休職者と話せず配偶者対応が続く時に知るべきリスク

休職者と話せず配偶者対応が続く時に知るべきリスク 休職・復職対応
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「本人と直接話したいのですが、配偶者の方から『今は話せる状態ではない』と言われてしまって……」。休職対応の相談でこのような状況をお聞きすることは、決して珍しくありません。善意から家族に対応を任せているうちに、気づけば数週間、時には数ヶ月、会社と本人の直接のやり取りがゼロになっているケースもあります。この状態は「配慮している」ように見えて、実は会社にとっても、休職社員本人にとっても、見えにくいリスクをはらんでいます。本記事では、配偶者経由の連絡が続く場合に何が問題なのか、法的観点と実務の両面から整理します。

配偶者経由の連絡が「善意のリスク」になる理由

配偶者を通じた連絡対応は、本人への配慮として始まることが多いですが、それ自体が会社にとっての法的・実務的リスクに変わりうるという認識が必要です。

家族は法律上「第三者」である

配偶者は感情的には身近な存在ですが、個人情報保護法の観点では「第三者」に該当します。社員の健康状態・休職理由・賃金情報などは個人情報であり、本人の明示的な同意なく配偶者に共有・受け取ることには、同法上の問題が生じる可能性があります。特に、健康・病歴・障害に関する情報は「要配慮個人情報」(個人情報保護法第2条第3項)として厳格な取り扱いが求められます。配偶者から病状の詳細を聞き出してそのまま社内で共有するような行為は、この観点から慎重に考える必要があります。

「家族が了承した」は本人の同意ではない

配偶者が「わかりました、本人に伝えます」と答えたとしても、それは本人の意思確認でも、法的な通知の受理でもありません。休職期間満了の通告や復職可否の判断など、重大な局面で「家族に伝えた」という記録しか残っていない場合、後になって本人から「そんな連絡は受け取っていない」と主張されるリスクがあります。このリスクは、規模が小さな会社ほど記録が残りにくく、より深刻になりがちです。

本人の意思が正確に伝わっているかわからない

「本人は復職したくないと言っています」という配偶者の言葉を、そのまま本人の意思として扱うことにも問題があります。家族の判断や意向が、無意識のうちに本人の意思として伝達される場合があります。復職の希望・退職の意思・診断書の提出可否など、重要な判断事項は、本人から直接確認することが原則です。

法的に問題になりうる具体的な場面

配偶者経由の連絡が法的リスクに直結する場面は限定されていますが、特定の局面では深刻なトラブルの原因になります。

休職期間満了・解雇通知を家族に伝えた場合

休職中といえど、労働契約は継続しています。復職可否の判断・休職期間満了の通知・退職勧奨などの重大な意思表示は、原則として本人に対して行う必要があります。配偶者に口頭で「今月末で休職期間が終わります」と伝えるだけでは、本人への適正な通知とはみなされないリスクがあります。後のトラブルで「聞いていなかった」と主張された場合、会社側が立証できない状況に陥ります。

安全配慮義務の観点からも放置はできない

労働契約法第5条は、使用者に労働者の生命・健康を守る安全配慮義務を課しています。本人と直接連絡が取れない状態が続くと、本人の状態の変化(自傷や自殺リスクの変化)を会社が把握できなくなります。「家族から連絡があれば大丈夫」という考えは安全配慮義務の観点からは十分ではなく、会社として本人の状態を定期的に確認できる経路を確保することが求められます。

診断書・書類手続きの遅延による不利益

診断書の提出期限・休職延長の申請・産業医面談の日程調整など、実務的な手続きを配偶者経由で進めていると、伝達の漏れや遅延が生じやすくなります。こうした手続き上の遅延が、結果として本人に不利益(休職期間満了の繰り上げなど)をもたらすケースもあり、後に「会社が適切に案内しなかった」と争われた場合、会社側の対応が問われることになります。

