「副業を認めたいけれど、就業規則をどう変えればいいかわからない」「許可制にしたとき、労働時間の管理や情報漏えいのリスクはどう防げばいいのか」——こうした悩みを抱えたまま、就業規則が「古いまま放置」になっている中小企業は少なくありません。この記事では、副業兼業許可制への切り替えに必要な就業規則整備の実務と、審査基準・リスク管理の設計方法をわかりやすく解説します。
副業・兼業は「原則自由」——禁止したままでは会社リスクになる
就業規則の「副業禁止条項」は効力を持ちにくい
就業規則に「副業・兼業を一切禁止する」と書いてある会社は今も多くあります。しかし法律上、労働者の私生活における行動を会社が一律に規制することは原則として認められていません。最高裁判例(1982年・小川建設事件など)でも、副業禁止の一律適用は権利濫用として無効になりうると示されています。
さらに2018年、厚生労働省がモデル就業規則を改定し、副業・兼業の取り扱いを「原則禁止」から「原則許可・例外制限」へとシフトさせました。政府全体としても副業・兼業の推進を政策方針として掲げています。「なんとなく禁止のまま」は、時代遅れになっているだけでなく、いざ従業員が副業を理由に訴えを起こした場合に、会社側が不利な立場に立たされるリスクもあります。
禁止が認められる例外はある
ただし、すべての副業を認めなければならないわけではありません。厚生労働省のガイドラインでは、以下の4つの事由に該当する場合は、副業の不許可や制限が正当と認められると示されています。
まず「労務提供上の支障がある場合」、次に「企業秘密が漏えいする恐れがある場合」、続いて「会社の名誉・信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合」、そして「競業により企業利益を害する場合」の4つです。裏を返せば、これら以外の理由で副業を禁止・不許可にした場合は、権利濫用として無効になる可能性があります。だからこそ、「禁止」ではなく「審査して許可する仕組み」を整えることが現実的な対策になります。
就業規則の書き換え方——禁止から許可制への移行手順
変更すべき条文と追加すべき条文
既存の就業規則に「副業・兼業を禁止する」という条文がある場合、その条文を削除または改定し、新たに許可制の条文を追加します。典型的な文言例としては、「労働者は、副業・兼業を行う場合は、事前に会社へ申請し、許可を得なければならない。会社は、次の各号に該当する場合を除き、許可するものとする」という形が標準的です。そのうえで不許可事由(前述の4類型)を条文内に列挙します。
重要なのは、「許可制」と明示したうえで不許可の基準も明文化することです。「恣意的に不許可にできる」という運用は、後々のトラブルの原因になります。
変更手続きで必ず踏むべきプロセス
副業兼業許可制への就業規則変更には、法律上のプロセスが定められています。まず、労働者代表(過半数組合がない場合は従業員の過半数を代表する者)への意見聴取が必要です(労働基準法第90条)。次に、変更後の就業規則を管轄の労働基準監督署へ届け出ます(同第89条)。そして、変更内容を全従業員に周知することが義務付けられています(同第106条)。
なお、今回のケース(禁止→許可)は従業員にとって不利益な変更ではないため、不利益変更に求められる「合理性」の要件はクリアしやすい変更です。ただし届出と周知の手続きは省略できませんので、手順を丁寧に踏むことが大切です。
副業審査基準の設計——「許可制」を形骸化させない4つの軸
審査で確認すべき4つの視点
許可制を導入しても、審査基準が曖昧では「なんとなく認める・認めない」という不透明な運用になってしまいます。副業兼業許可制を実効的にするには、以下の4つの軸で審査基準を設計することを推奨します。
一つ目は「競業性」です。副業先が自社の事業と競合する業種・業務でないかを確認します。例えば、IT企業に勤める従業員が同じ領域の受託開発を個人で受注するようなケースは競業にあたりえます。二つ目は「情報漏えいリスク」で、副業の業務内容が自社の機密情報に触れる性質でないかを確認します。三つ目は「労働時間・健康への影響」です。副業先での就業時間・勤務日数を申告させ、本業と合算した総労働時間が過重にならないかを判断します。四つ目は「本業への支障」で、副業によって本来の業務パフォーマンスが低下しないかを定性的に評価します。
申請書式と定期報告の仕組みを整える
審査を機能させるためには、申請書式を整備して従業員に記入させる仕組みが不可欠です。申請書には「副業先の企業名・業種」「業務内容」「就業時間帯・週あたりの勤務時間」「雇用形態(雇用か業務委託か)」「開始予定日」を最低限記載してもらいます。
また、許可後も状況が変わることがあるため、半年~1年ごとの定期報告義務と、副業内容が変わった場合の再申請義務を就業規則に明記しておくことが重要です。これにより、当初は問題なかった副業が競業状態になった、などの事態を早期に把握できます。
労働時間の通算管理——複雑なルールを実務でどう扱うか
「通算」とはどういう意味か
