偽装請負×インボイス未登録の二重リスク|優先対応3ステップ

偽装請負×インボイス未登録の二重リスク|優先対応3ステップ コンプライアンス
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「業務委託で頼んでいるAさん、毎朝9時に来てもらって、うちの社員と同じ仕事をしてもらっているんだけど……これって問題ないよね?」——そう聞かれたとき、自信を持って「大丈夫」と答えられますか。さらに「Aさんはインボイスをまだ登録していない」となれば、消費税の処理という別の問題も重なります。労働局と税務署、二方向からのリスクが同時に存在するこの状況は、中小企業の現場で想像以上に多く起きています。この記事では、偽装請負とインボイス未登録が重なった場合の具体的なリスクと、何から手をつければいいかの優先順位を実務目線で整理します。

「偽装請負」とは何か、まず自社の実態を確認する

偽装請負とは、契約書には「業務委託」と書いてあるのに、働き方の実態が雇用(指揮命令関係あり)になっている状態を指します。法律は契約の名称ではなく実態で判断するため、「業務委託契約を結んでいるから大丈夫」とはなりません。

法律が見る「実態」の判断ポイント

厚生労働省が公表している「労働基準法の『労働者』の判断基準について」(昭和60年・労働基準法研究会報告書)では、形式的な契約ではなく使用従属性の実態で労働者性を判断するとされています。具体的には以下のような点が確認されます。

  • 仕事の依頼・業務指示を断れるか(諾否の自由)
  • 時間・場所・方法について会社から指示を受けているか
  • その人以外が代わりに業務を担える構造か(代替性)
  • 報酬が時間給的か、成果報酬か
  • 仕事に使う道具や設備を誰が負担しているか
  • 実質的に他社との取引が制限されていないか(専属性)

たとえば「毎日決まった時間に来社して、社員と同じ業務を同じやり方でやってもらっている」という状態は、複数の要素が雇用の実態を示しており、偽装請負のリスクが高いと判断されます

自社に当てはまるかのチェック観点

会社の規模や業種によって状況は異なりますが、特に注意が必要なのは次のようなケースです。IT・クリエイティブ系の制作補助、店舗・施設の運営サポート、経理・事務補助などの職種で、長期にわたり継続的に同一人物に業務を依頼している場合、実態が雇用に近づきやすい傾向があります。「本人が業務委託を希望している」という事情があっても、法的判断には影響しません。あくまで実態が基準です。

インボイス未登録の個人への支払いで何が起きるか

インボイス未登録の個人事業主への支払いは、発注側(課税事業者)が消費税の仕入税額控除を受けられなくなるリスクを生じさせます。これは税務上の問題であり、偽装請負とは別の軸で存在しているリスクです。

仕入税額控除とは何か、なぜ問題になるか

消費税の仕組みでは、事業者が受け取った消費税から、仕入れや外注の際に支払った消費税を差し引いて納税額を計算します。これを仕入税額控除と言います。2023年10月に施行されたインボイス制度(適格請求書等保存方式)では、この控除を受けるためには原則として、支払い先が「適格請求書発行事業者(インボイス登録事業者)」であり、適格請求書(インボイス)を発行してもらえることが必要です。インボイス未登録の免税事業者への支払いでは、原則としてこの控除が受けられません。

経過措置と、その終了後のリスク

ただし現時点では経過措置が設けられており、2023年10月〜2026年9月の期間は、未登録事業者への支払いでも仕入税額の80%は控除可能です。その後2026年10月〜2029年9月は50%控除、2029年10月以降は控除不可となります。「今はまだ影響が小さいから」と先送りしていると、対応が手遅れになるケースがあります。特に毎月まとまった金額を個人事業主に支払っている場合、将来の税負担増加の試算を今のうちに行うことが重要です。

二つのリスクが重なるとどうなるか

偽装請負とインボイス未登録が同一の取引先(個人)との関係で重なった場合、労働局・ハローワークと税務署という二つの行政機関から、それぞれ別の根拠で指摘を受ける可能性があります。これが「二重リスク」と呼ばれる状態です。

それぞれの指摘内容と影響範囲

リスクの種類 主な指摘元 発生しうる問題
偽装請負(労働者性) 労働基準監督署・労働局 未払残業代・有給・社会保険料の遡及請求、直接雇用みなし(労働者派遣法第40条の6)、行政指導・改善命令
インボイス未登録 税務署 消費税の仕入税額控除の否認、追徴課税、加算税・延滞税

「同時に発覚」したときの難しさ

二つの問題が同時に表面化すると、対応先が異なるうえ、是正の方向性が矛盾することがあります。たとえば「偽装請負リスクを回避するため業務委託を解消して雇用に切り替えたい」と動くと、相手側から「雇用になるとインボイス登録の話が変わる」という新たな交渉が発生します。逆に「インボイス登録をお願いしたい」と交渉する中で、「そもそも自分はほぼ御社の社員と同じ働き方をしているのに、なぜ業務委託なのか」と問い返されるケースもあります。どちらか一方だけを見て動くと、もう一方で問題が生じるという構造が二重リスクの厄介さです。

優先対応の考え方と実務の進め方

二重リスクへの対応は、まず偽装請負の実態確認を先に行い、契約・関係の方向性を決めてから、インボイス・税務処理の整理に進むのが基本の順序です。税務の問題は金銭的な追徴で済む場合が多い一方、労働問題は相手方(個人)との法的な関係や社会保険の遡及対応が絡むため、影響範囲が広くなりがちだからです。

