「先週は産業医の指示で午後出社にしてもらったけど、コアタイムに来ていない日って欠勤扱いにすべき?それとも……」——復職した社員の勤怠を前に、こんな判断に詰まったことはないでしょうか。フレックスタイム制を導入している会社では、復職初期の体調不安定な時期に「コアタイムに出られない日の扱い」がグレーゾーンになりがちです。欠勤控除してしまうと傷病手当金への影響が心配、かといって特別扱いすると他社員からの公平性クレームも怖い。この記事では、法的な整理から実務の文書化まで、専任人事がいない職場でも対応できるよう順を追って解説します。
コアタイムに来られなかった日は「欠勤」になるのか
結論から言うと、コアタイム不在の日がそのまま欠勤控除に直結するわけではありません。フレックスタイム制の本質は「清算期間を通じて総労働時間を満たすこと」にあり、コアタイムはその補助的なルールにすぎないからです。
フレックスタイム制における「欠勤」の法的な位置づけ
フレックスタイム制の根拠は労働基準法第32条の3です。この制度では、1ヶ月などの清算期間中に定められた総労働時間を満たしているかどうかが判断基準となります。コアタイム(たとえば10時〜15時)に出勤しなかった事実そのものは、就業規則や労使協定の定め方によっては「欠勤」に直結しない整理が可能です。
たとえば、コアタイムに出られなかった日があっても、その月の総労働時間が所定時間を満たしていれば、賃金控除の根拠はありません。逆に、清算期間終了時点で総労働時間が不足していた場合に、その不足分を欠勤控除するか翌月に繰り越すかを就業規則で定めることになります。
「コアタイム不在=欠勤」と即断することの危険性
担当者が陥りやすいのが、「コアタイムに来ていない=欠勤1日分を控除」という処理です。しかしこれは制度の誤解に基づいています。コアタイム不在を機械的に欠勤控除すると、実際には総労働時間を満たしているにもかかわらず賃金を過剰に差し引くことになり、不当控除として労使トラブルになるリスクがあります。
まずは「その月の総労働時間は足りているか」を確認することが最初のステップです。
復職初期に特有の事情:体調変動と総労働時間の管理
復職初期は体調が日々変動しやすく、ある週は通常勤務できても翌週は午前だけという状況が続くことがあります。このような場合、清算期間の終わりに総労働時間が不足するケースも出てきます。その不足分をどう扱うかは、就業規則の規定と復職支援プランの内容によって変わってくるため、事前の設計が重要です。
復職者にフレックスタイム制をそのまま適用し続けていいのか
産業医から「当面は柔軟な勤務時間にしてほしい」と言われた場合、フレックスタイム制をそのまま続けるか、一時的に通常の所定労働時間制に切り替えるかを検討する必要があります。どちらが適切かは、コアタイムの有無と復職者の状態によって異なります。
フレックス制のコアタイムが「復職支援の障壁」になるケース
コアタイムが設定されているフレックス制では、その時間帯に出勤できないと制度上の問題が生じます。たとえばコアタイムが10時〜15時の場合、医療機関への通院や体調不良で午後からしか出社できない日が続くと、コアタイム不在をどう扱うか毎回判断しなければなりません。
このような状況では、コアタイムなしのフレックス制(スーパーフレックス)に変更するか、フレックス制の適用自体を一時停止して通常の所定労働時間制に切り替えるかの二択が現実的です。
フレックス適用除外の設計と就業規則上の根拠
復職者にフレックス制の適用を一時停止するためには、就業規則上の根拠が必要です。「復職後一定期間は、主治医・産業医の意見に基づきフレックスタイム制の適用を一時停止し、通常の所定労働時間制を適用することがある」という趣旨の規定があれば、個別対応に法的根拠が生まれます。
この規定がない場合でも、労使協定(フレックス協定)の「適用範囲」欄に「療養後復職中の者については会社が別途定める勤務形態を適用する」といった除外規定を追記する方法があります。ただし、労使協定の変更には過半数代表者または労働組合との再合意・再締結が必要です。
就業規則がない・古い場合の現実的な対処
専任人事がいない小規模企業では、就業規則の整備が後回しになっているケースも少なくありません。就業規則にフレックス適用除外の規定がない場合は、まず復職支援プランに勤務形態の変更内容を明記し、労働者本人の同意を書面で取ることが現実的な対応です。これは就業規則改定の代替にはなりませんが、個別合意として記録に残せます。就業規則の整備は、次のタイミング(復職完了後や年度初めなど)に計画的に進めることをお勧めします。
産業医・主治医の指示を「文書」に落とし込む方法
口頭で「柔軟な勤務にしてください」と言われただけでは、後日「そんな指示は出していない」「どの範囲まで認めたのか」といったトラブルになりかねません。医師の意見は必ず書面化し、復職支援プランに組み込むことが実務の鉄則です。
復職支援プランに盛り込むべき勤務条件の項目
厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」では、「職場復帰支援プラン」の作成を推奨しています。このプランに以下の内容を明記することで、個別合意の文書化と制度の整合性を同時に確保できます。
