休職中の交通費支給停止、会社がすべき3つの対応

休職中の交通費支給停止、会社がすべき3つの対応 メンタルヘルス対応
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「先月から休職している社員がいるんだけど、交通費ってどうすればいいんだろう……」。社員が休職に入ったとき、給与の停止については就業規則に書いてあっても、通勤手当(交通費)については何も規定がなく、とりあえず止めてはみたものの「本当にこれで正しいのか」と不安を抱えている経営者・人事担当者の方は少なくありません。対応を誤ると社員とのトラブルにつながることもあるため、正しい手順と根拠を押さえておくことが重要です。この記事では、休職中の交通費支給停止について会社がすべき3つの対応を、実務的な視点からわかりやすく解説します。

交通費(通勤手当)の法的な位置づけを確認する

交通費(通勤手当)は、就業規則や賃金規程の定め方によって「賃金」にも「実費弁償」にもなりえます。まず自社の規程を確認することが、すべての対応の出発点です。

労働基準法上の通勤手当の扱い

労働基準法は、会社に通勤手当の支給を義務づけていません。つまり「払う・払わない」は会社が任意に決められます。ただし、支給すると決めた場合には、労働基準法第89条の規定により、就業規則(賃金規程)に支給要件・支給額・停止要件を明記する義務が生じます。「なんとなく払っている」という状態では、後から「止める根拠がない」とトラブルになりかねません。

「賃金」か「実費弁償」かで対応が変わる

通勤手当の法的性格は、主に次の2パターンに分かれます。

  • 実費弁償型:「出勤に要する交通費を補填する」と定めている場合。出勤実績がなければ支給不要という解釈が成り立ちやすく、休職中の停止根拠を示しやすい。
  • 賃金の一部型:基本給とは別に「月額〇〇円を通勤手当として支給する」と定めているが、停止条件を書いていない場合。この場合は出勤の有無にかかわらず「賃金全額払いの原則」(労働基準法第24条)が絡んでくるため、停止するには規程上の根拠が必要になります。

自社の就業規則・賃金規程を確認し、どちらに該当するかを把握してください。「そもそも通勤手当の項目が規程に載っていない」という場合は、まず規程の整備が最優先課題です。

慣行が「法的根拠」になってしまうリスク

規程に何も書かれていないまま長年にわたって通勤手当を支給し続けている場合、その「慣行」が法的な根拠として認められる可能性があります。「昔からやっているから」という運用は、ある日突然「止める根拠がない」という状況を生み出します。特に中小企業では就業規則が古いままのケースが多く、今のうちに整備しておくことが重要です。

交通費の支給を止めるタイミングと判断基準

休職が始まったとき、交通費をいつから止めるかは、支給方法と規程の内容によって異なります。「休職開始日から即停止」が正解とは限りません。

支給方法別の停止タイミングの考え方

交通費の支給方法 停止タイミングの考え方
毎月現金・振込で支給 休職開始月、または翌月から停止。規程に明記することで運用が安定する
定期券を現物支給または立替精算 当該定期券の有効期限終了後から停止。有効期限内の残存分については払い戻しを案内する
3ヶ月・6ヶ月の定期代を一括支給済み 残存期間分を按分して返還を求めることができる旨を規程に定めておく必要がある

「いつ止めるか」より「何を根拠に止めるか」が先

多くの担当者が「いつから止めればいいか」を気にしますが、実務上はその前に「止める根拠となる規程があるか」を確認することが重要です。根拠となる規程がなければ、どのタイミングで止めても社員から異議を申し立てられるリスクがあります。逆に規程が整備されていれば、「休職開始日の属する月の翌月から通勤手当の支給を停止する」と明記するだけで、社員・会社双方にとって明確な基準になります。

実際の対応で「判断に迷う」「ケースごとの対応が異なる」という場面は多いです。ウェルセンス株式会社は、具体的な休職中の対応フローを専門家の視点からサポートしています。

社員ごとにバラバラな運用は必ずトラブルになる

休職が複数回発生すると、「Aさんのときは翌月から止めた」「Bさんのときは定期の期限まで払い続けた」という当たり前的な運用が生まれがちです。こうした不統一な対応は、後から「なぜ自分だけ違う扱いを受けるのか」という不満につながります。規程に統一ルールを定め、誰が休職しても同じフローで対応できる体制を整えることが、長期的なリスク管理の観点から不可欠です。

