休職中の連絡義務、就業規則になければ強制できないのか

休職中の連絡義務、就業規則になければ強制できないのか 休職・復職対応
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「休職に入ったとたん、まったく連絡が取れなくなってしまった。状態も復職見込みも何もわからない。でも、強制的に連絡させることはできるのか……」。就業規則を見返しても、連絡義務に関する記載が見当たらない。そんな状況で、どこまで対応してよいか迷っている経営者・人事担当の方は少なくありません。本記事では、規定がない場合でも取れる対応と、正しい規定整備の手順を実務目線で解説します。

就業規則に規定がなくても連絡義務を求めることはできる

結論から言えば、就業規則に明文規定がなくても、合理的な範囲であれば休職中の社員に状況報告を求めることは可能です。ただし、「求めること」と「強制・制裁の根拠にすること」は別の話です。

労働契約上の付随義務という考え方

労働契約は単に「働いて賃金をもらう」だけの関係ではありません。民法第1条第2項に定める信義誠実の原則(信義則)に基づき、労働者は使用者との信頼関係を維持するための付随的な義務を負うと解釈されています。休職中であっても、自らの療養状況や復職見込みを会社に報告することは、この付随義務の一つとして認められる余地があります。特に、会社が復職判断や業務体制の調整を行うために情報が必要な場合は、報告の合理性がより強く認められます。

「合理的な範囲」の意味

ただし、何でも求めてよいわけではありません。「合理的な範囲」とは、主に以下のような要素で判断されます。頻度は月1回程度であること、方法は本人の負担が少ないメールや書面であること、内容は療養状況・復職見込みの確認にとどめること、の3点が実務上の目安です。「毎週電話で報告しろ」「業務の引き継ぎ内容を毎月提出しろ」といった要求は、合理的範囲を超え、場合によってはハラスメントと評価されるリスクがあります。

規定がない状態でできること・できないこと

規定なしの状態では、連絡を「お願い・依頼」として求めることはできます。一方、連絡がなかったことを理由に休職期間の利益を失わせたり、直接の懲戒処分の根拠にしたりすることは困難です。就業規則の規定は、こうした対応の根拠として機能するものであり、規定の有無が実務上の対応力に大きな差を生みます。

連絡義務の規定を就業規則に追加する方法

連絡義務を明確化するには、就業規則に条項を追加するのが最も確実な方法です。手続きには決まったルールがあり、順序を誤ると規定が無効になるリスクもあります。

変更手続きに必要な3つのステップ

労働基準法は就業規則の作成・変更に関して明確な手順を定めています。まず、変更内容の案を作成したうえで、労働者の過半数代表者(労働組合がある場合は過半数組合)の意見を聴取します。次に、その意見書を添付して所轄の労働基準監督署に届け出ます(労働基準法第90条)。そして最後に、変更後の就業規則を全労働者が閲覧できる方法で周知します(労働基準法第106条)。周知方法としては、事業場への掲示・備え付け、書面交付、イントラネットへの掲載などが認められています。

規定に盛り込むべき内容の例

実務上、以下の要素を条項に盛り込んでおくと、後々のトラブルを防ぐことができます。

  • 報告の頻度(例:毎月1回、月末までに)
  • 報告の方法(例:所定の用紙またはメールにて人事部へ提出)
  • 報告の内容(例:療養状況の経過、復職予定時期の見込み)
  • 連絡できない場合の代替手段(例:家族または主治医を通じた確認)
  • 報告義務を怠った場合の取扱い(例:休職期間の利益に関する会社の判断事由となりうる旨)

ただし、「報告しなければ即解雇」のような過度な制裁条項は、後述するように法的リスクを伴うため注意が必要です。

記載内容の社内レビューと従業員への説明

規定を追加した後は、管理職・人事担当者が内容を正しく理解していることを確認し、必要に応じて社内説明会や個別通知を行うことをお勧めします。「就業規則を変更したが、現場の上司が知らなかった」という状況は、後に連絡を求めた際の対応が一貫しなくなる原因になります。

