「早退の連絡が今週3回目だ……でも育児のことだから何も言えない」——その判断、本当に正しいでしょうか。言えない状態が続くと、周囲の社員への負担が積み重なり、気づいたときには職場全体の士気が下がっていたというケースは少なくありません。育児・介護を理由とした欠勤・早退への対応は、「何も言わない」ことが正解ではありません。法律の範囲を正しく理解したうえで、会社と本人と職場の三者が納得できる対応を設計することが、経営者・人事担当者に求められています。この記事では、中小企業の実務担当者が今日から動けるよう、法的な整理と具体的な対処法をわかりやすく解説します。
「不利益取扱い禁止」が本当に禁じていること
育児介護休業法の「不利益取扱い禁止」は、制度利用を理由にした不当な処遇を禁じているのであって、欠勤・早退への合理的な対応そのものを禁じているわけではありません。この区別を正確に理解することが、対応の第一歩です。
法律が禁じている「不利益取扱い」の具体例
育児介護休業法により、以下の制度の利用や申請を「理由」とした不利益な処遇が禁じられています。対象となる制度は、育児休業・介護休業、子の看護休暇・介護休暇、所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限、短時間勤務制度などです。
具体的に禁止されている行為としては、降格・減給・賞与の削減、本人の意に反する遠隔地転勤などの不利な配置転換、契約更新の拒否・解雇、退職勧奨・退職強要などが挙げられます。これらは、「育児休業を取ったから」「短時間勤務を申請したから」という理由でおこなった場合に違法となります。
「理由」と「実態」を切り分けることが鍵
一方で、業務に実害が生じているという客観的な事実に基づいた対応は、合理的な業務命令として認められる余地があります。たとえば、引き継ぎ資料の作成を求める、事前連絡のルールを整備・周知する、業務の共有化を指示するといった対応は、制度利用を妨げる意図がなく、業務上の必要性が明らかであれば適法です。
重要なのは「育児・介護だから」という理由で対応したのか、「業務に支障が出ているから」という理由で対応したのかという点です。対応の根拠を記録しておくことが、後のトラブルを防ぐうえで欠かせません。
「ケアハラスメント」にも注意が必要
育児・介護を理由にした就業上の嫌がらせは「ケアハラスメント」と呼ばれ、マタニティハラスメント(マタハラ)と並んで問題化しています。育児介護休業法第25条により、事業主にはハラスメント防止のための措置義務が課されています。「もう辞めてほしい」「チームに迷惑をかけている」などの発言は、たとえ感情的な言い方であっても、ケアハラに該当するリスクがあります。対応は必ず事実ベースで、落ち着いたトーンでおこないましょう。
業務命令権はどこまで使えるか
会社には労働契約に基づく業務命令権があります。ただし、その行使が「育児・介護制度の利用を抑制・妨害する効果を持つ」場合は違法となります。命令の「内容」と「意図」の両方を点検することが必要です。
業務命令が認められやすいケースと慎重になるべきケース
| 命令・対応の内容 | 法的評価の傾向 |
|---|---|
| 引き継ぎ・業務共有化の指示 | 合理的業務命令として認められやすい |
| 事前連絡ルールの遵守を求める | 合理的業務命令として認められやすい |
| 勤怠記録に基づく評価への反映(記録がある場合) | 一定の合理性あり、ただし要件と記録が必要 |
| 欠勤を理由にした担当業務の大幅縮小 | 内容・程度次第で不利益取扱いに該当し得る |
| 「もう辞めてほしい」などの発言 | ケアハラスメントに該当し得る |
「記録」が業務命令権を守る盾になる
業務命令を適法に行使するためには、対応の根拠となる事実の記録が不可欠です。欠勤・早退の日時、業務への影響(誰がどの業務を引き継いだか)、本人への連絡内容と日時などを記録しておくことで、「育児・介護を理由にした不当な扱いではない」ことを客観的に示せるようになります。専任人事がいない環境では、シンプルな記録フォーマットをひとつ用意しておくだけでも大きな違いが生まれます。
本人との面談をどう進めるか
多くの経営者・人事担当者が最も悩むのが「本人とどう話すか」という点です。ハラスメントと受け取られることへの不安から面談を先送りにしているうちに状況が悪化するケースは非常に多く見られます。面談は「責める場」ではなく「現状を確認し、双方の負担を減らすための対話の場」と位置づけることが重要です。
面談前に整理しておくこと
面談前に担当者が整理しておくべきことは大きく三つあります。まず、客観的な事実(欠勤・早退の回数・頻度・業務への影響)を数字で把握しておくこと。次に、会社として現在利用可能な制度(短時間勤務・看護休暇・介護休暇など)を確認しておくこと。そして、会社として「どこまでなら対応できるか」という範囲を事前に決めておくことです。この準備をせずに面談に臨むと、場当たり的な約束をしてしまい、後々トラブルになりがちです。
面談での聞き方・伝え方のポイント
面談では、まず本人の状況を聞くことから始めます。「今、仕事と育児(介護)を両立するうえで困っていることがあれば教えてください」というオープンな問いかけが有効です。その後、会社側の状況(業務への影響・他の社員の負担)を事実として伝えます。「責めている」のではなく「一緒に解決したい」というスタンスを言葉で明示することが大切です。
