「休職者が出たけれど、賃金台帳をどう書けばいいのかわからない」——気づけば給与ゼロの月が続き、帳簿欄は空白のまま。そのとき、心のどこかで「これ、問題あるのかな」と引っかかりながらも、確認する相手もなく先送りにしていませんか。休職中の法定帳簿(賃金台帳・出勤簿・労働者名簿)の記載は、専任人事がいない中小企業ほど「前例がない」「聞ける人がいない」という状況に陥りがちです。この記事では、法令の根拠から具体的な記載方法まで、実務で今すぐ使える形で整理します。
法定帳簿とは何か、なぜ休職中も義務が続くのか
労働基準法が定める法定帳簿(賃金台帳・出勤簿・労働者名簿)は、労働者が在籍している限り整備義務が続きます。「給与が発生していないから不要」は誤りで、休職中であっても雇用関係は継続しているため、記録義務は消えません。
法定帳簿の種類と根拠法令
法定帳簿は大きく3種類あります。賃金台帳は労働基準法第108条と同施行規則第54条に、労働者名簿は同法第107条と同施行規則第53条に、出勤簿は同施行規則第54条(労働日数・時間数の記録義務)にそれぞれ根拠があります。いずれも最終記入日から3年間の保存が義務付けられています(労働基準法第109条)。
休職中でも「在籍」である意味
休職は解雇や退職ではなく、就業規則に基づく「労務提供の一時的な停止」です。雇用契約は継続しているため、使用者には引き続き帳簿記録義務があります。この点を誤解して帳簿を放置すると、労働基準監督署の臨検(事業場への立入調査)で「記録不備」として指摘される可能性があります。
帳簿不備が招くリスクの具体例
空白や無記録の状態が続いた場合、臨検時に記録義務違反(労働基準法第120条に基づく30万円以下の罰金の対象)となりうるほか、傷病手当金の申請審査で健康保険組合・協会けんぽから賃金台帳との照合を求められた際に説明がつかなくなるリスクもあります。小規模企業では「そこまで見られないだろう」と油断しがちですが、傷病手当金申請はほぼ確実に帳簿との整合性が問われる場面です。
賃金台帳——給与ゼロの月の正しい書き方
無給の休職月であっても、賃金台帳には「賃金0円・労働日数0日・労働時間数0時間」と明記するのが正しい対応です。空白での放置は「記録なし=管理していない」と判断されます。
記載すべき項目と休職月の書き方
労働基準法施行規則第54条が定める賃金台帳の記載事項には、賃金の計算期間・労働日数・労働時間数・基本給と手当の種類および額・控除項目と額が含まれます。休職中の月は次のように記載します。
| 記載項目 | 休職中の記載内容 |
|---|---|
| 賃金計算期間 | 通常どおり記載(例:〇年〇月1日〜末日) |
| 労働日数 | 0日 |
| 労働時間数 | 0時間 |
| 基本給・手当 | 0円(無給の場合) |
| 控除額 | 社会保険料の控除額を記載(立替がある場合は備考に明記) |
| 備考欄 | 「〇年〇月〇日〜休職中(私傷病)」など休職理由と期間を記録 |
社会保険料控除の扱いと傷病手当金との整合性
休職中も社会保険(健康保険・厚生年金)の被保険者資格は継続します。そのため保険料は毎月発生し、本人負担分を会社が立て替えて後日精算するケース、あるいは休職前の給与から一括徴収するケースなどさまざまです。どの方法をとるにせよ、賃金台帳の控除欄に保険料額を記録し、備考欄に「会社立替・後日精算」等の注釈を入れることで、傷病手当金申請時の審査(会社証明欄との照合)がスムーズになります。賃金台帳と傷病手当金申請書の記載内容が食い違うと、組合・けんぽ側から問い合わせが入り、申請が遅れる原因になります。
実務の細かいルール判断に迷ったら、社労士や外部専門家に相談しながら進めるのが現実的です。
有給休職・一部有給の場合の注意点
就業規則によっては、休職開始から一定期間は基本給の一部(例:6割)を支給する規定を設けている企業もあります。その場合は「支給額〇円・備考:休職給付として支給」と明記します。完全無給になった月からは0円記載に切り替え、移行のタイミングが賃金台帳上で明確にわかるようにしておくことが重要です。
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出勤簿——「空白」と「欠勤」を混同しないための記録方法
休職中は物理的に出退勤がないため打刻ができませんが、「記録なし=欠勤」と誤解されないよう、該当期間に「休職」と明示する記録が必要です。欠勤と休職は法的地位がまったく異なります。
欠勤と休職の違いを帳簿上で区別する理由
欠勤は、就業規則上の出勤義務があるにもかかわらず無断または有断で休んだ状態であり、賃金控除や懲戒処分の根拠になりえます。一方、休職は会社が就業規則に基づいて認めた「労務提供の免除」状態です。帳簿上で区別がつかないと、後から「その期間は欠勤扱いだったのか休職だったのか」を巡って従業員とトラブルになるリスクがあります。特に休職期間の算定(休職期間満了による退職の是非)に関わる場面では、記録の明確さが会社を守る証拠になります。