事後に作成した規定は既存の休職者に適用できるか

就業規則の変更・周知が完了した時点から、原則として全社員に適用されます。ただし、既存の休職者への適用には一定の注意点があります。

遡及適用はしないが、以後は適用される

就業規則の変更は、変更前にすでに発生した事象(過去の無連絡期間など)に遡って適用することはできません。しかし、変更・周知の完了後に生じる状況(以後の連絡義務)については、既存の休職者にも適用されると考えるのが原則です。つまり、「規定がなかった時期の無連絡を今から問題にすることはできないが、規定整備後は連絡を求めることができる」という整理になります。

不利益変更に当たるかどうかの判断

休職中の連絡義務を新設することは、一般的に不利益変更(労働者の権利・利益を減少させる変更)には当たらないか、当たるとしても軽微と整理されやすいです。連絡義務は療養の妨げになるものではなく、療養状況の報告という合理的な義務であるためです。一方で、「連絡しない場合は休職期間の権利を失う」「連絡がない場合は自動的に退職扱いとする」といった制裁的な条項を新設する場合は、労働契約法第10条の定める変更の合理性(変更の必要性・内容の相当性・労働者への不利益の程度・交渉の経緯など)を慎重に検討する必要があります。

既存の休職者への個別通知も併せて行う

現在休職中の社員がいる場合、就業規則の変更と同時に、その社員に対して書面や郵送等で変更内容を個別通知することを強くお勧めします。「掲示したが本人は知らなかった」という状況を避けるためです。通知には「今後の連絡方法・頻度・窓口」を具体的に明記し、本人が安心して対応できるよう配慮した文面にすることが大切です。

連絡がない休職者への対応と解雇リスクの境界線

連絡義務の規定を整備した後でも、実際に連絡が取れない社員に対して何でもできるわけではありません。対応できることと、やってはいけないことを正確に把握しておくことが重要です。

段階的な催告が解雇前の前提条件

規定に基づいて連絡義務を定めていても、一度の無連絡で解雇や休職期間の打ち切りに踏み切ることは、法的に見て重大なリスクを伴います。裁判例においても、解雇有効性の判断では「使用者が催告・警告を行ったか」「段階的な指導を経たか」という点が重視されます。実務上は、書面(郵便・メール)による複数回の催告、家族や緊急連絡先への確認、主治医への照会(同意取得の範囲内)というプロセスを経たうえで、次の判断に進むことが必要です。

連絡なしを理由にした解雇の現実的なリスク

「何度催告しても連絡がない」という状況であっても、その背景にメンタルヘルス不調の悪化や入院等の事情がある場合、解雇は「不当解雇」と判断されるリスクが残ります。特に精神疾患を理由とする休職者については、裁判所が解雇を厳格に審査する傾向があります。休職満了による自然退職(就業規則に「休職期間満了後も復職できない場合は退職とする」旨の規定がある場合)は、解雇より法的リスクが低いとされますが、これも適切な判断プロセスが必要です。

連絡義務とハラスメントの境界を守るための実務原則

連絡を求めること自体が問題になるケースを防ぐために、以下の点を守ることが実務上の基本です。

項目 推奨される対応 避けるべき対応
連絡窓口 人事部門(担当者を固定) 直属の上司(プレッシャーになりやすい)
連絡頻度 月1回程度 週1回以上の高頻度要求
連絡内容 療養状況・復職見込みの確認 業務指示・業務状況の報告要求
連絡方法 メール・書面(本人の希望に合わせる) 突然の電話・自宅訪問
連絡できない場合 家族・主治医経由の確認ルートを設ける 連絡なしを即制裁事由に直結させる

企業規模・状況別の対応方針

企業の規模や現在の状況によって、優先すべき対応は異なります。自社の状況に当てはめて確認してください。

今まさに連絡が取れない休職者がいる場合

就業規則に規定がない状態で連絡が取れなくなっているケースでは、まず書面(郵便)で「状況を教えてほしい」という依頼を送ることが最初の一手です。この際、「◯月◯日までにご連絡いただけない場合は、家族の方に確認のご連絡をさせていただく場合があります」と明記しておくと、対応の根拠が明確になります。並行して、就業規則への規定追加に向けた準備を始めることをお勧めします。

