「うちの社員、休職中なのに転職サイトに登録していたみたいで……どう対応すればいいんでしょうか」——中小企業の経営者や兼務人事担当者から、こうした相談が増えています。給与や社会保険料の負担を続けながら、本人が転職活動をしていたと知れば、裏切られたような気持ちになるのは当然です。しかし「感情的に対処してはいけない」とわかっていても、何を根拠に、どこまで動いてよいのかが見えず、動けないまま時間が過ぎているケースが少なくありません。この記事では、休職中の転職活動が法的にどう扱われるのか、会社として取れる対応の範囲、そして実務的な対応手順まで、順を追って解説します。
休職中の転職活動は違法なのか
結論から言えば、休職中の転職活動は直ちに違法・違反となるわけではありません。日本の労働基準法・労働契約法には、休職中の転職活動を禁止する明文規定は存在せず、憲法第22条が保障する「職業選択の自由」は休職中の労働者にも適用されます。
法律が禁止していない行為である
転職活動とは「次の就職先を探す行為」であり、それ自体は収入を得る行為ではありません。そのため「他社で働いて収入を得ること」を規制する副業・兼業禁止規定とも、直接リンクしません。会社が「転職活動=副業禁止違反」として懲戒処分を行うと、処分無効のリスクが生じます。
就業規則の療養専念義務が唯一の根拠になりうる
会社側が対応できる根拠として現実的なのは、就業規則の休職規定に設けられている「休職中は療養に専念すること」という条項(療養専念義務)です。この規定があれば、「転職活動が療養専念義務に違反しているのではないか」という論点で、本人に対して説明を求める余地が生まれます。ただし、転職活動=療養専念義務違反と自動的に断定できるわけではなく、活動の内容・頻度・本人の健康状態への影響など個別の事情を総合的に評価する必要があります。
就業規則がない・規定が不十分な場合
20〜50名規模の中小企業では、休職規定が曖昧だったり、療養専念義務の記載がなかったりするケースが珍しくありません。この場合、会社が感情的に叱責や制裁を行うことはかえってリスクになります。まず現在の就業規則を確認し、「療養専念義務」「休職中の届出・報告義務」の有無をチェックするところから始めてください。
懲戒処分・解雇はできるのか
就業規則に療養専念義務の規定があっても、懲戒処分・解雇ができるかどうかは「行為の重大性に見合った処分か」という均衡の原則が問われます。転職活動をしていたという事実だけで懲戒解雇を行うことは、解雇権濫用(労働契約法第16条)として無効になるリスクが高いと考えてください。
処分できる条件と現実的な上限
懲戒処分が有効と認められるためには、就業規則上の根拠規定があること、かつその行為が「企業秩序を実質的に乱した」と評価できること、という二つの条件が必要です(労働契約法第15条・第16条)。転職活動の事実だけでは企業秩序への実質的な影響が認定されにくく、処分が可能だとしても戒告・譴責(けんせき)程度が現実的な上限となるケースが多いです。
傷病手当金との関係をどう考えるか
傷病手当金は「労務不能」であることが支給要件(健康保険法第99条)です。転職活動の内容・頻度によっては「実際には労務不能ではなかったのでは」という疑義が生じる場合があります。ただし、会社が傷病手当金の不正受給を直接是正する仕組みは原則なく、支給の判断は協会けんぽや健康保険組合が行います。事実を整理したうえで協会けんぽへの情報提供を検討することは選択肢の一つですが、慎重な判断と専門家への相談が必要です。
「働けるなら復職させられる」は通用しない
「転職活動ができるなら就労できるはずだ」という会社側の論理だけで、復職を強要したり復職を拒否したりすることは法的に認められません。復職可否の判断は主治医・産業医の医学的意見が根拠であり、会社の感情的な判断を優先することはできません。この点を誤ると、会社側が不当対応として責任を問われるリスクがあります。
発覚後の対応フロー
転職活動が発覚した直後に感情的に動くことが最大のリスクです。まず事実確認を丁寧に行い、就業規則の規定内容を確認してから、対応の方針を決める、という順序が基本です。
事実確認の進め方
発覚の経緯(SNS・同僚からの情報・採用担当者からの連絡など)を整理し、本人が実際に転職活動をしていた事実を客観的に確認します。この段階では本人への直接の問い詰めは行わず、まず情報を整理することが先決です。休職理由がメンタルヘルス疾患の場合、不用意な接触が本人の状態悪化につながり、「ハラスメントだ」と受け取られるリスクもあります。
就業規則の確認と対応方針の決定
以下の表を参考に、自社の就業規則の状況と取れる対応を整理してください。
| 就業規則の状況 | 取れる主な対応 | 注意点 |
|---|---|---|
| 療養専念義務の規定あり | 義務違反として本人に説明を求める、軽微な懲戒処分(戒告・譴責)を検討 | 処分は均衡の原則に基づき最小限に。単独で懲戒解雇は困難 |
