復職後の残業制限を業務命令にする進め方

復職後の残業制限を業務命令にする進め方 休職・復職対応
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「本人が『残業します』と言っているのに、止めていいのだろうか」――復職者を受け入れた直後に、こうした場面に直面する経営者・人事担当者は少なくありません。善意で申し出てくれる本人を前にして、断る言葉が見つからないまま、結果的に残業を黙認してしまう。そして数週間後に再休職、という事態が実際に起きています。残業制限は「可哀想だから制限する」のではなく、法的義務に基づく業務命令として行うものです。この記事では、その根拠・就業規則への記載方法・本人への説明文例を、専任人事がいない会社でも実践できるよう具体的に解説します。

残業制限を業務命令にできる法的根拠

復職後の残業制限は、使用者の正当な権限行使であり、法律上の義務でもあります。「本人が希望しているのに止めるのは差別ではないか」という心配は不要です。

安全配慮義務が最大の根拠になる

労働契約法第5条は、使用者が労働者の「生命・身体・精神の安全」を確保して労働させる義務を負うと定めています。これを「安全配慮義務」と呼びます。復職直後のメンタル不調者に制限なく残業させ、再発や健康被害が生じた場合、会社は安全配慮義務違反を問われるリスクがあります。重要なのは、「本人が希望したから許可した」という事実は、この義務の免責理由にならないという点です。本人の意向と使用者の義務は、法律上まったく別の問題として扱われます。

業務命令権の根拠は就業規則でさらに明確になる

安全配慮義務に基づく業務命令は、就業規則に復職時の労働制限に関する条項がなくても行使できます。ただし、就業規則に明記されていれば、本人・現場の上司・他の従業員に対して「ルールとして決まっていること」として説明でき、感情論に持ち込まれるリスクが大幅に下がります。専任人事がいない中小企業ほど、就業規則に根拠を持たせることが現場の混乱防止につながります。

主治医の意見書が命令を「医学的根拠付き」にする

復職時に主治医が作成する職場復帰に関する意見書(厚生労働省の様式例あり)に「時間外労働禁止」「残業は月〇時間以内」などの記載があれば、それが業務命令の医学的根拠として機能します。会社は医師の意見を踏まえた上で業務命令を出す、という形式を取ることで、本人への説明が「会社の都合」ではなく「医療上の必要性」として伝わります。産業医がいる場合は産業医意見書も同様に活用できます。

「本人が希望しても止める」判断が正しい理由

復職直後に本人が「残業できます」と申し出てくる背景には、焦りや周囲への申し訳なさなど、客観的な健康状態とは切り離された感情が働いていることが多くあります。この申し出を額面通りに受け取ることが、最大のリスクです。

復職直後の「やる気」は状態の改善を意味しない

メンタル不調からの回復過程では、躁転(軽躁状態)と呼ばれる一時的な気力の高まりが現れることがあります。この状態では本人が自己の状態を過大評価し、「もう大丈夫」「残業も問題ない」と感じやすくなります。しかし実際の回復度合いはそれに追いついておらず、無理をすると急速に悪化します。また、「迷惑をかけたから取り返さなければ」という罪悪感から、無理を承知で申し出ているケースも少なくありません。

「本人同意」は会社の安全配慮義務を免除しない

仮に本人が「残業させてください」と書面で申し出たとしても、それによって会社の安全配慮義務が免除されることはありません。裁判上も、「本人が希望したから許可した」という主張は、安全配慮義務違反に対する免責理由として認められないリスクがあります。会社が知り得た状況(主治医意見・復職直後という事実)を踏まえて適切な措置を取らなかったことが問題とされます。本人を守ることと、本人の希望を全て叶えることは、まったく別のことです。

就業規則への記載:何をどこに書くか

残業制限を業務命令として運用するために最も重要な整備が、就業規則への明記です。既存の就業規則に追記する形でも対応できます。

記載する場所と条項のイメージ

就業規則の「復職・職場復帰」に関する条項、または「時間外労働」に関する条項に追記するのが一般的です。新たに「職場復帰支援に関する規定」として独立した条項を設けることも有効です。以下に記載例のイメージを示します。

