「うちはずっと部署ごとにバラバラで休憩を取っているけど、これって問題あるの?」——そんな疑問を持ちながらも、忙しさにかまけて確認できずにいる経営者・兼務人事担当者の方は少なくありません。実は、休憩を一斉に与えない運用には、労働基準法上の手続きが必要です。知らないまま続けていると、法令違反リスクを抱えたまま会社が成長することになります。この記事では、一斉休憩の例外に必要な労使協定の基本から、締結方法・記録保存まで実務の流れを丁寧に解説します。
休憩は「一斉に」与えるのが原則
労働基準法が定める休憩のルール
労働基準法第34条は、休憩について3つのルールを定めています。まず付与義務として、労働時間が6時間を超える場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩を与えなければなりません。次に一斉付与の原則として、その休憩は「一斉に」与えることとされています(同条第2項)。そして自由利用の原則として、休憩時間は労働者が自由に使えるようにしなければなりません(同条第3項)。
「一斉付与」とは、同じ事業場で働く全員が同じ時間に休憩を取ることを指します。昼12時から13時まで全員一斉に、というイメージです。この原則を知らずに「うちは10人いるから、交代で回している」という運用をしている会社は、実は法的な手続きをふんでいない状態で一斉付与の例外を使っていることになります。
例外が認められる業種とそれ以外
一斉付与の原則には、法律上当然に例外が認められる業種があります。労働基準法施行規則第31条が定める業種——運輸交通業、商業、金融・広告業、映画・演劇業、通信業、保健衛生業、接客娯楽業、官公署——は、業務の性質上お客さまや利用者に対応し続ける必要があるため、協定がなくても交代制の休憩が認められています。
しかし、製造業・IT業・その他一般サービス業はこの列挙に含まれません。これらの業種では、交代制やシフト制で休憩を取らせるためには、必ず労使協定を締結する必要があります。「うちはITの会社だから関係ない」と思っていた担当者ほど、実はリスクを抱えているケースが多いのです。
労使協定の締結が必要なケースを確認する
「労使協定」とは何か
労使協定とは、会社(使用者)と労働者代表の間で交わす書面による取り決めです。36協定(時間外労働に関する協定)が有名ですが、一斉休憩の例外を認める協定もそのひとつです。労使協定を結ぶことで、法律の原則ルールを一定の範囲で変更することが法律上認められます。
一斉休憩の例外に関する労使協定は、36協定とは異なり、労働基準監督署への届出は不要です。これは実務上よく混同されるポイントです。届出は不要ですが、締結して書面を保存しておく義務はありますので、「作らなくていい」ということではありません。
協定を結ばずに運用していた場合のリスク
協定なしで交代制休憩を続けている状態は、労働基準法第34条第2項違反に当たります。労働基準監督署の調査(臨検)が入った際に指摘を受けるリスクがあり、是正勧告の対象になります。また、休憩が適切に付与されていないと認定された場合、その時間が労働時間として扱われ、未払い賃金の支払いを求められる可能性もあります。中小企業では一件の未払い賃金問題が経営に直結することもあるため、早めの整備が重要です。
過半数代表者の正しい選び方
労働組合がない会社はどうするか
労使協定を結ぶ「労働者側」は、労働組合がある場合はその組合です。しかし20〜50名規模の中小企業では、労働組合が存在しないケースがほとんどです。その場合は「労働者の過半数を代表する者」(過半数代表者)を選出し、その人と協定を締結します。
たとえば従業員が30名いる会社であれば、16名以上の支持を得た代表者を選ぶ必要があります。この「過半数」は、パートタイム・アルバイトを含む全労働者の過半数です。正社員だけで数えればいいわけではありません。
選出方法に求められる要件
過半数代表者の選出には、労働基準法施行規則第6条の2が定める要件があります。重要な点は3つです。まず、管理監督者(いわゆる「管理職」)は代表者になれません。これは、管理監督者は会社側に近い立場とみなされるため、労働者の代表として協定を締結することが認められていないからです。次に、投票・挙手・回覧などの民主的な方法で選出されなければなりません。社長や役員が「○○さんにお願いします」と指名するだけでは要件を満たしません。そして、使用者の意向によって選出されたものでないことが必要です。
実務的には、メールや社内チャットで候補者を募り、投票を行って結果を記録に残す方法が簡便です。「全員異議なし」という形でも、その旨をメール等で確認し記録しておけば問題ありません。選出プロセスの記録(投票用紙・メールのスクリーンショット・選出結果の記録など)は、後日の証明のために必ず保存しましょう。
労使協定書に盛り込むべき内容
協定書の必須記載事項