| 副業禁止規定のみあり | 転職活動そのものには直接適用しにくい。規定の整備を優先 | 副業禁止と転職活動禁止は別物と認識する |
| 休職関連規定が不備 | 現時点では実質的な制裁は困難。就業規則の整備・弁護士や社労士への相談を優先 | 感情的な叱責はトラブルの原因になる |
本人との面談を設定する場合の留意点
就業規則上の根拠が確認できた場合に限り、本人との面談を検討します。面談では「事実確認」に徹し、叱責・詰問にならないよう注意してください。精神疾患による休職者への面談は、産業医や主治医に事前に相談したうえで実施することが望ましく、場合によっては産業医の同席を求めることも有効です。面談の目的・内容・結果は必ず記録として残しておきましょう。
再発防止のために就業規則を整備する
今後の対応力を高めるために最も重要なのは、就業規則の整備です。現時点でトラブルが発生していても、規定がなければ対処の選択肢が大幅に狭まります。今後に備えて、以下の項目を確認・追加してください。
休職規定に盛り込むべき主な項目
- 療養専念義務(「休職中は療養に専念し、復職に向けて努力すること」)
- 定期的な状況報告義務(月1回など、会社への連絡・報告を義務付ける)
- 主治医の診断書の定期的な提出義務
- 休職中に就労(アルバイト・副業・転職先での試用等)を行う場合の事前届出・承認制
- 上記義務に違反した場合の取り扱い(休職打ち切りや懲戒処分の根拠規定)
規定を整備するうえでの注意点
就業規則の変更は、労働者の不利益となる変更を一方的に行うことはできません(労働契約法第9条・第10条)。新たに義務を加える場合は、変更の合理性と従業員への周知が必要です。また、就業規則の内容が実態と乖離しないよう、社会保険労務士や弁護士に確認を依頼しながら整備することを強くお勧めします。
産業医・外部支援との連携体制を整える
50名以上の事業場では産業医の選任が義務づけられていますが、50名未満の企業では義務がなく、外部の専門家との連携体制が整っていないことが多いです。こうした体制の不備が、今回のような「何をどう対応すればよいかわからない」という状況を生みます。外部の産業医サービスやメンタルヘルス支援会社との契約を検討することが、長期的なリスク低減につながります。
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よくある誤解と対応の落とし穴
休職中の転職活動への対応では、会社側の誤解や思い込みが対応を誤らせるケースが多くあります。代表的な誤解と正しい認識を整理しておきましょう。
「副業禁止規定があれば転職活動も禁止できる」という誤解
副業・兼業禁止規定は、他社で就労して収入を得ることを禁じるものです。転職先を探す行為そのものは、この規定の直接の対象にはなりません。この誤解に基づいて懲戒処分を行うと、処分が無効とされるリスクがあります。転職活動を制限したい場合は、療養専念義務や休職中の行動についての届出義務を別途規定することが必要です。
「問い詰め面談」で逆にリスクを招く落とし穴
休職者、特に精神疾患を抱える社員に対して、事実確認と称して強い口調で問い詰めることは、パワーハラスメントと受け取られる可能性があります。面談は「事実を確認する場」であり「責める場」ではないという原則を、面談担当者が共有しておくことが不可欠です。また面談の内容・発言は記録に残し、後のトラブルに備えてください。
「会社の感情的判断」が法的リスクを高める
「裏切られた」「ずるい」という感情は理解できます。しかし、その感情のまま解雇・降格・給与カットなどの不利益措置を行うと、不当解雇・不当な不利益変更として訴訟リスクが生じます。対応はあくまで就業規則上の根拠と法的な相当性を基準に判断し、専門家の意見を踏まえて行うことが重要です。
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まとめ
休職中の転職活動は、直ちに違法・違反となるわけではありません。会社が対応できる根拠は就業規則の療養専念義務規定であり、それがない場合は実質的な制裁は困難です。懲戒処分が可能だとしても、均衡の原則から戒告・譴責程度が現実的な上限であり、感情的な解雇対応は法的リスクを高めます。発覚後は、事実確認→就業規則の確認→専門家への相談という順序で冷静に対応し、再発防止のために就業規則の整備と外部支援との連携体制を整えることが長期的な解決につながります。
このような判断が必要な場面では、法的リスクや就業規則の整備について、専門家の助言を得ることをお勧めします。ウェルセンス株式会社では、休職・復職対応の実務に詳しいスタッフが、御社の状況に合わせた具体的なアドバイスをお伝えしています。「就業規則に療養専念義務の規定があるか確認したい」「本人との面談をどう進めればいいか相談したい」という段階からでも構いません。まずはお気軽にお問い合わせください。
よくある質問
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