休職中の退職勧奨が違法になる3つの条件と適切な進め方

休職中の退職勧奨が違法になる3つの条件と適切な進め方 休職・復職対応
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「休職が長引いている社員に、正直なところ退職してほしい。でも、それを口にしたら違法になるのでは……」。こうした不安を抱えたまま、何も動けずに時間だけが過ぎていく。専任人事がいない中小企業では、こうした状況が珍しくありません。本記事では、休職中の退職勧奨が違法になる具体的な条件と、リスクを下げるための適切な進め方を、わかりやすく整理します。

退職勧奨と退職強要、何が違うのか

退職勧奨は原則として合法

「退職してほしい」と会社側から伝えること自体は、法律で禁じられていません。退職勧奨とは、会社が社員に対して自発的な退職を促す行為であり、社員が自由に断れる状況が確保されていれば、原則として合法です。1980年の最高裁判決(下関商業高校事件)でも、退職勧奨そのものの適法性が認められています。

一方、解雇は会社が一方的に雇用契約を終了させる行為であり、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要です。退職勧奨はあくまでも「お願い」であり、社員には断る権利があります。この任意性こそが、退職勧奨と解雇を分ける大きなポイントです。

退職強要になる瞬間

退職勧奨が「退職強要」に転じるのは、社員の意思決定の自由が侵害されたときです。具体的には、断っても何度も繰り返し迫る、「辞めなければ降格する」などの不利益を示唆する、「もうあなたの仕事はない」と虚偽の事実を告げるといった言動が該当します。

退職強要は不法行為(民法709条)にあたり、損害賠償請求の対象になります。また、強要によって締結させた退職合意書は、後から無効を主張される可能性があります。退職合意書があれば安心と思いがちですが、それだけでリスクがゼロになるわけではありません。

退職勧奨と退職強要の境界線を引く3つの基準

退職勧奨と退職強要の境界線は、主に次の3点で判断されます。まず、一度断られた後も同じ場面で繰り返し勧奨しているかどうか。次に、退職以外に選択肢がないと社員に思わせるような言動があるかどうか。そして、社員が断った場合に実際の不利益が生じると感じさせる脅しがあるかどうかです。これらのいずれかに当てはまると、違法と判断されるリスクが高まります。

休職中の退職勧奨が違法になる3つの条件

条件1:精神的に脆弱な状態への働きかけ

通常の退職勧奨でも注意が必要ですが、休職中、とりわけメンタルヘルス不調による休職中の社員への働きかけは、リスクが格段に高くなります。療養中の社員は、判断能力や意思決定能力が通常より低下している場合があります。この状態で退職を促すことは、心理的圧力として認定されやすく、「強迫」や「心神喪失状態での意思表示」(民法96条・713条)を理由に退職合意が無効とされるリスクがあります。

実際に、うつ病で休職中の社員が退職届に署名・捺印した後、「病状が重く、正常な判断ができない状態だった」として退職の効力が争われた事例があります。たとえ書面があっても、締結時の状況が問われます。

条件2:繰り返し・執拗な働きかけ

一度の面談で退職の意向を確認することと、断られた後も何度も呼び出して同じ話を繰り返すことは、まったく別の行為です。後者は「執拗な退職勧奨」として違法と判断される典型的なパターンです。頻度・回数・面談時間・発言内容のすべてが証拠として残ります

「これ以上休まれると業務が回らない」「他の社員に迷惑がかかっている」といった言葉も、文脈によっては心理的圧力と見なされます。社員が後日「圧力をかけられた」と主張したとき、会社側に記録がなければ反論が難しくなります。

条件3:退職以外に選択肢がないと思わせる言動

「復職しても、もうあなたのポジションはない」「戻ってきても仕事を与えられない」といった発言は、事実であれ誇張であれ、社員に退職以外の道がないと錯覚させます。こうした発言は違法と判断されるリスクが高く、特に休職中のように精神的に弱っている時期には影響が大きくなります。会社として伝えられる事実は正確に、かつ選択肢の一つとして提示することが原則です。

違法リスクを下げる退職勧奨の正しい進め方

タイミングを見極める

退職勧奨を行う場合、療養の急性期・症状が深刻な時期は避けることが原則です。主治医が「就労可能」と判断した後や、休職期間満了が近づいた時期に行うのが現実的なタイミングです。復職を前提とした面談の中で、今後の方向性を確認する形で話を進めると、対話の文脈が自然になります。

任意性を明確にして記録を残す

面談の冒頭で「これはあくまでもご意向を確認したいという趣旨であり、強制ではありません」と明示することが重要です。一度でも断られた場合は、同じ面談の場では繰り返さないこと。別の機会に再度確認する場合も、十分な間隔を置くことが必要です。

面談後は必ず記録を残してください。日時・参加者・話した内容・社員の反応を書き留めておくことで、後日「強要された」と主張されたときの反論材料になります。可能であれば、退職勧奨を行った旨を書面で通知し、「任意の選択であること」を明記しておくと安心です。

社員が安心して話せる環境をつくる

面談には、社員が信頼できる人物(家族・労働組合の担当者など)の同席を認めてください。会社側が複数人で臨む場合、社員側が一人では心理的圧力が生じやすくなります。また、退職を条件として提示する際は、退職金の上乗せ・転職支援・猶予期間など、社員が前向きに検討できる内容を示すことが、任意性の担保と後日の紛争リスクの低減につながります。