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会社が取るべき実務対応の考え方

配偶者が窓口になっている状況を無理に一変させる必要はありませんが、会社として本人との接触経路を確保する仕組みを整えることが重要です。

まず「本人の同意があるか」を確認する

現状を整理するうえで最初に確認すべきは、「配偶者が窓口になることを本人が了承しているか」「その同意が書面または記録に残る形で確認されているか」の2点です。本人が休職開始時に「連絡は妻(夫)を通じてください」と明示的に伝えていた場合と、会社側がいつの間にか配偶者対応に切り替わっていた場合では、リスクの質が異なります。まずこの出発点を確認してください。

配偶者経由の連絡が続く中で、本人の実際の状態がわからないまま判断を迫られることもあります。そうした場合、スポット産業医の活用で客観的な見立てを得ることも、リスク軽減の手段の一つです。

就業規則・休職規程に「本人接触の根拠」を持つ

「休職中、月1回以上、会社は本人と直接連絡を取ることができる」という旨を就業規則や休職規程に定めておくと、会社側から本人への直接接触を求める法的根拠になります。就業規則がない、または休職規程が整備されていない場合は、この機会に整備を検討してください。就業規則の作成義務は常時10人以上の労働者を使用する事業場に課されていますが(労働基準法第89条)、それ以下の規模でも書面で取り決めを残しておくことは有効です。

書類は本人宛に郵送し、受領確認を取る

診断書提出依頼・休職期間延長通知・復職面談案内などの重要書類は、配偶者に口頭で伝えるのではなく、本人の住所に書面で郵送し、受領確認を取る運用にすることが実務上の基本です。簡易書留または特定記録郵便を利用すると、発送の記録が残ります。送付した書類の写しと発送記録は、必ずファイリングして保管してください。

本人と直接話せない状態への対処法

「本人とどうしても話せない」という状況でも、会社が取れるアクションはあります。段階を踏んで接触経路を確保することが現実的な対応です。

産業医や外部EAPを活用する

産業医が選任されている事業場(常時50人以上の労働者を使用する場合は選任義務あり)であれば、産業医面談を通じて本人の状態を確認する経路を設けることができます。産業医は医師としての立場から本人と直接面談し、就業可否に関する意見を会社に報告できます。産業医がいない場合は、外部のEAP(従業員支援プログラム)や、メンタルヘルス対応を専門とする外部機関に相談窓口の設置を依頼する方法もあります。

段階的な接触のステップを設ける

「いきなり電話」ではなく、段階を踏むことで本人への負担を減らしながら接触を試みることができます。以下の表を参考に、状況に応じた方法を検討してください。

段階 方法 目的
書面送付 本人宛に郵送(返信用封筒同封) 本人が回答できる選択肢を残す
メール・チャット 本人のアドレス宛に送信(返信任意) 本人が自分のペースで確認できる
産業医面談依頼 面談を会社として正式に案内する 医療的な観点を含めた状態確認
EAP・外部窓口 本人が相談できる第三者機関を案内 会社との直接接触が難しい場合の補助経路

「本人には話せない」と言われた場合の対応

配偶者から「本人は今、誰とも話せる状態ではない」と言われた場合、無理に接触を試みることは逆効果になりえます。ただし、この状態を無期限に放置することも適切ではありません。「状態が落ち着いたタイミングで、本人から直接ご連絡をいただけるよう伝えていただけますか」と依頼しつつ、会社からは書面で定期的に現状確認を送る仕組みを維持することが現実的です。また、主治医に対して「就業可否に関する意見書」を依頼することも、本人を通じた情報取得の一手段です。

会社規模・状況別の対応ポイント

対応策は会社の規模や既存の制度によって異なります。自社の状況に当てはめて確認してください。

産業医がいない・就業規則が整備されていない場合

常時50人未満の事業場では産業医の選任義務がなく、就業規則の作成義務もない場合があります。この場合でも、個別の雇用契約書や労働条件通知書に「休職中の連絡方法」を明記しておくことが有効です。また、地域の産業保健総合支援センター(都道府県ごとに設置)では、産業医がいない企業でも産業保健に関する相談や面談支援を受けられる場合があります。外部の専門家(社会保険労務士・メンタルヘルス支援機関)と連携することも選択肢の一つです。