一斉休憩の例外に関する労使協定書には、以下の事項を盛り込むことが実務上求められます。まず協定の対象となる労働者の範囲を明記します(例:「全従業員」「営業部に所属する労働者」など)。次に休憩時間の与え方として、交代制・部門別・個別など具体的な取得方法を記載します。そして協定の有効期間を定めます。一般的には1年単位が多く、更新の際に実態と合っているかを見直す機会にもなります。最後に締結日・締結当事者として、会社代表者名と過半数代表者名、代表者の選出方法を記載します。
書式は法定されておらず、ワードやエクセルで作成したもので問題ありません。会社と代表者それぞれが署名・押印(または記名捺印)し、各1通ずつ保管するのが一般的です。
協定書の有効期間と更新のタイミング
有効期間に定めがない協定は、解釈上トラブルになることがあります。期間を設けることで、定期的に内容を見直す機会が生まれます。たとえば毎年4月1日から翌年3月31日までという1年更新にすれば、新年度の体制変更や人員増減に合わせて協定内容を更新できます。業務拡大・組織変更・シフト体制の見直しがあったにもかかわらず、協定内容がそのままになっている「形だけ協定」は、実態との乖離を生じさせます。更新時に「現在の運用と協定内容がずれていないか」を確認する習慣をつけることが大切です。
記録・保存の義務と実務的な管理方法
保存期間は協定満了後3年間
労働基準法第109条は、労使協定を含む重要書類について3年間の保存義務を定めています。一斉休憩の例外協定の場合、保存期間の起算点は「協定の有効期間が満了した日」です。たとえば2024年3月31日で満了した協定であれば、2027年3月31日まで保存する必要があります。有効期間が終わったからといってすぐに破棄してはいけません。
合わせて保存すべき書類として、過半数代表者の選出記録(投票記録・メール等)があります。協定書だけがあっても、選出プロセスが適法であることを証明できなければ、労基署の調査時に「有効な協定とは言えない」と判断されるリスクがあります。
電子データ保存と紙保管の選択
2022年の法改正以降、一定の要件を満たせば電子データでの保存が認められています。スキャンしたPDFや電子署名付きの協定書をクラウドストレージで管理する方法も実務的に有効です。ただし、ファイル名に日付・内容を明記し、誰が見ても何の書類かわかる状態にしておくことが重要です。紙で保管する場合は、労務書類専用のファイルを1冊用意し、雇用契約書・就業規則変更履歴・36協定などとまとめて管理するとよいでしょう。
「労基署の調査が入ったらどこを見せればいいか」という観点で整理すると、協定書本体・代表者選出記録・賃金台帳・出勤簿の4点セットがすぐに出せる状態にあることが理想です。調査は抜き打ちで来ることもあるため、日常的な整備が最大のリスク対策になります。
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「形だけ協定」にならないための実態チェック
協定と実態の乖離が生む問題
労使協定を締結してもその後に運用実態が変わり、協定の内容と現場の休憩取得方法がずれているケースは中小企業でよく見られます。たとえば、協定では「営業部は12時〜13時、経理部は13時〜14時に交代で取る」と定めているのに、実際にはその日の業務量によって誰が何時に休憩を取っているかバラバラ、という状態です。
この乖離は、未払い賃金リスクにつながるだけでなく、休憩が実質的に取れていない状況——「昼休み中も電話対応」「休憩室にいても呼び出される」——をそのままにしてしまう原因にもなります。こうした状態が続くと、従業員のストレス蓄積やメンタルヘルス不調につながるリスクも高まります。
実態と合致した協定に見直すポイント
協定の見直しは、就業規則の見直しと同じタイミングで行うと管理しやすくなります。具体的には次の点を確認しましょう。まず、現在の部門構成やシフト体制が協定書に正しく反映されているか確認します。次に、休憩中に業務対応が発生していないか現場の実態を確認します。もし「手待ち時間」(業務の指示待ちで自由に使えない時間)が常態化しているなら、その時間は法律上「休憩」ではなく「労働時間」として扱う必要があります。そして、過半数代表者が現在も適切な立場の人物かどうか確認します。組織変更や昇進により、代表者が管理監督者に該当することになった場合は、再選出が必要です。
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まとめ
一斉休憩の例外を適用するには、労使協定の締結が必要です(一部業種を除く)。労働組合がない中小企業では、民主的な方法で選出した過半数代表者と協定を締結し、その書面を協定満了後3年間保存することが求められます。労基署への届出は不要ですが、協定書と選出記録はセットで保管しておくことが重要です。また、一度作って終わりではなく、業務実態と協定内容がずれていないかを定期的に見直すことが、未払い賃金リスクや従業員のメンタルヘルス不調を防ぐことにもつながります。
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よくある質問
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