記載項目 記載例(参考)
残業制限の根拠 会社は、休業後に復職した従業員に対し、安全配慮義務の観点から、主治医または産業医の意見を踏まえ、時間外労働を制限することができる。
制限の方法・期間 制限の内容(禁止・上限時間数等)および期間は、職場復帰支援プランに定め、本人に書面で通知する。
見直しの基準 制限の継続・解除については、復職後3か月ごとに主治医の意見書を確認した上で判断する。
本人への確認 本人は、制限の内容を確認の上、職場復帰支援プランに署名するものとする。

就業規則がない・整備が間に合わない場合の対応

就業規則の作成・改定は時間がかかります。現在、復職者がすでに在籍しており今すぐ対応が必要な場合は、就業規則の整備と並行して、個別の「職場復帰支援プラン」(後述)を書面で作成し、本人に署名してもらう方法で対応します。プランへの署名は「合意の上での制限」という証拠になり、就業規則が整備されるまでの実務上の根拠として機能します。

実務の工夫
「どう説明すればいいか」「本人が納得するまで何度も面談が必要では…」と不安な場合は、復職時の説明資料の作成から同席支援まで、外部のメンタルヘルス専門機関に相談する手もあります。特に初めて復職対応をされる場合は、一度専門家に見てもらうことで、後々のトラブルが格段に減ります。

本人への説明:関係を壊さずに伝える文例

残業制限を業務命令として伝える際は、「会社があなたを信頼していないわけではない」というメッセージを同時に届けることが大切です。論理と配慮の両方を持った伝え方が、本人の納得を引き出します。

説明の基本構成と文例

本人への説明は、口頭だけでなく必ず書面(または書面の交付と口頭説明のセット)で行います。説明の構成は、根拠の提示 → 制限の具体的内容 → 会社の意図(信頼の表明)→ 見直し時期の提示、という順で進めると整理しやすくなります。

以下は説明の文例です(書面・口頭いずれにも応用できます)。

「今回の復職にあたり、主治医の意見書に基づき、当面の間は時間外労働をお断りする形で復職をお願いします。これは、〇〇さんの健康を最優先にし、長く安定して働き続けていただくための措置です。決して能力や意欲を疑っているわけではありません。〇か月後に主治医の意見を再度確認した上で、状況に応じて見直しを行います。」

「復職支援プラン」への署名で記録を残す

口頭での説明だけでは「聞いていない」というトラブルになる可能性があります。厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」では、「職場復帰支援プラン」の作成と本人確認が推奨されています。プランには、制限内容・期間・見直し時期・担当者を明記し、本人が内容を確認の上で署名する欄を設けます。この書類が、後日の確認・見直し・記録として機能します。

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制限期間の管理と解除の判断基準

残業制限はいつまでも続けるものではありません。制限の継続・解除のタイミングを仕組みとして決めておくことが、会社と本人の双方にとって重要です。

制限期間の目安と見直しのタイミング

制限期間の目安は、主治医の意見・業種・職種によって異なりますが、一般的には復職後3か月・6か月のタイミングで主治医の意見書を再取得し、見直しを行うことが多くの復職支援実務で採用されています。見直し時期をあらかじめプランに明記しておくと、本人が「いつになったら普通に戻れるのか」という不安を持ちにくくなります。

解除の判断に必要な確認事項

残業制限を解除する前に確認すべき主な事項を整理します。

  • 主治医が「時間外労働の段階的解禁が可能」と意見書に記載しているか
  • 産業医(いる場合)が就業上の制限緩和に同意しているか
  • 復職後の欠勤・遅刻・早退の頻度が安定しているか
  • 本人が自分のペースで業務をこなせている状態にあるか
  • 現場の上司から見て、業務の質・量に問題が生じていないか

すべての条件が揃っていなくても、段階的に「月10時間まで解禁」→「月20時間まで解禁」と段階を踏む方法が、再発リスクを下げながら本人の自信を回復させることにつながります。

