退職後に本音を知っても遅い|在職中に心理的安全性で社員の声を引き出す方法

退職後に本音を知っても遅い|在職中に心理的安全性で社員の声を引き出す方法 採用・定着
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「辞めます」と言われた後、退職面談でようやく聞かされる。「実は半年前から転職を考えていて…」「チームの雰囲気がずっとしんどくて…」。その言葉を聞いて、「なぜもっと早く言ってくれなかったのか」と思った経験はないでしょうか。専任人事がいない職場では、社員の本音が見えないまま時間が過ぎ、問題が表面化するのは「退職届」か「体調不良による突然の休職」というタイミングになりがちです。この記事では、在職中に社員の本音を引き出すための心理的安全性の高め方と、小規模企業でも実践できる具体的な方法をお伝えします。

退職後にしか本音が出てこない「構造的な理由」

社員が在職中に本音を言わないのは、「信頼していないから」でも「話す機会がないから」でもなく、「話したところで何も変わらない」「言ったら評価に響く」という合理的な判断をしているためです。この構造を理解することが、改善の出発点になります。

沈黙は「満足」ではなく「あきらめ」のサイン

経営者や兼務人事担当者がよく陥る誤解が、「何も言ってこない=問題がない」という解釈です。しかし実際には、社員は声を上げる前に「言っても意味がない」と判断していることが少なくありません。過去に意見を伝えて変化がなかった経験、あるいは「あの人は文句が多い」と評価された同僚を見た経験が、沈黙の選択につながります。声が聞こえない職場は、安全な職場ではなく、声を上げることを社員が諦めた職場である可能性を疑う必要があります。

退職面談が「タテマエ」になる理由

退職面談(退職時に行う個別の意向確認)は法律上の義務ではありませんが、多くの企業が実施しています。ただし、すでに退職を決意した人が正直に話すとは限りません。「揉めたくない」「今さら話しても変わらない」「次の職場に影響するかもしれない」という心理が働き、「一身上の都合」「キャリアアップのため」という無難な言葉に落ち着きます。退職後にオフボーディング調査(退職後アンケート)を実施する企業もありますが、それは「在職中に拾えなかった声」であるという事実に変わりはありません。根本的な対策は、在職中に声を聞ける仕組みをつくることです。

問題が見える化されるタイミングが「遅すぎる」

多くの小規模企業では、社員の問題が可視化されるのが「退職届」か「突然の体調不良」という二択になっています。その手前にある段階——モヤモヤした不満、小さな疲弊の蓄積、職場への違和感——を捉える仕組みがありません。メンタルヘルスの観点からも、不調は段階的に進行します。早期に気づけば対応できる状態でも、気づいたときには休職せざるを得ない状態になっていた、というケースが中小企業でも増えています。

小規模企業で「匿名アンケート」が機能しない本当の理由

20〜50名規模の企業では、従業員アンケートを設計しても匿名性が実質的に成立しないことが多く、社員はそれを知っているため正直な回答をしません。匿名サーベイ(無記名の調査票)の代替・補完手段を考える必要があります。

少人数では「誰が書いたか」がバレてしまう

30名規模で自由記述式のアンケートを実施した場合、文体・表現・扱うテーマだけで回答者がある程度絞り込まれてしまいます。選択肢形式でも、「部署×年次×性別」を組み合わせれば、実質的に個人が特定できるケースがあります。社員側も「自分だとわかるかもしれない」と感じているため、アンケートでも無難な回答を選びます。結果として、アンケートは形骸化し、「実施したが何も変わらない」という経験が積み重なり、次回のアンケートへの回答率がさらに下がるという悪循環に陥ります。

ストレスチェックの義務範囲と小規模企業の選択肢

労働安全衛生法第66条の10に基づくストレスチェック制度は、常時50名以上の事業場に義務付けられています。49名以下の事業場は努力義務であり、実施しなくても法律違反にはなりません。ただし、50名未満でも自主的に実施することは可能であり、外部の産業保健機関やメンタルヘルス支援サービスを活用することで導入できます。産業医の選任義務がない規模の企業が実施する場合は、外部機関との連携が必要になることを覚えておいてください。

匿名サーベイに頼らない「状態把握」の視点

アンケートに限らず、社員の状態を把握する方法はいくつかあります。重要なのは「何を聞くか」ではなく、「話した結果として何が起きるか」を社員が信頼できるかという点です。ツールや仕組みを整えても、「話しても変わらない」「話したら評価が下がった」という経験が一度でもあれば、どんな手段も機能しません。次のセクションで、心理的安全性を土台にした具体的なアプローチを説明します。

