休職満了前の退職合意、適切な進め方と注意点

休職満了前の退職合意、適切な進め方と注意点 メンタルヘルス対応
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「もう半年以上経つのに、復職の見通しが立たない。このまま何も言えずに待ち続けるしかないのか——」休職中の社員を抱える経営者・人事担当者から、こうした声をよく聞きます。メンタル不調による長期休職は、本人にとっても会社にとっても消耗戦になりがちです。しかし「退職の話を持ちかけたら訴えられるかもしれない」という萎縮から、何もできないまま時間だけが過ぎていくケースは少なくありません。この記事では、休職満了前に退職合意を進める際の法的な境界線、適切なタイミング、面談の進め方を実務的に整理します。

退職勧奨は違法ではない——ただし「やり方」が問われる

会社から退職を提案すること自体は、法律で禁止されていません。問題になるのは、その提案の「方法」と「強度」です。

退職勧奨と違法な退職強要の違い

退職勧奨とは、会社が社員に対して退職を促し、社員が自らの意思で合意する行為です。これ自体は適法であり、使用者としての正当な行為とされています。一方、社員が明確に拒否の意思を示した後も繰り返し迫ったり、「クビにするぞ」「居場所がなくなるぞ」といった威圧的な言動を伴う場合は、民法709条(不法行為)に基づく損害賠償請求の対象となる「違法な退職強要」に該当するリスクが生じます。

面談の記録が会社を守る

面談の回数・日時・発言内容は必ず記録に残してください。記録は会社側の防御材料にも、逆に攻撃材料にもなります。「いつ・誰が・何を話したか」を文書化しておくことで、後日「強要された」と主張された場合に事実関係を反証できます。面談後は簡単なメモを残し、可能であれば本人に内容確認のメールを送っておくと安心です。

専任人事がいない会社ほどリスクが高い理由

20〜50名規模の会社では、社長や現場マネージャーが面談を担うことが多く、感情が入りやすい環境です。「もう戻ってこなくていい」「このままでは解雇になる」といった言葉が、意図せず威圧的な発言として記録される危険があります。面談担当者を事前に決め、話す内容のポイントを整理してから臨むことが重要です。

就業規則の確認が最初の一手

退職合意の前提として、自社の就業規則に「休職期間満了による退職」の規定があるかどうかを必ず確認してください。この規定の有無が、その後の進め方を大きく左右します。

「自然退職」規定があるかどうかで対応が変わる

就業規則に「休職期間満了時点で復職できない場合は自動的に退職とする」旨が明記されていれば、期間満了をもって解雇ではなく自然退職として処理できます。この場合、会社が改めて解雇通知を出す必要はなく、手続き的なリスクが低くなります。一方、この規定がない、または曖昧な表現にとどまっている場合は、満了時の退職処理が「解雇」と見なされるリスクがあるため、まず規定の整備を検討する必要があります。

「復職可能性」の判断基準を明確にしておく

就業規則に自然退職規定があっても、「復職できるかどうか」の判断が曖昧だと社員側から争われることがあります。最高裁の片山組事件(1995年)では、従前の業務には就けなくとも軽易業務なら可能な状態での満了退職が問題となりました。この判例が示すのは、「元の仕事ができないから復職不可」という単純な判断では不十分な場合があるということです。主治医の意見書や産業医の復職判定を客観的な根拠として揃えておくことが、会社側の判断を裏付けます。

就業規則が未整備の場合の現実的な対処

もし現時点で休職・復職に関する規定が不十分な場合、すぐに全面改訂する必要はありません。まず社会保険労務士に現状の規則を確認してもらい、今回のケースでどこまで根拠として使えるかを把握することが先決です。規則の整備と個別ケースの対応を並行して進めることは十分可能です。

退職の話を切り出すべきタイミング

休職満了前に退職合意を検討する場合、「復職の見通しについて確認する」という形で面談を設定するのが適切な入り口です。退職を切り出す前に、必ず本人の意向と医師の見解を確認するプロセスを踏んでください。

面談を設定しやすい3つのタイミング

タイミング 状況の目安 面談の切り出し方
休職期間満了の2〜3ヶ月前 復職の見通しが立っていない 「今後の見通しを一緒に確認したい」
主治医の診断書の内容が変わったとき 「復職困難」「加療継続」などの記載が続く 「医師の見解をもとに今後を話し合いたい」
本人から「復職が難しい」と申し出があったとき 本人が復職を諦めかけている 「本人の意向を尊重した選択肢を一緒に考えたい」

連絡が取りにくい場合の対応

主治医から「会社からの連絡を控えるよう」指示が出ている場合や、本人がメール・電話に応じない場合は、書面(郵送)での連絡が基本になります。「復職に向けた状況確認のため面談をお願いしたい」という内容の文書を、配達記録が残る方法(書留郵便など)で送付してください。この記録も後日の証拠になります。主治医宛てに「就業可能かどうかの意見書」を求めることも、客観的な状況把握として有効です。

「早すぎる」タイミングのリスク

休職開始直後や、本人がまだ治療の初期段階にある時期に退職の話を切り出すことは避けてください。本人が精神的に不安定な状態での退職合意は、後から「意思能力がなかった」「強要された」として争われるリスクが高まります。主治医の意見書などで「復職が困難な状態が継続している」という事実が積み重なってから動くのが原則です。