定期券の払い戻しを社員に案内・依頼する

会社が社員に対して定期券の払い戻しを案内・依頼することは適切な対応であり、就業規則に根拠規定があれば返還を求めることも可能です。ただし、払い戻し手続き自体は社員本人にしかできません。

会社にできること・できないこと

定期券の払い戻し申請は、鉄道会社等の規則上、定期券の名義人(社員本人)が行う必要があります。会社が代わりに手続きすることはできません。しかし、会社にできることは次の2点です。まず、社員に対して払い戻しの手続きを依頼する案内を書面やメールで送ること。次に、払い戻しによって受け取った金額を会社に返還するよう就業規則に定め、その旨を社員に伝えることです。「払い戻してください、と言っていいのか」と悩む担当者がいますが、規程があれば適法・適切な会社側の対応です。遠慮せずに案内してください。

払い戻し案内の実務フロー

休職開始のタイミングに合わせて、以下の流れで対応するとスムーズです。まず休職開始通知と同時に「交通費・定期券に関するご案内」という書面を社員に渡します。次に定期券の払い戻し申請を社員本人に依頼します。そして払い戻しが完了したら、返還された金額を会社に入金するよう案内します。最後に、案内の送付・社員の返答・入金状況を書面やメールで記録として残しておきます。この記録が、後々「案内した・していない」のトラブルを防ぐ重要な証拠になります。

社員が払い戻しに応じない場合の対応

就業規則に「会社の指示に従い払い戻し等の手続きを行う義務がある」と明記されていれば、応じない社員に対して会社は改めて協力を要請する根拠を持てます。ただし、休職中の社員はメンタルヘルス不調や体調悪化の状態にあることが多く、事務的な対応だけでなく、状況に配慮したコミュニケーションが求められます。強引な督促は回復の妨げになることもあるため、書面での案内にとどめ、期日を設けて穏やかに対応することを推奨します。

就業規則に交通費の取り扱いを明記する

休職中の交通費に関するトラブルを防ぐ最も確実な方法は、就業規則(賃金規程)に具体的な規定を設けることです。「何となく運用してきた」状態からの脱却が必要です。

記載すべき4つの項目

就業規則に明記しておくべき内容は以下のとおりです。漏れがあると、その部分がグレーゾーンになり、トラブル発生時に会社が不利になります。

  • 休職中の通勤手当の取り扱い:「休職期間中は通勤手当を支給しない」と明記する。
  • 支給停止の開始時期:「休職開始日の属する月の翌月から停止する」など具体的に記載する。
  • 支給済み分の返還規定:「休職開始後、既に支給した通勤手当(定期券代を含む)の返還を求めることができる」と明記する。
  • 社員の手続き協力義務:「会社の指示に従い、定期券の払い戻し等の手続きを行うこと」と定める。

就業規則の変更手続きを忘れずに

既存の就業規則を変更・追記する場合は、労働基準法第90条に基づき適切な手続きが必要です。常時10人以上の事業場では、労働者代表からの意見聴取を行い、その意見書を添えて所轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。常時9人以下の事業場では届出義務はありませんが、変更内容を社員に周知することは法律上の義務です(労働基準法第106条)。「こっそり変更する」ことは認められないため、手続きを踏んで進めてください。

従業員数・規程の有無による対応の分岐

自社の状況によって、優先すべき対応が異なります。就業規則はあるが通勤手当の停止規定がない場合は、規程の追記・変更が最優先です。就業規則自体がない(常時9人以下で未作成)の場合は、個別の労働契約書や合意書で対応しつつ、早期に規程を整備することを検討してください。すでに適切な規程がある場合は、実際の運用がその規程どおりに行われているかを確認し、運用のフローをマニュアル化することが次のステップになります。