制度の申請が済んでいない場合は、この面談の場で「こういう制度が使えます」と案内することが、のちのトラブル防止にもつながります。育児介護休業法では、事業主は制度の周知義務を負っています。
面談後は必ず記録を残す
面談の内容(日時・参加者・話した内容・合意事項)は必ず書面またはメールで記録に残してください。口頭だけでは「言った・言わない」のトラブルになります。合意事項がある場合は、本人にもメール等で確認の一報を入れると、双方にとって安心感が生まれます。
業務が回らないときに会社が取れる実務的な対処
20〜50名規模の企業では、担当者が1〜2名しかいない業務も多く、欠勤・早退が続くと特定の社員へ負荷が集中します。「感情論ではなく何が打てるか」を整理しておくことが、経営者・人事担当者の現実的な課題です。
業務の属人化を解消する仕組みづくり
欠勤・早退が繰り返される状況を機に、業務の属人化を解消する取り組みを進めることをお勧めします。具体的には、業務マニュアルの整備、引き継ぎ先の明確化、担当業務の棚卸しと複数担当制への移行などです。これらは当事者の有無に関わらず、中小企業が組織として成熟するために必要なプロセスでもあります。
代替措置の選択肢を持っておく
パートタイム社員やアルバイトによる補助、業務委託・外部リソースの活用、社内の他部門からの一時的なヘルプ体制など、代替措置の選択肢を事前に整理しておくことが重要です。専任人事のいない企業では、こうした体制整備が後回しになりがちですが、一人の社員の事情で業務全体が止まるリスクは小さくありません。
他の社員の不満をどうケアするか
欠勤・早退が続く社員を支えるために他の社員が負担を負っている場合、そのフォローも経営者・人事担当者の重要な役割です。負担を引き受けてくれている社員に対して、「状況を把握している」「感謝している」という姿勢を伝えることが、離職リスクの低減につながります。具体的な評価や手当での反映が難しい場合でも、声をかけること自体に意味があります。
制度が未整備なら今すぐ整える
「なんとなく早退を許可している」状態は、会社と本人の双方にとってリスクです。制度として整備することで、対応の根拠が明確になり、他の社員との公平性も保てます。
まず確認すべき法定制度
育児介護休業法に基づき、会社が整備・周知しなければならない制度があります。短時間勤務制度(3歳未満の子を育てる社員対象)、子の看護休暇(年5日・2人以上は年10日)、介護休暇(年5日・対象家族が2人以上は年10日)、所定外労働の免除などがその代表例です。これらが就業規則に明記されていない場合、法令違反となるリスクがあります。
就業規則・規程の整備状況を点検する
常時10人以上の社員がいる事業場では就業規則の作成・届出が義務付けられています(労働基準法第89条)。10人未満の場合でも、育児介護休業に関する規程を整備しておくことは、トラブル防止のうえで強く推奨されます。就業規則に「欠勤・早退の手続き」「短時間勤務の申請方法」「休暇の取得ルール」が明記されているかを今一度確認してください。
「申請が来ていない=問題なし」ではない
本人が制度の存在を知らないまま欠勤・早退を繰り返しているケースがあります。会社として制度の周知をおこなっていない場合、後から「知らなかった」と主張されるリスクがあります。面談時や入社時に制度の説明をおこない、その記録を残しておくことが大切です。
「勤怠不良」として人事対応に踏み込む判断基準
育児・介護を理由とした欠勤・早退であっても、一定の条件を満たせば人事上の対応(注意指導・評価への反映・配置転換など)に踏み込むことは可能です。ただし、手順と記録が揃っていることが前提となります。
注意指導が認められる条件
注意指導をおこなうにあたっては、以下の点を確認することが必要です。まず、制度の申請・利用とは切り離して、欠勤・早退という「勤怠の事実」に基づいた指導であること。次に、事前に連絡ルールや手続きを周知していたにもかかわらず守られていないという客観的な記録があること。そして、指導の内容が業務上の必要性に対して相当な範囲にとどまっていることです。これらが揃っていない場合、不利益取扱いやケアハラスメントと認定されるリスクが高まります。
評価・配置転換・解雇への発展を検討する場合
評価への反映や配置転換を検討する場合は、勤怠の記録・面談記録・指導記録がすべて揃っていることが最低条件です。解雇に至るケースは非常にハードルが高く、就業規則上の根拠・段階的な指導の記録・労働組合や弁護士への相談など、慎重なプロセスが不可欠です。いきなり解雇に踏み込むことは、不当解雇として訴訟リスクを招く可能性が高いため、専門家への相談を強くお勧めします。
「面談で何を話すべきか判断がつかない」「本人の申し出にどう応じるか法的に確認したい」——こうした状況では、外部の専門家に一度相談することで、その後の対応が格段にスムーズになります。
まとめ
育児・介護を理由とした欠勤・早退への対応は、「何も言えない」でも「厳しく追い詰める」でもありません。育児介護休業法の不利益取扱い禁止は、制度利用を理由にした不当処遇を禁じているのであり、業務上の合理的な対応は適法におこなえます。大切なのは、事実の記録、制度の整備と周知、落ち着いた対話の場づくりという三つの土台を整えることです。専任人事がいない中小企業ほど、一つひとつの対応が後のトラブルに直結しやすい環境にあります。
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よくある質問
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