人事評価を配置転換の根拠にできず困ったら読む記事

人事評価を配置転換の根拠にできず困ったら読む記事 人事制度
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「評価が低い社員を別の部署に移したい。でも、いざ本人に伝えようとすると、なぜ自分が異動なのかと問われたとき、制度として答えられる言葉がない」——そう気づいて手が止まった経験はないでしょうか。

評価制度はある。配置転換も制度上は可能。でも、その二つをつなぐ「根拠」がどこにも書かれていない。専任人事がいない中小企業では、このような制度の空白が珍しくありません。感情論でも主観でもなく、制度として説明できる配置転換を実現するために、何を整備すればいいのかを、この記事で具体的に解説します。

評価を根拠にした配置転換は、なぜ「説明できない」のか

評価制度と配置転換規定が社内に別々に存在しながら、両者をつなぐ仕組みがないことが最大の原因です。制度の「断絶」こそが、この問題の本質です。

評価制度と配転規定が「連動していない」という構造問題

多くの中小企業では、評価制度(誰をどう評価するか)と配置転換の規定(誰をどう異動させるか)がそれぞれ独立して存在しています。評価は評価で完結し、配転は経営者や上司の「判断」として別途行われる。このとき、なぜその人が異動対象になったのかを第三者に説明できる根拠が存在しないことになります。

本人から「なぜ私が異動なのか」と問われたとき、「評価が低かったから」と言っても、その評価がどう配転に結びつくのかが制度上明記されていなければ、説明は主観の域を出ません。

「制度的担保」がないと、何が起きるか

制度的担保とは、評価結果を人事上の意思決定(配置・昇降格・育成など)に使うことを、就業規則や人事規程の条文として明示している状態を指します。これが欠けている状態で配置転換を命じると、以下のようなリスクが生じます。

特に中小企業では、評価者が経営者と近い関係にあることが多く、「評価の客観性」自体を問われやすい環境です。制度的担保の整備は、社員を守るためだけでなく、会社を守るための実務インフラといえます。

配置転換を有効にする法的な前提条件

配置転換は使用者の人事権の範囲内ですが、要件を満たさなければ無効になります。就業規則への明記と、命令の合理性・相当性の二つが柱です。

就業規則への明記がなければ命令できない

労働契約法第7条は、就業規則が合理的な内容であり、かつ労働者に周知されている場合に、その内容が労働契約の内容になると定めています。つまり、配置転換命令を一方的に出すためには、「会社は業務上の必要性に応じて配置転換を命ずることがある」といった根拠規定が就業規則に存在していなければなりません。

この規定がない場合、配転には個別の合意が必要になります。中小企業では就業規則そのものが古かったり、配転規定が曖昧だったりするケースが少なくありません。まず自社の就業規則を確認することが出発点です。

「権利濫用」と判断される配転は無効になる

最高裁昭和61年7月14日判決(東亜ペイント事件)は、配転命令が権利濫用として無効になる基準として、「業務上の必要性がない」「不当な動機・目的がある」「労働者に著しい不利益を与える」の三点を示しています。

評価に基づく配転は「業務上の必要性」の根拠になり得ますが、そのためには評価の客観性・透明性が前提です。評価基準が曖昧だったり、評価プロセスが不透明だったりすると、「評価を名目にした恣意的な配転」と判断されるリスクがあります。

採用時の「限定合意」には特に注意

採用時に「○○職限定」「○○事業所のみ勤務」といった合意をしている場合、一方的な配転は労働契約違反になります。中小企業では口頭で交わされたこのような合意が書面化されていないこともあります。雇用契約書・労働条件通知書の内容を確認し、職種や勤務地の限定がないかを必ず確認してください。

配置転換を制度として成立させる「3層構造」

評価に基づく配置転換を制度として成立させるには、評価制度・評価結果の活用方針・配転手続きの三層を連動させて整備する必要があります。この3層が就業規則・人事規程に明記されて初めて「制度的担保」が実現します。

