採用選考で信用情報は確認できる?法的範囲と代替策

採用選考で信用情報は確認できる?法的範囲と代替策 コンプライアンス
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「経理担当を採用したいが、借金を抱えている人に現金管理を任せて大丈夫だろうか」——経営者や兼務人事担当者の方から、こうした相談を受けることがあります。不安の気持ちは当然ですが、その対処法として「信用情報を調べる」という方向に踏み込もうとすると、思わぬ法的リスクを招く可能性があります。この記事では、採用選考における信用情報確認の法的な限界を整理したうえで、中小企業でも実践できる代替策を具体的にご紹介します。

採用選考で信用情報を確認することは原則できない

結論から述べます。採用企業が応募者の信用情報(クレジットスコアや借入履歴)を採用目的で照会することは、制度上・法律上の両面から原則として不可能です。

信用情報機関への照会は制度上できない

CIC・JICC・全国銀行個人信用情報センターといった信用情報機関は、貸金業者・クレジット会社・銀行等の会員事業者が、与信審査や貸付管理のためにのみ利用できる仕組みです。一般の事業会社が採用目的で加盟・照会することは、制度設計上そもそも想定されていません。「費用を払えば調べられる」と誤解されることがありますが、採用企業には照会資格がなく、実務上も利用できません。

個人情報保護法が適用される

信用情報は「個人信用情報」として個人情報保護法の保護対象です。本人の同意なく第三者が取得・利用することは違法となります。ただし、「本人に同意書にサインしてもらえばいいのでは」と考える方もいますが、これも正確ではありません。個人情報保護法では、本人同意があっても利用目的が社会通念上不合理・不当であると判断される場合は問題となりえます。採用選考という目的のために信用情報を取得することは、「必要最小限の情報収集」とは言い切れず、同意取得のみで合法化されるとは考えにくい状況です。

職業安定法による制限もある

職業安定法第5条の4では、採用選考目的で取得できる個人情報は「職業紹介、労働者の募集または求人の申込みに必要な範囲内」に限定されています。信用情報はこの「必要な範囲」に含まれるとは認められにくく、取得すること自体が法令違反となるリスクがあります。

公正採用選考の観点から「経済状況」の調査は禁止対象に近い

信用情報の問題は個人情報法制だけにとどまりません。厚生労働省が定める「公正な採用選考の基本」の観点からも、応募者の経済状況を調査することには重大なリスクがあります。

「本来自由であるべき事項」の調査は禁止されている

厚生労働省は採用選考において、「本来自由であるべき事項」の調査を禁じています。これには思想・信条・家族状況などに加え、「経済状況・生活環境・借金の有無」なども含まれると解釈されます。金融職・経理職への採用であっても、業務上の必要性を理由に応募者の経済状況を調査することが、公正採用選考の原則を逸脱するリスクがある点を認識しておく必要があります。

債務整理・自己破産歴を理由にした不採用は慎重な判断が必要

官報に掲載される自己破産情報は公開情報ですが、これを採用選考の判断材料として利用することは、「本来自由であるべき事項の調査」として問題視される可能性があります。「公開されているから使ってよい」という判断は成り立ちにくく、不採用理由として使用した場合に差別的選考と認定されるリスクがあります。生活保護受給歴については、採用選考における利用は公序良俗・法令の趣旨に照らして問題となる可能性が高く、取り扱いには特に注意が必要です。

バックグラウンドチェックで合法的に確認できる範囲

採用選考における信用情報の取得はできませんが、バックグラウンドチェック(身元調査)として合法的に確認できる情報は存在します。民間の調査会社を利用する場合も、その範囲を正確に理解したうえで依頼することが重要です。

確認できる情報と確認できない情報の区別

確認できるもの(例) 確認できないもの(例)
職歴・学歴の事実確認(本人同意前提) 信用情報・クレジットスコア
資格・免許の事実確認 債務整理・自己破産歴(官報情報の選考利用は慎重に)
前職の在籍確認(本人同意前提) 生活保護受給歴・医療情報
公開されている裁判記録の一部 思想・信条・家族の個人情報

本人同意の取り方と手続きの整備

バックグラウンドチェックを実施する場合、応募者から明確な同意を取得することが前提です。同意書には「何を調査するか」「誰が調査するか」「結果をどのように利用するか」を具体的に明記する必要があります。曖昧な包括的同意では後日トラブルになる可能性があるため、確認項目ごとに明示した同意書の作成が望ましいです。また、採用選考に関係しない情報(家族の個人情報など)の調査は、同意を取得しても違法となりえる点に注意してください。

民間バックグラウンドチェックサービスの利用上の注意

民間の調査会社に依頼する場合も、信用情報の照会は対象外です。「身元調査」という名目であっても、信用情報機関のデータを取得できるサービスは存在しません。もし「信用情報も調べられます」と謳うサービスがあれば、その適法性を慎重に確認してください。合法的なバックグラウンドチェックの範囲は、基本的に職歴・学歴・資格の事実確認と在籍確認に限られます。

採用プロセスに関する法的な判断が難しい場合や、複数の職種で対応方針を統一したいときは、専門家に相談することをお勧めします。

信用リスクが心配な職種への対策は「採用後の管理」にある

経理職・財務職で信用リスクを懸念する経営者の気持ちは理解できます。しかし、採用前に信用情報を調べることが法的に困難である以上、信用リスク管理の本質的な対策は「採用後の内部管理体制の整備」に移行すべきです。