紙・電子タイムカード別の具体的な対応
- 紙の出勤簿・タイムカードの場合:該当日の欄に「休職」と手書きで記入するか、休職期間欄を設けて開始日・終了日を記録する。全日分を個別に記入するのが難しければ、月の出勤簿備考欄に「〇日〜〇日:休職(傷病)」とまとめて記載する方法でも記録の実態は残せます。
- 電子タイムカード・勤怠システムの場合:システム上に「休職」ステータスが用意されていれば必ず使用する。機能がない場合は、管理者が対象期間を「特別休暇(休職)」等の区分で手入力するか、別途エクセル等の補完一覧表を作成して紐付けしておく。
2019年改正が求める「客観的記録」との関係
2019年4月施行の改正労働安全衛生法(第66条の8の3)により、使用者は客観的な方法で全労働者(高度プロフェッショナル制度適用者を除く)の労働時間を把握・記録する義務が明確化されました。休職者は「労働時間ゼロ」の状態ですが、記録義務そのものは免除されません。労働時間ゼロの根拠として「休職中」の記録を残すことが、この法令への対応にもなります。
労働者名簿——「休職中」はどこに・どう記載するか
労働者名簿に「休職中」という欄は法令上定められていませんが、名簿は在籍者全員の現状を反映する書類であるため、備考欄や付記事項に休職の事実と期間を記録しておくことが実務上の正しい対応です。
法令が定める労働者名簿の記載事項
労働基準法施行規則第53条が定める記載事項は、氏名・生年月日・履歴・性別・住所・従事する業務の種類・雇入年月日・退職または死亡の年月日とその事由などです。「休職」は退職ではないため、これらの法定項目が変更されるわけではありません。ただし、実務上は名簿の備考欄や別紙の休職管理台帳に「休職開始日・休職理由・予定復職日・休職期間満了日」を記録しておくことで、後の復職手続きや期間満了退職の判断がスムーズになります。
「変更届出」義務の有無と住所変更への注意
労働者名簿は、記載事項に変更が生じた場合に遅滞なく修正する義務があります(労働基準法第107条第2項)。休職という状態自体は法定記載事項の変更には直接該当しませんが、休職中に従業員が住所を変更した場合(実家に戻るなど)は住所欄の更新が必要です。休職者との連絡窓口を決めておき、住所変更があれば届け出るよう事前に案内しておくことが現実的な対応です。
就業規則の休職規定と名簿記録の連動
就業規則に休職規定がある場合(従業員10人以上の企業は就業規則の作成・届出義務あり)、規定上の休職期間・延長の可否・期間満了時の扱いと、名簿上の記録が一致していることが重要です。「就業規則では最長6か月と定めているが、名簿上では休職開始日が不明」という状態では、期間満了退職の適法性を後から証明できなくなります。休職開始日を人事記録のどこかに残す、という最低限の対応だけでも早めに実施しておくべきです。
従業員の状況別・帳簿整備のチェックポイント
会社の規模や体制によって、優先すべき対応が変わります。自社の状況に当てはめて、まず何を整えるべきかを判断する基準として活用してください。
就業規則がある場合とない場合の違い
常時10人以上の従業員を雇用する場合は就業規則の作成と労働基準監督署への届出が義務(労働基準法第89条)です。10人未満でも休職規定がなければ、「休職期間はいつまでか」「有給か無給か」「期間満了後はどうなるか」が曖昧になり、帳簿記録の根拠そのものが揺らぎます。就業規則がない場合は、休職者との間で書面(休職通知書・合意書など)を交わし、帳簿と合わせて保存するのが現実的な対応です。
社労士・産業医が関与している場合のメリット
顧問社労士がいる場合は、賃金台帳の様式確認や傷病手当金申請書の会社証明欄の作成支援を依頼できます。産業医が選任されている場合(常時50人以上の事業場では義務)は、復職可否の判断を医学的根拠とともに記録に残せるため、帳簿管理との連動がとりやすくなります。いずれも関与していない企業では、外部の専門家に都度相談できる体制を整えることが、ミスを防ぐ最短ルートです。人事だけで判断せず、プロの視点を入れることで法的リスクが大きく軽減されます。
まとめ
休職中の法定帳簿(賃金台帳・出勤簿・労働者名簿)は、給与がゼロであっても、出勤がなくても、整備義務が消えることはありません。賃金台帳は「労働日数0日・賃金0円」と明記し、社会保険料控除は備考欄に記録する。出勤簿は「欠勤」と混同されないよう「休職」と明示する。労働者名簿は法定記載事項の変更こそないものの、休職開始日・期間・予定復職日を備考欄や別紙で管理する——この3点を押さえるだけで、臨検・傷病手当金審査・復職判断のいずれの場面でも「説明できる記録」が揃います。
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