評価基準・プロセスの明文化

評価が配転の根拠になるためには、評価そのものの信頼性が前提です。評価基準(何をどう評価するか)、評価者(誰が評価するか)、評価プロセス(いつ・どのように評価するか)が明文化されている必要があります。評価者が経営者一人で、基準も暗黙知の状態では、評価の客観性を外部から説明できません。

評価結果活用方針の明示

評価制度規程に「評価結果は昇給・賞与・人材育成・配置転換・昇降格の判断材料として活用する」と明記します。この一文があることで、「評価は配転に使ってもよい」という制度上の根拠が生まれます。評価を受ける社員も、評価が配置に影響することをあらかじめ知った状態になるため、突然感を和らげる効果もあります。

配転手続きの規程化

配転規定には「会社は人事評価結果および業務運営上の必要性を総合的に勘案して配置転換を命ずることがある」と記載します。「総合的に勘案」という表現が重要です。評価結果のみを唯一の根拠にするのではなく、業務ニーズとの複合根拠にすることで、配転命令の合理性が高まります。加えて、配転通知の手続き・事前面談の実施・本人の意見を聴取する機会の設定を規程として定めておくことが、「手続きの相当性」として機能します。

就業規則と評価規程に書くべき条文例

就業規則と人事評価規程の条文を「連動」させることが制度的担保の核心です。条文に何を・どう書くかで、制度の強度が大きく変わります。

評価規程に書くべき条文の例

評価制度規程(または人事考課規程)に以下のような条文を設けます。

  • 「評価結果は、昇給・賞与・配置転換・育成計画の策定において参照する」
  • 「評価者は評価基準に基づき客観的に評価を行い、被評価者にフィードバックを行う」
  • 「継続的に評価が一定水準を下回る場合、会社は配置転換を含む人材活用上の措置を検討することがある」

特に三つ目の条文が重要です。「継続的に」という条件をつけることで、一時的な評価低下を根拠にした恣意的な配転を防ぐとともに、段階的なプロセスを経ていることを示せます。

就業規則の配転規定に書くべき条文の例

就業規則の配置転換に関する条項には、以下の要素を盛り込みます。

  • 「会社は業務上の必要性および人事評価結果を総合的に勘案し、配置転換を命ずることがある」
  • 「配置転換を命ずる場合、会社は事前に本人と面談を行い、配転の理由を説明する」
  • 「本人は配転命令に対して意見を申し出ることができる。ただし、最終的な決定権は会社に属する」

面談と説明の規定を入れることが「手続きの相当性」の証明になります。説明義務を制度化することで、「突然異動させられた」という本人の主観的不満を緩和する効果もあります。

配置転換を有効にする運用上の注意点

制度を整えた後も、運用の仕方次第でトラブルになることがあります。特に記録の残し方と、配転が許されない状況の把握が重要です。

評価→フィードバック→配転を時系列で記録する

配転の根拠となった評価記録、その後の改善指導・面談記録、改善が見られなかった事実の記録、そして配転の通知と面談の記録——この一連の流れを文書として残すことが、紛争時の証拠になります。口頭だけで進めると、後から「そんな説明は受けていない」という主張に対抗できなくなります。

改善指導から配転まである程度の期間(たとえば1〜2評価期間)を設けることが、「手続きの相当性」として評価されます。評価が低かった翌月に即座に配転を命じるのは、根拠の合理性を問われやすい運用です。

配転が許されない・慎重になるべき状況

以下の状況では、たとえ評価を根拠にしていても配転が法的リスクを伴います。

状況 注意すべき法令・リスク
メンタルヘルス不調中・休職明けの社員 安全配慮義務(労働契約法5条)・ハラスメントリスク
妊娠・育児・介護中の社員 男女雇用機会均等法・育児介護休業法との抵触
障害のある社員 障害者雇用促進法・合理的配慮の観点
降格・賃金低下を伴う配転 就業規則の不利益変更(労働契約法10条)
採用時に職種・勤務地の限定合意がある場合 労働契約違反になる可能性

