社員の人間関係トラブル、経営者が介入すべき3つの判断基準

社員の人間関係トラブル、経営者が介入すべき3つの判断基準 組織運営
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「あの二人、最近様子がおかしいな」と感じながらも、どう動けばいいかわからず、結局放置してしまった——中小企業の経営者からこうした話を聞く機会は少なくありません。介入したら逆効果になるかもしれない、でも放置すれば片方が辞めてしまうかもしれない。その板挟みの中で、判断を先送りし続けているうちに、社員同士の人間関係トラブルが深刻化するのが、20〜50名規模の企業で最もよく起きるパターンです。この記事では、「社員同士のトラブルに経営者が介入すべきか・静観すべきか」の判断基準を明確にしたうえで、介入時の初動手順と失敗しないための注意点を実務的に解説します。

放置は中立ではなく、法的リスクを伴う選択肢である

社員同士のトラブルを当事者に任せることは、中立な対応ではありません。経営者には法律上、職場環境を安全に保つ義務があり、何もしないこと自体がリスクになります。

安全配慮義務という法的根拠

労働契約法第5条は、使用者が労働者の「生命・身体・精神の安全」に配慮する義務を負うと定めています。職場の人間関係トラブルを放置した結果、社員がメンタル不調に陥った場合、会社は安全配慮義務違反として損害賠償責任を問われる可能性があります。「個人間のもめごとだから会社が口を出すことではない」という判断は、この義務の観点から見ると成立しません。

ハラスメント防止措置義務も全企業に適用される

2022年4月からは中小企業も含めた全事業主に、パワーハラスメント防止のための相談体制整備・迅速な事後対応等の措置義務が課されています(労働施策総合推進法第30条の2)。「言い方がきつい」「特定の人だけ無視している」といった行為がパワハラの3要件(優越的な関係・業務上の必要性を超えた行為・就業環境への害)を満たす場合、放置は措置義務違反となりえます。同僚間のセクシャルハラスメントについても、男女雇用機会均等法第11条により同様の対応義務があります。

静観は能動的に選ぶべき判断である

よくある誤解として、「当事者同士に解決させる=中立を保てる」というものがあります。しかし、力関係や職位に差がある場合、対等な解決はほぼ起きません。さらに周囲の社員が「会社はトラブルを放置する」と学習すると、職場全体の心理的安全性が低下するという二次被害が生じます。静観するという判断は、リスクを把握したうえで意識的に選ぶものであり、デフォルトの対応にしてはいけません。

経営者が介入すべき3つの判断基準

社員同士の人間関係トラブルで経営者が介入を検討すべきかどうかは、「業務への影響」「ハラスメント性」「当事者のダメージ度」の3点で判断できます。1つでも該当すれば、静観は選ぶべきではありません。

業務・組織への影響が出ているか

トラブルの当事者同士が連携すべき業務を避けている、チーム全体の雰囲気が悪化している、他の社員が巻き込まれて疲弊している——こうした状態は、すでに「個人の問題」を超えて「組織の問題」になっています。売上・生産性への直接的な影響が出ている場合はもちろん、「なんとなく空気が重い」という段階でも、経営者が状況を把握する行動に移るべきタイミングです。

ハラスメントの可能性があるか

以下のいずれかに当てはまる場合、単なる相性問題ではなくハラスメント案件として扱う必要があります。

  • 上司・先輩など職位や経験で優位な立場にある人物が関与している
  • 特定の1人に対して継続的・反復的に不快な言動が向けられている
  • 「無視する」「大声で叱責する」「仕事を与えない・過剰に与える」などの具体的行為がある
  • 被害を訴えている側が体調不良や欠勤を繰り返している

これらは主観的な「きつい言い方」や「相性の悪さ」とは切り分けて考える必要があります。ハラスメントの疑いがある場合、経営者は中立よりも「事実確認と被害者保護」を優先する立場に切り替えなければなりません。

