休職か退職か迷う従業員に会社はどう関わればいい?

休職か退職か迷う従業員に会社はどう関わればいい? 休職・復職対応
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「このまま辞めたほうがいいでしょうか」——メンタル不調を抱えた従業員からこう相談されたとき、どう答えればいいか迷った経験はありませんか。親切心から言った一言が「退職勧奨だった」と後から問題になるケースもあり、何も言えず宙ぶらりんのまま数週間が過ぎてしまうこともあります。この記事では、従業員が休職か退職かで迷っているときに、会社として取るべき中立的な対応と、法的リスクを避けながら適切に関わる方法を具体的に解説します。

「退職勧奨」と「情報提供」はどこで線引きされるのか

退職勧奨とは何か

退職勧奨とは、会社が従業員に対して「自発的に退職するよう促す行為」全般を指します。注意が必要なのは、退職勧奨それ自体は違法ではないという点です。ただし、対応の仕方によっては「違法な退職強要」と判断され、損害賠償や雇用継続を求める訴訟に発展する可能性があります。

違法性が認められやすいのは、「辞めなければ配置転換する」といった不利益をちらつかせる発言、短期間に繰り返し退職を求める行為、そして心身が不安定な状態にある従業員への勧奨です。メンタル不調の従業員は判断能力が低下していることがあり、「本人が希望した」という記録があっても、後から意思表示の無効・取り消しが認められた判例(下関商業高校事件・最高裁1980年)も存在します。

「情報を伝えること」は勧奨にあたらない

一方で、制度の説明や選択肢の提示は、適切な方法で行えば退職勧奨にはなりません。「傷病手当金という制度があります」「休職した場合、最長で○ヶ月間は在籍できます」といった事実ベースの情報提供は、むしろ従業員の自律的な意思決定を助ける行為です。

重要なのは、「この情報をもとにどうするかは、あなたが決めることです」という姿勢を言葉と態度で示すことです。情報提供の後に「だから休んだほうがいい」「正直、辞めたほうがあなたのためかも」と付け加えた瞬間、それは誘導になります。

境界線を判断する一つの基準

実務上の目安として、「会社がどちらかの選択を望んでいる」という意図が伝わってしまうかどうかを確認してください。事実の説明にとどまっており、いずれの選択肢も対等に提示されているなら、退職勧奨とは見なされにくくなります。不安な場合は、面談前に社会保険労務士に相談し、話す内容を事前に整理しておくことを強くおすすめします。

メンタル不調時の従業員相談で会社が伝えてよいこと・避けるべきこと

伝えてよい情報の具体例

従業員が迷っているときに、会社が中立的な立場から提供できる情報はいくつかあります。まず休職制度の内容です。就業規則に定めている場合、休職可能な期間・休職中の給与の取り扱い・復職の手続きといった事実を説明することは、従業員が正しい判断をするうえで不可欠な情報です。

次に傷病手当金の仕組みです。業務外の病気やケガで働けなくなった場合、健康保険から給与の約3分の2が最長1年6ヶ月支給される制度です。「こういう制度があります」と伝えることは、何ら問題ありません。また、退職した場合の雇用保険の失業給付についても、「退職を勧めているわけではありませんが、選択肢として知っておいてほしい情報として」と前置きしたうえで概要を伝えることは可能です。

絶対に避けるべき言動

反対に、次のような言葉や行動は控えてください。「このまま休職しても復帰は難しいと思う」「正直、体のために辞めたほうがいいのでは」といった発言は、たとえ本人を思っての言葉であっても、退職勧奨と受け取られるリスクがあります。

また、「どうするか決めましたか?」と短期間に複数回確認することも問題です。1週間以内に3回以上確認するような状況は、圧力と判断される可能性があります。さらに、他の従業員がいる場に休職・退職の話題を出すことも、プライバシー侵害や職場環境の悪化につながるため厳禁です。

