退職者の無申告バイトで会社も責任を問われる?

退職者の無申告バイトで会社も責任を問われる? コンプライアンス
Photo by RDNE Stock project on Pexels

「うちの元社員が、失業給付をもらいながらアルバイトをしていたらしい」——そんな話を耳にしたとき、経営者や人事担当者が真っ先に感じるのは「まさか自社まで調査が来るのでは?」という不安ではないでしょうか。退職者本人の問題であっても、離職票を作成したのは会社です。記載内容に少しでも曖昧な点があれば、思わぬ形で責任を問われるリスクがあります。この記事では、元従業員の雇用保険不正受給に会社がどこまで巻き込まれうるのかを、法的根拠をふまえて整理します。

まず知っておきたい「不正受給の責任は誰が負うか」

結論から言えば、退職者が雇用保険の受給中に無申告でアルバイトをした場合、責任を負うのは原則として元従業員本人です。ただし、会社側の書類作成や対応に問題があった場合には、例外的に連帯責任が生じます。

不正受給の主体は元従業員個人

雇用保険法第10条の4では、不正受給が発覚した場合に受給者本人に対して「受給した給付金の返還」「返還額に加えて最大2倍の納付(合計最大3倍)」を命じることができると定められています。受給中のアルバイト就労を認定日にハローワークへ申告しなかった行為は、元従業員個人の義務違反です。この時点では、会社には直接の法的責任は発生しません。

会社が連帯責任を問われる例外的なケース

雇用保険法第10条の4第2項は、事業主が「虚偽の届出・証明・申告」を行い、不正受給に加担・加功したと認められた場合に、事業主も連帯して返還・納付を命じられると定めています。退職者の無申告バイトで会社が責任を問われるのは、具体的には次のような行為が該当する場合です。

  • 離職票(離職証明書)の退職理由区分を実態と異なって記載した(例:自己都合を会社都合に偽るなど)
  • 賃金額・雇用期間を実際と異なる数値で記載した
  • ハローワークの調査に対して虚偽の回答をした

これらに当てはまらない限り、「元従業員が勝手にやった不正受給」で会社が金銭的制裁を受けることは通常ありません。まずはこの原則を把握しておくことが重要です。

離職証明書の正確性は事業主の法的義務

雇用保険法第7条および雇用保険法施行規則第7条により、退職者から求められた場合、事業主は離職証明書(離職票の元になる書類)を正確に作成・提出する義務を負います。「急いでいたから」「本人に言われるままに書いた」という処理は、後から責任を問われる根拠になりえます。小規模企業ほど担当者が兼務で記録も少なく、この点が退職者の無申告バイト問題とは別に、会社のリスクになりやすいため注意が必要です。

退職後の「非公式な業務依頼」が危険な理由

退職後も元従業員に業務の手伝いや引き継ぎを依頼していた場合、ハローワークが「離職の事実そのものがなかった」と判断するリスクがあります。これは会社にとって非常に深刻な問題です。

「非公式な手伝い」が雇用継続と見なされるケース

退職後に元従業員へ業務委託・アルバイト・非公式な手伝いを依頼していた場合、その実態次第で「実質的に雇用関係が継続していた」とハローワークが判断することがあります。特に、指示命令関係があった、一定の報酬を支払っていた、定期的に出社していたといった事実が確認されると、離職の有効性自体が否定されかねません。その場合、元従業員は「離職していない期間」に給付を受けていたことになり、不正受給の金額が大きくなります。

会社が「共犯」と疑われないための線引き

退職後の関わり方について、会社側が「知っていた」「黙認していた」と判断される状況は避けるべきです。たとえば、退職後に元従業員へ業務メールを送り続けていた記録や、交通費・謝礼を支払った証跡が残っていると、ハローワークの調査で「雇用関係の継続」と見なされる材料になります。退職日以降の関係は、明確に業務委託契約書を結ぶか、完全に関係を断つかのどちらかに整理しておくことが大切です。

