商品券支給の課税判断に迷ったら読む就業規則整備の基本

商品券支給の課税判断に迷ったら読む就業規則整備の基本 労務管理
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「アルバイトが全員出勤してくれたから、感謝の気持ちでギフトカードを渡した」——その判断、税務上は正しく処理できていますか? 現金ではなく商品券や電子ギフトカードで渡せば非課税になると思っている方は少なくありませんが、所得税法の原則は「現物でも給与所得に含まれる」です。善意で始めたインセンティブ制度が、後になって源泉徴収漏れや就業規則の不備として指摘されるケースは実際に起きています。この記事では、商品券支給の課税判断基準から給与計算への組み込み方、就業規則の整備ポイントまで、専任人事がいない中小企業の担当者が知っておくべき実務の全体像を整理します。

商品券・ギフトカードは「現物だから非課税」ではない

結論から言えば、商品券・ギフトカード・QUOカードなど換金性の高い現物は、原則として給与所得として課税対象です。「現金でないから大丈夫」という認識は、税務上の誤解として最も多いものの一つです。

所得税法が定める「現物給与」の考え方

所得税法第36条は、給与所得の収入金額について「金銭以外の物または権利その他経済的な利益をもって収入する場合には、その物若しくは権利または経済的な利益の価額」とすると定めています。つまり、支払いの手段が現金であれ現物であれ、経済的な価値を受け取った事実がある以上、課税対象になるのが原則です。商品券は額面通りの現金と同等の購買力を持ち、換金も容易であるため、給与の代替として受け取ったと税務上はみなされます。

「非課税になるケース」は限定的かつ厳格

所得税基本通達(36-21〜36-29等)では、一定の現物給与について非課税扱いを認めています。ただし、適用できるケースは以下のように厳格に限定されています。

非課税となる現物給与の例 主な要件
食事の現物支給 役員・従業員が食事代の半額以上を負担し、会社負担が月額3,500円(税抜)以下
永年勤続表彰の記念品 おおむね10年以上の勤続、金銭でないこと、社会通念上相当な金額であること等
創業記念品等 支給が不定期であること、社会通念上相当な範囲内であること等

重要なのは、商品券・ギフトカードは「換金が容易」という性質から、所得税基本通達36-22(注)において永年勤続表彰等の非課税規定の対象外と明示されている点です。月次・定期的な皆勤インセンティブとして商品券を渡す場合は、非課税の余地はほぼなく、課税前提で整備することが実務上の安全策です。

「少額だから問題ない」は通じない

金額が少額であっても、課税対象という法的な位置づけは変わりません。たとえば月1,000円のQUOカードを毎月支給していた場合、年間12,000円の現物給与が源泉徴収されずに流れていたことになります。税務調査で指摘されると、過去にさかのぼって不納付加算税や延滞税が生じる可能性があります。「少額だからいいだろう」という判断は、後のリスクにつながります。

給与計算・源泉徴収への正しい組み込み方

商品券支給が給与所得として課税対象になると判断した場合、その月の給与計算に額面金額を加算し、源泉徴収を行う必要があります。処理の流れを正確に把握しておくことが、給与計算ミスを防ぐ第一歩です。

給与台帳への加算と源泉徴収の計算

商品券を現物支給した月に、その額面金額を給与台帳の「現物給与」として加算します。商品券の場合、時価は原則として額面金額そのものです。たとえば5,000円のギフトカードを支給したなら、その月の給与に5,000円を加えた合計額に対して、所得税の源泉徴収額を計算します。現物での支給のため、差し引く手段は現金部分の給与から充当するのが一般的な処理です。

年末調整・確定申告への影響

アルバイトが年末調整の対象者である場合(年収103万円以下の場合でも、支給する会社が年末調整を行う場合は対象)、現物給与の合計額を含めて年末調整を行います。年末調整の対象外となる場合は、本人が確定申告で申告する必要があります。この点は、アルバイト本人への事前周知が必要です。「知らなかった」という状態を放置すると、後から本人とのトラブルにつながります。

社会保険・雇用保険への影響確認

継続的・定期的に商品券を支給している場合、社会保険の標準報酬月額や雇用保険の賃金に算入すべきかどうかも確認が必要です。不定期・臨時の支給であれば標準報酬月額への影響は限定的ですが、毎月定額で支給されている場合は「固定的賃金」とみなされ、随時改定(月額変更届)の対象になる可能性があります。社会保険労務士への確認を推奨するケースです。

