「結婚のお祝い金、いくら出せばいいんだろう」「以前とは違う担当者が対応したら金額が変わってしまった」――こうした悩みを抱える中小企業の経営者や兼務人事担当者は少なくありません。慶弔見舞金は法律上の義務ではないからこそ、規程がないまま属人的な判断で運用されがちです。しかし、それが社内の不公平感を生み、信頼を損なうリスクにつながります。本記事では、慶弔見舞金規程の作り方から金額相場、公平な運用のポイントまでを実務目線で解説します。
慶弔見舞金規程とは何か、なぜ必要なのか
慶弔見舞金の定義と種類
慶弔見舞金とは、従業員の結婚・出産などの慶事や、ご家族の死亡・本人の傷病・災害被害といった弔事・見舞い事由に対して、会社が金銭を支給する福利厚生制度です。大きく「慶事(お祝い)」「弔事(お悔やみ)」「傷病・災害見舞い」の3種類に分類されます。法律で定められた制度ではないため、支給するかどうか、金額をいくらにするかは各会社が自由に決めることができます。
規程がないと何が起きるか
規程がない状態では、支給の判断が「社長の気分」や「担当者の記憶」に依存してしまいます。たとえば、以前は父親が亡くなった際に3万円が支給されたのに、別の従業員の場合は1万円だった、というケースが実際に起こります。この種の不公平感は、当事者だけでなく周囲にも広がり、会社への信頼を静かに蝕みます。また、後から「なぜあの人とは違うのか」と問い合わせがきたとき、根拠を示せないことがトラブルの火種になりかねません。
就業規則との関係と法的ポイント
慶弔見舞金制度そのものに法的義務はありませんが、常時10人以上の労働者を使用する事業場では就業規則の作成・届出が義務づけられています(労働基準法第89条)。慶弔見舞金を設ける場合は就業規則への記載が必要となります(任意的記載事項)。また、社会通念上相当な金額であれば従業員の所得税は非課税ですが(所得税法施行令第30条)、過大な金額を設定すると給与として課税対象になる可能性があります。さらに、パートタイム・有期雇用労働者に対して正社員と不合理に異なる待遇を設けることは法律で禁止されているため(パートタイム・有期雇用労働法第8条・第9条)、雇用形態による差をつける場合は合理的な根拠が必要です。
金額相場と水準設定の考え方
中小企業における慶弔見舞金の金額の目安
慶弔見舞金の金額は会社の規模や業種によって異なりますが、中小企業における一般的な目安は以下の通りです。慶事では、本人結婚で1万〜5万円、出産(本人・配偶者)で1万〜3万円が多く見られます。弔事では、配偶者死亡で3万〜5万円、父母死亡で2万〜5万円、祖父母・兄弟姉妹死亡で1万〜3万円が一般的です。傷病見舞いでは、7日以上の入院を条件に1万〜3万円とするケースが多く、長期療養・休職に対しては1万〜2万円程度が目安となります。なお、本人死亡の場合は5万〜10万円と、他の事由と比べて高めに設定されることが一般的です。
金額設定で迷わないための原則
金額を決める際に重要なのは「少なすぎず、多すぎず、そして説明できる水準にする」ことです。まず、上記の相場を参考に自社の財務体力と照らし合わせます。次に、役職や勤続年数によって差をつけるかどうかを検討します。差をつける場合は「管理職は一般社員の1.5倍」などルールを明文化しておくことが大切です。また、金額を一度決めたら変更しにくいという性質があるため、最初から高額に設定するよりも「出せる水準から始めて必要に応じて見直す」という姿勢が現実的です。支給回数の上限(例:同一事由での重複申請は不可)も併せて明記しておくと運用がスムーズになります。
税務上の「社会通念上相当な金額」の考え方
税務上、慶弔見舞金は社会通念上相当な金額であれば従業員の所得税が非課税になります。「社会通念上相当」とは、業種・会社規模・支給事由に照らして世間一般の水準から著しく逸脱していないことを意味します。上記の相場の範囲内であれば実務上ほぼ問題ありませんが、たとえば本人結婚に50万円を支給するような場合は給与課税のリスクが生じます。不安な場合は顧問税理士に確認することをおすすめします。
対象範囲と続柄の線引き方法
基本的な対象続柄の設定
弔事見舞金の対象続柄として、最低限おさえておきたいのは「配偶者・父母・子ども・祖父母・兄弟姉妹・配偶者の父母」です。これらは多くの企業が対象としており、実務上のトラブルも比較的少ない範囲です。一方、「子どもの配偶者」「おじ・おば」「いとこ」などは対象外とするケースが多く、線引きを明確にするためにも「3親等以内の親族」などと親等で定義する方法も有効です。続柄ごとに金額を変える場合は、「配偶者死亡>父母死亡>祖父母・兄弟姉妹死亡」という序列が一般的です。
家族形態の多様化への対応
近年、事実婚・同性パートナー・ステップファミリーなど家族形態が多様化しており、旧来の「戸籍上の続柄」だけで線引きすると個別判断を迫られるケースが増えています。対応の方向性としては、「住民票上の同一世帯員」を対象に含める方法や、「会社に届出のあるパートナー」を認める方法があります。どこまで対応するかは会社の方針によりますが、判断基準を明文化しないまま放置することが最もリスクが高い状態です。規程を作る際に「個別の事情については会社と協議の上決定する」という一文を入れておくと、想定外のケースが生じたときの逃げ道になります。
