メンタル不調社員の降格、安全配慮義務違反にならない手順は?

メンタル不調社員の降格、安全配慮義務違反にならない手順は? メンタルヘルス対応
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「復職してから明らかにパフォーマンスが落ちている。このまま同じポジションに置いておくのは現場にとっても本人にとっても良くないと思うが、降格させたら安全配慮義務違反になるのだろうか」——中小企業の経営者や兼務人事担当者から、こうした相談が後を絶ちません。メンタル不調のある社員への降格は、適切な手順を踏めば違法にはなりません。しかし手順を誤ると、本人からの訴訟リスクや労使トラブルに直結します。この記事では、安全配慮義務違反とならないための具体的な手順と、見落としやすい実務の落とし穴を解説します。

降格していいかを判断する前に確認すること

メンタル不調のある社員への降格が適法かどうかは、「客観的合理的な理由があるか」「社会通念上相当か」という2つの基準で判断されます。まずこの判断軸を押さえておかないと、後続のすべての手順が意味を持ちません。

降格の理由は「病気そのもの」ではなく「職責遂行困難」

降格の法的根拠として問題になるのは、「メンタル不調だから降格する」という理由づけです。疾患を直接の理由にした降格は、障害者差別や不当降格と判断されるリスクがあります。適法な降格の理由は「現在の職位が求める業務・責任を、医学的見地からみて担うことができない状態にある」ことです。この区別は、後述する産業医の意見書を取得する際にも重要になります。

就業規則に降格規定があるか確認する

降格(役職・職位の引き下げ)は、労働基準法第89条に基づき就業規則に根拠規定が必要です。規定のない降格は無効と判断されるリスクがあります。まず自社の就業規則を確認してください。「降格」「役職の変更」「人事異動」に関する条項があるかどうかを確認し、なければ専門家に相談のうえ整備することが先決です。降格辞令を出す前に、必ずこの確認を行ってください。

産業医の選任状況によって手順が変わる

常時50人以上の労働者を使用する事業場では産業医の選任が義務づけられています(労働安全衛生法第13条)。50人未満の事業場には選任義務はありませんが、産業医や嘱託医との連携がある場合はその活用が強く推奨されます。選任がない場合は、地域産業保健センター(産保センター)の無料相談を活用するか、外部の産業医サービスを利用することが現実的な選択肢です。産業医の有無によって取れる手順が変わるため、自社の状況を最初に整理しておきましょう。

安全配慮義務を果たすための手順

安全配慮義務(労働契約法第5条)とは、使用者が労働者の生命・身体・精神の安全に配慮する義務のことです。メンタル不調が把握されている社員への降格は、この義務違反と判断されないよう、医学的根拠と丁寧なプロセスを踏む必要があります。以下の手順を順番に実行してください。

主治医の意見を書面で確認する

まず最初に、本人の主治医から現在の就労可能範囲・業務負荷の許容度について意見を取得します。ここで重要な注意点があります。主治医の「復職可能」という診断は、あくまで「何らかの形で働ける」という意味に過ぎません。「元の役職・業務量を担えるか」という判断は、主治医の意見だけでは完結しません。主治医に確認すべきは「業務上どのような配慮が必要か」「どの程度の業務負荷が許容できるか」という点です。本人の同意を得たうえで、意見書または診断書を書面で取得・保管してください。

産業医に「当該職位の遂行能力」を明示的に確認する

次に、産業医との面談を実施し、主治医の意見を踏まえた業務適性の判断を求めます。ここで多くの経営者が見落とすのが、産業医への質問の具体性です。「復職できますか」という抽象的な確認では不十分で、「現在担っている部長職(または該当役職名)の職責、具体的には〇名のマネジメントと月次の業績管理を担うことが可能かどうか」という形で、職位の具体的な業務内容を提示して意見を求める必要があります。この確認が書面(産業医意見書)として残っていないと、降格の医学的根拠が弱いと判断されるリスクがあります。

