採用面接を録画したら同意なしで問題になる?

採用面接を録画したら同意なしで問題になる? コンプライアンス
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「Zoom面接で、議事録代わりに録画ボタンを押していた。候補者には何も言っていない——これって問題になりますか?」こうした相談が、採用担当を兼務している経営者や総務担当者から届くことが増えています。オンライン面接が当たり前になった今、録画は手軽にできてしまうからこそ、後から「あの対応で大丈夫だったのか」と不安になるのは自然なことです。この記事では、採用面接の録画と個人情報保護法の関係を、法的な根拠をもとに実務レベルでわかりやすく解説します。

採用面接の録画データは「個人情報」にあたる

結論から言えば、採用面接の録画・録音データは個人情報保護法上の「個人情報」に該当します。そのため、取り扱いには法律上の義務が発生します。

個人情報に該当する根拠

個人情報保護法第2条第1項は、「特定の個人を識別できる情報」を個人情報と定義しています。顔・声・氏名が映り込んでいる面接の録画映像は、この定義に明確に当てはまります。「映像だから個人情報ではない」「社内でしか見ないから問題ない」という解釈は誤りです。

「要配慮個人情報」が含まれるリスク

面接では、健康状態・障害の有無・家族構成といった情報が話題に上ることがあります。これらは個人情報保護法第2条第3項が定める「要配慮個人情報」に該当し、通常の個人情報よりも厳格な取り扱いが求められます。録画データにこうした情報が含まれる場合、取得に際して原則として本人の明示的な同意が必要です(同法第20条第2項)。面接の場では想定外の話題が出ることも多いため、録画している場合はこのリスクを常に意識しておく必要があります。

個人情報取扱事業者は「すべての民間事業者」が対象

「うちは小さな会社だから対象外では?」と思う方もいるかもしれませんが、個人情報保護法は従業員数や企業規模で適用対象を区切っていません。20〜50名規模の企業でも、個人情報を取り扱う以上は同法の義務を負う「個人情報取扱事業者」に該当します。

無断録画・無断録音は法的にアウトか

同意なしに面接を録画することは、個人情報保護法上の「利用目的の通知・公表義務」に違反する可能性が高く、リスクのある行為です。ただし、状況によって対応の重みは異なります。

個人情報保護法上の問題

個人情報保護法第21条は、個人情報を取得する際に「利用目的を本人に通知または公表しなければならない」と定めています。録画を何の告知もなく行うことは、この義務を果たしていない状態です。さらに、同法第17条は利用目的を「できる限り特定」することを求めており、「評価のため」という漠然とした説明では不十分です。「採用選考の評価および面接担当者間での情報共有に使用し、選考終了後〇ヶ月で廃棄する」といった具体的な説明が望ましいとされています。

「応募した=録画に同意した」は成立しない

「採用に応募した時点で、面接に関するあらゆることに同意したはず」という解釈は法的に成立しません。個人情報保護法の考え方では、録画は候補者が「通常予測できる範囲外」の利用にあたるため、黙示の同意(暗黙の合意)では不十分です。少なくとも「録画する旨の告知と、異議申し立ての機会の付与」が必要であり、書面または電磁的記録による同意取得がより安全とされています。

刑事罰・行政処分との関係

個人情報保護法違反に対しては、個人情報保護委員会による指導・勧告・命令が行われる場合があります。命令に違反した場合は1年以下の懲役または100万円以下の罰金の対象となります(同法第178条)。また、候補者から損害賠償請求を受けるリスクも理論上は存在します。「問題が表面化していないだけ」という状態は、早めに解消しておくことが賢明です。

