「とりあえず内定者をLINEグループに入れておこう」——採用担当を兼務しながら、そう判断した経験はありませんか。手軽に連絡が取れるLINEは便利に見えますが、内定者との連絡に使う場合、個人情報の取り扱いや労働時間該当性など、見落とされがちな法的リスクが潜んでいます。この記事では、内定者グループLINEを運用するうえで知っておくべき法的ポイントと、中小企業でも実践できる運用ルールを整理します。
内定者グループLINEは作っていいのか
結論から言えば、内定者グループLINEを作ること自体は違法ではありません。ただし「目的の明示」「個人情報の適切な取り扱い」「運用ルールの整備」という条件を満たさなければ、法的リスクが生じます。
内定後の法的な位置づけを理解する
内定承諾後は、法律上「始期付解約権留保付労働契約」が成立しているとされます(大日本印刷事件・最高裁昭和54年7月20日)。入社日という「始期」が定められ、会社側には一定の要件を満たす場合にのみ内定を取り消せるという解約権が留保された、すでに労働契約が成立した状態です。つまり、内定者は「まだ社員ではない第三者」ではなく、契約上すでに会社と結びついた存在です。
この前提を踏まえると、グループLINEを通じたやり取りが業務に近い性質を持つ場合、「入社前だから無償・自由」という扱いは通用しなくなります。
「作ること」より「使い方」がリスクを決める
書類提出の案内や入社日の連絡だけであれば、リスクは限定的です。問題が生じやすいのは、入社前課題の共有・強制参加の懇親会連絡・就業規則の事前読み込み依頼など、業務に近い内容がグループに流れ始めたときです。目的と利用範囲を最初に明確にしておかないと、自然とグレーゾーンへ踏み込んでいきます。
見落とされやすい個人情報保護法上のリスク
LINEグループへの招待は、内定者の電話番号を取得・利用する行為に該当します。個人情報保護法の観点から、利用目的の明示と辞退後の消去対応が必要です。
電話番号は「個人情報」として扱う必要がある
LINEは電話番号に紐づくサービスです。内定者をグループに招待するためには、その番号を担当者が取得・保有することになります。氏名・連絡先(電話番号)は個人情報保護法上の個人情報に該当するため、取得する際には利用目的を本人に通知・公表する義務があります(個人情報保護法第17条・第21条)。
採用選考で連絡先を取得した際に「入社手続きに利用する」と説明していても、LINEグループへの招待という利用形態が想定の範囲外であれば、別途説明が必要になる場合があります。「採用・入社手続きに関する連絡のために使用します」という一文をオファーレターや内定通知書に明記しておくのが現実的な対策です。
内定辞退者の個人情報は速やかに消去する
個人情報保護法第19条は、利用目的を達成した後は個人データを遅滞なく消去するよう努めることを求めています。内定辞退が発生した場合、グループからの退出だけでなく、担当者のスマホに保存された電話番号・チャット履歴の削除まで手順として定めておく必要があります。
「辞退した内定者がグループに残ったままになっていた」「担当者の個人スマホに番号が残り続けている」というケースは、小規模企業では珍しくありません。誰が・いつ・どのように削除するかを事前に決めておくことが重要です。
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入社前のやり取りは「労働時間」になるのか
強制参加・強制提出が求められる入社前の研修や課題は、労働時間に該当する可能性があります。「内定者だから賃金は不要」という認識は誤りです。
労働時間該当性の判断基準
厚生労働省の解釈では、「使用者の指揮命令下に置かれた時間」が労働時間に該当します。内定者であっても、この基準は変わりません。グループLINEを通じて「入社前に必ず読んでください」「提出期限は〇〇日です」という形で課題を課している場合、それが強制的なものであれば労働時間・最低賃金の対象となりうります。
「任意」であることを書面で明示する
リスクを回避するには、課題や事前研修の案内を送る際に「参加は任意です。強制ではありません」という一文を書面(またはメッセージ)で明示することが有効です。口頭や雰囲気で「強制ではない」と伝えていても、記録が残らなければ後から争いになる可能性があります。
また、グループLINEでの深夜・休日の送受信についても注意が必要です。「メッセージを見て返信することが当然の雰囲気」になっている場合、それが指揮命令下の時間として扱われるリスクがあります。送信可能な時間帯のルールをあらかじめ設定しておくことをお勧めします。