多くの中小企業では産業医の契約がないため、「医学的根拠をどう確保するのか」が実務上の最大の悩みです。後述の無料相談窓口や外部サービスの活用で、この課題は解決できます。

本人との面談で説明と意向確認を行う

産業医の意見書が取得できたら、本人との面談を設定します。この面談は一方的な降格通告の場ではなく、理由の説明と本人の意向・懸念を丁寧に聴く場として設計してください。面談では、降格の理由(医学的根拠を含む)、根拠となる就業規則の条項、処遇の変更内容(給与・役職)を明示します。面談後は必ず記録を作成し、日時・出席者・主な発言内容を保管してください。この記録が後日のトラブル時に重要な証拠となります。

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降格辞令の書き方と交付の注意点

辞令を交付すれば手続き完了ではありません。辞令の記載内容と交付の方法が不適切だと、それ自体がトラブルの原因になります。

辞令に記載すべき項目

降格辞令には以下の項目を明記してください。

記載項目 記載例・注意点
発令日 辞令の効力発生日を明確に記載
変更前・変更後の役職 「部長」から「課長」など具体的に記載
降格の事由 「健康上の理由により現職の職責遂行が困難なため」など医学的根拠に基づいた表現を使用
根拠規定 就業規則の条項番号を明示(例:就業規則第〇条第〇項)
処遇の変更内容 給与・手当の変更がある場合は別紙または辞令内に明記

「病気を理由にした降格」と受け取られない表現の工夫

辞令の事由欄で注意すべきは、「メンタル疾患があるから」「精神的な問題があるから」という疾患名や症状を直接理由として書かないことです。適切な表現は「現職の業務遂行に必要な職責を、現時点の就労状況のもとで担うことが困難であると医師の意見に基づき判断したため」といった形です。疾患名を記載する場合は、本人の同意取得と個人情報保護の観点から慎重な取り扱いが必要です。

受領確認の取り方と保管

辞令の交付は手渡しを原則とし、本人から署名または受領印を取得してください。「受け取っていない」「内容を知らなかった」というトラブルを防ぐためです。本人が署名を拒否した場合は、その場で同席者(もう一人の担当者など)が立会い、拒否の事実を記録に残します。辞令の写しと受領確認書は、最低でも労使紛争の消滅時効(民法上、不法行為に基づく損害賠償は原則3年)を考慮した期間、適切に保管してください。

降格のタイミング——いつ辞令を出すべきか

降格のタイミングは、法的に「いつでも可能」ではありません。本人の心理的状態と医学的根拠の両方を踏まえて判断する必要があります。

休職中の降格は原則として避ける

休職中は、安全配慮義務の観点から降格辞令を交付することは慎重であるべきです。療養に専念している期間に職位の変更を通告することは、症状を悪化させるリスクがあり、それ自体が安全配慮義務違反と判断される可能性があります。降格の辞令は、復職前の面談または復職後の安定期に行うことが基本的な考え方です。

復職時・復職後の判断タイミング

復職前面談(復職判定のための産業医面談)の中で、「現職への復帰が困難であること」を本人・産業医・会社の三者で共有したうえで、復職と同時に職位の変更を行うことが、手続きとして最も整理しやすいタイミングです。復職後の安定期に行う場合は、「試し出勤・軽減業務を経て、正式に職位を調整する」という流れが自然であり、本人にとっても受け入れやすい場合があります。いずれのタイミングでも、産業医の意見書と面談記録が先行して揃っていることが前提です。

先送りが引き起こすリスク

「本人の状態が落ち着いたら話し合おう」と先送りしている間に、現場の不満が蓄積したり、当該社員が「このポジションは自分のものだ」という認識を強めたりするリスクがあります。対応を先送りすること自体が、後の交渉を困難にします。手順が整い次第、速やかに対応を進めることが会社・本人双方のためになります。

