上司と部下の相性が悪い時、ペアを変えるべき?

上司と部下の相性が悪い時、ペアを変えるべき? 組織運営
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「上司と部下の相性が悪い」という相談が入ったとき、あなたはどう動きましたか? 話を聞いても言い分が食い違い、動こうにも異動先がなく、放置しているうちに部下が体調を崩してしまった——中小企業の現場では、こうした経過をたどるケースが少なくありません。「相性の問題だから仕方ない」と思いながらも、本当にそれで済むのか不安を抱えている方のために、判断基準と具体的な対処法を整理します。

「相性が悪い」を鵜呑みにしてはいけない理由

「相性の問題」という言葉は、実は非常に危険な整理の仕方です。なぜなら、ハラスメントや組織構造の問題を「相性」に置き換えてしまうことで、本来対処すべき課題が見えなくなるからです。

「相性」という言葉が隠すもの

「お互い合わない」「雰囲気が悪い」という状態の報告を受けたとき、真っ先に確認すべきは「何が起きているか」という事実です。上司が部下の報告を無視し続けている、業務上の理由なく特定の部下だけに過大な仕事量を課している、全体の場で否定する発言が繰り返されているといった行為が背景にある場合、それは相性の問題ではなくパワーハラスメントに該当する可能性があります。

労働施策総合推進法(第30条の2以降)では、パワーハラスメントを「優越的な関係を背景にした、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動によって、労働者の就業環境が害されること」と定義しています。「合わない」という感情的な表現の裏に、この定義に当てはまる行為が隠れていないかを確認するプロセスが不可欠です。

放置すると問われる「安全配慮義務」

「業務は回っているから様子を見よう」という判断にはリスクが伴います。労働契約法第5条は、使用者に対して労働者の生命・身体・精神の安全を確保しながら労働させる安全配慮義務を課しています。相性問題を把握していながら放置した結果、部下がメンタル不調に至った場合、「知っていたのに対処しなかった」という事実が安全配慮義務違反の論点になり得ます。「多少ギスギスしているが業務は回っている」という状態であっても、放置を正当化する理由にはなりません。

まず確認すべき3つの事実

相性問題かどうかを判断する前に、以下の3点を事実ベースで確認してください。

  • 上司から部下への具体的な言動(発言内容・頻度・状況)
  • 部下の体調・勤怠・業務パフォーマンスの変化
  • 他のメンバーとの関係性との比較(特定のペアだけに問題が集中していないか)

これらを確認せずに「相性の問題」と結論づけることは、問題の見落としにつながります。

相性問題とハラスメント・組織課題の切り分け方

切り分けの基本は「感情の問題か、行為の問題か」を分けて考えることです。互いに好意を持てないという感情は相性の領域ですが、その感情が具体的な不当行為として表れている場合は組織が対処すべき問題です。

チェックすべき4つの観点

観点 相性問題の可能性が高い ハラスメント・組織課題の可能性が高い
発生の範囲 特定のペアのみ 上司が複数の部下と同様の問題を起こしている
行為の内容 コミュニケーションスタイルの不一致 無視・叱責・業務上の不当な差別扱い
業務への影響 多少の摩擦はあるが業務は遂行できている 特定の部下だけ成果評価が著しく低い・業務が止まっている
当事者の状態 不満はあるが体調・勤怠に変化なし 欠勤・不眠・食欲不振など身体症状が出ている

「上司が複数人と問題を起こしている」場合の判断

同じ上司が過去にも別の部下と「相性が悪い」という状況を繰り返している場合、それは相性ではなくマネジメントスタイルの問題です。この場合、ペアを変えても同じことが別の部下との間で起きるだけです。上司自身への指導・研修・フォローアップを軸とした対応が必要になります。

事実確認は必ず「双方から」行う

相談を受けた側の話だけで判断すると、もう一方の当事者から「えこひいき」と受け取られるリスクがあります。上司・部下どちらからも個別に話を聞き、面談記録を残してください。「どちらの言い分が正しいか」を裁くためではなく、「何が起きているかの全体像を把握する」ための手続きです。双方が「きちんと話を聞いてもらえた」と感じること自体が、関係改善の第一歩になることもあります。

