評価が高いのに昇給できない理由、どう説明すればいい?

評価が高いのに昇給できない理由、どう説明すればいい? 人事制度
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「今年も高評価だったのに、なぜ給与が上がらないんですか?」——こんな言葉を社員から受けたとき、うまく答えられなかった経験はありますか。評価した側に悪意はない。業績の事情もある。なのに、説明しようとすると言葉に詰まってしまう。その多くの場合、根本原因は「評価と昇給をつなぐ明確なルールが制度として存在していない」ことにあります。この記事では、説明できない構造的な理由を整理したうえで、評価と昇給の連動ルールをどう設計し、社員に説明するかを実務的に解説します。

「説明できない」のは、評価と昇給の連動ルールが制度化されていないから

高評価なのに昇給できない理由を社員に説明できない根本原因は、評価制度と昇給制度が制度として連動していないことにあります。感情論や言い訳に聞こえてしまうのは、説明者の言葉の問題ではなく、評価と昇給の連動ルールに制度的な裏付けがそもそも存在しないからです。

評価シートはあるが、昇給ルールが書面化されていない

多くの中小企業では、人事評価のシートや評価基準は整備されていても、「A評価ならいくら昇給する」という評価と昇給の連動ルールが書面化されていません。評価の結果と昇給額の決定が経営者の裁量に委ねられているため、社員側からは「評価されたはずなのに、なぜ?」という疑問が生まれます。この状態では、どれだけ丁寧に説明しようとしても、制度上の根拠として示せるものがありません。

「昇給原資」の概念が社員に共有されていない

昇給原資とは、会社が1年間に昇給のために使える予算総額のことです。業績が厳しい年はこの原資が限られるため、高評価でも昇給ゼロになる場合があります。しかし多くの企業では、この概念を社員に説明する習慣がありません。「業績が悪いから」という口頭説明だけでは、社員には言い訳にしか聞こえず、制度的な理由として機能しません。昇給原資の考え方を事前に仕組みとして周知しておくことが、説明力の土台になります。

評価面談での口頭フィードバックが昇給期待権を生んでいる

評価面談で「よく頑張ってくれている」「評価は高い」と口頭で伝えた言葉は、社員の中で「だから昇給があるはず」という合理的な期待を形成します。法的にも、継続的な評価フィードバックや雇用慣行によって昇給への期待権が生じている場合、それを裏切ることはトラブルリスクにつながります(労働契約法第3条参照)。評価と昇給が別のプロセスであることを、毎回の面談で明示するルールが必要です。

評価と昇給の連動ルールは就業規則への明文化が出発点

昇給基準は、就業規則・賃金規程に記載することで初めて「制度上の理由」として社員に示せる根拠になります。法令上の義務と実務上の効果の両面から、明文化の意義を理解しておきましょう。

就業規則への明文化は法的義務

常時10名以上の労働者を使用する事業場では、就業規則の作成と労働基準監督署への届出が義務付けられています(労働基準法第89条)。賃金の決定・計算・支払方法は「絶対的必要記載事項」であり、省略できません。ただし、「評価に基づき昇給する場合がある」程度の記載では評価と昇給の連動ルールの根拠になりません。昇給の基準・条件・上限・原資制限による例外など、具体的な枠組みを賃金規程に落とし込むことが必要です。

従業員10名未満でも、書面化は有効

従業員が10名未満の場合、就業規則の作成義務はありません。しかし、昇給ルールを書面化して社員に配布・説明しておくことは、トラブル防止と社員の納得度向上に大きく機能します。規模にかかわらず、「口頭のみ」の運用からの脱却が第一歩です。

「絶対評価」と「相対配分」の二層構造を制度として明示する

評価を絶対評価(個人の目標達成度)で行い、昇給は原資を前提とした相対的な配分で決める運用は、多くの企業で実態として行われています。問題は、この二層構造を制度として明示していないことです。「評価は個人の達成度で決まる」「昇給額は評価結果と原資総額の両方で決まる」という構造を、賃金規程や説明資料に書き込んでおくことで、高評価でも昇給が限定される理由を制度として説明できます。

評価と昇給の連動ルールを実務的に設計する

評価と昇給を連動させる仕組みを設計するには、まず「昇給の種類を整理する」ことから始めます。基本構造を明確にしたうえで、自社の規模・実態に合ったルールを組み立てましょう。