産業医がいない場合の対応

従業員50人未満の事業場で産業医が選任されていない場合でも、医学的根拠のない降格は法的リスクが高く、何らかの形で医師の見解を取得するプロセスが必要です。

地域産業保健センターを活用する

産業医が選任されていない小規模事業場は、各都道府県の産業保健総合支援センターが設置する「地域産業保健センター」を無料で利用できます。ここでは、嘱託産業医による面談・相談、職場復帰支援に関するアドバイスを受けることができます。費用がかからないため、まず最初にここに問い合わせることをおすすめします。

外部産業医サービスの活用

スポット契約で産業医面談を提供する外部サービスを活用することも選択肢のひとつです。「1回の面談だけ依頼する」という形で意見書を取得できる場合があります。費用はサービスにより異なりますが、後日の訴訟リスクと比較すれば合理的な投資といえます。自社で判断が難しい場合は、社労士や専門の支援機関に相談することも有効です。

人事判断を一人で抱えず、医学的根拠の取得から本人対応まで、段階的な専門家支援の活用が降格トラブル防止の最大の有効策です。

まとめ

メンタル不調のある社員への降格は、適切な手順を踏めば安全配慮義務違反にはなりません。重要なのは、主治医の意見取得・産業医による業務遂行能力の明示的な確認・本人との丁寧な面談・就業規則の根拠確認・辞令の正確な文書化、というプロセスを順番に、かつ記録を残しながら実施することです。産業医が選任されていない事業場でも、地域の支援機関や外部サービスを活用することで医学的根拠を確保できます。

「どの手順から始めればいいかわからない」「自社の就業規則が不十分かもしれない」「本人との面談の進め方に不安がある」と感じている場合は、ウェルセンス株式会社にご相談ください。メンタルヘルス対応・休職復職支援の専門家が、貴社の状況に合わせた具体的なサポートをご提供します。

よくある質問

Q. 産業医の意見書がなくても、主治医の診断書だけで降格の根拠にできますか?

A. 主治医の診断書だけでは不十分なケースがほとんどです。主治医は「就労可否」の一般的な判断はできますが、「当該役職の具体的な職責を担えるか」という職場実態を踏まえた判断は産業医の領域です。産業医がいない場合は、地域産業保健センターや外部産業医サービスを活用して意見書を取得することを強くおすすめします。

Q. 就業規則に降格規定がない場合、今すぐ降格辞令を出すことはできますか?

A. 就業規則に根拠規定がない状態での降格は、無効と判断されるリスクがあります。まず就業規則の整備を優先し、規定を設けてから手続きを進めてください。就業規則の変更は労働基準監督署への届出が必要です(常時10人以上の事業場の場合)。社労士に相談しながら早急に整備することをおすすめします。

Q. 本人が降格に同意しない場合、辞令を一方的に交付することはできますか?

A. 就業規則に根拠規定があり、医学的根拠と客観的理由が整っていれば、本人の同意がなくても降格辞令を交付すること自体は可能です。ただし、一方的な通告は紛争リスクを高めます。本人の不服・反論を丁寧に聴き、面談記録を残したうえで交付するプロセスが、後日の法的判断でも重要な評価材料となります。

Q. 降格に伴って給与も下げることはできますか?

A. 就業規則に役職・職位と給与の連動が規定されていれば、役職の変更に伴う給与の変更は可能です。ただし、変更内容は事前に本人に明示し、辞令または別途の書面で通知する必要があります。給与の不利益変更は本人への説明と記録が特に重要であり、変更幅が大きい場合は専門家への相談を検討してください。

Q. 降格後、本人の状態が改善した場合に元の役職に戻す必要がありますか?

A. 法律上、「状態改善があれば必ず復職させる義務」が自動的に生じるわけではありませんが、就業規則に昇格・役職復帰に関する規定がある場合はその規定に従います。実務上は、定期的な産業医面談の機会を設けて状態を確認し、回復に応じた柔軟な対応を検討することが、安全配慮義務の継続的な履行として重要です。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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