配置転換・ペア変更の判断フロー

配置転換は「解決策」ではなく「環境の変更」にすぎません。移動を検討するのは、相性問題と確認したうえで、かつ現状の継続が当事者や組織に明確な悪影響をもたらしていると判断できるときです。

動く前に確認すべき業務上の必要性

配置転換命令には業務上の必要性が求められます。「業務上の必要性がない」「不当な目的・動機がある」「労働者の不利益が著しい」場合は人事権の濫用として無効となる可能性があります(最高裁昭和61年の東亜ペイント事件判決が代表的な基準です)。「相性が悪いから移動させる」という説明は業務上の理由として成立しないため、「チーム体制の見直し」「業務分担の最適化」など、組織全体の文脈で説明できる形に整える必要があります。

また、就業規則や雇用契約書に「職種・勤務地限定」の合意が記載されていないかを確認することが実務上の第一歩です。限定合意がある場合は配転命令の有効性が制限されます。

20〜50名規模特有の「異動先がない」問題への対処

中小企業では部署・チームの数が限られており、「外す」選択肢が事実上ない場合があります。そのような場合でも、以下の代替手段を検討することができます。

  • 業務の担当範囲を組み替え、直接やり取りする頻度を物理的に減らす
  • 上司と部下の間に中間的な役割(先輩社員・別の管理職)を設けてバッファを作る
  • 週次の1on1など定期的な第三者チェックインを設け、問題が深刻化する前に早期キャッチする

「異動できないから何もできない」ではなく、「接点の設計を変える」という発想が中小企業での現実的な対応です。

当事者への説明と納得感の作り方

異動の際に「相性が悪いから」という説明は避けるべきです。「チームの役割分担を見直す中で、あなたのスキルをより活かせる場所に移動してもらいたい」というように、当事者にとってポジティブな文脈を作ることが基本です。ただし、事実と乖離したお世辞は後々の不信感につながるため、業務上の文脈として説明できる範囲で正直に伝えることが重要です。説明した内容と異動の背景は記録として残してください。

上司側へのアプローチを忘れない

相性問題の対処では部下のケアに意識が向きやすいですが、上司側への対応を放置すると問題が再発します。「自分は間違っていない」と思っている上司にどう向き合うかが、長期的な解決のカギです。

上司が「自分は正しい」と思っている場合

上司が自分の言動に問題があると認識していない場合、直接的な指摘は防衛反応を生みやすく、関係をこじらせるリスクがあります。まず「どんな意図でその対応をしたのか」を丁寧に聞き、上司が大切にしている価値観や仕事への姿勢を理解することから始めてください。そのうえで、「結果としてチームにこういう影響が出ている」という客観的な事実を伝える形が、受け入れられやすい構造です。

上司を「指導する」のではなく「支援する」視点

上司自身も、マネジメントの方法を誰かに教わる機会がないまま役職についているケースが多くあります。「あなたの部下対応に問題がある」というアプローチより、「マネジャーとして難しい状況を一緒に整理しましょう」という支援的なスタンスの方が、行動変容につながりやすいです。外部の研修や1on1のコーチングを活用することも有効な選択肢です。

上司への対応を記録に残す重要性

上司への面談や指導の内容も、記録として残してください。万が一その後に問題が拡大した場合、「組織として認識し、対処した」という記録は安全配慮義務の観点からも重要な証拠となります。

「ペアを変えれば解決する」という思い込みのリスク

配置転換はあくまで環境変更であり、根本原因への対処ではありません。ペアを変えた後も同じ問題が繰り返される場合、組織構造そのものを見直す必要があります。

再発するケースに共通する背景

上司のマネジメントスタイルに課題がある場合、ペアを変えても別の部下との間で同じ摩擦が生まれます。また、評価基準が不明確な組織では、上司も部下も「何を期待されているか」がわからず、不満が蓄積しやすい土壌が生まれます。業務負荷の偏りや心理的安全性の欠如がある職場では、誰がどのペアになっても同様の問題が起きやすいです。