慶弔休暇との連動を整理する
慶弔見舞金(金銭給付)と慶弔休暇(特別休暇)は別の制度ですが、セットで整備することで従業員にとってわかりやすい制度になります。たとえば、「配偶者が死亡した場合:忌引休暇5日・見舞金3万円」のように、同じ事由について両方を一覧で示す形式にすると問い合わせが減ります。片方だけ規程があって、もう片方がないという状態は従業員の混乱を招くため、この機会に両方を同時に整備することをおすすめします。
メンタルヘルス不調・休職者への傷病見舞金の扱い
傷病見舞金の対象にメンタルヘルス不調を含めるか
傷病見舞金の規程に「入院を要する傷病」と定めている場合、メンタルヘルス不調による休職が対象になるかどうかが曖昧になりがちです。うつ病や適応障害による休職では入院しないケースが多いため、「入院」を要件にすると実質的に除外されてしまいます。現在の医療実態を踏まえると、「30日以上の継続した療養を要する傷病」「医師の診断書を伴う休職」などの条件で定めることで、身体疾患とメンタルヘルス不調を同等に扱えます。身体疾患とメンタルヘルス不調で差をつけることは、合理的な理由がない限り従業員の不信感につながるため、避けた方が無難です。
見舞いの連絡・支給タイミングへの配慮
メンタルヘルス不調による休職者への対応では、見舞金の支給タイミングと連絡方法に細心の注意が必要です。休職直後は本人が非常に不安定な状態にあることが多く、会社からの連絡そのものがプレッシャーになることがあります。見舞金を送る際も、手紙や振込などで「急いで返信しなくていい」と伝えるなど、返答を求めない形での支給が望ましいです。また、見舞金の有無にかかわらず、休職中の連絡ルールを規程や対応マニュアルで明文化しておくことで、担当者が迷わず一貫した対応ができるようになります。
復職支援との接続を意識する
傷病見舞金はあくまで一時的な金銭的サポートですが、メンタルヘルス不調の場合は見舞金の支給にとどまらず、復職に向けたプロセス全体を設計することが重要です。見舞金規程の整備をきっかけに、休職中の連絡体制・復職判定の基準・職場復帰後のフォローアップまでを一体的に整備すると、個別対応に追われる状況から脱却できます。特に専任人事がいない中小企業では、こうした仕組みづくりが属人的な対応を防ぐ上で大きな意味を持ちます。
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慶弔見舞金規程作成の手順と運用上のポイント
規程に盛り込むべき基本項目
慶弔見舞金規程に最低限記載すべき項目は、「目的」「適用対象者(正社員・パート等の範囲)」「支給事由と金額」「対象となる続柄・親族の範囲」「申請方法と期限」「支給時期」「不正受給への対応」の7点です。特に申請期限は明記がないと「数年後に遡って請求してきた」というトラブルが実際に起きています。「事由発生から60日以内に申請すること」などと具体的に定めておきましょう。また、同一事由での重複申請の扱いや、在職中のみ支給する旨(退職後の申請は不可)も盛り込んでおくと安心です。
既存の非公式ルールとの整合性をとる
これまで都度対応してきた会社が新たに慶弔見舞金規程を作る際には、過去の支給実績との整合性に注意が必要です。「以前はもっと多かった」という認識が社内に広まっていると、新規程の金額が引き下げに見えてしまい反発を招くことがあります。規程策定前に過去の支給記録を整理し、過去の対応と大きく乖離しない水準に設定することが現実的です。もし水準を変更する場合は、事前に従業員に説明の機会を設けることをおすすめします。
定期的な見直しの仕組みを作る
慶弔見舞金規程は作って終わりではなく、定期的な見直しが必要です。社会情勢・物価水準・従業員の家族形態の変化に合わせて、少なくとも3年に一度は内容を確認しましょう。また、個別ケースで判断に迷った事例を蓄積しておくと、次の見直し時に「どこを明確にすべきか」が見えてきます。規程の改定は就業規則の変更手続きに則って行う必要があるため、改定のたびに労働基準監督署への届出(10人以上の事業場)も忘れずに行ってください。
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まとめ
慶弔見舞金規程は、「法律で義務ではないから後回し」にしがちですが、規程がないことで生まれる社内の不公平感や担当者の迷いは、思った以上に組織の信頼を損ないます。規程を整備することで、従業員は「何かあったときに会社はこう対応してくれる」という安心感を持てるようになり、担当者も根拠を持って一貫した対応ができるようになります。金額は相場を参考に自社の体力に合わせて設定し、対象続柄と申請ルールを明文化するところから始めてみてください。
ウェルセンス株式会社では、中小企業の人事労務課題に伴走する支援を行っています。「慶弔見舞金規程を作りたいけどどこから手をつければいいかわからない」「メンタルヘルス不調の従業員への対応と規程整備を同時に考えたい」という方は、お気軽にご相談ください。専任人事がいない企業でも無理なく運用できる仕組みづくりをサポートします。
よくある質問
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