離職票の「退職理由」の記載ミスが招くリスク

離職票における退職理由の区分(自己都合か会社都合か)の誤りは、受給資格や給付日数に直結するため、ハローワークが特に厳しく確認するポイントです。記載ミスが「意図的な操作」と疑われると、会社への調査に発展することがあります。

自己都合と会社都合の違いが生む給付格差

離職理由の区分によって、受給開始までの待機期間や給付日数が大きく変わります。会社都合退職(特定受給資格者)に該当すると、自己都合退職に比べて給付開始が早く、給付日数も多くなります。そのため、実態は自己都合であるにもかかわらず会社都合として処理することは、受給者に不当な利益を与えることになり、不正受給の助長と見なされます。

「なんとなく会社都合にした」が後から問題になる

専任の人事担当者がいない小規模企業では、「本人が強く希望したから」「退職トラブルを穏便に済ませたかったから」という理由で、実態と異なる退職理由区分を選んでしまうことがあります。後日ハローワークが確認調査を行った際、その判断根拠を説明できないと「意図的な虚偽記載」と疑われるリスクがあります。退職の経緯をメモや合意書として記録に残しておくことが、会社を守る最低限の対策です。

記載ミスが発覚した場合の訂正手続き

離職票の記載内容に誤りがあったことを後から気づいた場合は、速やかにハローワークへ相談し、訂正手続きを行うことが重要です。意図的な虚偽記載でなく単純な事務ミスであれば、訂正対応そのものが会社の誠実さを示す材料になります。対応が遅れたり放置したりするほど、「知っていて黙っていた」という印象を与えることになるため、気づいた時点で速やかに動くことが原則です。

ハローワークから調査が入ったときの正しい対応

ハローワークから調査の連絡が来たとき、慌てて事実と異なる説明をしてしまうことが最大のリスクです。事実に基づいて正直に回答することが、会社を守る唯一の方法です。

事業主への調査権限と回答義務

雇用保険法第82条に基づき、ハローワーク(公共職業安定所長)は不正受給の調査において事業主に対して報告・文書提出を求めることができます。この調査への協力は事業主の義務であり、虚偽の回答には罰則が設けられています。一方、事実に基づいた正確な回答をした結果として元従業員が不正受給と認定されたとしても、会社には原則として金銭的な不利益は生じません。

調査時に準備しておくべき書類

ハローワークからの問い合わせに備えて、以下の書類や記録を確認・準備しておきましょう。

書類・記録の種類 確認すべきポイント
離職証明書の控え 退職理由区分の記載根拠、作成日
退職時の合意書・退職届 本人の署名・退職理由の記載内容
賃金台帳・出勤記録 最終月までの勤務実態と報酬額
退職後の業務委託等の有無 退職日以降に業務依頼をしていないかの確認

記録が断片的であっても、あるものを整理して誠実に対応することが重要です。「記録がないから答えられない」と曖昧に対応すると、かえって疑惑を深めることがあります。

担当者が変わっていた場合の対応方針

中小企業では、退職者の対応をした担当者がすでに異動・退職しているケースもあります。その場合は「当時の担当者が変わっており確認に時間がかかる」と正直に伝えたうえで、確認できた事実のみを回答するのが正しい姿勢です。わからない部分を推測や「おそらくこうだったはず」で埋めることは絶対に避けてください。

退職トラブルが「逆申告」に発展するリスク

退職時に揉めた経緯がある場合、元従業員が「会社が離職票を操作した」とハローワークや労働局に申告するケースがあります。このような「逆申告」への備えは、退職手続き時から始まっています。

退職トラブルが後から離職票問題に転化するパターン

解雇・ハラスメント・未払い賃金などをめぐって退職後も対立が続いている場合、元従業員がハローワークに「本当は会社都合なのに自己都合にされた」「退職を強要された」と申し出るケースがあります。ハローワークはこうした申し出を受けると、事業主側に対して確認調査を行います。退職理由の判断根拠が記録として残っていなければ、元従業員の主張が採用されやすくなるため、記録の有無が会社の立場を大きく左右します。

