試用期間延長とメンタル不調が重なったときの判断に迷ったら

試用期間延長とメンタル不調が重なったときの判断に迷ったら メンタルヘルス対応
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「試用期間が来月で終わるのに、このところずっと欠勤が続いていて、仕事の評価ができていない。どうしたらいいんだろう……」そんな状況に直面している経営者・人事担当者は少なくありません。試用期間中にメンタル不調のサインが出ると、「延長してもいいのか」「配慮が足りないと訴えられないか」「そもそも何を基準に判断すればいいのか」と、複数の問題が一気に押し寄せてきます。この記事では、試用期間延長とメンタル不調が重なったときに迷わないための判断軸と手続きを、法的な根拠とともに実務目線で整理します。

試用期間延長は法的に許されるのか

結論からいえば、適切な規定と手続きがあれば試用期間の延長は合法です。ただし「試用期間中だから何でもできる」という認識は誤りで、一定の要件を満たさなければなりません。

試用期間の法的な位置づけ

試用期間中の雇用関係は、最高裁昭和48年12月12日の三菱樹脂事件判決において「解約権留保付き労働契約」と位置づけられています。つまり、採用してはいるが、本採用前の適性確認期間として使用者側に解約権が留保されているという関係です。本採用拒否(事実上の解雇)には、通常の解雇よりも広い裁量が認められていますが、それでも「客観的・合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が必要とされています。また、試用開始から14日を超えた時点で、普通解雇と同様の手続き(労働基準法第21条)が求められます。

延長に必要な3つの条件

試用期間を延長するには、次の3点が揃っていることが最低限の条件です。

  • 就業規則または雇用契約書に「延長できる旨」の規定があること
  • 延長の理由・期間・評価基準を書面で本人に明示すること
  • 本人の同意または就業規則上の根拠に基づいていること

規定がない状態で一方的に延長を通告すると、それ自体が労働トラブルの引き金になります。まず自社の就業規則・雇用契約書を確認してください。規定が存在しない場合は、延長よりも「現状のまま本採用する」か「本採用拒否を検討する」かの二択になります。

延長できる期間・回数の目安

法律に延長回数や期間の上限の明示規定はありませんが、実務上は「1回・1〜3か月程度」が適切な範囲とされています。延長を繰り返すことは、「本採用への合理的期待を侵害している」あるいは「解雇権の濫用」と評価されるリスクが高まります。「もう少し様子を見たい」という気持ちはわかりますが、2回・3回と延長を重ねることは避けるべきです。

メンタル不調を理由に延長・本採用拒否はできるのか

「メンタル不調があること」それ自体を理由にした延長・本採用拒否は、不当な扱いと判断されるリスクがあります。評価すべきは「業務遂行能力への具体的な影響」です。

何を理由にしてよいか・してはいけないか

採用判断において重要なのは、メンタル不調という状態そのものではなく、「業務遂行能力・適性・協調性などが採用時点では把握できなかった事情」として、不調による欠勤・遅刻・業務習熟の遅れが業務にどう影響しているかです。記録として残すべき事実は「何日欠勤したか」「どの業務でどのような支障が生じたか」「上司やチームへの影響は何か」といった客観的な情報です。一方、「精神的に弱い人だから」「こういう人は採用すべきでなかった」という評価は、障害者差別や不当解雇と受け取られる表現です。社内の記録や面談メモには、こうした主観的な記述を残さないよう注意してください。

診断名・受診状況をどこまで確認してよいか

本人の病名や診断内容を無理に確認することは、プライバシーの侵害や個人情報保護法違反になるおそれがあります。確認してよい範囲は、「受診しているかどうか」「就労可能かどうか(医師の意見として業務制限があるか)」にとどめることが原則です。たとえば「今の状態で通常勤務は可能ですか?もし医師から指示があれば教えてください」という聞き方は適切ですが、「診断名を教えてください」「何の病気ですか」という聞き方は避けるべきです。