昇給の種類と役割を整理する

種類 内容 中小企業での実態
定期昇給(定昇) 年齢・勤続年数に連動した自動昇給 導入していない企業が多い
査定昇給(考課昇給) 評価結果に連動した昇給 制度化せず裁量で運用しているケースが多い
ベースアップ 全社員の賃金水準を一律に引き上げる措置 業績連動で実施・非実施が変わる

中小企業では、この3種類が混然一体となって「昇給」と呼ばれているケースが大半です。どの昇給をどのルールで決めるかを分けて設計することが、説明可能な評価と昇給の連動ルール設計の出発点になります。

昇給原資の決め方と分配ルールを制度化する

昇給原資を「前年度の人件費総額の何パーセントを上限とする」「営業利益が一定水準以上の場合に設定する」など、客観的な基準で決めるルールを設けます。このルール自体を社員に周知しておくことで、「原資がない年は全員の昇給が限定される」という事実を制度として伝えられます。原資が決まった後の分配についても、「評価ランクごとの配分比率」を設計しておくと、個別説明の際の根拠として機能します。たとえば、評価S・A・B・C・Dに対してそれぞれ原資の何割を配分するかをルール化しておく方法が実務では用いられています。

賃金規程への明文化と社員への周知で完成させる

設計したルールは、賃金規程に記載したうえで、社員向けの説明資料(概要版)を別途作成して配布・説明することが重要です。賃金規程は法的根拠、説明資料は理解促進のツールと位置づけ、両輪で整備します。社労士に依頼する際は「評価連動の昇給ルールを賃金規程に明文化したい」「原資制限の条項も入れたい」と具体的に伝えると、スムーズに対応してもらえます。

社員への説明をプロセス化する

制度を整えたうえで、個別の説明面談をどう進めるかが社員の納得度を左右します。伝える順序と言葉の選び方に、明確な型を持つことが大切です。

評価フィードバックと昇給通知を分ける

評価面談と昇給額の通知を同じ場で行うと、評価結果と昇給額が直結しているように受け取られ、金額への不満が評価への不満に転化しやすくなります。評価面談では「あなたの達成度と行動評価の結果」を伝え、昇給通知は別の機会(または別の書面)で「制度上の決定として」伝える構造にすることで、二つの話が混在するリスクを減らせます。評価面談の場では毎回「評価結果は昇給の一要素であり、昇給額は原資と配分ルールに基づいて別途決定されます」と書面を用いて説明するプロセスを制度として組み込みましょう。

昇給が限定される年の説明方法

昇給が限定される年の説明は、次の順序で伝えると論理的に整理されます。まず「今年の昇給原資の状況(制度に基づく客観的事実)」を伝え、次に「あなたの評価は高く、配分上の優先度は高い」という個人への評価を伝え、最後に「原資の範囲内での昇給額(または今年はゼロである理由)」を説明します。感情的な謝罪から始めると「言い訳」に聞こえやすく、制度上の事実から入ることで「ルールに基づく決定」として受け取られやすくなります。

社員からの横比較質問への対応

昇給した社員としなかった社員が混在するとき、比較への質問は避けられません。この場合、個別の昇給額は開示しないことを原則としながら、「配分は評価ランクと原資ルールに基づいて行っており、同じルールをすべての社員に適用しています」と制度の一貫性を伝えることが基本方針になります。評価と昇給の連動ルールが明文化されていれば、「制度を見てもらえれば根拠がわかる」と示せるため、説明者個人への不信に転化しにくくなります。

昇給が限定される状況が続く場合のリスクとフォロー策

高評価なのに昇給できない状態が続くと、優秀な社員のモチベーション低下と離職リスクが高まります。昇給以外の方法で「評価されている実感」を届けることが、関係性維持に不可欠です。

金銭以外で評価を可視化する方法

昇給原資が限られる局面では、評価の高さを金銭以外の形で示すことが有効です。具体的には、重要プロジェクトへのアサイン、役職・職位の見直し、社内表彰、研修・資格取得支援などが挙げられます。これらは「あなたを評価している」という意思表示として機能し、昇給がない事実と並立して伝えることができます。ただし、これらを「昇給の代替」として提示すると不満を生むことがあるため、「評価に対する別の形での応答」として位置づけることが重要です。