休職規程はあるが、配偶者対応の想定がない場合

休職規程に「定期連絡の義務」「本人確認の方法」が明記されていない場合、現行の規程を補完するガイドラインを内部で作成することを検討してください。「緊急連絡先として家族を登録することはできるが、主たる連絡は本人に対して行う」という原則を明文化しておくことで、担当者が迷わず対応できます。

すでに配偶者対応が長期化している場合

すでに数ヶ月にわたって配偶者経由の連絡が続いている場合は、現状のリスクを整理したうえで、早期に本人との接触再開を試みることをお勧めします。「これまでの対応を責める」のではなく、「今後の復職に向けた準備を一緒に考えたい」という姿勢で接触を再開すると、本人が受け入れやすくなります。この時点でも、専門家(産業医・社労士・外部支援機関)に相談しながら進めることが安全です。

まとめ

休職者への配慮から始まった配偶者経由の連絡対応は、時間が経つほどに「本人の意思確認ができていない」「重要書類が届いていない可能性がある」「法的に有効な通知ができていない」という複合的なリスクに変わります。個人情報保護法・労働契約法・安全配慮義務の観点からも、会社が本人との直接接触の経路を確保しておくことは、義務であり、会社自身を守る手段でもあります。

「どうやって本人と直接話せる状態に戻せばよいか」「就業規則・休職規程に何を整備すればよいか」「産業医がいない状況でどう対応するか」——こうした具体的な課題は、人事担当者が一人で抱え込むべきではありません。ウェルセンス株式会社では、専任人事がいない中小企業の経営者・兼務担当者からの相談を随時受け付けています。現状の対応を整理したい、今後のリスクを一度確認したい、という段階でのご相談も歓迎しています。

よくある質問

Q. 配偶者が「本人は連絡を受けたくない」と言っています。それでも会社から本人に直接連絡してよいのですか?

A. 配偶者の意向と本人の意向は必ずしも一致しません。会社からの連絡を拒否する権限は、配偶者には原則としてありません。ただし、無理な頻度や方法での接触は本人の病状に影響する場合もあります。まず書面(郵送)で丁寧に現状確認を送ることから始め、返信がない場合は産業医や外部支援機関を通じた接触を検討してください。

Q. 配偶者から「本人は退職したいと言っています」と伝えられました。退職手続きを進めてよいですか?

A. 退職は本人の意思表示が必要な重大な法律行為です。配偶者を通じた口頭での伝達だけで手続きを進めることは、後に「本人は退職の意思がなかった」と争われるリスクがあります。必ず本人に書面を送付し、本人が自署した退職届を受領してから手続きを進めてください。本人が直接書類を作成できない状態であれば、法的な代理人(弁護士等)を通じた対応が必要になる場合があります。

Q. 配偶者から病状の詳細を聞いてしまいました。これを社内で共有しても問題ありませんか?

A. 健康・病歴に関する情報は個人情報保護法上の「要配慮個人情報」にあたります。本人の同意なく取得した情報を社内で広く共有することは、個人情報保護法の観点から問題になりえます。情報を共有する範囲は、業務上の必要性がある担当者に限定し、取り扱いに関するルールを社内で定めておくことをお勧めします。

Q. 産業医がいない会社でも、本人の状態確認はできますか?

A. はい、対応策はあります。都道府県ごとに設置されている産業保健総合支援センターでは、産業医がいない事業場向けに相談・支援を提供しています。また、外部のEAP(従業員支援プログラム)や、メンタルヘルス支援を専門とする機関を通じて本人の相談窓口を確保することも有効です。主治医に「就業可否に関する意見書」を依頼する方法も、状態確認の一手段になります。

Q. 休職規程がない場合、まず何から整備すればよいですか?

A. 最低限、「休職期間の上限」「休職中の連絡方法と頻度」「復職の判断基準(診断書・産業医意見の要否)」「休職期間満了時の取り扱い」の4点を書面で定めることから始めてください。就業規則がない場合でも、個別の覚書・雇用契約の補足として書面化しておくことは有効です。社会保険労務士や専門機関に相談しながら整備すると、実務上のトラブルを防ぎやすくなります。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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