安全配慮義務は試用期間中も適用される

労働契約法第5条は、使用者が労働者の生命・身体・精神の安全に配慮する義務(安全配慮義務)を定めています。この義務は試用期間中の従業員にも等しく適用されます。「まだ試用期間中だから」という理由で配慮を怠ることは許されません。不調のサインが見えているにもかかわらず何も対応しないまま就労を継続させた結果、症状が悪化した場合、企業側の責任が問われる可能性があります。評価と配慮は同時進行で行うものと理解してください。

評価と配慮を両立させる判断フレーム

「様子を見る」と「見極める」を切り分けることが、混乱を解消する鍵です。状況に応じて取るべき対応が異なります。

状況に応じた対応の分岐

以下の表を参考に、現在の状況に照らし合わせてください。

状況 優先すべき対応 注意点
欠勤・遅刻が続き、業務の習熟度が測れない 延長を検討しつつ、受診勧奨・業務軽減を並行 延長規定の有無を先に確認する
本人が不調を訴えているが出勤はできている 業務負荷の調整・面談による状況確認 診断名の確認は不要。就労可否の確認にとどめる
医師から就労制限の指示が出ている 休養・休職の検討を先行させる 試用期間の評価は事実上一時停止
業務への影響が客観的に記録されている 延長または本採用拒否の判断材料として整理 感情的・主観的な評価を記録に残さない

「配慮」と「評価」は矛盾しない

安全配慮義務を果たすことと、本採用の適性を評価することは、本来対立しません。たとえば、欠勤中に受診勧奨を行い、本人が体調を整えてから評価期間を設ける、という対応は両立しています。「配慮したら評価できない」という思い込みから、何も手を打てないまま期間満了を迎えることが最も避けるべき状況です。早めに対応の方向性を決め、記録を残しながら進めることが重要です。

判断に迷ったら専門家へ。試用期間中のメンタル不調対応は、法令遵守と従業員サポートの両立が求められます。一人で抱え込まず、早期に相談することが最善の選択肢です。

産業医・専任人事がいない企業はどうするか

産業医の選任義務は常時50人以上の事業場に課されています(労働安全衛生法第13条)。20〜50名規模の企業では産業医がいないケースも多く、専任人事もいない場合は判断が孤立しがちです。こうした場合、社会保険労務士(社労士)への相談が現実的な選択肢です。また、地域の産業保健センター(産業保健総合支援センター)では、小規模事業所向けに無料の相談・支援を提供しています。一人で抱え込まず、外部リソースを活用することが重要です。

延長通知の具体的な手順

延長を決めたら、タイミングと伝え方に注意しながら、書面での手続きを確実に進めることが必要です。後日のトラブルを防ぐための記録が最大のポイントです。

面談前に確認すること

まず最初に、就業規則と雇用契約書に延長規定があるかを確認します。規定がなければ延長は原則できません。次に、延長の理由として挙げられる客観的な事実(欠勤日数・業務遂行状況・上司からのフィードバック等)を整理します。感情的な評価ではなく、事実の記録が必要です。

面談の進め方と伝えるべき内容

本人との面談では、まず現在の健康状態と業務への影響について、責める口調ではなく状況確認として話します。そのうえで、評価期間として業務の習熟度を十分に確認できなかったこと、延長の理由・期間・評価基準を明確に伝えます。「病気だから延長する」という表現は避け、「業務遂行の確認ができていない期間があったため、評価期間を延長する」という表現にとどめることが適切です。

書面交付と記録保管

面談後は、延長の理由・延長期間・評価基準・次の判断時期を記載した書面を作成し、本人に交付して署名を取ります。この書面と面談記録は、後日の紛争に備えて保管します。なお、延長後の評価期間中も安全配慮義務は継続しており、体調の変化があれば随時面談を行い、記録を更新することが重要です。