傷病手当金への影響と通勤手当の関係

通勤手当が「賃金扱い」になるかどうかは、健康保険の傷病手当金の計算に間接的に影響する場合があります。担当者として基本的な仕組みを押さえておきましょう。

傷病手当金は「標準報酬月額」をもとに計算される

傷病手当金は、健康保険から支給される給付金で、1日あたりの支給額は「標準報酬月額÷30×2/3」が基本となります。標準報酬月額は、毎年4〜6月の報酬(賃金)をもとに決定されます。通勤手当が賃金の一部として毎月支払われている場合、その金額も標準報酬月額の算定に含まれます。つまり、通勤手当の金額が大きいほど標準報酬月額が高くなり、傷病手当金の支給額にも影響が生じる場合があります。

会社が特に注意すべきポイント

休職中に通勤手当の支給を停止した場合でも、その停止が標準報酬月額の計算に即座に反映されるわけではありません。標準報酬月額は定時決定(毎年9月改定)または随時改定(月額変動が大きい場合)によって変更されます。通勤手当の停止による報酬変動が随時改定の要件(固定的賃金の変動など)に該当するかどうかは、個別の状況によるため、不明な点は社会保険労務士や年金事務所に確認することをお勧めします。

まとめ

休職中の交通費支給停止で会社がすべき対応は、大きく3つです。まず、自社の就業規則・賃金規程を確認し、通勤手当が「賃金」か「実費弁償」かを把握することです。次に、定期券の払い戻しについて社員に書面で案内し、対応状況を記録として残すことです。そして、就業規則に「休職中は通勤手当を支給しない」「支給済み分の返還を求めることができる」「社員は払い戻し手続きに協力する義務がある」という規定を明記し、今後のトラブルを防ぐ体制を整えることです。

休職対応は、交通費だけでなく給与・傷病手当金・復職時期など、複数の判断が重なります。「人事の専任者がいない中での対応は難しい」「規程の整備と実際の手続きを一度に見直したい」という場合は、ウェルセンス株式会社にご相談ください。休職・復職支援の実務に精通したスタッフが、御社の状況に合わせた具体的なアドバイスをご提供します。初回のご相談は無料で承っております。

よくある質問

Q. 就業規則に通勤手当の停止規定がない場合、休職中でも払い続けなければいけませんか?

A. 規程がない場合は、停止するための明確な法的根拠が乏しい状態です。「実費弁償的な性格のものだから出勤がなければ不要」という解釈は可能ですが、社員から異議を申し立てられるリスクがあります。まず就業規則を整備し、停止規定を明記することを優先してください。現在進行中の休職対応については、社会保険労務士にご相談されることをお勧めします。

Q. 社員が定期券の払い戻しに応じてくれません。強制できますか?

A. 就業規則に「会社の指示に従い払い戻し手続きを行う義務がある」と定めている場合は、協力を求める根拠があります。ただし、強制的に手続きさせることは現実的にできません。書面による依頼と記録の保存を徹底したうえで、社員の状態に配慮しながら丁寧に対応することが現実的な方法です。長期化する場合は法的対応も含め専門家への相談を検討してください。

Q. 休職開始月の交通費はどう扱えばよいですか?月の途中で休職した場合は?

A. 月途中での休職開始時の扱いは、就業規則の規定次第です。「休職開始月から全額停止」「翌月から停止(開始月は全額支給)」「日割り計算する」など、いずれの方法も規程に明記すれば有効です。規程がない場合は慣行や個別合意に基づいて判断することになりますが、トラブルを防ぐために早急に規程を整備することをお勧めします。

Q. 復職した場合、交通費の支給はいつから再開すればよいですか?

A. 復職日から再開するのが基本的な考え方です。ただし、定期券を新たに購入する手続きに時間がかかる場合もあるため、「復職が決まったら速やかに定期券購入の案内を行う」という社内フローを事前に決めておくとスムーズです。復職日と交通費の支給開始日を一致させることを就業規則に明記しておくと、トラブルを防げます。

Q. 常時9人以下の会社で就業規則の届出義務がない場合でも、規程は必要ですか?

A. 届出義務はなくても、規程(または個別の労働契約書)に取り扱いを明記しておくことは強くお勧めします。規程がないまま口頭で対応していると、後から「そんなことは聞いていない」とトラブルになることがあります。規模が小さいうちから文書化の習慣をつけておくことが、会社を守る最善の方法です。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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