「あの部署、また辞めた」——気づけば同じ部署で何人もの退職が続いている。退職届に書かれた理由は「一身上の都合」ばかりで、本当のところは何もわからない。人事専任がいない会社では、そのまま時間だけが経過してしまいがちです。
特定部署の離職率が高い状態を放置すると、残った社員への負担が増え、さらなる離職を招く悪循環に陥ります。しかし、「どこから手をつければいいか」が見えないと、動くに動けません。この記事では、原因の探り方から調査の設計、データの読み方まで、専任人事がいなくても実践できる手順を具体的に解説します。
離職率の数字を部署別に整理する
原因を探る前に、まず手元のデータを正しく整理することが出発点です。感覚的に「あの部署は辞める人が多い」と思っていても、数字で確認しなければ問題の深さが把握できません。
部署別離職率の計算方法
部署別の離職率は「年間離職者数 ÷ 期初在籍者数 × 100」で算出します。たとえば、期初に10名いた部署で年間に3名が退職したなら離職率は30%です。全社平均と比較したとき、その部署だけ突出して高い場合は構造的な問題が存在している可能性が高くなります。
離職率だけでなく「パターン」を読む
離職率の数字単体よりも、次の要素を掛け合わせてパターンを見ることが原因特定に有効です。
- 入社から退職までの期間(入社半年以内に集中しているか、3年前後が多いかなど)
- 退職者の役職・年齢層(若手ばかりか、中堅も含まれるか)
- 入社経路(求人媒体・紹介・リファラルなど)
- 退職のタイミング(特定の時期・繁忙期に重なっているか)
たとえば「入社1年以内の若手が毎年この時期に辞める」というパターンが見えれば、オンボーディングや直属上司との関係に原因を絞り込みやすくなります。
自社の規模に合わせたデータ収集の現実解
従業員20〜50名規模では、Excelで管理している在籍・退職記録から集計するだけで十分です。過去2〜3年分のデータを部署別・入社年別に整理するだけで、見えていなかったパターンが浮かび上がります。高価なHRツールを導入する前に、まず手元の記録を整理してみてください。
退職者ヒアリング(エグジットインタビュー)で本音を引き出す
退職届の「一身上の都合」は建前です。本当の退職理由を把握するには、退職後に時間差を置いた別途のヒアリングが必要です。設計次第で得られる情報の質は大きく変わります。
ヒアリングのタイミングと実施者の選び方
退職者が最も本音を話しやすいのは、退職から1〜3ヶ月が経過したタイミングです。在職中は人間関係や後ろめたさから言いにくかったことも、距離が生まれると話しやすくなります。実施者は直属上司や経営者ではなく、第三者的な立場の人物が適切です。社内に該当者がいない場合は、外部支援者への依頼も有効な選択肢です。
何を・どう聞くかの設計
ヒアリングの質問は「なぜ辞めたのか」を直接聞くのではなく、働いていた当時の状況を振り返らせる形式が効果的です。以下のような質問設計が参考になります。
| 質問の目的 | 質問例 |
|---|---|
| 職場環境の把握 | 在職中、日々の業務で困っていたことはありましたか? |
| 上司・同僚との関係 | チームや上司とのやりとりで気になることはありましたか? |
| 転職を考えた経緯 | 転職を真剣に考え始めたのはいつ頃でしたか?きっかけは何でしたか? |
| 会社への改善提案 | もし後輩が同じ職場に入るとしたら、どんなことを伝えてあげたいですか? |
また、ヒアリング前に「情報は人事改善の参考にのみ使用し、個人が特定される形では共有しない」と明示することで、個人情報保護法への配慮と回答の信頼性確保を同時に実現できます。
ヒアリング結果を記録・整理する
口頭で聞いた内容は必ず記録に残してください。「誰から・いつ・何を聞いたか」を文書化しておくと、後述する安全配慮義務(労働契約法第5条)の履行記録としても機能します。複数の退職者から同じテーマ(特定の上司の言動、業務量、評価への不満など)が繰り返し登場する場合は、それが構造的な問題を示すシグナルです。
在籍社員への調査——不満を刺激せずに現状を把握する
在籍社員への調査は「聞くことで不満が顕在化する」ことを心配する経営者が多いですが、適切に設計すれば逆に「会社が真剣に向き合っている」というメッセージになります。
パルスサーベイの基本設計
在籍者向けの調査は、短い設問(5〜10問程度)・匿名性の担保・結果のフィードバック約束の3点が成否を分けます。設問数が多すぎると回答率が下がり、匿名性が担保されていないと本音が得られません。質問例としては「業務量は適切だと感じますか」「困ったときに相談できる環境がありますか」「この職場で働き続けたいと思いますか」など、5段階評価で答えられるシンプルなものが有効です。
少人数組織での匿名性の確保
20〜50名規模では、部署単位で集計すると回答者が特定される恐れがあります。特定部署の在籍者が5名以下の場合は、全社集計のみを公表するか、外部ツールを活用して第三者が集計する形をとるほうが安全です。「会社がこの調査結果を誰かへの評価に使う」という懸念を払拭することが、正直な回答を得る前提です。
「調査したままにしない」ことが信頼につながる