| 記載項目 | 具体的な内容例 |
|---|---|
| 適用する勤務形態 | フレックス制の一時停止/通常所定労働時間制を適用 |
| 勤務時間の上限・下限 | 1日4〜6時間、週20〜30時間を上限とするなど |
| コアタイムの扱い | 当面コアタイム不在を容認する旨を明記 |
| 通院日の扱い | 通院のための早退・遅刻を欠勤扱いしない旨 |
| 見直しのタイミング | 復職後1ヶ月・3ヶ月ごとに産業医面談で評価 |
| 確認者・同意者 | 会社・本人・産業医(可能であれば)の署名欄 |
主治医の診断書と産業医の意見書:何をもらうべきか
主治医には「就労上の配慮事項」を記載した診断書を依頼します。「コアタイムの出勤が難しい場合がある」「午前中は療養に充て、午後からの勤務が望ましい」など、具体的な制限内容が書かれているものが理想です。
産業医がいる場合(常時50人以上の事業場では選任義務があります)は、産業医の意見書に「復職支援プランへの適合性」の評価を記載してもらいます。産業医がいない規模の会社では、主治医の診断書と会社・本人の合意書面のセットで対応します。
主治医と産業医の意見が食い違うときの対処
主治医は「もう少し様子を見て」、産業医は「復帰を急ぐ必要はない」など、意見が一致しないケースがあります。原則として、職場内の健康管理を担う産業医の意見を基軸に会社判断を行い、主治医には「産業医の意見を踏まえた確認」を改めて依頼するというプロセスが現実的です。どちらの意見も書面で保存し、会社の判断根拠として記録に残してください。
医師の指示が曖昧なままだと、後々のトラブルに発展しやすいもの。判断に迷ったら、外部の専門家に相談することも検討の価値があります。
傷病手当金への影響:欠勤日の扱いを誤ると受給に支障が出る
復職後に「欠勤」として記録した日が、傷病手当金の受給要件に影響する場合があります。勤怠記録の書き方には注意が必要です。
傷病手当金の仕組みと復職後の注意点
傷病手当金は、病気・ケガで労務不能な状態が続く場合に健康保険から支給されます。復職後は「労務に就いている状態」と判断されるため、基本的には傷病手当金の支給対象外となります。ただし、復職後に再び体調が悪化して休業した場合、過去の支給期間との通算で受給可能期間が残っているかどうかが問われます(支給開始日から通算1年6ヶ月が上限)。
「欠勤」と「短時間勤務」の記録の違いが生む影響
復職後に短時間しか働けなかった日を「欠勤」として記録すると、その日の賃金は不支給(または控除)となります。一方、フレックス制の枠組みの中で「短時間勤務日」として記録すれば、出勤日として扱われます。この違いは、将来再び休職した場合の傷病手当金の支給判断(直近12ヶ月の標準報酬月額の平均で計算)に間接的に影響する可能性があります。
担当者として迷ったときは、勤怠記録の処理方法について社会保険労務士や加入している健康保険組合に事前確認することをお勧めします。
リハビリ出勤(試し出勤)中の勤怠入力の考え方
厚生労働省の手引きにある「試し出勤制度」を活用している場合、その期間は「正式な労働」として扱わないこともあります。この場合、勤怠システムへの入力方法と賃金・社会保険の扱いは通常とは異なる設計が必要です。試し出勤の取り扱いは、事前に就業規則または個別の合意書で明確にしておかないと、後から「あれは出勤日だったのか違うのか」という混乱が生じます。
🔗 判断に迷ったら、外部の専門家に相談することも検討の価値があります。 →
他の社員への説明と社内公平性の確保
復職者への特別対応を行う際、「あの人だけ特別扱い」というクレームを防ぐためには、合理的な根拠と適切な情報管理が鍵になります。
「特別扱い」ではなく「合理的配慮」として位置づける
フレックス制のコアタイム免除や勤務時間の短縮は、「健康上の理由による合理的配慮」として位置づけることが重要です。会社として「医療機関の指示に基づく一時的な措置であること」「就業規則または個別プランに基づくものであること」を整理しておけば、他の社員から問われたときに説明の軸が立ちます。
個人情報の取り扱いと開示範囲の設定
復職者の病名や具体的な診断内容は、本人の同意なく他の社員に開示すべきではありません。「体調管理上の配慮として、当面の間勤務時間を調整しています」という程度の説明に留めることが一般的です。詳細を明かさずとも「ルールに基づいた対応である」という説明ができる状態にしておくことが、担当者として重要な備えです。
⚠ ポイント
勤怠記録の取り扱いや傷病手当金との関係は、社会保険の知識を要する領域です。「これで大丈夫だろう」と進めるのではなく、初期段階で専門家に相談しておくことが、後々のトラブル防止につながります。
まとめ
復職社員がコアタイムに出られない日の勤怠管理は、「コアタイム不在=欠勤控除」という安易な処理をせず、まずフレックス制における清算期間の総労働時間を基準に判断することが基本です。産業医・主治医の指示は必ず書面化し、復職支援プランに勤務形態・時間の条件を明記する。就業規則や労使協定にフレックス適用除外の根拠を設ける。この三つが揃うことで、法的整合性と社内公平性を確保した運用が可能になります。
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