将来の昇給見通しを具体的に伝える

「今年は原資がないが、来年の業績目標が達成されれば昇給を検討する」という見通しを、できる限り具体的な条件とセットで伝えることが、社員のモチベーション維持につながります。「期待している」という言葉だけでなく、「何の条件が満たされれば昇給が実現するか」を示すことで、社員は将来への道筋を見いだせます。これを口頭で終わらせず、面談後に確認メモや個別の目標設定シートに記録しておくことで、双方の認識齟齬を防げます。

メンタルヘルスへの影響を見落とさない

昇給が期待通りにならなかった社員は、不満や失望からモチベーションの低下だけでなく、職場への心理的安全性の喪失やストレス増大につながることがあります。特に高いパフォーマンスを発揮してきた社員ほど、報われない感覚が強くなりやすい傾向があります。制度説明と並行して、上司からの継続的な1on1や、必要に応じた相談窓口の案内など、メンタル面のフォロー体制を整えておくことが、離職防止と職場環境の維持に直結します。

まとめ

「高評価なのに昇給できない」理由をうまく説明できないのは、評価と昇給の連動ルールが制度として整備されていないことが根本原因です。解決の糸口は、昇給原資の設定ルール・評価連動の配分基準・例外条項を賃金規程に明文化し、社員への周知と評価面談のプロセスを制度として整えることにあります。法令上(労働基準法第89条)の記載義務を満たしながら、社員が「制度のルールとして理解できる」状態を作ることが、説明力と社員の納得度の両方を高める正攻法です。

ウェルセンス株式会社では、人事制度が整備されていない中小企業の経営者・兼務人事担当者の方々からのご相談に対応しています。「何から手をつければいいかわからない」という段階からでも、一緒に整理いたします。評価と昇給の連動ルール設計について、気軽にお声がけください。

よくある質問

Q. 評価と昇給の連動ルールを整備するには、どこから始めればよいですか?

A. まず現状の賃金規程を確認し、「昇給の基準・条件・上限」が明記されているかをチェックすることから始めましょう。記載がない、あるいは「場合がある」程度の記述しかない場合は、社労士と連携して昇給原資の設定ルールと評価連動の配分基準を賃金規程に書き込む作業が必要です。社労士に依頼する際は「評価連動の昇給ルールを明文化したい」「原資制限の条項も必要」と具体的に伝えると対応がスムーズです。

Q. 従業員が10名未満でも昇給ルールの書面化は必要ですか?

A. 法的な就業規則の作成義務は常時10名以上の事業場に発生しますが、10名未満でも昇給ルールを書面化して社員に配布・説明しておくことは、トラブル防止と社員の納得度向上に有効です。口頭のみの運用は期待値のずれを生みやすいため、規模にかかわらず書面化を推奨します。

Q. 昇給しないこと自体は違法になりますか?

A. 昇給しないこと自体は原則として違法ではありません(労働契約法第3条)。ただし、継続的な評価フィードバックや雇用慣行によって合理的な昇給期待権が生じていると判断される場合は、トラブルリスクが高まります。特に「高評価」を明示した後に昇給ゼロとなるケースは注意が必要です。制度的な根拠を整備し、評価と昇給が別プロセスであることを事前に明示しておくことがリスク低減につながります。

Q. 「他の人は昇給したのか」と社員に聞かれたとき、どう答えればよいですか?

A. 個別の昇給額は開示しないことを原則としながら、「全社員に同一の配分ルールを適用している」という制度の一貫性を説明することが基本方針です。評価と昇給の連動ルールが賃金規程に明文化されていれば、「制度に基づく判断である」と示せるため、説明者個人への不信ではなく制度上の決定として受け取られやすくなります。感情的に個別対応するのではなく、制度を根拠とした説明ができる状態を先に整えておくことが重要です。

Q. 昇給できない状況が続いて社員が落ち込んでいる場合、どうフォローすればよいですか?

A. 昇給以外の方法で「評価されている実感」を届けることが有効です。重要プロジェクトへのアサイン、役職・職位の見直し、研修支援などを制度として整備し、「評価に対する別の形での応答」として伝えましょう。また、将来の昇給実現につながる具体的な条件を面談で示し、記録として残すことが信頼維持につながります。モチベーション低下が長引くようであれば、1on1の頻度を増やすなどメンタル面へのフォローも並行して行うことをお勧めします。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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