副業・兼業を許可する際に最も実務担当者を悩ませるのが、労働基準法第38条に定める労働時間の通算規定です。同じ労働者が複数の使用者(=会社)のもとで働く場合、それぞれの会社での労働時間を合算して、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えた分には時間外割増賃金(25%以上)が発生します。
たとえば、自社で週35時間働く従業員が副業先で週10時間働いている場合、通算45時間となり、週5時間分の時間外割増賃金が発生します。この割増賃金は、後から労働契約を締結した使用者(多くの場合は副業先)が原則的に負担することになっています。ただし、自社で所定外労働を命じた分については自社が負担義務を負う場合もあり、管理が複雑になります。
「管理モデル」を使えば実務負担を大幅に軽減できる
2021年に改定された厚生労働省のガイドラインでは、「簡易な労働時間管理の方法(管理モデル)」が示されました。これは、自社と副業先があらかじめそれぞれの所定労働時間の上限を取り決め、その範囲内で管理するという方法です。
具体的には、自社が「週35時間まで」・副業先が「週5時間まで」という上限を設定し、従業員がその範囲内で働く前提で管理します。この方法を採用すれば、リアルタイムで副業先の労働時間を把握し続ける手間を省けます。副業申請時に「副業先での週あたり労働時間の上限」を確認・合意しておくことが、この管理モデル活用の鍵になります。
副業中の過重労働・メンタル不調——会社の安全配慮義務はどこまで及ぶか
副業を許可したことで安全配慮義務の範囲が広がる
副業を許可することで、会社は「副業の存在を認識していた」という事実を持つことになります。これは法的に重要な意味を持ちます。労働安全衛生法および民法415条に基づく安全配慮義務のもと、副業込みの総労働時間が過重にならないよう配慮する義務が生じるためです。
たとえば、副業許可後に従業員がメンタル不調に陥り、「副業と本業の掛け持ちによる過重労働が原因だ」と主張された場合、「会社は副業を知っていたのに何も対策しなかった」と問われる可能性があります。副業禁止の状態で無許可副業をしていた場合より、許可制を採用した会社のほうが責任を問われやすい面があるということを、経営者・人事担当者は認識しておく必要があります。
予防策としての定期面談と健康状態確認
こうしたリスクへの予防策として有効なのが、定期的な面談と健康状態の確認です。半年ごとの副業状況報告と合わせて、上長または人事担当者が「体調に問題はないか」「本業に支障は出ていないか」を面談で確認する仕組みを設けることを推奨します。
また、月の総労働時間(本業+副業)が一定のラインを超えた場合には産業医や外部の相談窓口につなぐフローを整備しておくことも、安全配慮義務の観点から重要です。「副業中の従業員のメンタルヘルス管理まで手が回らない」という会社こそ、外部のメンタルヘルス支援サービスの活用を検討してほしいところです。
許可制運用の失敗パターンと、うまくいく会社との違い
ありがちな失敗:「許可制にしたが何も変わらなかった」
副業兼業許可制に変えたものの、申請書を出す従業員がほとんどおらず、実態が把握できていない——これはよくある失敗パターンです。従業員が申請を面倒に感じたり、「どうせ不許可になるだろう」と思って申請しなかったりするケースです。就業規則を変えるだけで終わり、社内への周知や説明が不足しているとこうなります。
別のパターンとして、審査基準を設けずに「都度、社長が判断する」という運用にした結果、判断の一貫性がなくなり、従業員からの不満やトラブルが生じたケースもあります。
うまくいく会社が共通してやっていること
許可制の運用がうまく機能している会社では、まず就業規則の変更と同時に「副業・兼業に関するガイドライン」を別途整備し、従業員向けに説明会や文書で丁寧に内容を伝えています。「どういう副業なら許可されるか」「申請から許可までどのくらいかかるか」が明確なため、従業員も安心して申請できます。
また、申請フォームをシンプルにしてスムーズに出せる仕組みを作り、審査結果を2週間以内に返すというルールを設けているところも多いです。副業兼業許可制の制度設計と運用設計の両方を同時に整えることが、許可制を形骸化させないための最大のポイントです。
まとめ
副業兼業許可制への就業規則整備は、単に条文を書き換えるだけでは完結しません。審査基準の設計・申請フローの整備・労働時間の通算管理・メンタルヘルスを含む安全配慮義務への対応まで、一体で考える必要があります。「禁止のままにしておくほうが楽」と感じる気持ちはわかりますが、一律禁止は法的リスクが高まる時代になっています。一方、許可制に切り替えれば従業員のエンゲージメント向上や採用競争力の強化にもつながります。
ウェルセンス株式会社では、就業規則の整備から副業申請フロー・審査基準の設計、さらに副業中の従業員のメンタルヘルス管理や安全配慮義務への対応まで、中小企業の人事担当者が一人でも運用できる仕組みづくりをサポートしています。「うちの会社はどこから手をつければいいのか」という段階からでも、お気軽にご相談ください。
よくある質問
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