内部告発の犯人探しが違法になる3つのNG行為

内部告発の犯人探しが違法になる3つのNG行為 コンプライアンス
Photo by Markus Winkler on Pexels

「匿名で投書が届いた。まず誰が書いたか確かめたい」——経営者や人事担当者なら、そう思うのは自然な反応です。しかし、その”確かめる行動”が法律違反になるケースが存在します。公益通報者保護法は2022年に大きく改正され、告発者の特定・報復に対するペナルティが強化されました。この記事では、内部告発に関する犯人探しの違法性、やってしまいがちな3つのNG行為と、適法な社内調査の進め方を具体的に解説します。

内部告発の「犯人探し」が違法になる理由

公益通報者保護法は、告発者の特定行為そのものを規制しています。「匿名だから調べていい」という感覚は法的に通用しません。

公益通報者保護法とは何を守る法律か

公益通報者保護法は、会社の不正を通報した労働者が不当な扱いを受けないよう守るための法律です。対象となる通報は、労働基準法・食品衛生法・金融商品取引法など、法律で列挙された法令違反に関するものです。通報先は「社内窓口」「行政機関」「報道機関等」の3種類が認められており、それぞれで保護の条件が異なります。2022年の改正では、保護対象が正規労働者だけでなく退職後1年以内の元従業員や役員にまで拡大されました。

第12条が禁じていること

法律の第12条は、通報窓口の担当者や調査に関与した従事者が「通報者を特定させる情報を漏らしてはならない」と定めています。つまり、調査プロセスの中で「この人が告発したらしい」という情報が社内に広まること自体が違法になります。内部告発による犯人探しは、報復を恐れたからこそ告発者が匿名を選んだ合理的な手段を逆手にとるもの。その事実が、法の趣旨に真っ向から反するとみなされるのです。

300人以下の会社でも「無関係」ではない

2022年改正で内部通報窓口の整備が「義務」となったのは、常時使用する労働者が300人を超える事業者です。20〜50名規模の会社は「努力義務」の位置づけになります。ただし、努力義務だからといって不利益取扱いが許されるわけではありません。告発者を特定・報復した場合の民事上・行政上のリスクは、会社規模にかかわらず同じように発生します。

やってはいけない3つのNG行為

告発を受けた直後に取りがちな行動の中に、違法リスクの高いものが3つあります。善意でやってしまうケースも多いため、内部告発への犯人探しがなぜ違法になるのか、具体的に確認しておきましょう。

「誰が書いたか知っているか」と聞く行為

事情を知っていそうな従業員に「あの件、誰が書いたか心当たりある?」と尋ねるのは、特定行為そのものです。情報収集のつもりでも、告発者を絞り込む目的があると判断されれば、公益通報者保護法違反に問われます。特に、告発内容に関係する部署の責任者や、告発者と思われる人物の同僚に対してこの質問をすることは、裁判や行政調査で「通報者特定のための行為」と認定されるリスクが非常に高くなります。

全員ヒアリングで告発者を絞り込む行為

「事実確認のために全員に話を聞く」という方針は、一見フェアに見えます。しかし、全員へのヒアリングの中で「その日誰と話しましたか」「その内容を知っていたのは誰ですか」という質問が積み重なると、結果として告発者が特定されます。これは善意の調査であっても、通報者特定目的と認定されるリスクが高い行為です。特に規模の小さい会社では、ヒアリング範囲を少し絞るだけで告発者が絞り込まれるため、調査設計そのものに法的な注意が必要です。

疑わしい人物への態度・評価を変える行為

「あの人が書いたのでは」という疑いだけで、業務の割り当てを減らしたり、人事評価を下げたり、挨拶や態度がよそよそしくなったりすることは、公益通報者保護法が禁じる「不利益取扱い」にあたります。解雇・降格・減給はもちろん、孤立させる・雑用ばかりを命じるといった職場環境の変化も不利益取扱いとして問題化します。「疑い」の段階であっても、行動・態度が変われば後から証拠として使われます。

「違法」と判断された場合に会社が受けるペナルティ

不利益取扱いが認定されると、会社は民事・行政の両方で責任を問われます。小規模な会社でも例外ではありません。

民事上のリスク:解雇無効と損害賠償

2022年の改正により、通報を理由とした不利益取扱いは「無効」と明文化されました。これは改正前より一段強い効果です。改正前は損害賠償請求が主な救済手段でしたが、現在は解雇そのものが無効となり、原職復帰を命じられる可能性があります。また、精神的損害を含む損害賠償請求も起こせます。さらに、経営判断に関与した役員個人が会社法429条の類推適用で個人責任を問われるケースも出てきています。

行政上のリスク:消費者庁・労働局からの指導

2022年改正では行政措置が強化されました。消費者庁や都道府県労働局は、是正指導・勧告を行う権限を持っており、事業者がこれに従わない場合は企業名の公表も可能です。行政指導の段階で問題が表面化すると、取引先や採用候補者への信用面での影響も避けられません。中小企業にとっては、訴訟コストよりもこうした社会的信用の損失の方が長期的なダメージになることもあります。

適法な社内調査の進め方

告発内容の事実確認は必要な行為です。ただし、「何のための調査か」という目的と方法が適切でなければ、違法な犯人探しと判断されます。

調査の目的を「告発内容の事実確認」に限定する

社内調査を進める前に、まず「この調査は告発内容が事実かどうか確認するためのもの」という目的を明確に設定し、文書化してください。裁判や行政調査では、「会社が調査した目的は事実確認か、通報者特定か」が問われます。調査の目的・対象・手順を記録しておくことが、適法な調査であったことを後から証明する根拠になります。