「対症療法」から「根本対処」へ移行するタイミング

同じ上司との間で過去にも類似の問題が起きていた、あるいはペアを変えた後も別のメンバーが不調になっているというパターンが見えてきた場合は、上司個人への対応とあわせて、チームの役割定義・評価基準の明確化・コミュニケーション設計の見直しという組織レベルの改善に着手するタイミングです。

まとめ

「上司と部下の相性が悪い」という状況に直面したとき、最初に取るべきアクションは「ペアを変えるかどうか」の判断ではありません。まず「何が起きているか」を事実レベルで双方から確認し、相性問題なのかハラスメント・組織課題なのかを切り分けることが先決です。配置転換を行う場合は業務上の必要性を明文化し、当事者への説明と記録を怠らないようにしてください。そして、ペアを変えた後も問題が繰り返されるようであれば、上司個人へのアプローチと組織設計の見直しが必要です。

こうした判断は、専任の人事がいない環境では特に難しく、「動くべきかどうか」の迷いが長引くほど、安全配慮義務の観点でもリスクが高まります。ウェルセンス株式会社では、中小企業の経営者・人事担当者が一人で抱えがちなこうした判断の場面を、メンタルヘルス・労務の専門的な視点からサポートしています。「うちのケースはどう判断すればいいのか」という段階からでも、まずはご相談ください。相性問題の根本原因を一緒に整理し、御社にとって現実的な対応策を検討することができます。

よくある質問

Q. 部下から「上司と合わない」と相談されましたが、上司に確認するとまったく認識が違います。どちらの話を信じればいいですか?

A. どちらが正しいかを判断しようとするのではなく、「何が起きているか」という事実を双方から確認することを優先してください。発言の内容・状況・頻度など具体的な出来事に絞って確認し、面談記録として残すことが重要です。食い違いがある場合も、両者が「話を聞いてもらえた」と感じるプロセスが関係改善の入口になります。

Q. 配置転換を検討していますが、「報復異動」と取られないか不安です。どうすればリスクを減らせますか?

A. 異動の「業務上の必要性」を明確にし、文書化・説明できる形に整えることが基本的な対策です。「相性が悪いから」という理由ではなく、「業務分担の見直し」「チーム体制の最適化」など組織全体の文脈として説明できるかどうかを確認してください。また、就業規則や雇用契約書に職種・勤務地の限定合意がないかを事前に確認することも重要です。

Q. 異動先がない小規模な会社でできることはありますか?

A. 異動が難しい場合でも、業務の担当範囲を組み替えて直接の接点を減らす、中間的な役割の人物をバッファとして設置する、定期的な第三者チェックインを導入するといった「接点設計の変更」で対応できるケースがあります。物理的な移動にこだわらず、日常業務の中での関わり方を変えることが現実的な選択肢です。

Q. 「相性が悪い」という状態をどのくらいの期間放置すると、安全配慮義務違反になりますか?

A. 法律上、放置が許容される明確な期間の定めはありません。重要なのは「問題を認識していたかどうか」と「合理的な対処を取ったかどうか」です。部下のメンタル不調のサイン(欠勤増加・体調不良・パフォーマンス低下など)が見られた時点で対処の記録が残っているかどうかが判断の焦点になります。問題を把握した段階でできるだけ早く対応に着手し、そのプロセスを記録に残すことが重要です。

Q. ペアを変えた後、上司側に対して何かフォローは必要ですか?

A. 必要です。ペアを変えただけで上司へのフォローをしない場合、同じ問題が別の部下との間で繰り返されるリスクがあります。異動後も上司との定期的な1on1を続け、マネジメントの状況を把握することが重要です。上司自身がマネジメントに難しさを感じているようであれば、外部研修やコーチングの活用も検討してください。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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