社内の役割分担を明確にする

専任人事がいない場合、「誰が残業時間を確認するのか」「主治医への意見書依頼を誰が行うのか」が曖昧になりがちです。復職支援プランの中に担当者を明記し、現場上司・経営者・兼務人事の役割を最低限分けておくことが、トラブルを防ぐ実務上の鍵になります。たとえば「残業時間の日次確認は現場上司、月次記録と見直し判断は経営者(兼人事担当)」のように文書化しておくだけで、運用が格段に安定します。

まとめ

復職後の残業制限は、安全配慮義務(労働契約法第5条)を根拠とした正当な業務命令です。「本人が希望しているから許可する」という対応は、会社の法的責任を免除せず、むしろリスクを高めます。就業規則への明記・職場復帰支援プランの作成・本人への書面説明・制限の見直し管理、この四つを順に整えることで、専任人事がいない会社でも安全で持続可能な復職支援が実現できます。

「どこから手を付ければいいかわからない」「今まさに復職者への対応で困っている」という場合は、ウェルセンス株式会社にご相談ください。就業規則の記載内容の確認から、職場復帰支援プランの作成支援、本人説明の場への同席まで、実務に沿った形でサポートします。

よくある質問

Q. 就業規則に復職時の残業制限の規定がありません。今すぐ業務命令を出すことはできますか?

A. 就業規則に明記がなくても、安全配慮義務(労働契約法第5条)を根拠として業務命令を出すことは可能です。ただし、根拠が曖昧なまま口頭だけで伝えると本人との認識齟齬が生じやすいため、職場復帰支援プランを書面で作成し、本人に署名してもらう形で対応することを推奨します。並行して就業規則の整備を進めることで、今後の対応が格段に楽になります。

Q. 残業を制限することで、固定残業代(みなし残業代)はどう扱えばよいですか?

A. 固定残業代を設定している場合、実際の残業時間がゼロであっても固定残業代の支払い義務が残るかどうかは、雇用契約の内容によって異なります。復職中の残業制限を理由に固定残業代を一方的に減額・不支給とすると、賃金の不利益変更として問題になる可能性があります。この点は個別の契約内容を確認した上で、労働法に詳しい専門家に相談することをお勧めします。

Q. 産業医がいない小規模な会社の場合、主治医の意見書だけで業務命令の根拠になりますか?

A. はい、産業医がいない場合でも主治医の意見書は業務命令の医学的根拠として有効に機能します。意見書に「時間外労働禁止」「残業は月〇時間以内」などの具体的な記載があれば、「医師の意見に基づく業務命令」として本人に説明できます。なお、従業員数50人以上の事業場では産業医の選任が義務付けられています。50人未満の場合でも、地域産業保健センター(産業保健総合支援センター)を通じて産業医への相談が無料で行える仕組みがあるため、活用を検討してください。

Q. 残業制限を人事評価に反映させることは問題になりますか?

A. 残業制限を理由に人事評価を不利に扱うことは、「不利益取扱い」として問題になるリスクがあります。残業できないこと自体は会社が業務命令として制限しているのであり、その結果を本人の評価に使うことは合理性を欠きます。評価にあたっては、制限された環境の中での業務の質・取り組み姿勢を基準とし、残業時間の長短を評価指標に含めないよう評価制度を見直しておくことが重要です。

Q. 本人が残業制限に同意せず「自分は大丈夫だ」と強く主張する場合、どう対応すればよいですか?

A. 本人が強く主張する場合も、安全配慮義務に基づく業務命令として制限を維持することができます。その際は「あなたの意欲を否定しているのではない」「主治医の意見と就業規則に基づく会社のルールである」という点を冷静に説明し、書面で通知・記録を残します。それでも折り合いがつかない場合は、主治医との三者面談(本人・主治医・会社担当者)や、外部の産業保健専門家・支援機関への相談も有効です。感情的な対立に発展しそうな場合は、第三者を交えた対話の場を設けることをお勧めします。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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