調査後に結果を共有しない会社は、社員から「やはり何も変わらない」と思われ、次回以降の調査への協力率が激減します。結果のフィードバック(良かった点・課題として認識した点・今後の対応方針)を全社または部署ごとに共有するプロセスまでセットで設計してください。たとえ「まだ対応策が決まっていない」という段階でも、「現在検討中です」と伝えるだけで信頼感が大きく変わります。
調査を進める中で「対応の方向性が見えない」「ハラスメントの疑いが出た」という状況も出てくるでしょう。そうした段階でも、専門家に早めに相談することで対応の質が大きく変わります。
管理職に問題がある可能性をどう確かめるか
「あの部署の上司に問題があるのでは」という感覚はあっても、証拠なく動けないのが中小企業の実情です。ただし、調査結果が管理職の問題に行き着いた場合は、対応の義務が生じることを理解しておく必要があります。
管理職評価を間接的に把握する方法
管理職への評価を直接聞くのではなく、「チームとして困っていること」「上司に相談しやすい環境か」「フィードバックを受けている実感があるか」といった間接的な設問を通じて把握するのが現実的です。また、1on1面談を導入している場合は、その面談記録から部署ごとの傾向を読み取ることもできます。経営者が直接話を聞く場合は、「評価が目的ではなく、職場環境を改善したい」という意図を明確に伝えることが重要です。
ハラスメントの疑いが浮上した場合の法的対応
調査の過程で「特定の管理職によるハラスメントの疑い」が浮かび上がった場合は、任意の情報収集から義務的対応に切り替わります。労働施策総合推進法第30条の2(いわゆるパワハラ防止法)に基づき、事業主には相談体制の整備・調査・適切な対処の義務が課されています。この段階では外部の専門家(社会保険労務士・弁護士・産業医など)と連携しながら進めることを強く推奨します。
安全配慮義務の観点から記録を残す
離職が続く部署で在籍社員のメンタルヘルスが悪化している兆候がある場合、労働契約法第5条が定める安全配慮義務が問われるリスクがあります。調査や面談の実施記録は「義務を履行した証拠」としても機能するため、日付・実施者・内容を記録として保管しておくことが重要です。産業医が選任されている会社(従業員50名以上)であれば、産業医との情報共有も検討してください。
データと調査結果を「改善施策」につなげる判断基準
情報が集まっても、それをどう解釈して何を変えるかが最も難しい部分です。原因のカテゴリを見極め、施策の優先順位を整理することが大切です。
原因を「構造」「関係」「個人」に分類する
退職・在籍者ヒアリングで集まった情報は、大きく3つのカテゴリに分類して整理します。まず「構造的な問題」は業務量・評価制度・給与水準・役割の曖昧さなどが該当し、ルール・制度の見直しで対処できます。次に「関係性の問題」は上司との摩擦・チームのコミュニケーション不足などで、面談設計や管理職へのサポートが有効です。最後に「個人的な事情」は本人のライフイベントや志向の変化で、これは会社側が完全にコントロールできる問題ではありません。複数の退職者から同じカテゴリの問題が繰り返し挙がっている場合は、そこに構造的な原因があると判断できます。
規模別・状況別の施策の現実解
従業員20〜50名規模では、配置転換や管理職の交代が難しい場合があります。そのような状況では、管理職へのコーチング・外部研修・1on1の頻度調整など「今の体制のまま関係性を変える」アプローチが現実的な第一手です。制度変更(評価制度・給与見直し・フレックス導入など)は効果が出るまでに時間がかかるため、即効性のある関係性・コミュニケーション改善と並行して進めることが有効です。
施策の効果を測る「測定期間」の設定
施策を打ったら、6ヶ月〜1年後に離職率・満足度調査の結果・1on1での発言内容の変化などを確認します。短期間での判断は難しいですが、「何を変えて・いつ測るか」をあらかじめ決めておかないと、施策の効果検証ができません。数字だけでなく「在籍社員の表情や発言が変わったか」という定性的な変化も重要な指標です。
離職率を改善するには、調査・分析・施策・測定のサイクルを何度も回す必要があります。人事だけで抱え込まず、必要に応じて外部の専門家を巻き込むことも検討してみてください。
まとめ
特定部署の離職率が高い原因を探るには、まず部署別の離職データを整理してパターンを見ること、次に退職者への時間差ヒアリングと在籍者への匿名調査を組み合わせること、そして得られた情報を「構造・関係・個人」に分類して施策の優先順位を決めることが基本の流れです。退職届の建前を鵜呑みにせず、調査を設計し、結果を記録に残す。それだけで、問題の所在が少しずつ見えてきます。
とはいえ、「誰に聞けばいいかわからない」「ハラスメントの疑いが出てきて対応に迷っている」「調査したいが自社では進められない」という状況は、専任人事がいない会社では珍しくありません。ウェルセンス株式会社では、中小企業の経営者・兼務人事担当者の方が抱えるこうした課題に、メンタルヘルス・労務・組織改善の専門家がチームで対応しています。「まず現状を整理したい」という段階からのご相談も歓迎しています。気軽にお問い合わせください。
よくある質問
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