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心理的安全性とは何か——誤解されやすい3つのポイント

心理的安全性とは、「チームの中で発言・質問・懸念の表明をしても、否定・罰則・不利益を受けない」という共有された信念のことです。「仲が良い職場」や「ぬるい職場」とは別物であり、率直な意見交換が生産性と定着率の両方に影響することが組織研究で示されています。

「仲が良い」と「心理的安全性が高い」は違う

チームの雰囲気が良く、表面上は笑顔が多い職場でも、心理的安全性が低いことがあります。「問題を指摘したら空気が壊れる」「ネガティブなことを言う人だと思われたくない」という抑制が働いている状態がそれです。逆に、率直に問題を話し合える職場は、一時的には摩擦が生じることもありますが、それが改善サイクルにつながります。

1on1を増やすだけでは解決しない理由

よくある誤解が「1on1(上司と部下の定期個別面談)を増やせば本音が出る」という思い込みです。1on1の頻度を増やすこと自体は有効ですが、次の3点が設計されていなければ逆効果になることもあります。

  • 誰が聞くか:直属の評価者(上司)が聞く場合、ネガティブな本音は出にくい
  • 評価と切り離されているか:「この発言が評価に影響するかもしれない」という心理が働く
  • 話した後どうなるか:「言ったが何も変わらなかった」経験があると次回から本音を話さなくなる

1on1は設計次第で非常に有効なツールになりますが、設計なしに導入するだけでは「報告・連絡・相談の場」に留まります。

「言いにくい環境」はハラスメントリスクとも連動する

本音を言えない職場環境は、メンタルヘルスの問題だけでなく、ハラスメントのリスクとも直結します。労働施策総合推進法・男女雇用機会均等法・育児介護休業法の改正により、パワハラ・セクハラ・マタハラの防止措置は従業員数を問わず全事業者に義務付けられており、中小企業への猶予期間はすでに終了しています。「声を上げられない職場」はハラスメントの温床になりやすく、それ自体が法的リスクを高めます。

在職中に本音を引き出すための実践的なアプローチ

心理的安全性を高めるために、今日から変えられることがあります。大規模なツール導入や制度整備よりも、日常の小さな行動の積み重ねが最も効果的です。

経営者・管理職が「否定しない」場をつくる

心理的安全性は、リーダーの行動によって最も大きく左右されます。社員が何か問題を指摘したとき、最初の反応が「でも」「それは難しい」「なぜそう思うの?」という否定・問い詰めになると、それ以降の発言が一気に減ります。まず「教えてくれてありがとう」「もう少し聞かせてもらえる?」という受け取り方を習慣にするだけで、場の空気は変わります。これは面談スキルの問題である前に、受け取り方のクセの問題です。

評価者でない人が話を聞く仕組みをつくる

直属の上司ではない人が話を聞く機会を設けることが、小規模企業でも有効です。たとえば、「経営者が直接、月1回、部署をまたいで社員1〜2名とランチをする」「社歴の長い社員がメンター(相談相手)になる」「外部の産業保健スタッフやキャリアカウンセラーに定期的に話せる場を設ける」などがその例です。評価と切り離された関係性がある場では、社員が本音を話しやすくなります。

「話した結果が見える」フィードバックを返す

最も重要でありながら見落とされやすいのが、「聞いた後どうしたか」を社員に示すことです。面談や対話で拾った声が、何らかの形で職場の変化につながったことを社員が確認できると、「話す意味がある」という信頼が生まれます。すべての要望に応える必要はありません。「検討した結果、今回はこう判断した」という説明をすることが、次の発言を促します。

管理職が協力的でない、社内だけでは判断しづらい……そうした場合、外部の産業保健専門家に相談することで、客観的な視点が加わります。

従業員数・状況別に見る「今すぐできる」優先施策

企業規模や現在の環境によって、取り組みやすい施策は異なります。以下を参考に、自社の状況に当てはめて優先順位を判断してください。

状況 優先して取り組むこと 補足
20〜30名・専任人事なし 経営者による月1回の個別対話(評価と切り離した場) ツール不要。まず「聞く習慣」から始める
30〜50名・1on1あり 1on1の設計見直し(評価者以外が聞く機会を追加) 話す内容の「型」を整備し、属人化を防ぐ
メンタル不調者が出始めた 外部相談窓口(EAP等)の設置・産業保健の活用 50名未満でも外部機関との連携は可能
離職が続いている 退職者への事後アンケートと在職者の状態把握を並行実施 退職後アンケートだけでは根本解決にならない点に注意
ハラスメント対応が不安 相談窓口の明示・防止措置の整備(全規模で義務) 心理的安全性の低さはハラスメントリスクと連動する

