懲戒減給の計算方法に迷ったら確認したい法的根拠と手順

懲戒減給の計算方法に迷ったら確認したい法的根拠と手順 採用・定着
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「問題のある行為をした社員に減給処分を下したい。でも、どこまで下げていいのかわからない」——人事の専門家がいない中小企業では、こうした場面で手が止まってしまうことがよくあります。法律には上限が定められており、計算の仕方を誤ると処分そのものが無効になるリスクがあります。この記事では、労働基準法第91条の上限規定から計算式・手順まで、懲戒減給の計算方法で実務に迷いやすいポイントを整理してお伝えします。

減給の上限は法律で二重に決まっている

懲戒減給で引ける金額には、労働基準法第91条により「1回あたりの上限」と「月全体の上限」という二重の制限が設けられています。どちらか一方でも超えると、超えた部分の減給は違法になります。

1回あたりの上限

1つの違反行為に対して1回の懲戒処分を行う場合、減給できる金額は「平均賃金の1日分の半額」が上限です。平均賃金とは、直近3か月間に支払われた賃金総額をその期間の総暦日数(カレンダー上の日数)で割った金額です(労働基準法第12条)。

計算例:過去3か月の給与合計が90万円で暦日数が90日であれば、平均賃金の1日分は1万円。その半額にあたる5,000円が、1回の処分で減給できる上限額となります。

月全体の総額上限

同じ月に複数の懲戒処分が重なった場合でも、その月の賃金総額の10分の1を超えて減給することはできません。月給30万円の社員であれば、3万円が月全体の上限です。1回あたりの上限(たとえば5,000円)を複数回合算しても、この3万円の壁を越えることは許されません。複数の違反を「まとめて大きく引く」ことができないのはこのためです。

「降格による賃金変更」との違い

労働基準法第91条の上限は、あくまで「就業規則に定める減給制裁」に対して適用されるルールです。降格に伴う職位手当の変更や、業績連動型の成果給の調整は、法的には別の根拠で判断されます。ただし降格にも有効要件があり、「問題行為があったから降格させて給与も大幅カット」という対応を安易に行うと別のリスクが生じます。減給処分と降格を混同しないよう注意が必要です。

雇用形態別の平均賃金の計算式

平均賃金の計算方法は、月給制・日給制・時給制など雇用形態によって異なります。自社の社員の雇用形態を確認してから計算を始めてください。

月給制の場合

月給制の社員は、直近3か月間に実際に支払われた賃金の合計額を、その3か月間の総暦日数で割ります。賞与・臨時手当は原則として算入しません

計算例:月給30万円が3か月続いている場合、賃金総額は90万円。3か月の暦日数が91日であれば、平均賃金の1日分は約9,890円(90万円÷91日)となり、その半額の約4,945円が1回の減給上限です。

時給制・日給制の場合

時給制・日給制の場合も基本の計算式は同じです(直近3か月の賃金総額÷総暦日数)。ただし、就労日数が少ない月がある場合、計算結果が小さくなることがあります。労働基準法第12条には「最低保障額」の規定もあり、実際の計算では複数の算定方法を比較していずれか高いほうを採用するケースがあります。時給制社員への懲戒減給は計算が複雑になりやすいため、初めて適用する際は社会保険労務士に確認することをおすすめします

計算の対象になる「賃金」の範囲

平均賃金の計算に含める賃金は、基本給・役職手当・通勤手当など毎月支払われる賃金が対象です。一方、3か月を超える期間ごとに支払われる賞与や、臨時で支給された見舞金などは原則として除外します。どの手当を算入するかが曖昧な場合、計算結果に誤りが生じやすいため、給与明細の内訳を見ながら確認してください。

就業規則なしでは減給処分は原則できない

懲戒処分は、就業規則に懲戒の種類・事由・手続きが明記されていなければ、原則として有効に行うことができません。最高裁判所は2003年のフジ興産事件判決において、就業規則に規定のない懲戒処分は無効であるとの判断を示しています。