LINEのまま使い続けるリスクと他のツールとの比較
LINEは個人スマホ依存・ログ管理不可・権限設定の限界という構造的な問題を抱えています。SlackやTeamsなどのビジネスツールの方が、中小企業でも管理しやすいケースが多いです。
プラットフォーム選定の比較
| 項目 | LINE | Slack / Teams / Chatwork |
|---|---|---|
| 個人番号の取得 | 必要(電話番号紐づき) | 不要(メールアドレスで招待可) |
| 会社アカウントでの管理 | 難しい(個人スマホ依存になりがち) | 会社アカウント・管理者権限で運用可 |
| ログ保存・監査 | 原則できない | プランにより管理者がログ管理可 |
| 退出・権限管理 | 手動・属人的 | 管理者が一元管理可 |
| 無料で使える | ○ | 無料プランあり(機能制限) |
専任人事がいない企業ほどLINEのリスクが高い
専任人事がいない中小企業では、担当者の個人スマホでグループを管理しているケースが多く見られます。この場合、担当者が異動・退職した際に引き継ぎができず、内定者の連絡先やチャット履歴が個人のデバイスに残り続けるという問題が生じます。
Slack(無料プラン)やMicrosoft Teams(Microsoft 365契約があれば利用可)であれば、会社のメールアドレスで管理者権限を設定し、担当者が変わっても組織として引き継げる体制を作れます。内定者数が少なく予算をかけられない場合でも、無料プランで十分対応できることが多いです。
実際の運用で「個人スマホの管理をどう整理すればいいか」「ツール選定の判断がつかない」という相談はよくあります。小規模企業の実情に合わせたアドバイスが欲しい場合は、お気軽にウェルセンス株式会社までお問い合わせください。
今すぐ整備すべき運用ルール
運用ルールの整備は、ツールの選定と同じくらい重要です。最低限以下の項目を明文化し、内定者にも事前に共有しておきましょう。
グループ運用の基本ルールとして決めるべき事項
- グループの目的・利用範囲(例:入社手続きに関する連絡のみ)
- 管理者・副管理者の設定(担当者個人ではなく、役割として管理する)
- メッセージ送受信が可能な時間帯(例:平日9時〜18時)
- 内定辞退・入社取りやめ時の退出・データ削除手順と担当者
- 入社後のグループの扱い(解散・別チャンネルへの移行)
- 課題・研修案内を送る場合は任意である旨の明示
内定者への事前説明をセットで行う
ルールを社内で決めるだけでなく、内定者本人にもグループ参加前に説明することが重要です。「何のためのグループか」「どんな情報が流れるか」「辞退した場合はどう対応するか」を書面またはメッセージで一度伝えるだけで、後のトラブルを大幅に減らせます。内定通知書や入社手続き案内に一項目として加えておくのが現実的です。
特に個人情報の利用目的については、「採用・入社手続きに関する連絡のために使用し、入社取りやめの際は速やかに削除します」という旨を明記することで、個人情報保護法上の説明義務を果たしやすくなります。
法令対応が必要になった場合、人事専任者がいない組織では判断に迷うことも多いでしょう。採用・入社手続き周りの個人情報管理について、不安なことがあれば相談してみることをお勧めします。
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まとめ
内定者グループLINEは、運用ルールと個人情報管理の整備を前提とすれば、必ずしも禁止されるものではありません。ただし、電話番号の取得にともなう個人情報保護法上の義務、入社前課題の労働時間該当リスク、担当者の個人スマホ依存による引き継ぎ問題など、専任人事のいない企業が見落としやすいリスクが複数存在します。まず利用目的を明文化し、次に管理者設定と辞退時の削除手順を決め、内定者への事前説明をセットで行うことが基本的な対策です。ツール選定についても、SlackやTeamsなどビジネス用のプラットフォームへの移行を検討する価値があります。
「自社の運用が適切かどうか判断しにくい」「個人情報管理や入社前課題の扱いについて誰かに確認したい」とお感じであれば、ウェルセンス株式会社にお気軽にご相談ください。人事専任者のいない成長企業の実情に合わせた、現実的なアドバイスをお伝えしています。
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