在職中の情報管理にも注意が必要

社員の不満・メンタル状態・人間関係に関して面談やアンケートで把握した情報は、個人情報保護法上の「個人情報」に該当します。収集する際には、利用目的を社員に明示すること、そして収集した情報を誰がどのような目的で使うかを明確にしておくことが必要です。「聞いた話が人事評価に使われる」という不安があると、社員は正直に話せなくなります。情報の取り扱いルールをあらかじめ示しておくことが、心理的安全性の前提条件にもなります。

社内だけで判断や運用が難しい場合、心理的安全性の診断や具体的な施策立案を外部専門家に相談することで、短期間での改善が期待できます。

まとめ

退職後に初めて知る「本当の理由」は、在職中に声を上げられる環境がなかったことのサインです。小規模企業では匿名アンケートが機能しにくく、1on1だけでは不十分なケースも多い。心理的安全性を高めるために必要なのは、高価なツールよりも、「否定しない受け取り方」「評価と切り離した対話の場」「話した後の変化を見せる」という日常の行動です。また、在職中の情報収集にはプライバシーへの配慮が必要であり、ハラスメント防止措置は従業員規模を問わず義務であることも忘れないでください。

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よくある質問

Q. 退職面談を丁寧に行えば、退職理由の本音を把握できるのでしょうか?

A. 退職面談で本音が得られるかどうかは、その社員と会社との関係性や職場への信頼度によって大きく異なります。すでに退職を決意した段階では「揉めたくない」という心理が働き、当たり障りのない回答になるケースも少なくありません。退職面談の充実は一定の意味がありますが、それだけでは根本的な解決にはなりません。在職中に話せる環境をつくることが、より重要な対策です。なお、退職面談の記録は法的義務ではありませんが、退職理由をめぐるトラブル(不当解雇の主張など)に備えて記録を残しておくことが実務上推奨されます。

Q. 従業員30名の会社でストレスチェックを実施することはできますか?

A. できます。労働安全衛生法第66条の10に基づくストレスチェック制度は、常時50名以上の事業場に義務付けられており、50名未満は努力義務です。ただし、義務対象外でも自主的に実施することは法律上問題なく、実際に取り組む小規模企業も増えています。50名未満の企業が実施する場合、産業医の選任義務がないため、外部の産業保健機関やメンタルヘルス支援サービスを活用する形になります。

Q. 社員の不満をヒアリングした内容を人事評価や処遇に使ってもよいですか?

A. 利用目的を社員に明示せずに使用することは、個人情報保護法上の問題になる可能性があります。また、仮に法的に問題がなかったとしても、「話した内容が評価に使われた」と社員が感じた場合、その後の心理的安全性は大きく損なわれます。ヒアリングや面談で収集した情報は、何のために・誰が・どのように使うかをあらかじめ社員に説明したうえで取り扱うことが、信頼の維持と法的リスクの回避の両面から必要です。

Q. 心理的安全性を高める取り組みをしたいが、管理職が非協力的な場合はどうすればよいですか?

A. 管理職の行動は、心理的安全性に最も大きな影響を与える要素のひとつです。非協力的な場合、まず経営者・人事担当者が「なぜこの取り組みが必要か」を具体的な事例(離職コスト・メンタル不調による欠勤など)を使って伝えることから始めるのが現実的です。また、管理職に「部下の本音を引き出すスキル」を研修として提供する、または外部の専門家を活用して管理職向けの面談設計を行うことも有効です。管理職への負担感が非協力の原因であれば、やり方をシンプルにする設計の見直しも検討してください。

Q. 心理的安全性を高めるために、外部の専門家に相談するメリットはありますか?

A. 社内だけで取り組む場合、経営者や人事担当者の経験や知識に左右されやすく、施策が偏ったり、効果が出にくいことがあります。外部の産業保健専門家やメンタルヘルス支援機関に相談することで、組織診断から施策設計、実行支援まで、段階的かつ客観的なアプローチが可能になります。特に管理職の意識改革が難しい場合や、改善の方向性が不明確な場合、短期間で実績を示す必要がある場合などは、外部専門家の支援が大きな効果を発揮します。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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