面談時に使える言葉の例

実際の面談では、たとえば次のような言い方が参考になります。「今日は制度の説明をさせていただきますが、どちらがよいかは○○さん自身が決めることです。私たちはその決断を尊重します」——このように、会社が特定の選択を望んでいないことを最初に伝えることで、従業員も安心して話を聞ける状態になります。

本人が長期間決断できないときの対応と回答期限の設け方

「待ち続けること」の限界を理解する

「休むか辞めるか迷っています」と言ったまま2〜3週間が経過するケースは珍しくありません。その間、業務の穴埋めができず、補充採用の判断もできない会社側の困りごとは正当なものです。待ち続けることが従業員への配慮とは必ずしも言えません。適切な期限を設けることは、むしろ両者にとって健全な対応です。

回答期限の設け方と伝え方

回答期限を設ける場合、一般的には「2週間後を目安にご回答いただけますか」という形が許容範囲とされています。ただし、設定する期限が短すぎる(たとえば3日以内)場合や、「期限までに決めなければ解雇になる」といった脅迫的な文脈での伝え方は問題です。

伝え方としては、「業務の体制を整えるために、おおよそ2週間を目安にお考えをお聞かせいただけると助かります。もちろん、最終的な判断はじっくり考えていただいて構いません」のように、配慮を示しながら合理的な理由を添えて伝えることが重要です。

第三者の活用で期限設定のプレッシャーを軽減する

回答期限を直接担当者から伝えると、心理的な圧力になりやすい面があります。そこで有効なのが、産業医や社会保険労務士といった第三者を面談に介在させることです。専門家が「今の状況を整理するために、一緒に考えましょう」という形で関わることで、会社と従業員の間の緊張感を和らげながら、意思決定プロセスを前に進めることができます。

休職制度を適切に適用するために会社が知っておくべきこと

休職制度は義務ではないが、設けたら適切に使う義務がある

休職制度は労働基準法などで義務付けられているわけではなく、会社が就業規則で独自に設ける任意の制度です。しかし、就業規則に休職制度が定められている場合、それを適切に運用しない(たとえば休職を適用せずにいきなり退職を求める)と、解雇権濫用(労働契約法第16条)として無効とされるリスクがあります。

特に、メンタル不調の原因が業務にある場合(業務起因性が認められる場合)は、療養中の解雇が労働基準法第19条によって原則禁止されています。「本人が同意した退職」であっても、状況によっては後から争われる可能性があるため、慎重に対応する必要があります。

主治医・産業医の意見を記録に残す重要性

従業員が退職を希望したとしても、その時点でのメンタル状態が著しく不安定であれば、後日「あの時は正常な判断ができなかった」と主張される可能性があります。そのリスクを減らすためには、本人の同意を得たうえで主治医や産業医に判断能力の状態について意見をもらうことが有効です。

面談の記録(日時・出席者・話した内容・本人の発言)を残すこと、そして医師の意見書を保管することで、後からの争いに備えることができます。記録は「念のための証拠」ではなく、双方の安心を守るための誠実な対応です。

就業規則が古い場合はこの機会に見直しを

中小企業では、就業規則を設立時に作ったまま数年間更新していないケースが少なくありません。休職期間の長さ・休職中の給与・復職の条件などが現状に合っていないと、いざというときに従業員にも会社にも不利な状況を招きます。従業員からの相談をきっかけに、就業規則の見直しを専門家に依頼することも重要な対応の一つです。

本人の意思決定を「支援する」会社の姿勢とは

選択肢を対等に提示することが出発点

従業員が休職か退職かで迷っているとき、会社に期待されているのは「答えを教えること」ではなく、「正しい情報をもとに自分で考えられる環境を整えること」です。休職した場合に何が起きるか、退職した場合に何が起きるか、両方の情報を同じ比重で伝えることが出発点となります。

たとえば、「休職した場合、在籍は続きます。社会保険も継続で、傷病手当金を受け取ることができます。退職した場合、雇用保険の失業給付が使える可能性があります。どちらがご自身に合うかは、ぜひゆっくり考えてください」というように、会社の姿勢として「どちらでもサポートする」と示すことが信頼につながります。