就業規則・規程に何を書けばトラブルにならないか

口頭や「店長判断」で商品券を渡し続けていると、スタッフ間の不公平感やトラブルの温床になります。制度として運用するなら、就業規則または別規程に明文化することが不可欠です。

就業規則への記載が必要な理由

労働基準法第89条は、常時10人以上の労働者を使用する事業者に対し、就業規則の作成と労働基準監督署への届出を義務づけています。インセンティブの支給は「賞与・臨時の賃金等」に相当し、就業規則の必要的記載事項ではありませんが、制度として設けるなら明記が求められます(任意的記載事項)。明記がなければ、「もらえると思っていた」「条件が不明確だ」という主張を従業員からされた際に、会社側が不利な立場に置かれます。

規程に盛り込むべき具体的な項目

インセンティブ支給規定を整備する際に、最低限記載すべき項目は以下のとおりです。

  • 対象者の範囲:正社員のみか、パートタイム・アルバイトも含むか
  • 支給条件(皆勤の定義):「対象期間中に欠勤・遅刻・早退がゼロ」など、具体的な基準を明記する
  • 対象期間:月次・四半期・半期など、どの期間を評価するか
  • 支給方法:現金か現物(商品券等)か、現物の場合は種類・額面
  • 支給時期:「対象月の翌月〇日の給与支払日に支給」など
  • 課税の取り扱い:「支給額は給与所得として源泉徴収の対象とする」旨を明記

パートタイム・有期雇用労働法への対応

パートタイム・有期雇用労働者を含む事業場では、パートタイム・有期雇用労働法(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律)第10条に基づき、通勤手当・賞与・各種インセンティブについても均衡待遇の確保と説明義務が求められます。正社員にはインセンティブ制度があるがアルバイトにはない、あるいはその逆、という設計をする場合には、その合理的な理由を説明できるように整理しておく必要があります。従業員から「なぜ正社員とアルバイトで扱いが違うのか」と問われた際に答えられない状態は、リスクです。

現状の処理に「これで合っているのか」という不確かさがあれば、税理士や社会保険労務士に確認を取ることが、後のトラブルを防ぐ最も確実な方法です。

従業員数・状況別に見る対応の優先順位

会社の規模や現状の規程整備の状況によって、優先すべき対応は異なります。自社の状況に当てはめて、次のアクションを判断してください。

従業員数が10人未満の場合

常時10人未満であれば就業規則の作成・届出義務はありません。ただし、インセンティブ支給を継続するなら、支給条件・方法・金額を書面(労働条件通知書や社内規程)に明記することを強くすすめます。義務がないからといって何も書面化しない運用は、後から「言った言わない」のトラブルになりやすいです。また、課税処理は会社規模に関係なく行う必要があります。

従業員数が10人以上の場合

就業規則の作成・届出が法的義務です。現在就業規則がすでにある場合は、インセンティブ支給に関する条項が含まれているか確認してください。記載がなければ既存の就業規則を変更し、労働基準監督署への届出と従業員への周知が必要です。就業規則の変更は、不利益変更に当たらない形で行うことが原則ですが、新たにインセンティブ制度を設ける場合は不利益変更にはなりません。

すでに口頭・慣行で商品券を渡してきた場合

過去の支給分について源泉徴収が漏れていた可能性がある場合、まず税理士に相談し、現状の把握と修正申告・納付の必要性を確認することが先決です。その上で今後の規程整備と給与計算処理の見直しに進むという順序で対応を進めてください。過去を正確に把握しないまま今後だけを整備しても、税務調査では過去に遡って指摘を受けます。

インセンティブ制度を「正しく」設計するための実務フロー

制度をゼロから設計する場合も、既存の慣行を整備し直す場合も、以下の流れで進めることが実務上のリスクを最小化します。

課税判断を先に固める

まず最初に、支給しようとしている現物が課税対象かどうかを確定させます。商品券・ギフトカード・QUOカードは原則課税と判断し、給与計算ソフトへの現物給与加算の設定を行います。「非課税になるかもしれない」という曖昧な状態のまま運用するのが最も危険です。不安な場合は税理士か社会保険労務士に確認を取り、文書で回答をもらっておくことが望ましいです。