これらの状況では、配転そのものが適切かどうかを事前に専門家に確認することを強く推奨します。

中小企業特有の課題:配転先がない場合の対応

部署数が2〜4程度の小規模企業では、「異動させたいが行き先がない」という構造的制約があります。この場合、配置転換ではなく職務内容の変更(担当業務の再設計)や役割の見直しという形で対応することも選択肢になります。「配転先がないから何もできない」ではなく、評価に基づいて役割を変えることを制度化するアプローチも有効です。その場合も、就業規則上の根拠と本人への説明は同様に必要です。

まとめ

評価に基づく配置転換を「制度として説明できる」状態にするには、評価制度・評価結果の活用方針・配転手続きの3層を就業規則・人事規程で連動させることが不可欠です。条文で「評価結果を配転の判断材料として使う」と明記し、評価から配転までの時系列の記録を残すことが、法的リスクを回避しながら合理的な人事運営を実現する道筋です。

「就業規則が古くて配転規定がどうなっているかわからない」「評価制度と配転のつなぎ方を具体的に整備したい」という場合、制度設計の全体像を一緒に整理することが近道です。ウェルセンス株式会社では、専任人事がいない成長企業の人事労務課題に伴走しています。まずは現状を整理するところから、お気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 就業規則に配転規定はありますが、評価との連動について何も書かれていません。このまま評価を根拠に配転を命じてもいいですか?

A. 配転命令自体は就業規則の規定があれば可能ですが、「なぜその人が対象なのか」という選定理由の合理性は別途問われます。評価結果を根拠にするには、評価規程に「評価結果を配転の判断材料として活用する」旨を明記することが必要です。明記なしに運用すると、本人から不当配転と主張された際に根拠を示せなくなります。まず現行の評価規程と就業規則の配転規定を照合し、条文の連動を確認・整備することをお勧めします。

Q. 評価が低い社員を配転しようとしたら「パワハラだ」と言われました。どう対応すればいいですか?

A. 評価に基づく配転がパワハラと主張される場合、多くは「評価の根拠が不透明」「突然の通知で説明がなかった」「本人の意見を聴く機会がなかった」といった手続き上の問題が背景にあります。評価基準の明文化、フィードバック面談の実施、配転前の説明と本人の意見聴取の場の設定、これらを文書で残すことが対策の基本です。すでに主張が出ている場合は、事実関係の記録を整理したうえで、労働問題に詳しい専門家に早めに相談することを推奨します。

Q. 配転先の部署では給与が下がります。評価を根拠にした場合でも問題ありませんか?

A. 配転に伴い賃金が低下する場合、就業規則の不利益変更(労働契約法第10条)の問題が生じる可能性があります。降格・賃金低下を伴う配転は、通常の配転より要件が厳格になります。評価に基づく降格・減給を行うには、就業規則に降格制度と賃金変更の根拠が明確に規定されていることが前提です。「評価が低いから給与の低いポジションへ」という運用は、単独の配転命令では対応できないケースが多く、専門家への確認が不可欠です。

Q. 30名規模の会社で部署が3つしかありません。評価に基づく配転を制度化するメリットはありますか?

A. 部署数が少なくても、制度化のメリットはあります。配転先の選択肢が限られる場合でも、制度として「評価結果が人材配置に影響する」ことを明示することで、人事判断の透明性が高まり、社員の納得感を得やすくなります。また、配転という形ではなく「担当業務の変更」「役割の再設計」という形の対応を制度化することも選択肢です。小規模企業こそ、経営者の裁量判断を制度でサポートする仕組みが、将来のトラブル予防に直結します。

Q. メンタルヘルス不調で休職中の社員を、復職時に別の部署に配転することはできますか?

A. 復職時の部署変更は状況によって可能ですが、評価を主な根拠にすることは慎重であるべきです。休職中の社員に対する配転は、安全配慮義務(労働契約法第5条)や、メンタルヘルス不調を理由とした不利益取扱いに当たらないかという観点から慎重に判断する必要があります。復職支援の文脈で「職場環境の調整として配置を変える」場合と、「評価が低いから別部署へ」という場合では、法的・実務的な対応が異なります。復職時の対応は主治医・産業医の意見も踏まえ、専門家に相談しながら進めることを強くお勧めします。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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