内部牽制の仕組みを作る

中小企業で不正が発生しやすい理由のひとつは、一人の担当者が現金管理・帳簿記帳・承認をすべて担う「一人経理」状態にあることです。業務分掌(役割の分離)を設け、現金の出納と帳簿記録を別の担当者が行う、一定金額以上の支出には経営者や別の担当者の承認を必要とするなどの仕組みを整えることで、不正が発生しにくい環境を作れます。従業員が少ない場合でも、経営者自身が月次で通帳残高と帳簿を照合するだけで牽制効果は大きく変わります。

採用選考で見極めるべき適性とは何か

信用情報の代わりに採用選考で重視すべきは、応募者の「誠実さ」「コンプライアンス意識」「業務上の判断基準」です。面接では、過去にミスやトラブルを経験したときにどのように対処したか、不正を目撃したときにどう行動するかといった行動面接(コンピテンシー面接)の手法が有効です。また、試用期間中に少額の現金管理から始めて実際の業務姿勢を観察することも、実践的な見極め手段となります。

損害保険や誓約書による事後リスク管理

採用後の横領・不正リスクに備えるもうひとつの方法として、「身元保証書」の取得や「業務上の誠実義務に関する誓約書」の整備があります。また、企業向けの「従業員不正担保特約」付きの損害保険(いわゆる盗難保険や賠償責任保険の一種)も存在します。完全にリスクをゼロにすることはできませんが、発生した場合の被害を最小限に抑える仕組みとして検討に値します。

中小企業が今すぐ取り組める採用プロセスの整備

法的なグレーゾーンを避けながら適切な採用選考を行うためには、プロセス全体の整備が必要です。専任人事がいない中小企業でも実践できる手順を整理します。

採用選考の目的に合った情報収集の基準を作る

採用時に確認してよい情報は、「その職務を遂行するために本当に必要な情報か」という基準で判断します。経理職であれば、簿記の知識・実務経験・前職での職務内容が直接関係する情報です。家族構成・現住所の詳細・借入の有無などは、職務遂行能力とは直接関係しないため、確認することのリスクが高くなります。この基準を社内で文書化しておくことで、採用担当者が変わっても一貫した対応が可能になります。

応募書類・面接で確認できる範囲を整理する

履歴書・職務経歴書に記載されている情報の確認は適法です。ただし、面接での質問内容には注意が必要です。「結婚の予定はありますか」「家族に借金がある人はいますか」「住宅ローンはありますか」といった質問は、公正採用選考の観点から避けるべき質問として厚生労働省が明示しています。質問すること自体がコンプライアンス上の問題となりえるため、面接で使用する質問リストを事前に整備しておくことをお勧めします。

まとめ

採用選考において応募者の信用情報・クレジットスコアを確認することは、信用情報機関の制度上の制約、個人情報保護法、職業安定法、公正採用選考の原則のいずれの観点からも、原則として認められていません。「本人同意があれば問題ない」という理解も正確ではなく、取得目的そのものが問題視される可能性があります。金融職・経理職の採用で信用リスクを懸念する場合、採用前の調査よりも、採用後の業務分掌・内部牽制・誓約書・損害保険といった管理体制の整備が、法的にも実務的にも有効な対策です。

採用プロセスや採用後の労務管理について「何が合法で何がリスクなのか整理したい」とお考えであれば、ウェルセンス株式会社にご相談ください。専任人事のいない中小企業の経営者・兼務人事担当者の方の実情に合わせて、具体的な対応の整理をサポートしています。人事の課題は経営者お一人で抱え込まず、必要な場面で専門家を頼ることが、結果として会社を守ることにつながります。

よくある質問

Q. 経理職の採用なら、業務上の必要性から信用情報を調べることは認められますか?

A. 認められません。信用情報機関(CIC・JICCなど)への照会は、貸金業者やクレジット会社など特定の会員事業者のみが与信目的で行えるものです。採用目的での照会は制度上できず、業務上の必要性があっても例外とはなりません。採用後の内部管理体制を整えることが適切な対策です。

Q. 応募者が自己破産していることを知った場合、それを理由に不採用にしてもよいですか?

A. 慎重な対応が必要です。官報に掲載される自己破産情報は公開情報ですが、これを採用選考の判断材料とすることは、厚生労働省が定める「本来自由であるべき事項の調査」に該当し、差別的選考とみなされる可能性があります。不採用理由として明示することはリスクが高く、採用の可否は職務遂行能力・適性に基づいて判断することが原則です。

Q. 民間のバックグラウンドチェックサービスを使えば信用情報を調べてもらえますか?

A. 合法的なバックグラウンドチェックサービスでは、信用情報の照会は対象外です。これらのサービスで確認できるのは、主に職歴・学歴・資格の事実確認と前職の在籍確認(いずれも本人同意前提)に限られます。「信用情報も調べられます」と案内するサービスがあれば、その適法性を慎重に確認することをお勧めします。

Q. 採用後に経理担当者による横領が発覚した場合、会社としてどのような対応が必要ですか?

A. 事実確認・証拠保全・弁護士への相談・警察への被害届の提出・就業規則に基づく懲戒処分・損害賠償請求の検討が主な対応となります。対応を円滑に行うためには、就業規則に横領を含む懲戒事由が明記されていること、身元保証書を取得していること、業務分掌による内部牽制が事前に整備されていることが重要です。事後対応だけでなく、採用前から管理体制を整えておくことが被害を最小化するポイントです。

Q. 採用面接で「借金がありますか」と質問することは問題ありますか?

A. 問題があります。厚生労働省の「公正な採用選考の基本」では、経済状況・生活環境・家族の状況など「本来自由であるべき事項」の調査を禁じており、借金の有無に関する質問はこれに該当すると解釈されます。質問すること自体がコンプライアンス違反となりえるため、面接で使用する質問リストを事前に整備し、職務遂行能力・適性に関係する質問のみに絞ることをお勧めします。

【監修】ウェルセンス株式会社
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