休職期間満了による自然退職という選択肢

就業規則の規定が前提になる

「退職勧奨を行わずとも、休職期間が終われば自動的に退職になる」という考え方があります。これは、就業規則に「休職期間満了をもって退職とする」旨の規定がある場合に成立します。この場合、会社側が一方的に雇用を終了させる「解雇」ではなく、あらかじめ定められた条件の成就による「雇用契約の終了」として扱われます。

ただし、この規定が就業規則に存在しない、または内容が曖昧な場合は「解雇」とみなされるリスクがあります。実際に中小企業では、休職・復職に関する規定そのものが未整備なケースが多く、「休職期間満了後の扱いを定めていなかった」という理由でトラブルになる事例が後を絶ちません。

期間満了前の書面通知が重要

休職期間満了による自然退職を適切に運用するには、休職期間が終了する前に、就業規則上の規定と期満日を書面で本人に通知しておくことが必要です。突然「明日で休職期間が終わりです」と伝えるのではなく、少なくとも1か月前には通知し、復職の可否を確認するプロセスを踏むことが望ましいとされています。この通知と確認のプロセスが記録として残っていることが、後日のトラブル防止に直結します。

中小企業が陥りやすい実務上のミス

就業規則の未整備がすべてのリスクの起点になる

専任人事のいない中小企業で最も多い問題は、就業規則に休職・復職・期間満了退職に関する規定がない、もしくは曖昧なことです。規定がなければ、休職期間が終了しても「自然退職」が成立せず、解雇として扱われてしまう可能性があります。解雇には客観的合理性と社会通念上の相当性が必要であり、ハードルは高くなります。

記録がないことが会社の弱点になる

面談内容・通知の有無・社員の反応を記録していないケースが非常に多いです。「言った・言わない」の水掛け論になったとき、記録がない会社側が不利になります。退職勧奨に限らず、休職者との連絡や面談はすべて記録に残す習慣をつけてください。メールや書面で記録が残る形でやり取りすることが、最もシンプルで有効な対策です。

「合意書があれば大丈夫」という誤解

退職合意書に署名・捺印をもらっても、その締結プロセスに問題があれば後から無効を主張されます。特にメンタルヘルス不調での休職中に締結した合意書は、「正常な判断能力がない状態での署名だった」として争われるリスクがあります。合意書の有効性は、締結時の状況・社員の状態・手続きの透明性によって左右されます。

まとめ

休職中の社員への退職勧奨が違法になる3つの条件は、(1)精神的に脆弱な状態への働きかけ、(2)繰り返し・執拗な働きかけ、(3)退職以外の選択肢を奪う言動です。これらが重なると、違法と判断されるリスクが高まります。適切に進めるためには、タイミングの見極め・任意性の明示・面談記録の整備・就業規則の整備が欠かせません。

しかし、これらを自社だけで判断・対応するのは、専任人事がいない環境では難しいのが現実です。ウェルセンス株式会社では、休職者への対応・退職勧奨の進め方・就業規則の整備まで、中小企業の実態に合わせた支援を提供しています。「自社の対応が適切かどうか確認したい」「今まさに休職者への対応で困っている」という場合は、まず一度ご相談ください。状況を整理した上で、リスクの少ない対応方法を一緒に考えます。

よくある質問

Q. 休職中の社員に「退職してほしい」と伝えることは、すべて違法ですか?

A. すべてが違法というわけではありません。退職勧奨自体は、社員が自由に断れる状況が確保されていれば原則として合法です。ただし、休職中という状況は社員の判断能力が低下している可能性があるため、通常時より慎重な対応が求められます。療養の急性期を避け、任意性を明示した上で行うことが重要です。

Q. 退職勧奨は何回まで行ってよいですか?

A. 法律上、明確な回数制限はありません。ただし、一度断られた後に同じ局面で繰り返すことは「執拗な退職強要」として違法と判断されるリスクがあります。断られた場合は一度引き下がり、十分な期間を置いてから再度確認するのが原則です。頻度・回数・発言内容はすべて記録しておいてください。

Q. 退職合意書に署名してもらえれば、後からトラブルにはなりませんか?

A. 必ずしも安全とは言えません。メンタルヘルス不調による休職中に締結した退職合意書は、「正常な判断能力がない状態での署名だった」として錯誤・強迫・心神喪失を理由に無効を主張されるリスクがあります。合意書の有効性は、締結時の状況・本人の状態・手続きの透明性によって左右されます。

Q. 「弁護士に相談する」と社員に言われました。どう対応すればよいですか?

A. まず、それ以上の退職に関する働きかけを一時停止してください。次に、これまでの面談記録・通知書類・就業規則など関連資料を整理します。会社側に違法な行為がなかった場合でも、記録がなければ反論が難しくなります。早めに社会保険労務士や弁護士に相談し、自社の対応に問題がないか確認することをお勧めします。

Q. 就業規則に休職規定がない場合、どうすればよいですか?

A. まず現在の就業規則を確認し、休職・復職・期間満了退職に関する規定の有無と内容を整理してください。規定がない、または曖昧な場合は、速やかに整備することが必要です。規定がなければ、休職期間満了後の退職が「解雇」とみなされるリスクがあり、法的トラブルの起点になります。規定の新設・見直しは、社会保険労務士への相談が最も確実です。

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