当事者のダメージが深刻か

どちらか一方が「辞めたい」「毎朝出社がつらい」と口にしている、あるいは明らかにメンタル面で消耗しているサインがある場合は、介入を急ぐ必要があります。この段階を超えると、休職・退職という取り返しのつかない損失につながります。20〜50名規模の企業では1人の退職が業務に与える影響は大きく、採用・教育コストも相当なものです。「少し様子を見よう」と判断する前に、以下の表で状況を照合してください。

状況 推奨対応
感情的なすれ違いだが業務は通常通り回っている 状況の把握・モニタリング(介入を急がない)
業務連携が滞り始めている/他の社員への影響がある 経営者または管理職が個別に状況確認を開始
継続的な言動・力関係の差・体調への影響がある ハラスメント案件として正式なヒアリング・記録化
退職・休職の意向が出ている/メンタル不調が明確 即時介入・専門家(産業医・社労士・外部相談窓口)への相談

介入前に知っておくべき初動の原則

介入の判断をしたら、最初にやることは「双方から別々に話を聞き、内容を記録すること」です。この順番を間違えると、善意の介入が火に油を注ぐ結果になります。

最初に相談した側の話だけで動かない

最初に声を上げた側が必ずしも「被害者」とは限りません。先に相談を受けた側の感情的なフレームで事実を理解したまま対応を進めると、聞き取り・判断・対応のすべてが偏ります。後から相手側の事情がわかったとき、すでに取り返しのつかない発言や対応をしてしまっていたというケースは少なくありません。「話を聞く」という行為は、判断する前の情報収集であることを明確に意識してください。

個別ヒアリングと記録化を同時に行う

双方から「別々に・同じ質問で・同じ日か近い日に」話を聞くことが基本です。同席させると、力関係のある側に配慮して本音が出にくくなります。ヒアリングの内容は必ず文書化してください。後にトラブルが拡大した場合や、万が一訴訟になった場合、「何をいつ把握し、どう動いたか」の記録が会社側の誠実な対応の証拠になります。口頭だけの対応は「何もしなかった」と評価されるリスクがあります。

就業規則と体制の有無で対応の幅が変わる

自社の就業規則にハラスメント対応の規定がある場合は、その手順に沿って進めることが法的整合性を保つうえでも重要です。産業医が選任されている場合(常時50名以上は義務、50名未満は努力義務)は、メンタル面のアセスメントに協力を求めることができます。就業規則が未整備・産業医もいないという場合は、社会保険労務士や外部相談窓口への早期相談を検討してください。対応の手段が少ない企業ほど、早い段階で専門家と連携することが結果的に解決を早めます。

介入が逆効果になる失敗パターンと回避策

経営者が善意で介入したにもかかわらず、状況が悪化するケースには共通したパターンがあります。介入の「やり方」が問題であることを認識しておくことが重要です。

えこひいきと受け取られる介入

経営者が先に相談を受けた側と個別に何度も話し合い、後から相手側にも話を聞いたとしても、「最初から肩を持っていた」という印象が残ってしまうことがあります。特に小規模な職場では情報が共有されやすく、「社長はAさんの味方だ」という空気が広まると、もう一方の当事者はもちろん、周囲の社員も経営者への信頼を失います。双方への関与のタイミングと内容をできるだけ対称的に保つことが、中立性の担保につながります。

解決を急いだことによる二次被害

トラブルを早く終わらせたいという気持ちから、事実確認が不十分なまま「二人で仲直りしてほしい」「業務上の話だけに絞ってください」と収束させようとするケースがあります。これはハラスメント案件では特に問題で、被害を訴えていた側が「やっぱり会社は守ってくれない」と感じ、信頼関係が断絶します。解決を急ぐよりも、「会社がきちんと把握し、真剣に対処している」という姿勢を当事者に伝えることの方が重要です。