実態確認と関係整理を先に行う

まず最初に、現在業務委託で取引している個人について「使用従属性の確認」を行います。先述の判断ポイントを参考に、実態が雇用に近いかどうかを客観的に整理します。その結果、雇用実態が強い場合は、雇用契約への切り替えを検討します。一方、本当に独立した事業者として業務委託が成立している場合は、その状態を書面・運用両面で整備します。この段階で社労士や弁護士に相談しておくと、後の対応がスムーズになります。

契約の方向性が決まってからインボイス対応を進める

次に、関係の方向性(雇用か業務委託継続か)が明確になったあとで、インボイス・消費税の対応を進めます。雇用に切り替えた場合は、支払いは給与となりインボイスの問題は消えます(給与は消費税の課税対象外です)。業務委託を継続する場合は、相手にインボイス登録を依頼するか、登録しない場合の税負担を自社でどう吸収するか(取引価格の見直しを含む)を交渉します。この段階では税理士との連携が必要です。

フリーランス保護新法の施行後は「放置」が通用しない

2024年11月に施行されたフリーランス・事業者間取引適正化等に関する法律(フリーランス保護新法)により、業務委託者に対する書面交付義務・報酬支払期日の遵守・ハラスメント対応等の義務が課されました。以前は「グレーゾーンのまま継続」が暗黙に許容されていた部分が、法律によって明文化されつつあります。「問題が出てから考える」という判断が通用しにくくなっている状況を踏まえ、早めの実態整理が求められます。

相談先の選び方と社内での初動対応

二重リスクへの対応では、労働問題と税務問題で相談先が異なるため、どこに最初に相談するかを整理しておくことが実務上の混乱を防ぎます。

問題の性質によって相談先を分ける

偽装請負の実態確認・是正については、社会保険労務士(社労士)または労働問題に詳しい弁護士が適切な相談先です。労働者性の判断は専門知識が必要であり、自社だけの判断で動くと是正の方向を誤ることがあります。インボイス・消費税の処理については、顧問税理士または消費税に詳しい税理士に相談します。両方の問題が絡む場合は、社労士・弁護士と税理士が情報共有できる体制が理想的です。

社内での初動として記録を整備する

相談に行く前に、社内でできる初動として「現状の記録整備」を行うことをおすすめします。具体的には、業務委託先の個人について「どのような業務内容か」「週何日・何時間働いているか」「誰が指示を出しているか」「報酬の計算方法はどうなっているか」「インボイス登録の有無」を一覧化します。この情報があると、専門家への相談が格段にスムーズになります。専任の人事担当者がいない会社でも、経営者または兼務担当者がこの一覧を作るだけで、状況の全体像が見えてきます。

まとめ

業務委託の偽装請負リスクとインボイス未登録は、それぞれ独立した問題でありながら、同一の取引先で重なると対応の方向性が干渉し合います。まず偽装請負の実態確認と関係の方向性(雇用か委託継続か)を決め、その後にインボイス・消費税の対応を進めるのが基本の優先順位です。フリーランス保護新法の施行もあり、グレーゾーンのまま放置できる時代は終わりつつあります。

「自社の業務委託が問題なのかどうか判断できない」「二つの問題が絡んでいてどこから手をつければいいかわからない」という場合、ウェルセンス株式会社では人事労務の実態整理から専門家との連携まで、中小企業の状況に合わせてサポートしています。一人で抱え込む前に、まずは状況を整理する場として気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 本人が「業務委託のままでいい」と言っています。それでも問題になりますか?

A. なります。労働者性の判断は本人の意思ではなく実態で行われます。本人が業務委託を希望していても、働き方の実態が雇用であれば、労働基準法や社会保険の適用を免れることはできません。また、後になって「やはり雇用だったはずだ」と本人が主張するケースもあるため、現時点での合意があっても安心とは言えません。

Q. インボイス登録していない個人への支払いに消費税を乗せて払っているのですが、これは正しいですか?

A. 消費税を乗せて支払うこと自体は否定されませんが、発注側がその消費税額について仕入税額控除を受けられないのがインボイス制度の影響です。つまり、支払った消費税分は発注側の実質的なコスト増になります。この点を踏まえ、取引価格の見直しや登録の依頼など、双方が納得できる形を整えることが重要です。税理士に具体的な計算を依頼することをおすすめします。

Q. 偽装請負と判断された場合、どのくらい遡って責任を問われますか?

A. 未払残業代については労働基準法の改正(2020年4月以降発生分)により時効が3年に延長されています。それ以前の分は2年です。社会保険料については日本年金機構による調査で最大2年分の追徴が行われるケースがあります。関係が長期にわたるほど遡及額は大きくなるため、早期に実態を整理することが金銭的なリスク軽減につながります。

Q. 業務委託を雇用に切り替えると、会社のコストはどう変わりますか?

A. 雇用契約に切り替えた場合、発注側(会社)は社会保険料(健康保険・厚生年金)の雇用者負担分(報酬の約15%程度)、雇用保険料の負担が新たに発生します。また、有給休暇の付与・残業代の適正計算なども必要になります。一方、相手側(個人)は社会保険に加入できるメリットがあります。報酬額をそのままにするのか、総額で合わせるのかは双方の交渉次第ですが、試算してから話し合いに臨むことが重要です。

Q. 社内に専任の人事がいません。どこから手をつければいいですか?

A. まずは現在業務委託している個人の一覧を作成し、各人について「業務内容・勤務形態・報酬の計算方法・インボイス登録の有無」を書き出すことから始めてください。この情報があるだけで、専門家への相談が具体的になります。全員を一度に対応しようとする必要はなく、取引額が大きい・勤続期間が長い・勤務実態が雇用に近いなど、リスクの高い案件から優先的に確認することが現実的です。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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