常時10人未満でも「規定なし」は危険

労働基準法第89条により、常時10人以上の労働者を使用する事業者には就業規則の作成・届出義務があります。10人未満の場合は義務がないため、「うちは小さいから就業規則はない」という会社も存在します。しかし義務がないことと、処分が有効であることは別の話です。規定なしに減給処分を行うと、後から社員に「無効だ」と主張される根拠を与えてしまいます。

既存の就業規則が古い・曖昧な場合

就業規則がある場合でも、「懲戒の規定はあるが、どんな行為がどの処分に相当するかが書かれていない」というケースがあります。この場合、比例原則(行為の重さに処分の重さが見合っているか)の判断が難しくなり、処分の相当性を争われるリスクが高まります。懲戒規定には、少なくとも懲戒の種類(戒告・減給・出勤停止・懲戒解雇など)と、それぞれに対応する行為の例を列挙しておくことが必要です。

規定を整備するタイミング

「今すぐ処分したいが就業規則が未整備」という状況で焦って規定を追加しても、その規定を今回の処分に遡及適用することはできません。まずは今回の対応を法的リスクを踏まえながら慎重に進めつつ、並行して就業規則の整備を進めることが現実的です。就業規則の変更が社員に不利益を与える内容の場合は、変更の合理性と周知が必要です(労働契約法第10条)。

⚠ 専門的な判断が必要な場面です:計算方法に自信がない、あるいは社員から異議が出る可能性がある場合は、判断を一人で抱えず、早めに社会保険労務士や弁護士に相談することで後々のトラブルを防げます。

懲戒処分が有効になるための4つの要件

減給処分を行う際は、金額の上限を守るだけでは不十分です。手続きに不備があると、金額が適法でも処分全体が無効になる場合があります。以下の4要件をすべて満たしているかを確認してください。

要件 内容
就業規則上の根拠 就業規則に定められた懲戒事由に、今回の行為が該当すること
相当性(比例原則) 行為の重大性に対して処分が重すぎず、軽すぎないこと
手続きの適正 事実確認・弁明機会の付与・書面通知を行っていること
一事不再理 同一の事由に対して二重に処分していないこと

比例原則:処分が重すぎても無効になる

懲戒処分は「戒告・譴責・減給・出勤停止・降格・諭旨解雇・懲戒解雇」という段階があります。軽微な遅刻に対して減給処分を繰り返す、あるいは初回の違反で重い処分を下すと、相当性を欠くとして無効と判断されることがあります。「今回の行為は会社にどの程度の実害を与えたか」「本人に改善の機会を与えてきたか」という視点で処分の重さを判断することが重要です。

弁明機会の付与を省略しない

処分を下す前に、本人から事情を聴く機会を設けることは手続き上の核心です。感情的に「すぐ処分したい」という気持ちが先行すると、この手順が抜け落ちがちです。弁明の機会は書面または面談で行い、その記録を残してください。弁明を聴いた結果、事実関係が変わることもあります。記録がないと、後に「弁明させてもらえなかった」と主張されたときに反論できません。

懲戒処分の実務フロー:手順と記録の残し方

懲戒処分は、決定後の通知だけでなく、その前段の事実確認から記録を積み上げていくプロセスが重要です。手順を踏んだという証跡が、後のトラブル防止につながります。

事実確認から処分決定までの流れ

まず問題行為が発生したら、関係者へのヒアリングや書類・ログなどの記録保全を行います。次に本人に弁明の機会を与え、その内容を記録します。その後、就業規則の懲戒規定と照らし合わせて、今回の行為がどの処分に該当するかを検討します。処分が決まったら懲戒処分通知書を作成し、本人に書面で交付します。最後に給与計算に反映させ、記録を保管します。