常時10人以上の事業場(就業規則作成義務あり)

労働基準法第89条の規定により、常時10人以上の労働者を使用する事業場は就業規則の作成・届出が義務付けられています。休職規定および連絡義務条項が不足している場合は、速やかに補完することが必要です。規定の欠落は、トラブル発生時に会社側の不利に働く可能性があります。

常時10人未満で就業規則を整備していない場合

就業規則の作成義務は発生しませんが、休職に関するルール(休職事由・期間・連絡義務・復職手続き・満了時の取扱い)を書面(雇用契約書・労働条件通知書・別途の休職規程等)で整備しておくことを強くお勧めします。特に今後も成長・採用を続けるのであれば、早期の整備が経営リスクの軽減につながります。

まとめ

就業規則に連絡義務の規定がなくても、信義則に基づき合理的な範囲で休職者に状況報告を求めることは可能です。ただし、不履行を制裁の根拠にするには規定の整備が不可欠です。規定を追加する際は、意見聴取・届出・周知という手続きを正しく踏み、既存の休職者には個別通知を行いましょう。連絡が取れない状況への対応は段階的に行い、頻度・方法・窓口を適切に設定することでハラスメントリスクも回避できます。

「うちにはまだ規定がない」「今まさに連絡が取れない休職者がいる」という場合は、判断を誤るとトラブルが大きく拡がる可能性があります。一人で対応を判断するのではなく、メンタルヘルスと人事労務の双方に知見を持つ専門家に相談することをお勧めします。ウェルセンス株式会社では、休職・復職対応の実務支援や就業規則の整備に関するご相談を受け付けています。

よくある質問

Q. 就業規則に連絡義務の規定がない状態で、休職者に毎月の報告を求めることはできますか?

A. 合理的な範囲(月1回程度、メールや書面で療養状況を確認する程度)であれば、明文規定がなくても労働契約上の付随義務として求める余地があります。ただし、連絡がなかったことを制裁の直接根拠にすることは困難です。規定の整備と合わせて対応することをお勧めします。

Q. 休職が始まった後から就業規則に連絡義務を追加した場合、その社員にも適用されますか?

A. 変更・周知が完了した時点以降については適用されます。ただし、変更前の期間の無連絡に遡及して制裁を与えることはできません。既存の休職者には個別書面で変更内容を通知し、今後の連絡ルールを明確に伝えることが大切です。

Q. 連絡を求めることがハラスメントにならないようにするには、どうすればよいですか?

A. 連絡の窓口を直属上司ではなく人事担当者に設定すること、頻度は月1回程度にとどめること、業務に関する指示・情報提供はしないこと、の3点が基本です。また、連絡方法は本人の希望に合わせ(メール・書面等)、突然の電話や自宅訪問は避けてください。

Q. 何度連絡しても返答がない場合、解雇できますか?

A. 複数回の書面による催告・家族への確認・主治医への照会(同意の範囲内)という段階的なプロセスを経ても連絡が取れない場合でも、解雇には慎重な対応が求められます。特にメンタルヘルス不調が背景にある場合は、裁判所の審査が厳しくなる傾向があります。就業規則に休職期間満了による退職規定が整備されている場合は、そちらの適用を検討することが現実的です。個別の状況によって判断が異なるため、専門家への相談をお勧めします。

Q. 従業員が10人未満で就業規則がない場合、休職中の連絡ルールはどうやって定めればよいですか?

A. 就業規則の作成義務(労働基準法第89条)は常時10人以上の事業場に発生しますが、10人未満でも休職に関するルールを雇用契約書や別途の休職取扱い規程として書面で整備することができます。休職期間・連絡義務・復職手続き・満了時の取扱いを明文化しておくことで、トラブルを予防できます。規程の作成方法についてはご相談ください。

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【監修】ウェルセンス株式会社
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