「また同じ部署から不調者が出た」「3人目になって、さすがに職場に問題があるのかと思い始めた」——そんな経験をお持ちではないでしょうか。メンタル不調への対応は、原因が個人にあるのか組織にあるのかを正しく切り分けることから始まります。その判断を誤ると、再発を繰り返し、優秀な人材の離職につながります。本記事では、組織診断の視点からメンタル不調の原因を特定し、実効性のある改善につなげるための考え方と手順を解説します。
「個人の問題」と片付けてしまうリスク
繰り返す不調は組織からのサインかもしれない
メンタル不調の社員が出たとき、「あの人はもともとデリケートだから」「プライベートに問題があるのでは」と個人に原因を帰属させてしまうのは、珍しいことではありません。しかし、同じ部署から半年以内に2人・3人と不調者が続出している場合、それはもはや個人の問題ではなく、組織が発しているSOSです。
厚生労働省のガイドラインでも、ストレスチェックの集団分析結果を活用して「高ストレス部署」を特定し、組織環境の改善に結びつけることが推奨されています。「様子を見よう」という判断を繰り返すほど、対応コストは積み上がっていきます。
法的な視点:放置は「安全配慮義務違反」になりうる
労働契約法第5条は、使用者が労働者の生命・身体・精神の健康を守る「安全配慮義務」を負うことを定めています。メンタル不調のサインに気づきながら適切な対応を取らなかった場合、この義務違反として損害賠償請求のリスクが生じます。
さらに、業務上の過重労働やハラスメントが認められれば、精神疾患が「労災」として認定されるケースもあります。厚生労働省が定める「業務による心理的負荷評価表」に照らすと、長時間労働・叱責・職場での孤立などが一定の基準を超えた場合、組織要因が直接的に労災と結びつきます。「個人の問題」と放置することは、法的リスクとも無縁ではないのです。
「個人」と「組織」は二択ではなくグラデーション
重要なのは、個人要因と組織要因を「どちらか一方」で断定しようとしないことです。もともとのストレス耐性や家庭環境といった個人の脆弱性と、業務量・人間関係・役割の曖昧さといった職場環境ストレスは、互いに影響し合います。「組織が整っていれば、その人は不調にならなかったかもしれない」という視点を持つことが、正確な原因の切り分けに不可欠です。
メンタル不調の原因を「組織診断」で可視化する
まず手元のデータを整理するところから始める
組織診断と聞くと大がかりな調査を想像しがちですが、最初のステップは意外とシンプルです。手元にある情報を整理するだけでも、多くの示唆が得られます。具体的には次のようなデータが手がかりになります。
- 不調者・休職者が発生した部署・時期・業務内容
- 離職者の退職理由(可能であれば面談記録)
- 部署別の残業時間・有給取得率
- ストレスチェックの集団分析結果(実施済みの場合)
たとえば、「営業部から3年連続で休職者が出ている」という事実は、個別の人事記録を並べてみるまで気づかないことがあります。小規模企業では人事データが属人的・手作業で管理されていることが多く、こうした傾向の把握が後手になりがちです。まず現状を「見える化」することが、組織診断の出発点です。
ストレスチェックの結果を「使いこなす」ための視点
常時50名以上の事業場では、労働安全衛生法第66条の10に基づき、年1回のストレスチェック実施が義務付けられています。しかし、集団分析の結果レポートを受け取っても、「数値が悪い部署に何をすればいいかわからない」「個人情報の壁があってどこまで踏み込んでいいのか」という声が後を絶ちません。
ストレスチェックの集団分析は、部署単位で「仕事の量的負担」「上司のサポート」「同僚のサポート」などの指標がスコア化されています。たとえば「仕事の量的負担」は高いのに「上司のサポート」が極端に低い部署があれば、業務過多×マネジメント不全という複合要因が浮かび上がります。この読み解きができると、打ち手の優先順位が格段に明確になります。
定量データと定性データを組み合わせる
組織診断をより精度高く行うには、数字だけでなく従業員の声も組み合わせることが重要です。匿名アンケートや1on1面談の記録から「チームの心理的安全性」「役割の明確さ」「裁量の有無」といった定性的な情報を集めると、数値データだけでは見えない実態が浮かび上がります。
ある製造業の20名規模の企業では、ストレスチェックの数値は平均的でしたが、匿名アンケートで「何を言っても上司に却下される」「ミスすると皆の前で怒鳴られる」という記述が複数集まりました。この情報によって、特定の管理職のマネジメント行動が組織課題の核心にあることが判明し、具体的な介入につながったのです。
管理職のマネジメント問題をどう扱うか
管理職が「原因の一部」である場合の難しさ
組織診断を進めると、しばしば管理職のマネジメントスタイルが不調の一因として浮かび上がります。しかし、その管理職が会社の中核人材だったり、経営者と個人的に近い関係にある場合、「問題提起しにくい」という状況に直面します。
特に専任人事がいない中小企業では、経営者自身が当事者意識を持ちにくく、「あの人には言えない」という政治的なハードルが対応を数ヶ月単位で遅らせることがあります。その間にも現場の疲弊は進み、次の不調者が生まれるリスクが高まります。
管理職のマネジメント行動は「測定可能」である
重要なのは、管理職のマネジメント課題を「感覚的な問題」ではなく、データで示すことです。以下のような指標を組み合わせると、客観的な事実として提示できます。
- 担当チームの残業時間の推移
- 有給取得率・消化率
- チームの離職率(特に在籍2年以内の若手)
- 1on1の実施頻度・記録の有無
- ストレスチェックにおける「上司のサポート」スコア