同意はいつ・どうやって取ればよいか

録画の同意取得は「面接招待メールでの事前告知」と「面接冒頭での口頭確認」の二重構造が、実務的かつ現実的な方法です。

同意取得のタイミングと方法の比較

タイミング 方法 注意点
応募フォーム記入時 プライバシーポリシーへの同意チェック 録画に特化した記載が別途必要
面接招待メール 録画する旨と同意を明記 見落とされるリスクがあるため単独では不十分
面接開始前(口頭) 「本日は録画いたします。ご同意いただけますか?」 記録が残らないため、メール等との併用が必要
面接開始前(書面・電子) 同意書へのサインまたはチェックボックス 最も確実。証跡として保管できる

口頭同意だけでは不十分な理由

「面接の冒頭で口頭で伝えた」という対応は、告知という意味では一定の意味を持ちます。しかし、後から「そんな説明は受けていない」と言われた場合に反論する根拠が残りません。メールや電子フォームで記録が残る形で同意を取得しておくことで、万一トラブルになった際の証跡になります。

同意を断られた場合の対処

候補者から「録画は嫌だ」と言われた場合、それを理由に選考から排除することは慎重に判断すべきです。録画はあくまで業務効率化の手段であり、録画しないことで選考上の不利益を与えることは、候補者との信頼関係を損なう可能性があります。録画なしで面接を進める選択肢を用意しておくことが、誠実な対応といえます。

録画データの保管・廃棄はどう管理するか

録画データの管理体制が整っていない場合、情報漏えいや不正アクセスのリスクが生じます。アクセス権限の設定と廃棄ルールの明文化が最低限必要です。

クラウド保存の落とし穴

GoogleドライブやDropboxといったクラウドストレージに録画データを保存している場合、アクセス権限の設定が適切でないと深刻なリスクが生まれます。特に注意が必要なのは、退職した社員のアカウントから引き続きアクセスできる状態が放置されているケースです。採用担当者が変わるたびに権限を見直す運用ルールを設けておく必要があります。また、外部クラウドサービスを利用する場合は、そのサービス事業者との間で個人データの取り扱いに関する条項を含む「委託契約」を締結することが個人情報保護法第25条の観点から求められます。

保管期間と廃棄手順の規程化

録画データの保管期間は、あらかじめ明示して定めておく必要があります。一般的には「選考終了後〇ヶ月以内に廃棄」という形で規定します。選考が終了した候補者のデータをいつまでも保持し続けることは、個人情報保護法の「利用目的の達成後は遅滞なく消去するよう努める」という考え方(同法第19条)とも整合しません。廃棄の実施記録を残す運用にすることで、内部監査や問い合わせ対応に備えることができます。

AI面接ツール・録画面接SaaSを導入している場合

AI面接ツールや録画面接サービスを採用プロセスに組み込んでいる場合、ベンダー任せにしていると自社の義務が果たせていない可能性があります。ベンダーとの契約書に「個人データの取り扱い」に関する条項が含まれているか、データがどの国のサーバーに保存されるか、解析結果が第三者に提供されないかを確認しておく必要があります。AI解析ベンダーへのデータ提供は「第三者提供」にあたる可能性があり、候補者の同意取得または委託契約の整備が別途必要になります(同法第27条・第25条)。

今すぐ取り組める実務対応フロー

「これから正しく運用したい」という企業が最初に整えるべきことは、同意取得の文言の整備・保管ルールの明文化・廃棄記録の運用開始の三点です。

面接招待メールに追加すべき文言の例

難しく構える必要はありません。面接の招待メールに以下のような一文を追加するだけで、告知としての要件を満たす一歩になります。

  • 「本面接はオンラインで実施し、採用選考の評価・担当者間の情報共有を目的として録画させていただきます。ご不明点やご不安がある場合はご連絡ください。」
  • 「録画データは選考終了後〇ヶ月以内に廃棄し、外部への提供は行いません。」