本採用拒否を検討する場合の留意点

延長後も状況が改善せず本採用拒否を検討する段階では、客観的な記録の積み上げと法的手続きの確認が不可欠です。感情的な判断は後のリスクを高めます。

本採用拒否が認められる条件

本採用拒否は、採用時に把握できなかった事情(能力・適性・協調性など)が試用期間中に明らかになり、雇用継続が社会通念上相当でないと認められる場合に限って許容されます。具体的には「業務の習熟が著しく遅れており改善の見込みが示されない」「無断欠勤が繰り返されている」「業務指示への不対応が記録されている」といった事実の積み上げが必要です。メンタル不調の診断名を理由に挙げることは避け、業務上の影響事実だけを根拠にすることが重要です。

通知の方法と解雇予告

試用開始から14日を超えた時点での本採用拒否は、通常の解雇と同様に30日前の予告または解雇予告手当の支払いが必要です(労働基準法第21条)。通知は書面で行い、口頭だけで済ませないことが原則です。また、本採用拒否の通知後は、本人がハラスメントや不当解雇として争う可能性も念頭に置き、事前に社労士や弁護士への相談を検討することを強くお勧めします。

まとめ

試用期間延長とメンタル不調が重なったとき、最も大切なのは「評価」と「配慮」を切り分けず、両方を同時に進めることです。延長には就業規則上の根拠・書面での理由明示・本人同意が必要であり、メンタル不調「そのもの」を理由にすることは不当評価のリスクを招きます。安全配慮義務は試用期間中も等しく適用されるため、不調のサインを見落としたまま就労を続けさせることも避けなければなりません。

専任人事や産業医がいない中小企業では、こうした判断を一人で背負うことになりがちです。書面準備・手続きの進め方・法的なポイント確認など、「何から手をつけたらいいか」という段階での相談も多く寄せられています。ウェルセンス株式会社では、試用期間中のメンタル不調対応・本採用判断の整理・社内手続きのサポートまで、中小企業の人事担当者の視点に立ったご支援をしています。判断に迷ったら、ぜひ一度ご相談ください。

よくある質問

Q. 就業規則に延長規定がない場合、試用期間を延長する方法はありますか?

A. 就業規則に延長規定がない場合、一方的な延長は原則として認められません。本人と合意書を締結して個別に延長を取り決めることは現実的な選択肢の一つですが、その場合でも内容が合理的でなければ後から争われるリスクがあります。まず社会保険労務士に相談し、就業規則の整備と合わせて対応を検討することをお勧めします。

Q. 試用期間中の欠勤は「評価できなかった期間」として延長の理由になりますか?

A. なります。欠勤が続いた結果として業務の習熟度・適性を客観的に評価できなかった場合、それは延長の合理的な理由になり得ます。ただし、欠勤の背景にメンタル不調がある場合は、安全配慮義務として受診勧奨や業務軽減の対応を並行して行ったかどうかが重要です。対応の記録を残しておくことが、後日のリスク管理につながります。

Q. 本人が「延長に同意しない」と言った場合はどうなりますか?

A. 就業規則に延長規定がある場合は、本人の同意がなくても延長できる場合がありますが、その場合でも書面による理由の明示と手続きは必要です。就業規則上の根拠がなく本人も同意しない場合は、延長ではなく「本採用する」か「本採用を拒否する」かの判断に進む必要があります。本採用拒否には合理的な理由が必要であり、弁護士や社労士への相談を先に行うことを強くお勧めします。

Q. メンタル不調を抱えた従業員を本採用した後、症状が悪化した場合の対応は?

A. 本採用後に症状が悪化した場合は、休職制度の適用・業務軽減・産業医(または主治医)との連携が中心的な対応になります。休職規定が就業規則にない企業では、個別対応になりますが、その場合も安全配慮義務は変わらず適用されます。本採用後のメンタル不調対応については、休職復職支援の専門家や社労士と連携した対応体制を事前に整えておくことが、トラブルの予防につながります。

Q. 試用期間延長の通知は口頭でも問題ありませんか?

A. 口頭通知だけでは不十分です。延長の理由・延長期間・評価基準・次回の判断時期を記載した書面を交付し、本人から署名を取ることが実務上の必須対応です。口頭のみでは「延長を合意したかどうか」「どういう理由で延長したか」が後から争われた際に証明できません。書面の作成・保管は、企業側を守るための最低限の手続きです。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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