退職時の合意形成と記録保存が最大の予防策

退職の経緯について、双方が合意した内容を書面(退職合意書など)に残しておくことが、後のトラブルを防ぐ最も有効な手段です。「自己都合で退職する」という本人の意思を確認した記録、退職面談のメモ、メールのやりとりなどは、少なくとも退職後3年程度は保管しておくことをお勧めします。専任人事がいない企業でも、この最低限の記録管理は実践できます。

まとめ

退職者が雇用保険の受給中に無申告でアルバイトをしていた場合、会社(元雇用主)が直接罰せられるケースは限定的です。ただし、離職票の退職理由区分や賃金額の記載に誤りや意図的な操作があった場合、または退職後も元従業員に業務を依頼していた実態がある場合には、連帯して返還命令を受けるリスクが生じます。ハローワークからの調査には事実のみを正直に回答することが会社を守る基本原則であり、調査に備えた記録の保管と退職手続きの適正化が中長期的なリスク管理の要になります。

「うちの退職者対応、これで大丈夫だろうか」と少しでも感じたら、ウェルセンス株式会社にご相談ください。専任人事がいない企業でも実践できる、退職手続きの整備から元従業員対応の記録管理まで、貴社の実情に合わせた支援を行っています。

よくある質問

Q. 元従業員が不正受給をしていたことを知ったのは最近です。会社は何か届け出る義務がありますか?

A. 法律上、会社に自発的な通報義務はありません。ただし、ハローワークから調査の連絡が来た場合には、雇用保険法第82条に基づいて報告に応じる義務があります。自社の離職票に問題がなければ、事実をそのまま回答することで会社への不利益は通常生じません。

Q. 離職票の退職理由を「自己都合」にすべきところを誤って「会社都合」で提出してしまいました。今から訂正できますか?

A. 訂正は可能です。気づいた時点でハローワークに連絡し、訂正手続きを行ってください。すでに元従業員が受給を開始している場合は、ハローワークの指示に従って対応します。意図的な虚偽記載でなく事務上のミスであることを説明し、訂正に向けて誠実に対応することが重要です。放置すると「知っていて黙っていた」と見なされるリスクがあります。

Q. 退職後に元従業員へ業務の引き継ぎをお願いし、日当を支払っていました。これは問題になりますか?

A. 実態によっては「雇用関係の継続」とハローワークが判断するリスクがあります。指示命令関係があった、定期的に出社していた、一定の報酬を受けていたといった事実が確認されると、離職の有効性が否定されることがあります。退職後に業務を依頼する場合は、明確な業務委託契約書を締結し、雇用関係との区別を明確にしておくことが重要です。

Q. 退職時に揉めた元従業員から「会社が離職票を操作した」とハローワークに申告されそうです。どう対応すればよいですか?

A. まず、退職時の経緯に関する記録(退職届・退職合意書・面談メモ・メールなど)を集めてください。ハローワークから確認が来た場合は、これらの記録を根拠に事実を説明します。記録が乏しい場合は、当時の状況を正確に文書化しておき、社会保険労務士や専門家に相談しながら対応することをお勧めします。虚偽の主張に対しては、事実の積み上げが最も有効な防御策です。

Q. 退職者対応の記録は何年間保存しておけばよいですか?

A. 雇用保険に関連する書類(労働者名簿・賃金台帳・出勤簿など)は労働基準法上3年間の保存義務がありますが、退職をめぐるトラブルは時間をおいて問題化することがあるため、退職合意書や退職時の面談メモなどは少なくとも3年以上、できれば5年程度保管しておくことを推奨します。保存期間を超えた書類でも、訴訟やハローワーク調査が予見される場合は廃棄しないことが重要です。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

不調者対応を、人事だけで抱えない。

メンタル不調者面談や休職・復職対応を、1件からスポットでご相談いただけます。

詳しく見る →

タイトルとURLをコピーしました