小規模企業特有の物理的解決策の限界への対処

20〜50名規模では、部署異動・配置転換・担当業務の変更といった手段が限られています。「引き離したくても引き離せない」という構造的な悩みは多くの経営者が抱えています。この場合、業務の割り振りや出勤時間のシフトを工夫することで接触頻度を減らす、リモートワークを一時的に活用するなど、ソフトな分離策を検討してください。それでも解決しない場合は、外部の専門家(産業カウンセラー・社労士・弁護士)と連携したうえで、今後の方針を整理することを推奨します。

まとめ

社員同士の人間関係トラブルに対して経営者が介入すべきかどうかは、「業務への影響」「ハラスメントの可能性」「当事者のダメージ」の3点で判断できます。放置は中立ではなく、安全配慮義務違反やハラスメント防止措置義務違反につながりうる法的リスクを伴います。介入する際は、双方から別々に話を聞き、内容を記録に残すことが初動の基本です。最初に相談した側の話だけで動かず、中立性と事実確認を意識しながら対応を進めてください。就業規則の整備状況や産業医の有無によって対応の幅は変わりますが、手段が少ない企業ほど早期に専門家と連携することが問題の長期化を防ぎます。

ウェルセンス株式会社では、専任人事のいない中小企業の経営者・兼務担当者からのご相談を受け付けています。「これはハラスメントに当たるのか」「ヒアリングの場で何を聞けばいいか」「就業規則に何を盛り込めばいいか」など、具体的な状況に応じたアドバイスが可能です。一人で抱え込まず、まずは気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 「性格の不一致」や「相性の悪さ」でも会社が介入する必要はありますか?

A. 単純な相性の問題であっても、それが業務に影響を与えている場合や、一方が精神的に消耗しているサインを見せている場合は、経営者が状況を把握する段階に入っています。「個人の問題だから」と完全に放置することは、安全配慮義務の観点から推奨できません。まずは状況の把握とモニタリングを始めることをお勧めします。

Q. ヒアリングの際、どんな質問をすればいいですか?

A. 「いつから」「どのような言動が」「どのくらいの頻度で」「誰が見ていたか」「業務にどのような影響が出ているか」という事実ベースの質問を中心に組み立ててください。感情や推測を引き出す質問よりも、具体的な行為・日時・場所・頻度を確認することで、後から記録として使える情報が集まります。「どう感じましたか」よりも「どんなことがありましたか」と問いかける形が基本です。

Q. 加害者とされる側に事実確認をしたら逆ギレされました。どう対応すべきですか?

A. 感情的な反発は珍しくありませんが、会社の対応としては「事実確認を行う義務がある」ことを冷静に伝えることが重要です。「あなたを責めているのではなく、状況を正確に把握するために話を聞いている」というスタンスを崩さないでください。それでも対応が困難な場合や、反発が激しくエスカレートする場合は、社会保険労務士や弁護士に同席・代行を依頼することも選択肢の一つです。

Q. 就業規則にハラスメントの規定がない場合、どう対応すればいいですか?

A. 就業規則の整備がなくても、ハラスメント防止措置義務(労働施策総合推進法第30条の2)は全事業主に適用されます。規定がない場合でも、事実確認・当事者への指導・相談窓口の設置といった対応を実施することが求められます。まずは現状の対応を記録に残しながら進め、並行して就業規則の整備を専門家に相談することをお勧めします。

Q. トラブルの当事者が「会社に相談したくない」と言っています。それでも介入すべきですか?

A. 当事者が相談を望まない場合でも、業務や健康への影響が見られるなら経営者は状況を把握する義務があります。「無理に話させる」必要はありませんが、「会社として状況を把握し、必要なサポートを提供したい」という姿勢を示すことが重要です。外部の相談窓口(EAPや産業カウンセラーなど)を案内し、「社内以外の選択肢もある」と伝えることで、当事者が相談しやすい環境を整えることができます。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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