規程を整備してから制度を開始する

次に、支給条件・対象者・金額・時期・課税の取り扱いを盛り込んだ規程を作成します。就業規則への記載が必要な事業場は届出を行い、従業員への周知(掲示・配布・説明会等)を実施します。規程が整ってから制度をスタートさせることで、「知らなかった」「聞いていない」というトラブルを防ぐことができます。

給与計算・年末調整の処理を毎月確認する

制度開始後は、支給月ごとに現物給与の加算・源泉徴収計算・納付が正しく行われているかを確認します。給与計算担当者が変わった場合や、給与計算ソフトのバージョンアップ後は、設定が引き継がれているかを必ず確認してください。年末調整の時期には、現物給与の年間累計額が正確に反映されているかを改めて確認することが重要です。

まとめ

商品券・ギフトカードによる現物支給は、原則として給与所得として課税対象です。「現物だから非課税」という認識は税務上の誤解であり、適切な源泉徴収と給与台帳への加算が必要です。また、インセンティブ制度を運用するなら、支給条件・対象者・金額・課税の取り扱いを就業規則または規程に明記することが、スタッフとのトラブル防止と法的リスク低減の両面で不可欠です。従業員数が10人以上の事業場では就業規則の作成・届出義務があり、パートタイム・有期雇用労働者を含む場合は均衡待遇への配慮も求められます。

「どこから手をつければいいかわからない」という状態が続くと、税務調査や労務トラブルのリスクが蓄積されます。人事労務の複数課題を単独で判断していくことに不安がある場合は、専門家に相談しながら進めることが、経営リスクを軽減する現実的な方法です。ウェルセンス株式会社では、専任人事がいない中小企業の規程整備から日常的な運用相談まで、幅広く対応しています。まずは現状の課題をお聞かせいただければ、貴社に必要な対応の優先順位をご一緒に整理できます。

よくある質問

Q. アルバイトに500円のQUOカードを渡した場合でも、源泉徴収が必要ですか?

A. 金額の多少にかかわらず、換金性の高い商品券・ギフトカードは原則として給与所得として課税対象です。少額であっても源泉徴収の対象となります。ただし、月々の源泉徴収税額が極めて小さい場合でも、その月の給与に加算して計算・処理する必要があります。「少額だから不要」という判断は税務上認められません。

Q. 10年以上勤続したアルバイトに商品券を贈った場合、永年勤続表彰の非課税扱いになりますか?

A. なりません。所得税基本通達36-22(注)において、商品券・ギフトカードは換金が容易なため、永年勤続表彰等の非課税規定の対象外と明示されています。永年勤続表彰の非課税扱いを受けるには、金銭でない物品(記念品等)を支給する必要があります。商品券での支給は勤続年数にかかわらず課税対象です。

Q. 過去に源泉徴収せず商品券を渡し続けていました。今からどう対処すればよいですか?

A. まず税理士に相談し、過去の支給記録をもとに源泉徴収漏れの金額を把握することが先決です。その上で、不納付加算税や延滞税の発生を最小限に抑えるために、自主的に修正申告・納付を行うことが望ましい対応です。税務調査で指摘される前に自主的に対処することで、加算税の軽減措置が適用される場合があります。並行して今後の規程整備と給与計算処理の見直しを進めてください。

Q. 正社員には皆勤インセンティブがありますが、アルバイトには設けていません。問題になりますか?

A. パートタイム・有期雇用労働法は、正規・非正規の待遇差について合理的な理由がない場合を不合理と判断します。皆勤インセンティブについても、「なぜ正社員にはあってアルバイトにはないのか」を合理的に説明できる必要があります。職務内容・責任の範囲・配置変更の有無等を踏まえて、待遇差の根拠を整理・文書化しておくことが重要です。説明できない待遇差はリスクになります。

Q. 就業規則がない状態でインセンティブ制度を始めてしまいました。就業規則の作成は急ぎますか?

A. 常時10人以上の労働者を使用している場合は、就業規則の作成と労働基準監督署への届出が労働基準法第89条で義務づけられています。この義務を果たしていない状態でのインセンティブ運用は、法的リスクと社内トラブルの両方を抱えた状態です。まず就業規則を整備し、インセンティブの支給条件・方法・課税の取り扱いを明記した上で、従業員への周知を行うことを優先してください。9人以下の場合でも、支給条件を書面化しておくことを強くすすめます。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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