面談での伝え方——揉めないための実務的アプローチ

面談では「退職してほしい」と直接告げるのではなく、「現状を一緒に確認し、今後の選択肢を話し合う」という姿勢で臨むことが基本です。

面談で押さえるべき3つの原則

  • 結論を押しつけない:「現在の状況と今後の選択肢をお伝えしたい」というスタンスで始める。退職を一方的に通告する場面にしない。
  • 客観的な情報を示す:「主治医の意見書では復職困難と記載されています」「就業規則では休職期間は〇月〇日までとなっています」など、会社の一方的な判断ではなく事実を示す。
  • 本人の意向を先に聞く:「ご自身として、今後についてどのようにお考えですか?」と問いかけ、本人の言葉を引き出す。これが「強要ではない」という記録にもなる。

言ってはいけない言葉・言い換え例

「このままだとクビになる」「居場所がなくなる」「早く決めてください」といった発言は、威圧的な退職強要と見なされるリスクがあります。代わりに「就業規則上、休職期間は〇月〇日で満了となります。その時点で復職が難しい場合の選択肢について、一緒に考えさせていただけますか」という形で、事実ベースで選択肢を提示するようにしてください。

面談の回数と頻度のコントロール

1回の面談は30〜45分程度を目安にし、本人が精神的に疲弊しないよう配慮します。複数回行う場合は一定のインターバル(2〜4週間程度)を空けてください。毎週呼び出すような高頻度の面談は、圧迫と受け取られるリスクがあります。また、面談には必ず2名以上(社長+担当者など)で臨み、後日「そんなことは言われていない」という事態を防いでください。

退職合意書に盛り込むべき内容

口頭で退職に合意しても、後日「やっぱり撤回したい」「実は強要された」と言われるリスクがあります。必ず書面で退職合意書を取り交わしてください。

退職合意書に必要な5つの要素

退職合意書には、退職日・退職事由(合意退職)・退職金や未払い賃金等の精算内容・必要に応じた守秘義務や競業禁止条項、そして清算条項を盛り込みます。清算条項とは「本件に関し、双方間に債権債務が存在しないことを確認する」という一文で、退職後に「パワハラがあった」「残業代が未払いだった」といった追加請求を防ぐ重要な条項です。これがないと、退職合意後も様々な請求を受けるリスクが残ります。

傷病手当金と退職日の設定

休職中の社員が健康保険の傷病手当金を受給している場合、退職日の設定が受給継続の可否に影響することがあります。退職日前日まで被保険者期間が継続していることなどの条件を満たせば、退職後も受給を継続できる場合があります。本人が退職日にこだわるケースはこの理由によることが多いため、会社側も基本的な仕組みを理解しておくと交渉がスムーズになります。具体的な判断は社会保険労務士や年金事務所に確認してください。

離職票の離職理由と助成金への影響

合意退職の場合、離職票の離職理由が「会社都合」か「自己都合」かによって、本人が受け取る失業給付の額・日数が変わります。会社主導で退職を働きかけた(退職勧奨した)場合は、ハローワークに「会社都合相当」と判定されることがあります。これ自体は違法ではありませんが、会社が雇用関係の助成金を受給している場合、一定期間の受給制限が生じる可能性があります。事前に確認しておきましょう。

まとめ

休職満了前の退職合意は、正しく進めれば適法であり、会社・社員双方にとって次のステップに進むための現実的な選択肢です。ただし、就業規則の整備・適切なタイミングの見極め・面談での言い方・退職合意書の内容、この4点を丁寧に押さえることが不可欠です。専任人事がいない環境で一人で抱え込むには、法的・実務的な論点が多すぎます。ウェルセンス株式会社では、中小企業の経営者・人事担当者が直面するこうした休職・復職・退職に関わる対応を、専門家の視点からサポートしています。「うちのケースはどう進めればいい?」という段階のご相談からでも、ぜひお気軽にお声がけください。

よくある質問

Q. 休職期間満了の何ヶ月前から退職の話を切り出してよいですか?

A. 満了の2〜3ヶ月前を目安に、まず「復職の見通しを確認する面談」として設定するのが一般的です。いきなり退職を提案するのではなく、主治医の意見書や本人の意向を確認するプロセスを先に踏んでください。本人が精神的に不安定な急性期には面談を避け、ある程度状態が落ち着いた段階で設定することが望ましいです。

Q. 就業規則に休職満了の自然退職規定がない場合、退職を促すことはできますか?

A. 退職勧奨として退職を提案すること自体は可能ですが、自然退職規定がない状態での満了処理は「解雇」と見なされるリスクがあります。まず就業規則の現状を社会保険労務士に確認し、今回のケースでどこまで対応できるかを把握したうえで動くことをおすすめします。規定の整備と並行して進めることは可能です。

Q. 本人が面談を拒否している場合、どうすればよいですか?

A. 主治医から「会社との接触を控えるよう」指示が出ている場合は、書面(書留郵便など配達記録が残る方法)での連絡が基本です。「復職に向けた状況確認のため、面談をお願いしたい」という内容を文書で送付し、その記録を保管してください。一方的に退職を通告する文書にはならないよう注意が必要です。

Q. 退職合意書に清算条項を入れなかった場合、どんなリスクがありますか?

A. 清算条項がないと、退職合意後に「パワハラがあった」「残業代が未払いだった」「退職を強要された」といった追加請求を受けた際に、合意書で解決済みと主張できません。退職合意書を作成する際は、「本件に関し双方間に債権債務が存在しないことを確認する」という清算条項を必ず盛り込んでください。

Q. 退職勧奨に応じた場合、離職票の離職理由の扱いはどうなりますか?

A. 会社が退職を働きかけた場合(退職勧奨)、ハローワークが「会社都合相当」と判定するケースがあります。これ自体は違法ではありませんが、雇用関係の助成金を受給している会社は、一定期間の受給制限が生じる可能性があります。離職理由の扱いについては、事前にハローワークや社会保険労務士に確認しておくと安心です。

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【監修】ウェルセンス株式会社
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