が必要)、手続きも比較的シンプルです。

すでに「業績等を勘案して支給する」という曖昧な記載がある場合は、変更に当たります。長年の支給実績がある場合は慣行の有無を確認した上で、変更の合理性の説明と、場合によっては従業員からの個別同意取得を検討してください。

従業員数・組織体制で変わる注意点

常時10人以上の労働者を使用する事業場は、就業規則の作成・変更届が義務です。10人未満の場合、届出義務はありませんが、作成・整備すること自体は推奨されます。トラブル時に就業規則の存在が会社を守る根拠になります。

また、複数の事業場を持つ場合は事業場ごとに届出が必要です。本社と支店が別の労働基準監督署の管轄になっている場合は、それぞれに提出が必要になる点に注意してください。

「手続きが正しくできているか自信がない」「従業員との説明で失敗したくない」という場合は、人事労務の専門家に一度相談することで、後々のリスクを大幅に減らせます。

まとめ

賞与の業績条件を就業規則に明文化することは、会社と従業員双方にとってリスクを下げる重要な取り組みです。「支給しない可能性がある」という事実を曖昧にしたまま慣行として払い続けることが、結果的に会社の負担を増やします。条件は客観的な財務指標で定め、決定権者と決定時期を明記し、法定の変更手続き(過半数代表者への意見聴取・変更届の提出・周知)を正しく踏むことが基本です。変更が不利益変更に当たる可能性がある場合は、従業員との丁寧なコミュニケーションと個別同意の取得も検討してください。

ウェルセンス株式会社では、就業規則・賃金規程の整備や変更手続き、従業員への説明支援など、専任人事が不在でも動ける体制づくりをサポートしています。「自社の規程がこのままでいいのか確認したい」「変更の手順を一緒に整理してほしい」という段階からお気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 就業規則に「賞与は業績次第」と書いてあれば、どんな場合でも支給しなくていいのでしょうか?

A. 必ずしもそうとは言えません。「業績次第」という抽象的な記載だけでは、「業績が悪い」かどうかの判断が曖昧になり、紛争の余地が生まれます。また、長年にわたって毎年支給してきた実績があれば、慣行としての支給義務が認められる可能性もあります。「営業利益がゼロ以下の場合」など客観的な指標を用いた具体的な条件を記載することが重要です。

Q. 業績条件を新たに加える変更は、必ず「不利益変更」になりますか?

A. 従来の規程よりも従業員にとって不利な条件になる場合は、不利益変更に当たる可能性があります。ただし、既存の規程に業績条件がまったく書かれておらず、慣行も特に積み重なっていない場合は、不利益変更とみなされにくいケースもあります。自社の状況(規程の内容・支給の実績・従業員数など)によって判断が異なるため、具体的な状況を確認した上で対応方針を検討することをお勧めします。

Q. 過半数代表者を選ぶ際、社長や管理職が候補者を推薦してもいいですか?

A. 使用者側が特定の人物を指名・推薦することは適切ではありません。過半数代表者は「労働者の過半数を代表する者」である必要があり、その選出は従業員の自主的な意思によるものでなければなりません。挙手・投票・メール投票などの方法で選び、選出のプロセスを記録として残しておくことが重要です。管理監督者(労働基準法第41条第2号に定める者)は代表者になれない点にも注意してください。

Q. 賞与規程を変更した後、従業員全員から個別に同意書を取らなければなりませんか?

A. 就業規則の変更手続き(意見聴取・変更届・周知)を正しく行えば、法的には全従業員の個別同意は必須ではありません。ただし、変更が従業員にとって明らかに不利益な内容である場合、個別の同意を取得することで変更の合理性を補強できます。特に、変更内容に従業員が強い不満を持ちそうな場合や、将来的なトラブルリスクを下げたい場合は、個別同意の取得を検討してください。

Q. 従業員数が10人未満でも、就業規則の整備や変更届は必要ですか?

A. 常時10人未満の事業場は、就業規則の作成・変更届の提出義務はありません。ただし、就業規則がないと労使間の紛争が生じた際に会社の立場が弱くなります。賞与条件を明文化しておくことは、従業員数にかかわらず有効なリスク管理です。将来的に従業員が増えることを見越して、早めに整備しておくことをお勧めします。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

不調者対応を、人事だけで抱えない。

メンタル不調者面談や休職・復職対応を、1件からスポットでご相談いただけます。

人事だけで抱えない。産業医にスポットで相談
タイトルとURLをコピーしました