ヒアリング対象と質問内容を絞り込む

告発内容に直接関係する事実を確認するために必要な範囲のみを調査対象にしてください。全従業員への一斉ヒアリングは避け、告発内容に関連する業務に携わっていた人物に絞ることが基本です。質問内容も「いつ、誰が、何をしたか」という事実確認に限定し、「誰かから聞いたか」「誰が知っていたか」という伝聞情報の収集は控えるのが安全です。

「適法な調査」と「違法な犯人探し」の判断基準

行為の内容 法的評価のポイント
告発内容に関連する業務記録の確認 事実確認として許容される
関連業務の担当者へのヒアリング 目的・方法が適切であれば許容される
全員ヒアリングで通報者を絞り込む 通報者特定目的と認定されるリスク大
「誰が書いたか知っているか」と質問する 特定行為そのものとして違法リスク
特定した人物への不利益処遇 不利益取扱いとして無効・損害賠償の対象

専任人事・法務がいない場合の対応方針

20〜50名規模の会社では、専任の人事や法務担当がいないことがほとんどです。この場合、告発を受けた段階で社内だけで対処しようとするのが最大のリスクです。告発の内容が残業代未払い・ハラスメント・法令違反など法的な事実確認を要する場合は、社会保険労務士や弁護士に早期に相談することが現実的な選択です。「誰かわかってから相談しよう」ではなく、「告発を受けた時点で相談する」という順番が重要です。

告発内容を「なかったこと」にしてはいけない理由

告発内容が会社に不利な場合(残業代未払い・ハラスメントの放置など)、「握りつぶしてしまいたい」という心理は理解できます。しかし放置・隠蔽はリスクをさらに高めます。

放置・隠蔽が招く二次リスク

告発内容を無視して放置すると、告発者が次のステップとして労働基準監督署や消費者庁などの行政機関に外部通報する可能性があります。外部通報が行われた場合、行政が直接調査に入るため、会社は社内で問題をコントロールできなくなります。また、内部での対応記録がない状態で外部調査が始まると、「会社が隠していた」という認定につながりやすくなります。

告発内容への対応は義務の履行として記録する

告発を受けたら、内容を記録し、調査の手順と結果を文書化し、問題があれば是正措置を取る——この一連の流れを記録として残すことが、会社を守ることにもなります。たとえ告発内容が事実でなかったとしても、「誠実に調査した」という記録は法的な防御として機能します。告発対応は「厄介ごと」ではなく、会社の内部管理体制を整備するきっかけとして捉えることが重要です。

まとめ

内部告発への対応で最も危険なのは、「誰が書いたか」を確かめようとする行動です。公益通報者保護法は告発者の特定を明確に禁じており、2022年の改正でその保護はさらに強化されました。やってはいけない3つのNG行為は、「告発者を誰が書いたか聞き回ること」「全員ヒアリングで絞り込むこと」「疑わしい人物への態度を変えること」です。一方で、告発内容の事実確認は適切な方法で進めることができます。専任人事や法務がいない中小企業では、告発を受けた時点でプロに相談することが、会社を守る最短ルートです。

ウェルセンス株式会社では、内部告発対応・社内調査の進め方・労務リスクの整理について、中小企業の実情に合わせたご相談をお受けしています。「どこから手をつければいいかわからない」という段階からでも、お気軽にお問い合わせください。

よくある質問

Q. 匿名の告発でも公益通報者保護法は適用されますか?

A. 法律上、保護対象となる通報に「記名であること」は要件とされていません。匿名で通報した場合でも、後に通報者が特定された場合には保護の対象となります。また、匿名通報に対して特定行為を行った場合、「報復を恐れた合理的行動を逆手に取った」とより悪質に評価される可能性があります。

Q. 従業員が50人未満の会社でも、内部通報窓口を設置する必要がありますか?

A. 常時使用する労働者が300人以下の会社は、内部通報窓口の設置は「努力義務」であり、法律上の義務ではありません。ただし、窓口がない状態でも不利益取扱いの禁止は適用されます。窓口を設けることで告発を適切に受け付ける体制を作ることが、トラブル予防の観点からは有効です。

Q. 告発内容が事実無根だった場合、告発者を懲戒処分にできますか?

A. 告発者を懲戒処分にするためには、単に「内容が事実でなかった」だけでは不十分です。告発者が「虚偽であることを知りながら故意に告発した」という事実が必要です。事実確認の結果として問題が認められなかった場合に、告発したこと自体を理由に懲戒処分を行うと、不利益取扱いとして違法になります。処分を検討する場合は必ず弁護士に相談してください。

Q. 告発内容がハラスメントに関するものだった場合、どう対応すればよいですか?

A. ハラスメント告発は、公益通報者保護法の対象となる可能性があるほか、労働施策総合推進法(パワハラ防止法)上の対応義務も生じます。まず告発内容を記録し、被告発者と告発者が接触しないよう配慮した上で、事実確認の調査を進めます。調査はヒアリング対象と質問内容を絞り、告発者特定につながる情報を外に出さないことが重要です。専門家への早期相談を強く推奨します。

Q. 退職した元従業員からの告発も保護されますか?

A. 2022年の改正により、退職後1年以内の元従業員も公益通報者保護法の保護対象に含まれるようになりました。在職中の事実を退職後に告発した場合でも、告発者に対する報復的な行為(例:退職後の評判を傷つける言動や、元従業員の再就職を妨害するような行為)は不利益取扱いとして問題になり得ます。元従業員からの告発だからといって対応を軽視しないことが重要です。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

不調者対応を、人事だけで抱えない。

メンタル不調者面談や休職・復職対応を、1件からスポットでご相談いただけます。

詳しく見る →

タイトルとURLをコピーしました