これらを組み合わせて提示することで、「あなたのマネジメントに問題がある」という属人的な批判ではなく、「このチームの環境指標が悪化している」という事実ベースのフィードバックが可能になります。
外部専門家を活用することで「言いにくい」を乗り越える
経営者や兼務人事担当者が直接フィードバックしにくい場合、外部の専門家を介することが有効です。外部の立場から中立的にデータを示し、「組織としての課題」として提言することで、当事者間の感情的な摩擦を回避しながら問題に向き合える環境をつくれます。2022年4月から中小企業にも義務化されたパワーハラスメント防止措置(労働施策総合推進法第30条の2)への対応という文脈でも、第三者の関与は実務上の有効な手段です。
「個人支援」と「組織改善」を同時に動かす設計
不調者対応に追われて組織改善が止まるパターン
メンタル不調者が出ると、休職手続き・業務の引き継ぎ・産業医との連携・給与計算の変更など、目の前の実務対応だけで手いっぱいになります。本来であれば、その裏側で「なぜこの不調が起きたのか」「再発を防ぐために何を変えるべきか」という組織的な原因分析と改善策の検討を並行して進める必要があります。
しかし専任人事のいない中小企業では、兼務担当者のリソースは有限です。結果として「今回は乗り越えた」で終わり、半年後に同じ部署から次の不調者が出る、というサイクルに陥りがちです。
「軽量な打ち手」から優先順位をつけて実行する
組織改善を大掛かりなプロジェクトとして捉えると、着手のハードルが上がります。まず最初に取り組めるのは、コストも工数も小さいアクションです。たとえば、月1回の匿名アンケート(3問程度)の導入、管理職への1on1実施ガイドラインの共有、残業時間のアラート設定などは、専任人事がいなくても実行可能です。
次に、ストレスチェック結果の読み解きと部署別フィードバック面談を追加し、さらにその先で管理職研修や職場環境改善ワークショップへと展開していく、という段階的な設計が現実的です。「完璧な体制を一気に整える」ではなく、「今できる最小の一手から始める」という発想が、継続的な組織改善の鍵です。
個人支援と組織改善を並行させるロードマップ
不調者が発生した際のロードマップとして、以下のような二軸の進行を意識することをお勧めします。
- 個人支援軸:休職手続き→主治医・産業医との連携→復職支援プログラムの設計→職場復帰後のフォロー
- 組織改善軸:発生部署のデータ収集→原因の仮説設定→管理職へのフィードバック→環境改善アクションの実行→効果検証
この二軸を同時に動かすことで、目の前の人を支えながら、次の不調者を生まない職場づくりを進められます。リソースが限られる場合は、組織改善軸の初動だけでも外部に委託することで、担当者の負担を大幅に軽減できます。
🔗 社員のメンタル不調に、精神科・心療内科医によるスポット産業医サービス →
打ち手の優先順位をどう決めるか
「効果の大きさ」と「実行の容易さ」で仕分ける
組織診断の結果、複数の課題が浮かり上がることがほとんどです。すべてを一度に解決しようとすると、どれも中途半端になります。優先順位をつける際は、「効果の大きさ(多くの人に影響するか)」と「実行の容易さ(今の体制でできるか)」の2軸で打ち手を整理することが有効です。
たとえば、「残業時間の上限設定と管理職への周知」は、効果が広範で実行も比較的容易なアクションです。一方、「管理職の全員研修」は効果は大きいものの、日程調整・費用・外部講師の手配が必要なため、実行難易度は高くなります。まず最初に「高効果×実行容易」の打ち手を実行し、早期に変化を生み出すことで、組織改善の機運を高めることができます。
改善施策は「測定」とセットで設計する
打ち手を実行したら、その効果を測定する仕組みも同時に設計しましょう。たとえば、1on1を導入した場合は「実施率」と「従業員の孤立感スコアの変化」を追う、残業削減施策を講じた場合は「月次の残業時間推移」を記録するといった形です。測定指標を決めておかないと、施策が「やりっぱなし」になり、効果があったのかどうかもわからないまま終わります。
データの蓄積は、次のストレスチェック時の集団分析との比較にも活用でき、組織改善の取り組みを継続的なPDCAサイクルとして回す基盤になります。
🔗 人事だけで抱えない。メンタル不調者面談や休職・復職対応を、1件からスポットでご相談 →
まとめ
メンタル不調への対応で最も大切なのは、「個人の問題か、組織の問題か」を正しく切り分けることです。同じ部署から繰り返し不調者が出ている場合、それは組織が発しているシグナルであり、安全配慮義務や労災リスクの観点からも放置は許されません。
組織診断は大掛かりな調査でなくても構いません。手元のデータを整理するところから始め、ストレスチェックの集団分析結果と定性的な従業員の声を組み合わせることで、課題の所在を可視化できます。管理職のマネジメント問題は「感覚」ではなく「データ」で示すこと、個人支援と組織改善を二軸で並行させること、そして打ち手は効果と実行容易さで優先順位をつけることが、専任人事がいない中小企業でも実行できる現実的なアプローチです。
「うちの職場に組織的な問題があるのか、それとも個人の要因が大きいのか、判断がつかない」という段階からでも、ウェルセンス株式会社はご相談をお受けしています。現状のデータ整理から一緒に始めることも可能ですので、まずはお気軽にお問い合わせください。
よくある質問
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。
不調者対応を、人事だけで抱えない。
メンタル不調者面談や休職・復職対応を、1件からスポットでご相談いただけます。