感情的なサポートと実務的なサポートを分ける

人事担当者(特に兼務の場合)は、従業員の話を聞くうちに感情移入してしまい、「あなたのためを思って言うと…」というアドバイスをしてしまいがちです。しかし感情的なサポートと、制度説明などの実務的なサポートは、明確に分けて行うことが重要です。

感情的なサポートは、専門のカウンセラーや産業医が担う部分であり、人事が深く踏み込むと、かえって本人のプレッシャーになることもあります。人事担当者は「情報を正確に伝え、専門家につなぐ」役割に徹することで、トラブルを避けながら従業員への配慮も実現できます。

相談窓口につなぐことが最も安全で有効な関わり方

会社単独で全てを抱え込む必要はありません。社内に産業医がいれば面談を設定する、社外の相談窓口(EAP:従業員支援プログラム)を案内する、社会保険労務士に同席を依頼するといった対応は、会社と従業員の双方にとって最も安全で、かつ実質的な支援につながる方法です。「専門家を紹介すること」は、会社が責任を回避しているのではなく、誠実に関わっている姿勢の表れです。

まとめ

休職か退職かで迷う従業員への会社の対応は、「情報を中立的に伝えること」「記録を残すこと」「専門家に橋渡しすること」の3点が基本です。退職勧奨と情報提供の境界線は、会社がどちらかの選択を誘導しているかどうかにあります。本人の意思決定を支援する姿勢を貫くことが、法的リスクを避けながら従業員との信頼関係を守る道です。

とはいえ、「何をどこまで言えばいいか」「面談でどう話せばいいか」は、実際に状況に直面してみなければわからないことも多くあります。ウェルセンス株式会社では、専任人事のいない中小企業の経営者・人事担当者の方が直面するこうした場面に、具体的なアドバイスと実務サポートを提供しています。個別の状況について気になることがあれば、まずはお気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 従業員から「辞めたほうがいいですか?」と直接聞かれたとき、どう答えればいいですか?

A. 「どちらがよいかは私の立場からはお伝えできませんが、選択肢についての情報はお伝えできます」と答えるのが適切です。会社側がいずれかを推奨する発言は、退職勧奨とみなされるリスクがあるため避けてください。事実の説明にとどめ、最終的な判断は本人に委ねる姿勢を示しましょう。

Q. 傷病手当金や失業給付の説明をしても退職勧奨にはなりませんか?

A. 事実の説明にとどまる限り、退職勧奨にはなりません。「退職を勧めているわけではありませんが、選択肢として知っておいていただきたい情報として」と前置きしたうえで、休職した場合の傷病手当金と退職した場合の失業給付の両方をセットで説明することで、中立性を保てます。

Q. 本人が「退職します」と言ったのに、後から「辞めさせられた」と言われるリスクを防ぐにはどうすればいいですか?

A. 面談の記録(日時・出席者・発言内容)を必ず残してください。加えて、本人の同意を得たうえで主治医や産業医から判断能力の状態について意見をもらうことが有効です。退職届の受領時には「本人が自由意思で提出した」ことが客観的に確認できる状況を整えることが重要です。

Q. 決断を促すために回答期限を設けることは問題ありませんか?

A. 合理的な期限の設定は問題ありません。「業務体制の都合から、2週間を目安にお聞かせいただけますか」という形であれば許容範囲です。ただし、3日以内といった短すぎる期限、「決めなければ不利益が生じる」といった圧力を伴う伝え方は退職強要とみなされる可能性があるため避けてください。

Q. 専任の人事担当者がいない場合、どこに相談すればいいですか?

A. 社会保険労務士や産業医への相談が有効です。また、メンタルヘルス対応や休職・復職支援を専門とする外部サービスを活用することで、兼務人事担当者の負担を大幅に軽減できます。「何を言えばいいかわからない」という状況そのものを専門家に相談することが、最もリスクの少ない対応です。

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【監修】ウェルセンス株式会社
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