候補者が返信した時点で告知を受けたという記録が残ります。さらに面接冒頭で口頭でも確認を取れば、二重の対応になり安心です。

社内で整備しておくべきドキュメント

専任人事がいない企業では、ルールが属人化しがちです。担当者が変わっても運用が続くように、以下を簡単な形でも文書化しておくことが重要です。

  • 採用面接録画に関する取り扱い方針(保管場所・アクセス権限・廃棄時期)をA4一枚でもよいので作成します
  • 候補者への告知テンプレート(メール文・口頭確認文)を用意します
  • 廃棄実施記録の保存フォルダを設けます

これだけでも、何もない状態とは大きく異なります。

過去に同意なしで録画していた場合の対処

すでに同意なしで録画してしまったデータが手元にある場合、最善の対処は「速やかに廃棄すること」です。利用目的が達成されていない場合(まだ選考中など)は、今から利用目的を明確にしたうえで関係者のアクセスを最小限に制限し、選考終了後すみやかに廃棄します。過去のデータを保持し続けることは、漏えいリスクを抱え続けることと同義です。「知らなかったからといって問題がなかったことにはならない」という認識を持って対応することが重要です。

まとめ

採用面接の録画データは個人情報保護法上の「個人情報」に該当し、無断録画は利用目的の通知義務に違反するリスクがあります。同意取得は「面接招待メールでの事前告知+面接冒頭の口頭確認」という二重構造が実務的に推奨されます。また、録画データの保管はアクセス権限を採用担当者に限定し、廃棄時期と手順を明文化することが不可欠です。AI面接ツールなどの外部サービスを利用している場合は、委託契約の内容確認も忘れずに行いましょう。

「これまでの対応が正しかったか確認したい」「同意書のテンプレートや社内ルールの整備方法がわからない」という場合、ウェルセンス株式会社では人事労務のリスク整備に関する相談をお受けしています。専任人事がいない企業でも取り組みやすい形でのサポートが可能です。

よくある質問

Q. 対面の面接をICレコーダーで録音した場合も同じルールが適用されますか?

A. はい、適用されます。録音データも顔・声・氏名と紐づく個人情報に該当するため、録画と同様に利用目的の告知と同意取得が必要です。オンライン面接に限らず、あらゆる形式の面接録音・録画が対象となります。

Q. プライバシーポリシーに録画について記載しておけば同意は不要ですか?

A. プライバシーポリシーへの包括的な同意だけでは不十分な場合があります。録画は候補者にとって「通常予測しにくい利用目的」にあたるため、個別の説明と確認が求められます。プライバシーポリシーに記載するとともに、面接の招待段階や開始前に具体的な告知を行うことが望ましい対応です。

Q. 録画データは何年間保管してよいですか?

A. 法律で保管期間が一律に定められているわけではありませんが、個人情報保護法は「利用目的を達成した後は遅滞なく消去するよう努める」ことを求めています(同法第19条)。採用選考の評価が目的であれば、選考終了後は保管し続ける合理的な理由がなくなります。一般的には「選考終了後3ヶ月以内」などの期間を自社で定め、明文化しておくことが推奨されます。

Q. Zoomの「クラウド録画」機能を使った場合、Zoom社への個人データ提供になりますか?

A. Zoom社のサーバーにデータが保存されるという意味では、個人データを第三者のシステムに預ける形になります。ただし、業務委託の範囲として整理できる場合もあります。Zoom社との利用規約・データ処理契約の内容を確認し、個人データの取り扱いに関する条項が含まれているかをチェックすることが重要です。不明な点はZoom社のデータ処理補遺条項(DPA)を参照するか、専門家に相談することをお勧めします。

Q. 候補者から「録画データを見せてほしい」と言われたら応じなければなりませんか?

A. 個人情報保護法第33条は、本人から自身の個人情報の開示請求があった場合に原則として応じる義務を定めています。面接録画データに候補者本人が映っている場合、開示請求の対象になり得ます。開示請求への対応手順を社内で整備しておくとともに、開示によって他の応募者の情報が含まれる場合の取り扱いについても事前に検討しておくことが重要です。

【監修】ウェルセンス株式会社
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