懲戒処分通知書に書くべき内容

処分通知書には、処分の種類(減給)、処分の理由(具体的な行為事実)、処分の根拠となる就業規則の条項番号、減給額と期間、処分年月日を明記します。曖昧な表現は避け、「何月何日にどのような行為があったか」という事実を具体的に記載することが重要です。感情的な表現や、事実認定として不確かな内容は含めないようにしてください。

記録の保管と一事不再理

処分に関する書類(事実確認記録・弁明記録・通知書・本人への交付記録)は、少なくとも数年間は保管しておきます。また、一度処分した事由を後に別の処分の理由として再び持ち出すことは一事不再理の原則に反します。「過去の減給処分に加えて今回も」という形で積み上げることは認められませんが、継続的な問題行為であれば、それを累積として評価する余地はあります。この判断は難しい部分があるため、専門家への確認をおすすめします。

まとめ

懲戒減給には、労働基準法第91条による「1回あたり平均賃金の1日分の半額以内」「月全体で賃金総額の10分の1以内」という二重の上限があります。金額の計算だけでなく、就業規則の整備・手続きの適正・比例原則の遵守・一事不再理という4つの有効要件をすべて満たしてはじめて処分が有効になります。「とりあえず給与を下げた」という対応は、後から無効と判断されるリスクを抱えます。

懲戒処分の判断に迷った場合、人事だけで抱え込まず専門家のサポートを受けることで、トラブル予防と適切な対応が可能になります。

ウェルセンス株式会社では、専任人事のいない中小企業の経営者・兼務担当者を対象に、就業規則の見直しや懲戒処分の進め方に関する相談をお受けしています。「まず自社の状況を整理したい」という段階からお気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 就業規則がない場合、今すぐ減給処分をすることはできますか?

A. 就業規則に懲戒の種類・事由が定められていない状態での減給処分は、最高裁判所の判断(フジ興産事件・2003年)を踏まえると原則として無効とみなされるリスクがあります。まず就業規則を整備してから処分を行うことが原則です。急ぎの場合は、法的リスクを踏まえたうえで社会保険労務士や弁護士に相談することをおすすめします。

Q. 同じ月に3回違反した場合、3回分の減給をまとめて引くことはできますか?

A. 複数回の処分を行う場合でも、その月の賃金総額の10分の1が月全体の上限です。たとえば月給30万円の社員なら、何回違反があっても同月中の減給合計は3万円までです。また、1つの行為に対して一度処分を下した後に、同じ行為を理由に追加処分することは一事不再理の原則に反します。

Q. 弁明機会は必ず書面で行わなければなりませんか?

A. 法律上、弁明機会を書面で行うことが義務付けられているわけではありません。ただし、口頭で行った場合は「機会を与えた」という事実を後から証明しにくくなります。面談を行った日時・場所・出席者・主な内容を記録として残しておくことを強くおすすめします。就業規則に手続きが定められている場合は、その規定に従ってください。

Q. 降格させて給与を下げるのと、懲戒減給は何が違いますか?

A. 懲戒減給は労働基準法第91条の上限規制が適用される懲戒処分です。一方、降格に伴う賃金変更は就業規則の職位・賃金体系の規定に基づくものであり、法的な根拠・要件が異なります。降格にも就業規則上の根拠と相当性が必要であり、「懲戒目的で降格させて大幅に賃金を下げる」という対応は、降格の有効性や権利濫用を別途争われるリスクがあります。

Q. 懲戒処分の重さはどう判断すればいいですか?

A. 処分の重さは「行為が会社や同僚に与えた実害の大きさ」「本人の故意・過失の程度」「過去の指導・処分歴」「改善の見込み」などを総合的に考慮して判断します。初回の軽微な違反に対していきなり重い処分を下すと、比例原則に反するとして無効になる可能性があります。判断に迷う場合は、社会保険労務士や弁護士に事前に相談することで、処分の相当性を確認できます。

【監修】ウェルセンス株式会社
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